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未払い残業代を請求する方法は?計算方法・手続きの流れ・必要な証拠や時効について解説

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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残業代の支払いは法律上の義務であり、未払いがある場合、労働者は会社に請求できます。

「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超える時間外労働、「1週1日または4週4日」の法定休日の労働、「午後10時から午前5時まで」の深夜労働を行った場合、会社は労働者に残業代を支払う義務があります。これは、業種や業態、企業規模を問わず、労働基準法で定められたルールです。

ただし、実際に請求するには、残業時間や給与の支払い状況を示す証拠を集めた上で、未払い残業代を正確に計算し、交渉・労働審判・訴訟などの適切な方法で進める必要があります。

また、未払い残業代の請求には時効があるため、放置していると、本来受け取れるはずの金額を請求できなくなるおそれがあります。

今回は、未払い残業代を請求できる条件や必要な証拠、具体的な請求方法と手続きの流れ、時効などについて、弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

未払い残業代とは

計算

未払い残業代とは、労働者が残業をしたのに、適正に支払われていない残業代を指します。

労働基準法では、労働時間は「1日8時間、1週40時間」までが原則で、これを超えて働かせた場合は時間外労働となり、通常の賃金に25%以上の割増率を加えた割増賃金を支払う義務があります。法定休日の労働には35%以上、午後10時から午前5時までの深夜労働には25%以上(深夜かつ時間外の場合は50%以上)の割増賃金が必要です。また、1ヶ月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増率が適用されます。

残業代が適正に支払われているかどうかについて、労使の認識が異なることがある点には、くれぐれも注意が必要です。例えば、会社から「残業代は基本給に含まれている」と説明されても、固定残業代の要件を満たしていなかったり、固定で設定された残業時間を超えて働いていたりすれば、追加の残業代を請求することができます。また、始業前の準備、終業後の片付け、休憩中の電話対応などが労働時間に該当する場合、それらを含めて残業代を計算する必要があります。

したがって、未払い残業代の有無は、単に「定時を過ぎたか」というだけでなく、実際の働き方に即して、法的な観点から検討しなければなりません。

未払い残業代の計算方法

次に、未払い残業代がいくらになるか、その計算方法を解説します。

未払い残業代として請求できる額は、基本的には「1時間あたりの基礎単価」「割増率」「残業時間」をもとに計算します。時間外労働・休日労働・深夜労働のいずれに該当するかによって割増率が異なるほか、固定残業代制度が導入されている会社では、その内容も確認する必要があります。

未払い残業代の計算式

未払い残業代の計算式は、次の通りです。

  • 残業代 = 基礎単価(基礎賃金 ÷ 月平均所定労働時間) × 割増率 × 残業時間

例えば、残業代の基礎単価が2,000円で、時間外労働を10時間行った場合、割増率が25%であれば、この月の残業代は25,000円(=2,000円×1.25×10時間)となります。

残業代の基礎単価の計算方法

月給制の場合、1時間あたりの単価は、基礎賃金を月平均所定労働時間で割って算出します。

「基礎単価」とは、わかりやすく言うと労働者の時給のことです。ただし、月給の全てが割増賃金の計算対象となるわけではない点に注意が必要です。「時間に対する対価」という性質ではない手当などは「除外賃金」として扱われ、残業代の計算から除外されます。

労働基準法上、除外賃金とされるのは、例えば次のような手当です。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金(例:賞与など)
  • 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ただし、名称だけで判断するわけではありません。例えば、「住宅手当」という名称でも、全従業員に一律で支給されるなど、その実態によっては基礎賃金から除外されない場合があります。そのため、正確に計算するには、雇用契約書や賃金規程などを確認する必要があります。なお、残業代に充当される「固定残業代」なども、基礎賃金から除かれます。

残業代の割増率の計算方法

労働基準法では、時間外労働や休日労働、深夜労働について、それぞれ割増率の下限が定められています。残業の種類に応じて、適用される割増率の下限は、次の通りです。

スクロールできます
労働の種類割増率内容
時間外労働25%(月60時間超は50%)法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働
深夜労働25%午後10時〜午前5時の労働
休日労働35%法定休日(1週1日)の労働

