
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
夫婦のトラブルの中で、家から追い出されてしまうケースがあります。
妻から「もう帰ってこないで」と言われたり、夫に鍵を変えられて家に入れなくなったりといった深刻な事態に直面したとき、どのように対処すべきでしょうか。感情的に対立しているケースでは、当事務所にも実際に次のような相談が寄せられます。
離婚を予定する場合も、住む権利を失うわけではありません。状況によって、荷物を取りに戻ったり、損害賠償や離婚を請求したりといった対応を検討すべきです。また、暴力(DV)や犯罪を伴うケースでは警察が対応してくれることもあります。
今回は、配偶者に家から追い出されたときの対処法と、警察に相談できるケース・できないケースについて、弁護士が解説します。

はじめに、家から追い出されたら、まずやるべきことを解説します。
突然、配偶者に家から追い出されたり締め出されたりすると、どのように対処すべきか判断が付かないこともあるでしょう。まずは落ち着いて自身の状況を正確に把握し、当面の生活を安定させるための行動を取るのが適切です。
家から追い出されたケースといっても、様々な状況が考えられます。
対処法を検討するために、まずは置かれた状況を冷静に整理してください。夫婦喧嘩や離婚に関連して家を追い出されるケースには、次のような例があります。
追い出された側では、その背景や経緯を整理することが大切です。次の点については必ず確認しておいてください。
理由ごとに対処法が異なるため、夫婦喧嘩の延長か、暴力(DV)があるか、離婚を前提としているのかといった点を確認してください。追い出された際の音声や映像の記録、鍵を変えられている状況の写真、相手とのLINEやメールのやり取りなどは証拠として記録しておきましょう。
警察が介入する場合や、DV保護法による保護命令が発令された場合など、追い出された側がむしろDVの加害者とされているときは、行動に特に慎重さが求められます。
「別居時の荷物の持ち出し」の解説

追い出されたら、すぐには戻れない可能性を考え、当面の住む場所を確保しましょう。
暴力(DV)から避難し、不利な条件で離婚に応じないためにも、落ち着いて考えられる環境を整備しなければなりません。主な選択肢とメリット・デメリットは以下の通りです。
実家や親族に事情を話して支援を受け、居所を確保できるのが最善です。なお、生活費や滞在期間、配偶者が来たときの対処法などは事前に話し合っておきましょう。
宿泊先として、ホテルや短期賃貸マンションを利用することがあります。
急を要する際に適していますが、宿泊費がかかるため、収入や貯蓄に不安がある方にとっては長期滞在は難しいでしょう。子供がいない場合、ネットカフェやカプセルホテルなどで当面の寝床を確保する手もあります。
実家が遠方であったり相手に知られていたりするとき、友人を頼る手もあります。ただし、共通の友人は頼にくく、信頼できる人でなければなりません。また、相手の負担になるおそれがあるため、長期滞在には向きません。
DV被害がある場合、シェルターの利用を検討してください。シェルターは、一時的な避難場所として、配偶者から暴力を受けた被害者であれば無料で利用できます。ただし、シェルターの多くは女性専用で、男性だと利用可能なシェルターのない地域もあります。また、滞在期間に制限があることが多く、あくまで一時的な避難場所と心得てください。
身分証明書や所持金もなく追い出され、当面の生活が困難な場合は、役所の窓口に相談してください。事情を説明すれば、一時的に無料低額宿泊所を紹介してもらえる可能性があります。また、住居確保給付金などの公的支援についてもアドバイスを受けられます。
家を追い出された際、相手が激昂していたり暴力(DV)を振るったりする場合、身の安全を最優先に考えて行動してください。住む権利を主張して居座ろうとしたり、鍵を開けるよう執拗に迫ったりすると、かえって相手を刺激して事態が深刻化するおそれがあります。
危険を感じるケースでは、その場から速やかに離れ、実家やホテル、シェルターなどの安全な場所へ避難するのが適切です。感情的な対立が激しい場面では、すぐに離婚に向けた話し合いを試みるのではなく、しばらく距離を置き、相手が冷静さを取り戻すのを待ちましょう。
「別居したのに連絡がしつこい時」の解説

