
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
アルコール依存症の配偶者との生活に限界を感じ、離婚を考える方は少なくありません。
飲酒による暴言や暴力、生活費の使い込みや浪費、仕事を続けられないことによる家計への影響など、アルコール依存症は、夫婦関係を悪化させる深刻な要因となります。さらに、養育環境を悪化させ、虐待につながるなど、子供にも悪影響を与えます。
アルコール依存症が、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たる場合、配偶者の同意がなくても、裁判で離婚を認めてもらうことができます。この判断では飲酒による影響や改善の見通しなどが考慮されます。アルコール依存症の相手との話し合いは難航する可能性が高いため、感情的に離婚を切り出す前に、証拠を確保しておくことが重要です。
今回は、アルコール依存症を理由に離婚できるケースや注意点、慰謝料請求のポイントについて、弁護士が分かりやすく解説します。
はじめに、アルコール依存症に関する基本的な知識を解説します。
アルコール依存症とは、飲酒を続けるうちに耐性や精神的・身体的な依存が形成され、自分の意思で飲酒の開始・終了や量をコントロールすることが難しくなる状態をいいます。厚生労働省では、「大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態で、精神疾患のひとつ」と説明されています(厚生労働省「アルコール健康障害対策」)。
単に飲酒の量や頻度が多いだけでなく、生活や健康に影響を及ぼしていても止めにくくなる特徴があり、その影響は本人だけでなく、仕事や家庭生活に及ぶこともあります。
アルコール依存症の判断では、WHOのICD-10に基づく依存症候群の診断ガイドラインがよく参照されます。これによれば、以下の6項目のうち3項目以上が、過去1年間のうちに同時に1ヶ月以上続いた場合、または繰り返し現れた場合に、依存症と判断されます。
このように、アルコール依存症は、単なる「酒好き」や「酒癖が悪い」という範囲を超えた状態です。進行すると、飲酒への強いこだわりやコントロール困難な状況が目立つようになり、飲酒を中断すれば離脱症状が現れ、日常生活や対人関係、就労にも支障が生じます。
アルコール依存症は「否認の病」とも言われ、本人が自らの問題を認めにくい傾向があります。そのため、家族や周囲が異変に気付き、適切な相談と治療につなげることが重要です。簡易的なスクリーニングとして、CAGEのような質問票を参考にする方法もあります。

次に、配偶者のアルコール依存症を理由に離婚することができるかを解説します。
配偶者がアルコール依存症になったとき、離婚を検討する人は多いでしょう。
アルコール依存症になると家庭生活より飲酒を優先するため、離婚率も高い傾向にあります。話し合いで合意できれば、理由を問わず離婚できます。しかし、本人に「迷惑をかけた」という気持ちがあるうちは離婚に応じてくれることもある一方で、症状が重度になると協議は困難です。
協議や調停で配偶者の同意が得られない場合、裁判で離婚を認めてもらうには、民法770条1項に定められた「法定離婚事由」に該当する必要があります。これは、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、婚姻を継続し難い重大な事由の4つです。
なお、かつては「強度の精神病」も離婚原因とされていましたが、2026年4月施行の民法改正により、差別的であるとして削除されました。
アルコール依存症が法定離婚事由のいずれかに該当するとき、相手が拒否していても離婚することが可能です。以下では、具体的なケースをもとに解説していきます。
夫婦には協力扶助義務があるため、アルコール依存症で家庭をかえりみない生活態度は、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に該当する可能性があります。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦の同居・協力扶助義務を果たさないことを指すところ、アルコール依存症の配偶者が生活費を出さず、その行動によって家庭生活を破綻させているとき、これに該当するケースがあります。
裁判例でも、アルコール依存症が「悪意の遺棄」に該当するとして離婚請求を認めた事例があります(東京地裁平成16年2月2日判決など)。
被告は嫉妬深くて酒癖が悪く、酒を飲んでは暴れることを繰り返していたが、平成14年6月16日、原告が暴力を振るうなら出て行って欲しいと訴えたところ自宅に戻らなくなり、生活費を全く入れなくなった。そのため、原告はパートに出て収入を得てはいるものの、生活保護によって原告及び子供らの生活を支えることを余儀なくされている。
3 前項(2)の事実は民法770条1項2号(悪意の遺棄)の離婚原因に該当するというべきであるから、原告の本訴離婚請求には正当な理由がある。
東京地裁平成16年2月2日判決
アルコール依存症で夫婦関係の修復が困難であるとき、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項4号)に該当する場合には離婚が認められます。
前述の通り、かつて存在した「強度の精神病」の規定は削除されましたが、そこで判断されていた精神疾患の程度や治療の見込み、配偶者への影響、離婚後の生活保障といった事情は、「婚姻を継続し難い重大な事由」でも考慮されると考えられます。そのため、アルコール依存症で離婚が認められるかどうかは、回復の見込みや本人の治療意思、症状の深刻さなどを考慮して判断されます。
例えば、アルコール依存症が原因で次のような問題が継続している場合、裁判でも離婚が認められやすくなります。
これらの事情を裁判で立証するには、DVやモラハラの録音・録画、診断書、アルコール依存症の治療記録、飲酒状況が分かる写真や動画などの証拠を収集することが有効です。証拠はできる限り同居中に収集すべきですが、飲酒後の暴力はエスカレートしやすく、身の安全を優先して早期に別居すべき場合も少なくありません。
別居が長期間継続し、夫婦関係の修復が見込めない状況となったこと自体も、「婚姻を継続し難い重大な事由」を基礎付ける事情の一つとして考慮されます。
「精神疾患を理由とする離婚」の解説