2023年4月以降は、中小企業であっても月60時間を超える時間外労働の割増率が50%以上とされる点に注意が必要です。また、割増率が重複するケースでは、それぞれを合算します。例えば、時間外労働かつ深夜労働の場合、それぞれの割増率が重複して適用され、50%以上の割増率となります。

なお、会社の就業規則や雇用契約によって、法律よりも高い割増率が設定されている場合は、その定めに従って計算します。

固定残業代がある場合の計算方法

固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ毎月の給与や手当に含めて支払う制度です。

「みなし残業代」と呼ばれることもあります。重要なポイントは、固定残業代が支給されていても、それ以上の残業がある場合、追加の残業代を請求することができる点にあります。例えば、毎月30時間分の固定残業代が支払われていても、実際には40時間の残業が発生していた場合、超過した10時間分については追加の残業代を請求できます。

また、固定残業代制度が有効と認められるには、通常の賃金部分と固定残業代部分が判別できることが必要となります。これは、未払いの有無を労働者側で確認するためにも重要です。そのため、会社から「固定残業代があるから、残業代の支払いは不要である」と反論されても、固定残業代の額が明確でなかったり、何時間分の残業代に相当するかが不明であったりする場合、制度そのものが無効であり、固定残業代制度がないものとして残業代を計算し、請求することができます。

固定残業代制度そのものに問題がある場合には、会社が想定している金額よりも多額の未払い残業代が発生していることもあります。

遅延損害金や付加金の計算方法

未払い残業代の元本だけでなく、遅延損害金や付加金も請求できます。

まず、残業代が期限までに支払われなかった場合、支払日の翌日から遅延損害金が発生します。2020年4月施行の民法改正で法定利率が見直され、現在は年3%とされています。また、退職した労働者については、退職日の翌日から支払日まで年14.6%の遅延利息を請求することができます。

さらに、会社による残業代の未払いが悪質な場合、付加金を請求することができます。付加金は、裁判所の命令によって生じる制裁としての金銭であり、未払額と同額を上限として命じられます。ただし、裁判所の命令がなければ認められないため、全ての残業代未払いのケースで付加金が受け取れるわけではない点には注意が必要です。

残業代を請求する方法と手続きの流れ

ステップ

次に、未払い残業代を請求する方法と手続きの流れについて解説します。

未払い残業代を請求する場合は、まずは労働時間を裏付ける証拠を集め、請求額を計算した上で、交渉・労働審判・訴訟といった方法で会社に支払いを求めるのが基本的な流れとなります。

STEP

労働時間の証拠を収集する

未払い残業代を請求するためには、証拠収集が重要となります。

未払い残業代を請求しても会社が協力的に支払いに応じない場合、労働審判や訴訟といった裁判手続きで請求することになります。裁判所の審理では、証拠のない事実は認定されないため、証拠がなければ請求が認められないおそれがあるからです。

残業代の対象となる「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されます。業務時間そのものだけでなく、次の時間についても指揮命令下に置かれる限り「労働時間」に含まれるため、その証拠についても集めておきましょう。

  • 始業前の準備時間
  • 業務終了後の報告や片付けの作業
  • 仮眠時間
  • 移動時間
  • 手待ち時間
  • 黙示的に命じられた残業時間
  • 研修・教育訓練の時間

ただし、労働問題では、残業代を証明する証拠は使用者側で保管されているため、証拠が手元に十分になくてもあきらめてはいけません。会社に対して証拠の開示を求めたり、複数の証拠を組み合わせたりして、残業の証明が可能な場合があるからです。

なお、具体的にどのようなものが証拠になるかについては、「未払い残業代の請求に必要な証拠」で後述します。

STEP

未払い残業代を計算する

収集した証拠に基づいて、未払い残業代を計算します。

実際の労働時間から所定労働時間や休憩時間などを確認し、時間外労働、休日労働、深夜労働などに区分し、それぞれに適用される割増率を用いて計算します。計算を誤ると不利益を被るため、高額なケースほど、弁護士に依頼するのがおすすめです。

