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退職強要された時、損害賠償を請求する方法と慰謝料の相場

退職強要は、労働者に不当な圧力をかけて、一方的に会社をやめさせる違法な行為です。

会社は、一方的な判断で、社員を辞めさせられません。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、権利濫用として解雇を無効とする「解雇権濫用法理」のルールによる厳しい制限があるからです(労働契約法16条)。

「辞めさせたいが、適法には解雇できない」というとき、会社はパワハラでプレッシャーをかけ、自主退職を迫ります。このような退職強要は、実質的には解雇と同じであり、明らかに違法です。そのため、退職強要を受けたとき、慰謝料請求をはじめとした損害賠償を請求できます(なお、退職強要により自主退職してしまっても、錯誤(民法95条)、詐欺、強迫(民法96条)を理由に取消できます)。

したがって、恐怖に負けて退職届を出してしまっても、泣き寝入りせず、退職の撤回・取消とともに、慰謝料請求をはじめとした損害賠償請求をするのが適切な対応です。

今回は、退職強要で慰謝料請求するときの方法について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 退職強要は、実質的には解雇であり、違法な行為
  • 退職強要を受けたとき請求できる慰謝料の相場は30万円〜100万円
  • そのほかに、退職の撤回や、解雇後の補償を意味する「解決金」を請求する方法も有効

なお、退職強要されたときの対応方法について、深く知りたい方は、次のまとめ解説もご覧ください。

まとめ 退職強要に関するトラブルを弁護士に相談するときの全知識

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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退職強要された時の慰謝料請求とは

お金

退職強要は、労働者の自由意思に反して、会社を退職するよう強要するはたらきかけのことです。

退職強要は、実質的には解雇と同じですから、不当な圧力を加えて退職せざるをえなくするのは違法です。そのため、退職強要が不法行為(民法709条)にあたるとき、これにより受けた精神的苦痛について、慰謝料を請求できます(民法710条)。

退職強要の違法性

退職強要に対して慰謝料を請求するためには、その退職強要が不法行為(民法709条)にあたる必要があります。つまり「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為であることが必要です。

退職強要のうち、暴力をともなうものは違法性が高く、当然に不法行為となります。そのほかに、暴言や人格否定などのパワハラによる強要行為、「自主退職するまで会議室から出さない」と告げる監禁行為なども労働者の権利を侵害しますから、不法行為にあたる可能性が高いです。

退職強要と退職勧奨の違い
退職強要と退職勧奨の違い

退職強要とは似て非なるものとして退職勧奨がありますが、退職勧奨は不法行為にはあたりません。退職勧奨は、退職強要のように意思を制圧することなく、あくまで「労働者の自由意思で退職することのおすすめ」にとどまるので、適法です。

退職強要と退職勧奨の違いは、「退職について、労働者が自由意思で判断できる状態にあるかどうか」がポイントです(参考解説:「退職勧奨とは?丨違法となる場合と、退職強要との違い」)。

退職強要の慰謝料の相場

退職強要を受けたときに、会社に請求できる慰謝料の相場は、30万円〜100万円程度が目安です。

とはいえ、慰謝料の金額はケースバイケースであり、個別の事情に応じて判断する必要があります。慰謝料の相場は、退職強要の悪質性(回数・時間・頻度など)、退職強要の際に行われたパワハラの強度などの事情によっても増減します。退職強要時に、セクハラ、パワハラが行われれば、悪質性が増し、請求する慰謝料の金額をさらに増額できます。

退職強要の慰謝料の相場
退職強要の慰謝料の相場

例えば、長時間の面談を、労働者が退職を拒否しているにもかかわらず執拗に行い、その際に「会議室から出さない」などの監禁行為があったり暴力を振るったりしていたとき、慰謝料額は上記の相場を超えて高額になる可能性があります。

暴力・暴言をともなうなど強度野退職強要を受け、うつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)にり患してしまったとき、損害が増大するため、請求できる慰謝料も増額されます。このように損害が大きいことは、医師の診断書で立証する準備をしておいてください。

解雇の慰謝料、解雇の解決金について

退職強要は、実際には解雇と同じ意味を持っています。解雇とは、会社が一方的に雇用契約(労働契約)を解約することですが、退職強要もまた、労働者の自由な意思を奪っているという点では、(形式的には自主退職であっても)解雇と同じだということです。

