
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
有責配偶者とは、婚姻関係の破綻について主たる原因を作った配偶者のことを指します。
かつては有責配偶者からの離婚請求は一貫して認められませんでしたが、最高裁昭和62年9月2日判決より、一定の要件を満たす場合には認められることとなりました。その要件は、相当の長期間の別居、未成熟子の不存在、相手方配偶者が苛酷な状態に置かれないことの3つです。
ただし、この判断の際は、有責性の程度や子の福祉(利益)、経済状況などが総合的に考慮されるため、離婚の可否は、個別の事情に即して検討しなければなりません。
今回は、有責配偶者の立場であっても離婚を希望する方に向けて、理解しておくべき重要なポイントについて、弁護士が解説します。
有責配偶者とは、婚姻関係の破綻について主たる原因を作った配偶者のことを指します。
法律に定義はないものの、裁判例では「その事由につき専ら責任のある一方当事者」とされます(最高裁昭和62年9月2日判決)。民法770条1項は、裁判で離婚が認められる原因となる「法定離婚事由」として、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、婚姻を継続し難い重大な事由の4つを定めており、これらの事情に該当すれば、離婚について責任があると考えられます。
したがって、配偶者以外の異性と性的関係を持ったり(不貞行為)、突然別居して生活費を渡さなかったり(悪意の遺棄)、家庭内暴力(DV)を行ったり(婚姻を継続し難い重大な事由)といった行為は、有責配偶者であると評価される典型例です。有責配偶者となった場合、慰謝料請求の対象となるほか、本解説の通り、離婚請求が認められにくくなります。

次に、有責配偶者からの離婚請求について、裁判所の考え方を解説します。
かつては、有責配偶者からの離婚請求は認められないとするのが裁判実務でした。自ら破綻の原因を作りながら、それを理由に離婚を求めることは許されないと考えられていたためです。
しかし、最高裁昭和62年9月2日判決で、婚姻関係が客観的に破綻している場合、有責配偶者であるという一事をもって請求を排斥することはできないと判示され、従来の考え方が変更されました。この判決は、婚姻関係が破綻していれば原則として離婚を認めるべきであるという「破綻主義」の考え方に基づきながら、有責配偶者からの請求については信義誠実の原則(信義則)による制限を設けたものと解釈されています。
この最高裁判例以降の裁判実務では、有責配偶者からの離婚請求が認められるには、次の3つの要件を満たす必要があるとされています。
まず、夫婦の別居が相当の長期間に及んでいることが必要とされます。
別居期間が長期であるといえるかは、当事者の年齢や同居期間の長さと比較して、相対的に判断されます。実務では、8年〜10年程度の別居期間が一つの目安と考えられています。
ただし、どの程度の期間別居すれば離婚が認められるかはケースによって異なり、裁判例でも、別居期間が36年(最高裁昭和62年9月2日判決)、10年3ヶ月(最高裁昭和63年12月8日判決)などの認容例がある一方、別居期間が約2年4ヶ月(最高裁平成16年11月18日判決)、8年(最高裁平成2年11月8日判決)では「相当の長期間」とは認められないとして離婚請求が棄却された例があります。
次に、夫婦の間に未成熟の子供が存在しないことが要件とされます。
未成熟の子供がいる家庭では、有責性のある当事者からの離婚請求が、子の福祉(利益)に悪影響を及ぼすおそれがあるためです。
ただし、未成熟子が存在しても、個別の状況によっては離婚が認められるケースもあります。最高裁平成6年2月8日判決は、未成熟の子がいるという一事をもって請求を排斥すべきではないと判示しました。実務上は、子が高校生以上であったり、養育費が継続的に支払われていたり、離婚後の生活保障が確保されていたりする場合、信義則に反しないとして離婚が認められる傾向があります。
一方で、子供が中学生以下であって監護を要する期間が長い場合や、重度の障害があって付添介護が必要な場合、有責配偶者からの離婚請求は認められにくくなります。
最後に、離婚によって相手方配偶者が苛酷な状態に置かれないことが要件とされます。
具体的には、精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれるなど、離婚を認めることが著しく社会正義に反するといえる特段の事情がないことが必要とされます。裁判所は、年齢や健康状態、経済力、再婚の見込み、離婚後の生活状況などを総合考慮して判断しています。
特に、経済的不利益が重視されるため、財産分与や慰謝料、婚姻費用の支払い状況が考慮されます。有責配偶者が婚姻費用を払わないといった不誠実な態度を継続している場合や、相手方配偶者が病気で収入を得ることが困難な場合などは、離婚請求が棄却されやすくなります。
一方で、十分な経済的給付の提示がある場合や、既に長期間の別居によって離婚と同等の実態にある場合は、苛酷とはいえないと判断される傾向があります。
「離婚までの流れ」の解説