なお、具体的な計算方法は、「未払い残業代の計算方法」で前述の通りです。

STEP

会社に書面で残業代を請求する

未払い残業代の金額を算出したら、会社に支払いを請求します。

「請求を受けていない」といって争われたり、時効完成を主張されたりするトラブルを避けるため、証拠に残る形で請求しましょう。具体的には、支払を求める旨、請求金額や支払方法、期限などを明記した通知書を内容証明で送付します。内容証明であれば、「いつ、どのような内容の文書を会社に送付したのか」を証拠に残すことができます。

また、未払い残業代には3年間の消滅時効が適用されます。時効が迫っている場合、内容証明による請求は「催告」に該当し、時効の完成を6ヶ月間猶予する効果があり、その間に労働審判や訴訟などの法的手続きを進める必要があります。

STEP

会社と交渉する

請求書を送付後、会社から支払いの可否や金額について回答が来ることがあります。

会社が未払い残業代の存在を認める場合は、金額や支払時期について交渉しましょう。一方で、会社から次のような反論を受けるケースもあります。

  • 「その時間は残業ではない」
  • 「会社から残業を命じていない」
  • 「固定残業代として既に支払っている」
  • 「管理監督者だから残業代は発生しない」
  • 「タイムカード上の時間は実際の労働時間ではない」

こうした場合、会社側の主張が法的に妥当なものかを確認し、証拠を示しながら反論する必要があります。

交渉によって労使の合意が成立した場合は、支払金額や期限などを明確にした合意書を作成しておくべきです。

STEP

労働基準監督署に相談・申告する

会社が残業代を支払わない場合、労働基準監督署に相談・申告する方法があります。

労働基準監督署は、労働基準法をはじめとした労働基準関係法令への違反が疑われる場合に、事業場への調査や監督指導を行う行政機関です。残業代の未払いは労働基準法違反であるため、労働基準監督署に相談・申告すれば、立入調査、是正勧告といった対応をしてもらえるほか、悪質なケースでは刑事処分の対象となることもあります。

ただし、労働基準監督署はあくまで行政機関であり、労働者の代理人として会社と交渉したり、未払い残業代を直接取り立てたりする役割はありません。また、法違反の企業への監督が主な目的であるため、労働者の利益のために動いてくれるとは限りません。是正勧告についても、行政指導の性質があり、法的な強制力はありません。

そのため、会社が未払いそのものを争う場合や、具体的な支払額に争いがある場合は、労働審判や訴訟などの民事手続きを検討する必要があります。

STEP

労働審判を申し立てる

交渉で解決に至らない場合、裁判所に労働審判を申し立てる方法があります。

労働審判は、労使間の紛争について、裁判官である労働審判官1名と、労働関係の専門的な知識・経験を持つ労働審判員2名で構成される労働審判委員会が審理する手続きです。労働審判では、まずは話し合いによる調停が試みられ、まとまらない場合には労働審判委員会による「審判」が下されます。

労働審判の特徴として、原則3回以内の期日で審理を終えることとされており、通常の訴訟と比べて迅速な解決が期待できるメリットがあります。一方で、短期間で主張や証拠を提出する必要があるため、申立て前の準備が非常に重要です。

また、労働審判に対して当事者のいずれかが2週間以内に適法な異議を申し立てた場合、労働審判は効力を失い、自動的に訴訟手続きに移行します。

STEP

訴訟を提起する

労働審判でも解決できなかった場合は、訴訟を提起する方法が有効です。

前述の通り、労働審判に異議申立てがされた場合のほか、会社との争いが大きく話し合いが難しい場合には当初から訴訟提起を選択するケースもあります。

訴訟では、労働時間や賃金額、固定残業代制度の有効性などについて、双方が主張・立証を行い、最終的には裁判所が証拠に基づいて「判決」を下します。また、訴訟の途中で会社との和解が成立して解決するケースもあります。

訴訟は労働審判と比較すると解決までに時間を要することが多い一方で、裁判所による最終的な判断を下してもらえるメリットがあります。

STEP

強制執行を申し立てる

労働審判や訴訟で残業代の未払いが認められても、会社が支払いに応じないときは、強制執行の手続きを申し立てる必要があります。強制執行であれば、会社名義の不動産や預貯金口座、売掛債権などを差し押さえ、未払い残業代を回収できます。