一方で、アルコール依存症であるというだけでは離婚できないケースもあります。
アルコール依存症は、治療可能な疾患とされるため、裁判所では配偶者に治療の努力が見える場合、家族にも協力や支援が求められることがあります。
しかし、症状が重度であったり、コントロールが困難であったりすると、共同生活を続けることは配偶者や子供にとって負担となるため、状況に応じた判断が必要です。個別のケースに応じた適切な対処法を知るためにも、早い段階で弁護士に相談しておくのがおすすめです。
「離婚までの流れ」の解説


次に、アルコール依存症が離婚条件に与える影響について解説します。
アルコール依存症は、離婚の直接の原因になり得るばかりでなく、それ以外にも、離婚時の夫婦関係や離婚条件に、様々な影響を与えます。
アルコール依存症の親がいる家庭では、子供に悪影響が及びやすい傾向があります。
例えば、夫が飲酒して妻に暴力を振るうと、子供も恐怖や不安を感じます。家庭内で喧嘩が絶えないと、愛情不足を感じてしまいます。親がアルコール依存症で失職すると、安定した生活環境は確保できません。心理的な負担が増大し、学校で友人を作りにくくなる子供もいます。
劣悪な環境に長期間置かれることは子供にとって悪影響です。また、アルコール依存症を理由とした離婚では、親権をめぐって激しい対立が生じるケースが少なくありません。裁判所は「子の福祉(利益)」を優先して判断するため、アルコール依存症の親が親権を取得するのは難しいです。親権を渡さないためにも、子供にとって悪影響があることを示す証拠を準備するとともに、安定した居住環境、教育環境を整備することがポイントとなります。
「子供のいる夫婦の離婚」の解説

アルコール依存症の配偶者は、離婚後の生活設計が難しくなるおそれがあります。
離婚時の財産分与や将来の養育費についても、アルコール依存症を理由として就労できなかったり、浪費により財産を失ってしまったりすると得られないおそれがあります。そのため、通常の離婚にも増して、離婚後の住居や生活費、子供の教育費の確保を慎重に検討しなければなりません。
また、アルコール依存症に伴い、金銭管理も杜撰になっている可能性があるため、将来の養育費の支払いを確保するには、離婚協議書を公正証書化するか、調停・審判で決めてもらうなどして、強制執行が可能な状態にしておく工夫が必要となります。