有責配偶者からの離婚請求では、離婚条件で不利になるのではないかと懸念する方も少なくありません。以下では、有責性がそれぞれの離婚条件に影響するかについて解説します。
有責配偶者であっても、親権や養育費、親子交流(面会交流)には直接影響しません。
あくまで「子の福祉(利益)」を最優先に判断されるため、子供の主たる監護者として適切に育児をしてきた実績があれば、不貞行為などの事情があっても親権を獲得できます。また、養育費は子供の生活を保障するためのものであり、有責性の有無で金額が増減することはありません。さらに、離婚後に子供と会えるかどうかについても、子供に悪影響がない限り、有責配偶者からでも交流の実施を求めることができます。
財産分与は、婚姻中に夫婦で協力して築いた財産を公平に分配するための手続きです。
そのため、有責性があっても財産分与の割合(通常は2分の1)に影響しないのが原則です。ただし、有責配偶者側が、協議離婚を成立させるために財産分与の割合について譲歩したり、通常の分与とは別に解決金を支払ったりして離婚を目指すケースはよく見られます。
離婚裁判(離婚訴訟)に発展した場合でも、相手方への慰謝料請求が認められる事案では、財産分与の中に慰謝料的な要素を含めることがあります。なお、不倫と財産分与については「不倫による離婚でも財産分与は必要」で詳しく解説しています。

次に、有責配偶者であっても離婚したいときの対処法について解説します。有責配偶者だからこそ、離婚を実現させるために慎重に準備し、戦略的に進めなければなりません。
有責配偶者からの離婚請求が認められるには、相当長期間の別居が必要とされます。
何年別居すれば離婚できるかはケースによって異なりますが、できる限り早い段階で別居することで期間を積み重ね、婚姻関係が破綻していることを示すのが有益です。なお、同意なく突然別居したことで相手方が困窮すると、「悪意の遺棄」という有責事由に該当するおそれがあるため、収入の多い側が別居する場合は生活費(婚姻費用)の支払いが欠かせません。
有責配偶者であっても、話し合いで相手が同意すれば協議離婚することができます。
そのため、「離婚請求が認められるための要件」を満たさなくても、相手に同意してもらうために、離婚条件について譲歩する方法があります。例えば、財産分与について通常の2分の1を超える割合を提案する、不貞慰謝料の相場(100万円〜300万円程度)を超える解決金を提示する、算定表を超える高めの養育費を設定するといったケースがあります。
長期間の別居に伴う婚姻費用の支払いや、裁判が長引くことによる経済的・精神的負担を考えれば、金銭面で一定の譲歩をすることで早期離婚を成立させる合理性は高いといえます。ただし、相手方にとって、離婚が成立しない限り婚姻費用を受け取り続けることができるため、少なくともその金額を超える提案がなければ、離婚に応じてもらえないことを覚悟すべきです。
「離婚に伴うお金の問題」の解説

夫と妻のどちらにも不貞やDVなどの有責性があるケースもあります。
当方と相手のいずれにも有責性がある場合、一律に離婚請求が排斥されるわけではありません。この場合、双方の責任の内容や程度、経緯などを比較して検討します。請求側の有責性が相手方と比較して著しく大きいとまではいえない場合、離婚請求が認容される可能性があります。したがって、こちらが有責であっても、相手の有責性を証明することで婚姻関係が破綻していることを示せば、離婚が認められやすくなります。
例えば、妻から長期間の深刻なモラハラを受けたことで夫が不貞行為に至ったケースなどでは、どちらの責任がより重いかが問われます。
「不倫の証拠写真」の解説

有責配偶者として扱われる期間に法律上の期限や時効はありません。
しかし、過去に不貞行為などの事情があっても、その後長期間にわたって円満な生活を送っていた実績がある場合、関係は修復されたと評価できます。こうしたケースでは、過去の行為の責任をことさら強調するのは適切ではないと考えられます。
なお、不貞慰謝料の請求については、「損害及び加害者を知った時から3年間」「不法行為の時から20年間」という時効があります。
「別居しても離婚話が進まない」の解説