不当解雇をめぐるトラブルでは、不当解雇の慰謝料とともに、争いの結果として金銭解決するときには、不当解雇の解決金をもらうことができます。このとき、解雇の慰謝料は、上記の退職強要の慰謝料と同様に30万円〜100万円程度が相場となるのに対して、解雇の解決金はそれより高額で、月額賃金の3ヶ月分〜1年分程度となるケースがよくあります。

そのため、退職強要の争いであっても、実質的には解雇といえるような不当な圧力を受けていたときには、退職強要の慰謝料だけでなく、解雇トラブルと同様に解決金をもらえるよう交渉を進めることができます。

退職強要の慰謝料を請求できるケース

退職強要で慰謝料を請求するためには不法行為(民法709条)にあたることが必要となり、そのためには、退職強要の手段や方法が社会的相当性を著しく逸脱しているといえるのが重要なポイントです。

退職強要の違法性の基準は、退職についての労働者の自由意思を、不当に制圧したかどうかがポイントです。

この判断では、次のような点が考慮要素となります。

  • 退職を働きかけた回数・頻度
  • 1回の面談に要した時間
  • 面談時の言動(パワハラ・セクハラや人格否定など)
  • 会社に不当な動機があったか
  • 労働者が拒否してなお継続したか
  • 会社の規模・業種
  • 退職強要の対象となった者の地位・役職

これらの事情を総合的に考慮した上で、暴行・強迫をともなう退職強要や、労働者が拒否しても執拗に続く退職強要、家族を巻き込んで行われる退職強要などは、違法性が高く、慰謝料請求の対象となります。

退職強要の違法性を認めた重要な裁判例に、下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決)があります。この事案では、高校の教員に対して行われた執拗な退職強要が「社会通念上相当な範囲を逸脱」しているとして不法行為と認定され、損害賠償請求が認められました。

退職強要について具体的には、3ヶ月に12回など、短期間で頻繁に退職の面談をしたこと、面談は短いときでも20分、長いときで1時間以上続いたこと、面談の際「退職に応じるまで勧奨を続ける」、「退職しないと処遇についての要求には応じない」などのことを繰り返し伝えていたことといった事実がありました。

退職強要の慰謝料を請求する具体的な方法

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

次に、退職強要の慰謝料を請求する具体的な方法について、弁護士が解説します。

退職強要が不法行為(民法709条)にあたるような違法性があるとき、慰謝料をはじめ損害賠償請求できると解説しましたが、退職強要を受け続けていると、不安や恐怖を感じ、どう対応してよいかわからなくなってしまうことでしょう。プレッシャーに負けて自主退職し、泣き寝入りしてしまわないようにしてください。

自主退職を拒否する

違法な退職強要を受けたときに最も重要なのは、退職強要に屈せず、自主退職を断固として拒否することです。

ひとたび退職してしまっても、違法な退職強要による退職であれば錯誤(民法95条)、詐欺、強迫(民法96条)を理由に取消できますが、だからといって脅しに屈することはおすすめできません。取り消せるとしても労働者側から争わなければなりませんし、証拠収集が不十分だと残念ながら退職の取消が認められないおそれもあります。

社内の人間関係に配慮していると言いづらいかもしれませんが、「退職しない」と明確に断言し、退職に関する面談を打ち切るようにしてください。拒否してもなお退職強要が続くときは、次に解説する証拠収集を進める必要があります。

証拠を収集する

違法な退職強要を受けたとき、後に慰謝料請求をするためにも、証拠を残しておくことが大切です。労働審判や訴訟などの手続きで慰謝料請求するとき、退職強要の違法性を裁判所に認めてもらうためには証拠が重要だからです。

証拠は、「違法な退職強要を受けたこと」と「自主退職を拒否したこと」の2点について証明できるように集めてください。

次のような資料が、重要な証拠となります。

  • 退職強要を受けた面談の録音
  • 退職強要となる会社の通知書
  • 退職強要となる社長や上司からのメール
  • 退職強要を受けた当時似作成した日記

退職強要を受けるおそれのある面談を設定されたとき、ボイスレコーダーやスマホなど録音の準備が大切です。退職強要のように、録音がとても重要な価値を持つときは、無断で録音したからといって違法とはなりませんので安心してください。

