介護離婚が、少子高齢化などにともなって増加しています。介護による心身の疲弊はとても大きく、離婚して逃げてしまいたいのはやまやまですが、高齢になった親の介護は誰かが負担せざるをえません。
夫が仕事中心の生活を送っているとき、介護との両立がなかなか困難で、妻に介護を助けてもらわざるをえないことが多いです。そのため、義理の両親との同居をお願いしなければならない例も少なくありません。しかし、妻側からすれば大きな負担です。妻が「両親との同居は嫌だ」と同居を拒否し、これをきっかけに夫婦仲が悪くなってしまうこともよくあります。
このようなとき、妻が介護に協力してくれないときに、「親の介護に協力しないこと」を理由に離婚できるかどうかや、その責任がどちらにあるかが問題となります。
今回は、夫側の立場で、義理の親との同居や介護を拒む妻と離婚できるかどうかについて、離婚問題にくわしい弁護士が解説します(なお、妻側からみた「介護離婚」問題に関する解説も参照ください)。
- 夫婦といえど、相手の親を介護する義務はなく、話し合いで決めるべき
- ただし、夫婦には同居義務、相互扶助義務があり、正当な理由なく別居できない
- 介護や同居の拒否が「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるケースあり
なお、男性側で知っておいてほしい離婚に関する知識については、次のまとめ解説をご覧ください。
義理の親との同居や介護を強制することはできない
同居・介護する義務はない
まず、どれほど介護が必要な親を抱えていようとも、自分の両親の介護を、妻に対して強制することはできません。これは、扶養義務は直系血族と兄弟姉妹に生じることが原則(民法877条1項)であり、妻には及ばないためです(参考解説:「介護をする義務があるか」)。
同じく、義理の両親と同居するよう、妻に強要することもできません。
義理の両親に同居をしてもらえば、夫が仕事、妻が家事を行っている家庭では、妻が義理の両親の介護をせざるをえず、日常生活の面倒を見ることとなるでしょう。
しかし、同居をして妻に介護をすべて丸任せにしてしまえば、妻にとっては逃げ場がなく、自分の時間は完全に失われてしまい、夫婦関係が破綻してしまってもしかたありません。また、妻側にも両親がいて介護を必要としていたり、妻もまた仕事をしていたりするとき、介護ばかりしていられない理由は妻側にもあります。
夫婦の話し合いで決める
妻には夫の親と同居したり介護したりする義務がなく、強制はできないわけです。したがって、介護を誰が行うかや、義理の両親と同居して面倒を見るかどうかといった問題は、夫婦間の話し合いで決めるべきであり、強要すべきではありません。
介護を強制するのではなく、少しでも妻の協力を取り付けられるよう話し合いを進めることが大切です。
親の介護の問題について、話し合いを円滑に進めるために、次のような努力を夫側でも行うようにしてください。
夫婦には相互に扶助する義務があるため、夫婦生活の問題は、夫婦の話し合いで解決していかなければなりません。親の介護を妻に強要することはできませんが、少しでも一緒に協力して乗り越えていけるよう、努力し、介護離婚を回避するようにしてください。
義理の親との同居や介護を拒否する相手と離婚できるか
少子高齢化が進み、介護を担う人手が不足するにつれ、両親との同居や介護がきっかけで夫婦が離婚する、いわゆる「介護離婚」が増加しています。
しかし、介護離婚をするためには、相手が離婚に同意しない場合にはなかなか難しい問題があります。というのも、前章で解説したとおり、義理の親との同居や介護は義務であるとはいえないからです。
原則:同居や介護の拒否を理由に離婚することはできない
原則として、義理の親との同居や介護を拒否したことを理由に離婚することはできません。法律上、同居や介護が妻の義務とはいえない以上、これを行わなかったからといって離婚することができないのは当然です。
例外:同居や介護の拒否を理由に離婚できるケース
一方で、介護が必要な親を放っておくこともできません。そのため、どうしても介護の負担と夫婦生活を両立していくことが難しいときには、これ以上の夫婦関係の維持が難しくなってしまい、介護離婚を検討することがあります。
離婚は、夫婦の話し合いで合意に達する場合には、どのような理由であっても離婚することができますが、協議で解決できないときには、離婚協議・離婚調停・離婚訴訟の流れで進んでいきます。
離婚裁判で、相手の同意なく一方的に離婚を認めてもらうためには、民法に定められた法定離婚原因(民法770条1項)が必要であり、介護離婚の場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」(同条5号)があると主張することになります。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
民法(e-Gov法令検索)
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
しかし、「婚姻を継続し難い重大な事由」といえるためには、相当の重大性が必要です。ただでさえ親との同居や介護が義務ではないのですから、裁判所に離婚を認めてもらうためには、同居や介護を拒否するにあたって、妻側に大きな問題点が存在することが必要となります。
親との同居や介護を行わない妻の問題性を明らかにし、介護離婚を裁判所で認めてもらうためには、前章でも説明したとおり、夫が可能な限りの協力をし、妻の負担を減らすなどの配慮をしていることが重要となります。
夫婦の同居義務について
義理の親との同居や介護についてのいざこざが原因で、妻が実家へ帰ってしまい、戻ってこないケースがあります。このとき、妻とあなたとの「同居義務違反」という夫婦間の問題が生じます。