有責配偶者が離婚を望んでも、相手が応じないケースは少なくありません。焦りの感情に任せて不適切な行動を取れば、かえって状況を悪化させる危険があるので注意してください。
相手が離婚に同意しなくても、強引に話を進めようとするのは危険です。
確かに、話し合いで合意に達すれば協議離婚できますが、あくまで真意に基づく同意が必要です。無理に離婚を迫れば、相手の態度を硬化させ、ますます話し合いが進みにくくなります。執拗な連絡、一方的な要求、脅迫的な発言は、悪質なモラハラと評価され、さらに有責性を強めるおそれもあり、離婚請求に対する裁判所の評価が一層厳しくなることが予想されます。
有責側であるからこそ、冷静かつ誠実な対応を心がけ、相手の立場に配慮した行動をとることが、長期的には離婚の成立につながる近道となります。
離婚を巡る争いで、互いに「相手こそが有責配偶者だ」と主張し合うことがあります。
しかし、裁判所において有責配偶者であると評価されるのは、相当悪質なケースに限られると考えるべきです。典型例は、不貞行為や家庭内暴力(DV)です。
軽度のモラハラや夫婦喧嘩でも有責性を主張されることがありますが、単に性格が合わない、感情的に発言したといった程度で有責と評価されるものではありません。家庭内にトラブルがあっても、それが婚姻関係の破綻につながるほどの重大な事情でなければ、有責配偶者とは評価されない点に注意しておきましょう。
逆に、「相手が有責配偶者である」という立場の方に向けても解説しておきます。
相手が有責配偶者なのに離婚を請求してきた場合、まずは拒否するのが適切です。話し合いの段階では、明確に拒否すれば協議離婚は成立しません。また、相手が有責配偶者なら、調停や訴訟に移行しても、離婚請求は認められない可能性が高いと考えられます。
ただし、相手を非難したり攻撃したりすると、問題を複雑化させるばかりか、こちら側にDVやモラハラといった有責性があると主張されるおそれもあります。そのため、淡々と拒否の意思を明確にすればよく、追い詰めすぎないように注意してください。冷静な対応が難しい場合、離婚を拒否する側でも、弁護士に対応を依頼するのが適切です。
有責配偶者側が、離婚を目指して別居を開始した場合は、必ず生活費として「婚姻費用」を請求しましょう。当面の間離婚が成立しなければ、婚姻費用を受け取り続けることができます。
なお、相手の有責性について「法定離婚事由」に該当することを証明できれば、こちらからの離婚請求は、相手が拒否しても裁判で成立させることができます。
「別居中の生活費の相場」「婚姻費用地獄」の解説



最後に、離婚を希望する有責配偶者が、弁護士に相談すべき理由を解説しておきます。
有責配偶者からの離婚請求は認められないリスクがあるため、慎重に進めるべきです。裁判離婚が認められにくいケースほど、早期離婚を優先して条件面で譲歩することがあります。ただし、相場や目安を知らなければ、どのような譲歩が相手に対して効果的か、不当に高額な支払いに応じてしまっていないかを検討することができません。
さらに、相手が同意しなければ、調停・裁判に発展することを見据えなければなりません。時間や費用を無駄にしないためにも、「離婚請求が認められるための要件」に当てはまるかどうかは事前に精査する必要があります。このまま裁判に進んでも勝ち目がないと判断される場合は、しばらく別居期間を積み重ねることを選択するケースもあります。
これらの手続きを戦略的に進めるためにも、後ろめたい気持ちは理解できますが、自身の依頼している弁護士には、有責性について正確な情報を提供しておく必要があります。
当事務所では、有責配偶者からの離婚請求を扱った経験を豊富に有しています。個々の事情を丁寧に分析し、有責配偶者であっても離婚が認められる可能性や最適な解決方法を見極め、交渉から訴訟まで一貫してサポートします。離婚をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

今回は、有責配偶者からの離婚請求について、法的な観点から解説しました。
有責配偶者からの離婚請求は、裁判実務において厳しく制限されるのが実情です。しかし、最高裁昭和62年9月2日判決の示した3要件(相当期間の別居、未成熟子の不存在、相手方配偶者が苛酷な状態に置かれないこと)を満たす場合、離婚が認められる可能性があります。
近年の裁判例では、未成熟子が存在していても、有責性の程度や別居後の生活実態、経済的補償の内容などを総合考慮し、信義則に反するかどうかを柔軟に判断する傾向があります。有責配偶者でも離婚したいと望むなら、裁判所の判断基準を知り、要件を満たす努力が必要となります。
有責配偶者からの離婚請求は、長期化することが予想され、負担も大きくなります。法的な観点から計画的に準備するために、専門家である弁護士のサポートを受けることが重要です。