事業を継続している会社であれば、強制執行は業務に大きな影響を及ぼす可能性があるため、支払いに応じてもらえる強いプレッシャーとなります。なお、勤務先が倒産するおそれのあるときは、「未払賃金立替払制度」を活用することで、一定の範囲で国に立替え払いを求めることができます。

未払い残業代の請求に必要な証拠

虫眼鏡

未払い残業代を請求するには、証拠の準備が必要となります。

残業代を請求する際、「残業が生じていたこと」については、請求する労働者の側で証明する必要があります。そのため、証拠の有無が、請求の成否や金額に大きく影響します。残業代請求で特に必要となるのが、「労働時間を証明する証拠」と「労働条件を証明する証拠」です。あわせて、証拠が十分でない場合の対処法についても解説します。

労働時間を証明する証拠

第一に、労働時間を証明する証拠として、次のような資料を集めましょう。

タイムカード

労働時間を証明する最も代表的な証拠が、タイムカードです。紙の打刻式のほか、現在では、クラウド上で打刻できる勤怠管理システムも一般化しています。

ただし、そもそもタイムカードが導入されていない会社のほか、形式的に決まった時間に打刻するよう指示されたり、勝手に打刻されたりなど、実態とは異なる記録がされている場合には、他の証拠も併用する必要があります。

業務日誌・日報・週報など

勤務時間が記載された業務記録があれば、それに基づいて労働時間が証明できます。例えば、業務日誌や日報、週報などがこれに該当します。提出して承認を受けた場合、会社もまた、その時間の労働を認めていたと評価されます。

業務報告のメール・チャット

業務の報告や連絡を、メールやLINE、社内チャットなどで行う場合、それらの送受信履歴も労働時間の裏付けとなります。電話での報告の場合、通話履歴だけでは「その時間まで働いたこと」を証明できないため、録音やメモなども収集しておきましょう。

パソコンのログ履歴

業務用PCの起動・終了、ログイン・ログオフの記録は、オフィスワークにおいて「勤務していた時間」の証拠となります。特に、事務作業のように「パソコンを起動している時間=仕事をした時間」といえる場合、そのログ履歴は非常に有効な証拠です。

入退室の記録

社員証やIDカード、セキュリティシステムなどで記録された入退室データも、社内にいた時間の証明となり、労働時間の証拠として活用できます。社内にいたことが証明できれば、逆に会社側が、「社内にいたが業務はしていなかった」と反論する必要があります。

会社からの連絡(電話・メール・チャットなど)

業務指示があった時間に対応していた場合、その時間帯は「労働時間」と評価されます。

そのため、会社からの連絡(電話・メール・チャットなど)の記録は、少なくともその時間に仕事をしていたことを証明する証拠として役立ちます。特に、深夜や休日に、業務指示が頻繁にあった場合、長時間労働の実態を示す重要な証拠となります。

交通系ICカードの使用履歴

通勤に使用しているICカードの履歴は、出退勤の時間帯を証明する資料となります。会社の最寄り駅から自宅の最寄り駅まで、毎日ある程度決まった時間帯に移動しているとき、その行き帰りの間は会社で労働をしていると考えられるからです。

同居家族の証言

同居の家族の証言が、その時間まで働いていたことの証拠として活用できます。特に、「今から帰る」などのメールやメッセージの履歴により、家族が日常的に退勤時刻を把握していた場合、証言によって補完することも可能です。

日記・手帳

残業をしていた当時につけていた日記や手帳も、証拠となることがあります。日記・手帳のように労働者自身が作成した証拠を活用するには、「後から書き加えたのではないか」「捏造ではないか」と反論されないよう、継続的、日常的に記録することが重要です。

労働条件を証明する証拠

次に、残業代の計算に必要な労働条件を示す資料についても集めておきましょう。

就業規則・賃金規程

残業代の計算方法を知るために、最重要なのが就業規則・賃金規程です。

社内規程には、残業代計算の基準や労働時間制度の内容が記載されます。就業規則は労働者に周知する義務があるので、「閲覧させてもらえない」という対応自体が違法とされます。なお、就業規則は労働基準法に違反することはできず、法違反の部分は無効となります。