夫婦は同居する義務があり、相互に扶助する義務を負います(民法752条)。そして、この同居義務違反、扶助義務違反の程度が著しいときには、悪意の遺棄(民法770条1項2号)という離婚原因にあたります。夫の親と同居する義務まではありませんが、夫婦である以上、同じ住居で共同生活し、助けあうのが当然とされているからです。
そのため、妻が実家へ帰ってしまって戻ってこないとすれば、妻側に同居義務違反があることとなります(ただし、あなたが困窮していたり健康上の問題があって生きていけないなどでないかぎり、ただちに悪意の遺棄とはなりません)。
しかし、同居しないことについて正当な理由があるときには、同居義務違反とはなりません。あなたが、親の介護を押し付けたり、親との同居を強要したりしたとき、これに嫌気がさして出ていってしまった妻の行為を責めることはできません。執拗に攻めたり、暴言を吐いたりすれば、DV・モラハラ気質な夫だという評価を受けるおそれもあります。
親との同居や介護の問題がきっかけで、妻が出ていってしまったときにこそ、冷静な対応をしなければなりません。
妻に親との同居・介護を受け入れてもらうための対策
最後に、介護離婚しないために、妻に親との同居・介護を受け入れてもらうための対策について解説します。以下で説明する努力をすることで、どうしても親との同居や介護が必要なとき、妻に承諾してもらいやすくするのにも役立ちます。
妻が義理の親との同居や介護を拒否するとき、妻にも問題があるとすれば介護離婚を検討したほうがよいでしょうが、介護が必要な親のいる夫婦がみな離婚しているわけではありません。夫婦が協力して、円満に乗り越える方法もあります。
介護離婚してしまう前に、よく協議をかさね、離婚以外の選択肢がないか、今一度話し合っておいてください。
夫側も介護に協力する
夫が仕事をし、妻が専業主婦という家庭では、夫が仕事を言い訳にして自分の親の介護から逃げていると、介護離婚の原因となってしまいます。平日日中はしかたないとしても、夜間や土日など、夫側にもできる協力が多くあるはずです。
介護以外の家事や育児を夫が分担する
介護にも家庭で必要な家事、育児は多くあります。平日日中の介護が妻任せになってしまうとき、その他の家事や育児を夫が分担し、妻の負担を減らすという協力のしかたもあります。
感謝の言葉をかける
介護が必要な親を抱えた夫婦がみな離婚しているわけではなく、夫婦関係を良好に保っていれば、多少介護の負担が重くなったとしても協力して乗り越えることができます。
大切なのは、相手の協力を当たり前のものとは思わず、常に感謝の気持ちを忘れず、介護を頑張ってくれている相手に感謝の言葉をかけるなどの配慮をすることです。
兄弟姉妹など親族にも協力を求める
「長男の妻だから介護して当たり前」などという兄弟姉妹、親族がいると、妻の気持ちを傷つけることとなります。介護による心労に加え、夫の親族からの心無い発言にプレッシャーを受け続けると、介護から解放されたいという気持ちから介護離婚を決断することとなります。
兄弟姉妹などの親族にも、親の介護について協力を求めるとともに、心無い発言をする親族がいるときには、盾となって妻を守ることが夫の役目です。
介護施設への入所・介護サービスへの委託を検討する
介護施設に入所させたり、介護サービスを利用したりといった方法で、介護の負担を減らすことができます。一定の費用負担が必要となりますが、妻に無償の奉仕を強要して費用を節約しようとすれば、介護離婚につながりやすくなります。
通所介護や訪問介護、デイサービスなど、施設に入れるほどの状況ではなくても、利用できるサービスは多くあります。バリアフリー対策や二世帯住宅の建設などをすることも、義理の両親との同居や介護を妻に承諾してもらいやすくなります。
まとめ
今回は、親の介護をかかえている夫側の立場で、「妻が介護に協力してくれないこと」を理由に離婚できるかどうか、という問題を解説しました(なお、妻側からみた「介護離婚」問題に関する解説も参照ください)。
夫の親の介護を妻がする義務まではないため、同居や介護を拒否したからといって、それだけを理由に離婚することは、相手が離婚に同意しないかぎりなかなか難しいです。ただし、同居や介護を拒否する妻側にも問題があるとき、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるとして離婚をすることができます。
介護離婚は、年齢を重ね、介護の必要となる親があってはじめて起こる問題なので、熟年離婚でよく起こります。長年連れ添っていても、ある日突然、親の介護を理由に不仲になってしまうことがあります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題に注力し、豊富なサポート実績があります。
介護をきっかけにした離婚問題を有利に進めたり、妻に親との同居や介護を承諾してもらったりするためには、夫側でも十分な準備が欠かせません。ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
離婚問題のよくある質問
- 妻が親の同居や介護を拒否するとき、離婚理由になりますか?
-
原則として、配偶者の親(義両親)といえども、介護をする義務まではないため、介護や同居を強制することはできません。そのため、これを拒否したことを理由に離婚することもできないのが原則です。もっと詳しく知りたい方は「義理の親との同居や介護を拒否する相手と離婚できるか」をご覧ください。
- 妻に、親との同居や介護を受け入れてもらうための対策はありますか?
-
妻に、親との同居、介護を強制することはできないものの、話し合いでできるだけ受け入れてもらいやすくするためには夫側の協力が重要です。介護への協力や理解、感謝を忘れないようにし、兄弟姉妹に協力を求めたり、施設利用を検討したりするのも大切です。詳しくは「妻に親との同居・介護を受け入れてもらうための対策」をご覧ください。