「離婚に伴うお金の問題」の解説

次に、アルコール依存症の配偶者と離婚する際の注意点について解説します。
配偶者のアルコール依存症が悪化すると、暴力を受けるなどの危険があります。
飲酒中は感情のコントロールが利かなくなり、暴力が加速するおそれがあるため、身の危険を感じる場合は速やかに別居するなど、離婚の話し合いよりも安全を優先してください。アルコール依存症の配偶者が離婚に応じない場合でも、早期の別居には大きな意味があります。距離を置くことで夫婦間の対立が落ち着くことがありますし、長期間の別居が続けば、夫婦関係が破綻していることを裏付ける事情として、裁判でも考慮されるからです。
ただし、別居後は飲酒状況などの証拠を集めるのは難しくなるため、録音や動画、写真など、同居中にしか取得できないものは早めに集めておきましょう。
DVが深刻な場合、警察への相談や配偶者暴力相談支援センター、シェルターなどを活用することも検討してください。
アルコール依存症は、単なる酒癖の問題ではなく、専門的な治療が必要な病気です。
そのため、配偶者に改善の意思があり、夫婦関係の修復を望むのであれば、離婚を決断する前に適切な支援を受けられるかを検討することも重要です。例えば、依存症を専門とする医療機関を受診したり、断酒会や自助グループなどの支援制度を利用したりすることが挙げられます。また、アルコール依存症の本人だけでなく、配偶者も大きな精神的負担を抱えやすいため、家族向けのカウンセリングなどを活用することも有効な方法です。
もっとも、本人に治療の意思が全くなく、飲酒によるDVやモラハラ、浪費などが繰り返される場合には、関係を維持するのは難しいこともあるため慎重に検討してください。
「復縁したい人が理解すべき全知識」の解説

アルコール依存症による離婚では、慰謝料請求についても検討しておきましょう。
特に、DVや強度のモラハラ、虐待に発展した場合、不法行為(民法709条)に該当し、慰謝料や損害賠償の請求が認められます。慰謝料の相場は50万円〜300万円程度が目安ですが、暴力の内容や頻度、継続性などによって増減します。

慰謝料請求を離婚とともに行う場合、協議が決裂したときは離婚調停を申し立て、不成立となったら離婚裁判(離婚訴訟)を提起して争います。また、離婚せずに請求することも可能で、この場合には、交渉が決裂したら損害賠償請求訴訟で争います。
より高額の慰謝料を認めてもらうには、次のような証拠を準備しておきましょう。
飲酒を理由に、配偶者に対する慰謝料請求を認めた裁判例は、次のものがあります。
なお、裁判で慰謝料が認められてもなお、相手が支払いを拒否したり、支払能力がなかったりする場合には、強制執行によって給与や銀行口座を差し押さえる方法によって回収します。強制執行の手続きは複雑なので、弁護士のサポートを受けながら対応するのがおすすめです。
「モラハラの証拠」の解説

最後に、アルコール依存症を理由とする離婚においてよくある質問に回答しておきます。
アルコール依存症になった配偶者が、離婚時に親権を得ることは難しい場合が多いです。家庭裁判所は「子の福祉(利益)」を優先して判断するのが実務ですが、アルコール依存症に伴う不安定な生活環境では、相手に親権が渡る可能性が高いです。
暴力や虐待があったり、経済的に不安定で必要な教育や医療が提供できていなかったりすると、親権者として不適格だと評価されます。
アルコール依存症になってしまっても、離婚を回避しようとして、夫婦協力の上で治療を試みる家庭もあります。しかし、配偶者が治療を拒否することも多いため、次のような点を心がけて、粘り強く説得してください。
それでも治療を拒否する場合、自身や子供の安全と生活を守るには、離婚を視野に入れて検討を進めることとなります。
アルコール依存症を理由に離婚しても、子供の面会交流や養育費の支払いのために、離婚後もある程度関係を維持するケースがあります。このとき、通常の離婚の場合にもまして、親子交流(面会交流)や養育費のルールを取り決める必要性が高いです。
養育費は、支払いが滞ったら強制執行による差押えができるよう、公正証書や調停を通じて定めるべきです。また、必要な連絡は弁護士を介して行うことで直接の接触を最小限にし、無用なトラブルを防止するのがおすすめです。

今回は、アルコール依存症を理由とした離婚について解説しました。
アルコール依存症は、家族に対して精神面にも経済面にも大きな負担をかけます。夫婦といえど、乗り越えるのは非常に困難でしょう。しかし、アルコール依存症だというだけで離婚や慰謝料の請求が認められるとは限らず、飲酒による暴言や暴力、生活費の使い込みや浪費、長期間の別居など、法定離婚事由に該当する事情が必要となります。
実務上は「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかが争点となることが多く、アルコール依存症のケースでは、配偶者の離婚後の生活が保障されているかどうかが重視されます。なお、2026年4月施行の民法改正により、「強度の精神病」の規定は削除されたものの、病気を理由として婚姻関係が破綻している場合には、裁判離婚が成立する可能性があります。
アルコール依存症を理由に離婚を検討している場合、飲酒による問題行動を記録した証拠を集めることが重要です。早い段階で弁護士に相談し、アドバイスを受けるのがおすすめです。