雇用契約書・労働条件通知書

会社は、入社時に労働者に対して労働条件を示さなければなりません。

入社時に交付される雇用契約書、労働条件通知書には、個別の労働者ごとに適用される労働条件が記載されており、残業代を計算する際に重要な証拠となります。ただし、個別の労働契約の内容は、就業規則を下回ることはできません。

給与明細

実際に支払われている給与の内訳が記載された給与明細も、残業代の基礎となる「基礎単価」の計算に不可欠です。支給された手当の種類・金額から、残業代の除外賃金を正確に特定するためにも重要な資料です。

証拠が手元にない場合の対処法

以上のような証拠が十分に手元になくても、あきらめてはいけません。

労働問題では、必要な証拠の多くは会社で保管されているのが実情です。そのため、労働者の手元では、残業代請求に必要な証拠を全てそろえるのは難しいことが少なくありません。この場合、状況に応じて、以下の対処法を検討してください。

在職中にできる限り収集する

大切なのは、在職中に収集できる証拠は、可能な限り確保しておくことです。

退職後や休職、欠勤中では、オフィス内にある証拠の入手やシステム上の情報へのアクセスが難しくなってしまうからです。残業代請求を検討し始めた段階で、早めに弁護士へ相談し、証拠収集のアドバイスを受けるのがおすすめです。

会社に証拠の開示を求める

残業代請求の通知を送るとき、会社に証拠開示を求めるのが実務の流れです。

会社には、労働時間を把握する義務があり、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」(いわゆる「法定三帳簿」)は3年間保存しておかなければなりません。したがって、少なくとも直近3年分の労働時間や労働条件に関する記録は、会社が保有しているはずです。

また、就業規則や賃金規程については、会社が労働者に周知する義務を負うため、現職の社員であれば閲覧を求める権利があります。

弁護士を通じて通知書を送ることで、会社に対して「証拠を誠実に開示しなければ訴訟に進む」といった圧力をかけることができ、証拠開示を受けやすくなります。

概算で残業代を請求する

会社が証拠の開示を拒否する、あるいは証拠を適切に保存しておらず、正確な残業代が計算できないこともあります。その場合、手元にある資料を元に、可能な限り労働者に有利な計算方法で残業代を概算し、請求するのが実務的な対応です。

例えば、「全期間の証拠はないが、直近1ヶ月分のデータはある」という場合、その1ヶ月分を計算し、過去も同様の働き方が続いていたと仮定して、時効期間分(3年間)を推計して請求する方法で進めます。

この方法によれば、会社が証拠を開示せずに隠している場合でも、概算額よりも実際の金額が低い可能性があるなら、積極的に開示に応じてくれることが期待できます。

証拠保全の申立て

会社が通知書による開示要求に応じず、不誠実な対応をする場合、証拠が破棄されたり改ざんされたりするリスクも懸念されます。この場合、労働審判や訴訟に進む前に、証拠保全の申立てを行うことがあります。証拠保全とは、証拠が失われるおそれがあるとき、裁判所に申し立てて、あらかじめ証拠を確保しておく手続きです。

特に、会社側が重要な記録を隠そうとしているような態度を見せる場合には、弁護士と連携し、早急に証拠保全の手続きを検討することが重要です。

「残業代は出ない」と言われても請求できる場合がある

バツ

会社から「残業代は出ない」と言われても、それだけで残業代がなくなるとは限りません。

残業代の支払いは、正当な労働の対価であり、使用者には、労働基準法上の支払義務があります。会社が「残業代は出ない」と反論する際の理由としてよく用いられる管理監督者性、固定残業代などの考え方も、専門的な法律知識が必要であって、会社の考えに誤りがあることもあります。

確かに、残業代が発生しなくなる制度として法律で定められているものもありますが、労働者の権利を不当に侵害しないよう一定の要件が定められています。悪質な会社ほど、その要件を満たしていないにもかかわらず、残業代が発生しない根拠として主張してくるため、注意が必要です。

退職後でも未払い残業代を請求できる

既に退職していても、在職中に発生した未払い残業代を請求することは可能です。

在職中は職場の人間関係を気にして請求を控えていた人も、退職後であれば安心して請求できます。「今更関わりたくない」と考える人は、弁護士に依頼して交渉を任せれば、元勤務先や社長と直接やり取りせずに請求を進めることができます。