次に、家から追い出された時の適切な対処法について解説します。
家に入れないからといって執拗に連絡したり、相手を非難したりするのは逆効果です。再同居か離婚か、いずれを望むにしても、不利にならないよう対処することが重要です。
まずは冷静になり、再同居に向けた話し合いを試みましょう。
無理に押しかけたり怒鳴ったり、怒りをぶつけたりするのは逆効果です。失言をして自分が不利になり、相手も態度を硬化させるなど、解決が遠のきかねません。特に夫側は、妻から「恐怖を感じた」と主張され、DV加害者とみなされるリスクがあります。
協議では、相手の意見を聞いた上で自分の考えを伝えることが大切です。当事者同士では冷静になれない場合、弁護士に代わりに伝えてもらう手が有効です。
次に、家から追い出された証拠を収集することが重要です。状況や経緯を示す証拠として、次のようなものを準備しておいてください。
夫婦には同居義務があるため、別居することの正当性を主張するには、「相手から追い出された」ということを証拠により証明できるようにしておくことが重要です。なお、自ら別居するケースでは「勝手に別居すると不利?」を参考にしてください。
家から追い出されたことについて、弁護士や警察に相談する手もあります。
例えば、家を追い出される際に暴力があった場合、警察に相談するのが適切です。この際、ケガの写真を撮り、医師の診断書を取得するのがおすすめです。
犯罪になるほどのケースでなくても、弁護士に相談すれば、法的な解決策を講じてもらうことができます。離婚や復縁といった目的に合わせて戦略的に進めるために、相手に働きかける前にアドバイスを受けるようにしてください。
「離婚に強い弁護士とは?」の解説

追い出しや締め出しが不法行為となる場合、慰謝料請求を検討します。
正当な理由なく家から追い出されて精神的苦痛を感じる場合には、不法行為(民法709条)に該当します。例えば、追い出された側に責任が全くないのに、相手が不貞行為の証拠隠滅のために追い出した場合などが挙げられます。
慰謝料請求をするのに必要な証拠も、家から追い出されてしばらく経った後では入手が困難になります。不貞慰謝料を請求したり、離婚時の財産分与を有利に進めたりするのにも役立つため、証拠集めは同居中に着手しておきましょう。
「相手の財産を調べる方法」の解説

夫婦のトラブルで家から追い出されてしまった場合、警察に相談できるケースがあります。
ただし、警察が介入できるのは、事件性や緊急性のある場合に限られ、「民事不介入」が原則となります。そのため、全ての場面で警察への相談が適切とは限りません。
警察が対応できるのは、事件性や緊急性のあるケースです。
例えば、配偶者から暴力や脅迫を受けて身体に危険が及んでいる場合や、鍵をかけられて閉じ込められる監禁や軟禁の状態にあるケースが典型例です。DVやストーカー行為の被害が疑われる場合も、警察に相談すれば、被害者の安全を確保するために動いてくれます。
身の危険を感じるほど事態が切迫している場合、110番通報を行ってください。警察官が現場に急行し、一時的な保護や相手への警告を行ってくれます。即時に対応する必要がない場合でも、警察相談専用電話「#9110」を利用して、今後の対応を相談できます。
一方で、警察には「民事不介入」の原則があり、家庭内の問題には強制的に介入できません。
例えば、夫婦喧嘩の延長や、自宅の所有権をめぐる争い、離婚に伴って同居を解消するかどうかの対立といったケースは民事事件であるため、警察に相談して解決を図るのは困難です。家に入れなくても、警察が鍵を開けるよう命じたり、無理やり中に入ったりできるわけではありません。
こうした法的な権利の争いについては、警察ではなく弁護士に相談し、離婚問題として調停や訴訟といった法的手続きを通じて解決するのが適切です。
警察に相談する際、被害状況を客観的に示す証拠を準備しておくことが重要です。
事件性・緊急性を分かりやすく説明する必要があるため、配偶者の暴力によるケガの写真、医師の診断書、鍵を交換されて入れない状況がわかる写真、暴言の録音などが役立ちます。警察への相談時には、いつ、どこで、誰が何をしたのかを時系列に沿って整理して伝えてください。事実関係を明確に伝えることで、動く必要があるかどうかを正確に判断してもらうことができます。

次に、家から追い出された時に検討すべき法的な注意点について解説します。
夫婦は法律上、同居義務や協力扶助義務を負っているため、正当な理由なく一方的に配偶者を締め出す行為は、法的に問題があるといえます。
まず、配偶者が他方を締め出すために勝手に鍵を交換した場合です。
婚姻中に購入した自宅は夫婦の共有財産であり、勝手に変更を加えてはなりません。自宅の鍵を相手の承諾なく変更することは、夫婦の同居義務に違反します(民法752条)。