ただし、退職後の請求では時効と証拠の確保に注意が必要です。残業代には時効があり、時間が経過するほど古い残業代から請求できなくなる可能性があります(「未払い残業代の請求には時効がある」で後述します)。また、退職後は、タイムカードや勤怠システム、業務上の資料などにアクセスできなくなるため、将来的に残業代請求を検討している場合、可能な限り退職前に証拠を確保しておくことが重要です。

タイムカードがなくても請求できる

タイムカードが手元になくても、未払い残業代の請求をあきらめる必要はありません。

残業代を請求するためには労働時間を立証する必要がありますが、その証拠はタイムカードに限らず、勤怠管理システムの記録、パソコンのログ、メールやチャットなど、複数の資料を組み合わせて活用することができます(詳細は「未払い残業代の請求に必要な証拠」参照)。

そもそも会社には、労働時間を適正に把握する義務があるため、交渉や法的手続きを通じて、会社の保有する資料の開示を求めることが考えられます。タイムカードがないことだけを理由に請求をあきらめるのではなく、手元にどのような資料が残っているかをもとに戦略を立てましょう。

管理職も残業代を請求できる場合がある

会社で管理職として扱われていても、残業代を請求できる場合があります。

労働基準法41条2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」(いわゆる管理監督者)は、労働時間・休憩・休日に関する規制の適用を受けません。そのため、時間外労働、休日労働についての割増賃金は支払われません(深夜労働の割増賃金は発生します)。

しかし、管理監督者に該当するかは、肩書や社内の扱いだけではなく、働き方の実態を踏まえて判断されます。管理監督者と認められるには、主に次の要件を満たさなければなりません。

  • 経営者と一体的な立場にあるか。
  • 重要な職務・責任・権限があるか。
  • 出退勤など労働時間について相応の裁量があるか。
  • 地位にふさわしい賃金・待遇を受けているか。

「部長」「マネージャー」「店長」などの役職名で、会社から管理職として扱われていても、一般の社員と同じ仕事をしており、出退勤時間も厳格に管理され、権限や待遇も十分でないといった者は、いわゆる「名ばかり管理職」であり、管理監督者に該当せず、残業代を請求できます。

管理職の残業代請求」の解説

固定残業代があっても請求できる場合がある

前述「固定残業代がある場合の計算方法」の通り、固定残業代制度があったとしても、それだけで残業代が請求できなくなるわけではありません。

固定残業代制度そのものが直ちに違法なわけではないものの、通常の賃金部分と固定残業代として支払われている部分の区別ができない場合、残業代として支払われたものとは認められないことがあります。また、有効な制度が採用されている場合も、固定で設定された残業を超えて働いた場合、その差額の支払いを受けることができます。

したがって、会社から「残業代は給与に含まれている」と言われた場合にも、固定残業代の金額や対象となる時間、実際の残業時間などを確認することが重要です。

裁量労働制でも残業代を請求できる場合がある

裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、労使であらかじめ定めた時間だけ働いたものとみなす制度であり、主に「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。

裁量労働制には、対象となる業務に限定があり、労使協定や労使委員会の決議が必要となるなど、法律で定められた要件や手続きを満たす必要があります。そのため、単に「専門職だから」「裁量がある働き方だから」というだけで、残業代をなくせるわけではありません。

制度の対象外の業務に従事している場合や、必要な手続きを欠く場合など、裁量労働制が違法であれば、実際の労働時間をもとに残業代を請求できます。また、裁量労働制が有効に適用されていても、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合や、休日労働・深夜労働などについては、割増賃金を支払わなければなりません。

「自主的な残業」とされても請求できる場合がある

会社から明確な残業命令を受けていなくても、残業代を請求できる場合があります。

残業代が発生する労働時間に該当するかどうかは、明示的な残業命令の有無だけで決まるものではありません。残業命令がなくても、会社が残業していることを把握しながら黙認した場合や、与えられた業務量からみて残業しなければ仕事を終えられない状況だった場合などは、会社の指揮命令下に置かれていると評価され、残業代を請求できます。

例えば、定時後も上司とともに業務を行い、会社がその状況を把握していたにもかかわらず特に残業を止めていなかったケースなどが典型例です。

一方で、会社から残業を明確に禁止され、業務上も残業が不要であったにもかかわらず労働者が会社の指示に反して残っていた場合は、労働時間とは認められません。

未払い残業代の請求には時効がある

未払い残業代の請求権には、消滅時効が定められています。

2020年4月1日以降に支払期限が到来する残業代について、時効期間は3年間です(2020年の法改正により時効期間は5年とされましたが、経過措置により当分の間は3年とされています)。例えば、2025年5月末に支払われるべき残業代の時効は、2028年5月末をもって時効が完成します。

時効は、残業代の支払期日ごとに進行するため、未払い分が一括して時効となるわけではありません。例えば、毎月25日が給与の支払日であれば、それぞれの月の残業代についてその支払日を基準に時効が進み、古い順に時効が完成して請求することができなくなります。

時効が迫っている場合、速やかに請求手続きに着手する必要があります。内容証明などで証拠に残しながら「催告」をすれば、時効の完成を6ヶ月間猶予することができます。この6ヶ月の間に労働審判や訴訟などの法的手続きを開始すれば、その間も時効の完成が猶予され、判決によって残業代の支払義務が認められた場合には時効が更新されます。

したがって、未払い残業代がある場合、できる限り速やかに証拠を確保し、請求額や時効の状況を確認することが重要です。特に、3年以上働いている場合、対応が遅れることで古い請求権の時効が完成すれば、請求額が減ってしまいます。

消滅時効」の解説

未払い残業代の請求を弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士法人浅野総合法律事務所

未払い残業代の請求では、弁護士に依頼・相談することに大きなメリットがあります。

請求の際には、実労働時間を示す証拠を整理し、給与体系や割増率を踏まえて請求額を正確に算出した上で、会社との交渉や法的手続きを進める必要があります。特に、会社から固定残業代や管理監督者性、労働時間該当性などについて反論がなされ、争点が拡大する場合、専門的な判断が必要となり、弁護士のアドバイスを受けることが重要となります。

弁護士に相談すれば、手元にある証拠をもとに、請求できる残業代の見通しを検討し、不足している証拠や今後確保すべき資料についてもアドバイスを受けられます。また、会社への請求や交渉を弁護士に任せることもでき、交渉で解決しない場合の法的手続きへの対応も依頼できます。

未払い残業代には時効もあるため、「残業代が支払われていないかもしれない」と感じた段階で、早めに相談することが大切です。証拠が十分にそろっていなくても、複数の資料を組み合わせたり、会社に開示を求めたりして残業代を請求できる可能性があるため、あきらめてはいけません。

当事務所では、未払い残業代をはじめとする労働問題について豊富な解決実績があります。また、労働者側だけでなく使用者側の案件も取り扱ってきた経験があるため、会社側がどのような反論をしてくる可能性があるかも踏まえ、事案に応じた対応を提案できます。

【まとめ】未払い残業代を請求する方法

今回は、労働者が未払い残業代を請求する方法について、詳しく解説しました。

本来支払われるべき残業代が受け取れない場合、労働者は、未払い残業代を請求できます。残業代の支払いは労働基準法上の義務であり、正当な労働の対価であるため、請求することに後ろめたさを感じる必要は全くありません。

まずは、タイムカードや勤怠記録、給与明細、業務上のメールやチャットといった証拠を集め、実際の労働時間と支払われた賃金を照らし合わせることが重要です。会社との話し合いで解決できない場合、弁護士名義の内容証明で請求したり、労働審判、訴訟といった法的措置を講じたりする方法を検討します。また、残業代の未払いでは、労働基準監督署への相談も有効です。どの手続きを選ぶべきかは、メリットとデメリットを考慮して選択しなければなりません。

また、未払い残業代の請求には時効があるため、長期間放置すると過去分の残業代が請求できなくなり、受け取れる金額が減ってしまいます。そのため、「残業代に未払いがあるかもしれない」と疑問を感じたら、速やかに弁護士に相談することが重要です。

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