裁判例でも、同意なく自宅の鍵を交換した点がトラブルになった事案があります。
このように、裁判例でも、経緯や離婚意思の有無によっては、相手の居住権を侵害すると判断したケースがあります。一方で、明らかに相手の行動が原因で婚姻生活が破綻したケースでは、居住権を認めなかった裁判例もあります。
「別居しても離婚話が進まない場合」の解説

正当な理由なく配偶者を追い出す行為は、悪意の遺棄に該当する可能性があります。
悪意の遺棄と判断されると、民法770条1項に定める「法定離婚事由」として、裁判で離婚が認められる理由となります。例えば、家から追い出されることに加え、次のような問題行為を証明できれば、悪意の遺棄があるとして調停や裁判を有利に進めることができます。
悪意の遺棄であることを証明するには、家から追い出される経緯や状況などを証拠に残しておくことが重要です。鍵を変えられた証拠、締め出しを示すLINEやメールのスクリーンショット、録音などを集めておいてください。
DV防止法により、暴力や脅迫によって生命・身体に重大な危害を受けるおそれがあるとき、接近禁止命令や退去命令が発せられます。例えば、妻がDVを主張して保護命令が出された場合、夫が家から追い出されたことについて妻を責めるのは難しいケースがあります。
同居中の場合、加害者に一時退去を命じることがあり、命令に違反して自宅に戻ろうとすると「2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(DV防止法29条)。保護命令には即時抗告が可能ですが、無理やり家に戻ろうとするのは危険な状況です。
「家から出て行けと言うのはモラハラ?」の解説

家から追い出されても、調停や裁判が進行中なら、別居を続けるべきケースもあります。
夫婦には同居義務がありますが、婚姻関係が破綻している場合はその限りではありません。また、離婚に向けた別居について夫婦の合意があるなら、それに従って進めるべきです。実際、離婚に向けた法的手続きは、別居してから行う夫婦が多いです。
ただし、別居したことで不利にならないよう、以下の点に注意してください。
なお、離婚を前提として進める場合、相手との直接の連絡がストレスになるなら、弁護士を依頼して、窓口になってもらうのが有効です。
「協議離婚の進め方」の解説


最後に、家から追い出されたときに、やってはいけない誤った対処法を理解しておきましょう。勢いで進めると、結果的に後の離婚において不利になり、後悔するおそれがあります。
自宅から閉め出されても、無理やり鍵を壊して室内に侵入するのは止めましょう。
たとえ自宅であっても、強引に押し入ったり、激しくドアを叩いたりといった行為は、配偶者から「恐怖を感じた」と主張される要因となります。これらの行為はDVとみなされるリスクがあり、夫婦関係の修復は完全に困難になりますし、離婚する際にも不利な事情となります。
感情的になって実力行使に出ると、後の離婚協議や裁判で不利な立場に置かれます。自力で解決しようとせず、まずは冷静に弁護士へ相談し、法的な手続きを通じて対処すべきです。
一方的に家を追い出されたショックから相手を激しく問い詰めるのも逆効果です。
怒りに任せて行動すれば相手の態度を硬化させ、暴力や脅迫を受けたと主張されるおそれがあります。配偶者が恐怖を感じたと訴えた結果、保護命令が出されるとさらに不利になります。
感情的な対立が激しい場面で、無理に話し合いを迫っても事態が好転することはありません。まずは物理的な距離を置き、弁護士などの第三者を介して冷静に交渉を進めることが、自身の権利を守るためにも賢明な判断となります。
「離婚までの流れ」

夫婦いずれの立場でも、所有者の同意なく私物を処分するのは不法行為(民法709条)として損害賠償請求の対象となります。婚姻中に購入した自宅をはじめ、共有財産を勝手に売却することも許されません。追い出された側としては、財産分与の対象となる財産を勝手に処分されないよう、仮処分などの法的措置を講じることを検討してください。

今回は、配偶者に家から追い出された時の対処法について解説しました。
妻が夫に家から追い出された場合はもちろん、夫が妻に家から追い出された場合についても、当事務所では数多く相談が寄せられています。配偶者から追い出されても、住む権利を直ちに失うわけではなく、家へ戻ることが認められる場合や、荷物を取り戻せる場合があります。
また、関係修復して再同居するか、それとも離婚するかといった希望によっても、やるべきことが異なります。特に、離婚を望む場合、家を追い出されたからといって妥協してはなりません。さらに、暴力(DV)の危険がある場合には、警察へ相談すべきケースもあります。
家から追い出された後の対応を誤ると、離婚において不利な立場に置かれるおそれがあります。不安や疑問は、早い段階で弁護士に相談することで解消するのが有益です。