内容証明を送付する

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

違法な退職強要が止まないとき、弁護士名義で警告書を送り、退職強要の違法性を指摘する方法が有効です。あわせて、請求書を送付し、慰謝料をはじめとした損害賠償を請求することができます。

警告書、請求書などの書面は、証拠に残るよう、内容証明で送るようにします。内容証明は、配達日、送付した書面の内容を証拠化できるからです。

内容証明とは
内容証明とは

なお、会社に送付する書面には、退職強要の具体的状況を詳しく記載して、証拠に残しておく必要があります。そのため、退職強要を受けたら、その後すぐに、録音や記憶にもとづいてできるだけ詳しく状況を記載するのが大切なポイントです。

労働審判で慰謝料請求する

警告書を受けてもなお違法な退職強要を続ける会社や、交渉で慰謝料を払ってもらうことが難しいケースでは、労働審判を申し立てる方法が有効です。

労働審判は、労使のトラブルを解決するための法的手続きであり、訴訟よりも簡易かつ迅速に裁判所の判断を得ることができるため、労働者の権利を守るのに最適です。労働審判では、原則として3回以内の期日で解決できるため、訴訟が1年以上かかることも多いのに比べ、早期解決が期待できます。

そのため、退職強要の問題を解決するときにも、まずは労働審判の申立てを行います。労働審判で退職強要の違法性を証明できれば、労働審判委員会が会社に対し、慰謝料など損害賠償をするよう説得してくれることが期待できるほか、この説得を会社が拒否したときは労働審判という最終判断を得ることができます。

訴訟で慰謝料請求する

労働審判で解決できなかったときは、訴訟で慰謝料請求を行います。

なお、労働審判に対して、労使のいずれかが2週間以内に異議申し立てするときは、自動的に訴訟に移行します。

退職強要で退職してしまった後でも請求できること

男性

次に、退職強要で退職してしまった後でも請求できることについて解説します。

退職強要は違法でも、労働者側としても「退職すること」については心から同意しているケースがあります。退職強要の対象となってしまうとき、会社としてあなたが不要であることを示しており、居づらい会社で働き続けるより、転職した方が幸せだと考える場合です。

退職後でも慰謝料の請求ができる

退職強要が違法で、不法行為(民法709条)にあたるとき、慰謝料請求をはじめとした損害賠償請求が可能ですが、このことは、退職前でも退職後でも同様です。つまり、退職後でも慰謝料請求などが可能だということです。

ただし、退職強要の慰謝料を請求するためには、退職強要の違法性を立証する証拠が必要となるところ、既に退職済の状態だと、証拠の収集が難しいことがあります。特に、強要時の行為については、強要時に録音などしていないと証拠に残すことができないため注意が必要です。

退職の撤回・取消

違法な退職強要に負けて退職届を出してしまう方がいますが、まだあきらめるのは早いです。退職届は、会社が受理してはじめて効力を発揮しますが、人事権のある人(社長や上位の役職者など)が受け取る前であれば、退職を撤回することができます。そのため、退職強要が止んだ後で考え直し、退職したくないときは、速やかに退職の撤回を申し入れてください。

退職の撤回と取消の違い
退職の撤回と取消の違い

また、脅したりだましたりといった退職強要によって退職してしまったときは、錯誤(民法95条)、詐欺、強迫(民法96条)を理由に、その意思表示を取消すことができます。例えば、「退職しないと懲戒解雇にする」、「業績悪化で倒産してしまう前に退職したほうが得だ」などと嘘をいって退職させるケースでは、退職を取消すことができます。

退職強要の違法性について会社も自認し、後ろめたい気持ちがあるときは、退職の撤回や取消について交渉し、会社に応じてもらうことができるケースも少なくありません。

なお、退職の撤回、取消に成功したとき、退職した時点から交渉によって復職した時点までの未払い賃金を請求できます。

有利な退職条件

退職強要にやむなく応じるケースでは、できるだけ有利な退職条件となるよう交渉することが大切です。本来であれば応じる必要のない違法な退職強要なわけですから、会社側には、退職条件で精一杯の譲歩をしてもらうよう交渉してください。

退職に応じることを決めたとき、交渉しておくべき有利な退職条件は、次のようなものです。

  • 退職金の増額
  • 未消化の有給休暇の買取り
  • 再就職支援サービス

なお、退職強要に応じて退職するとき、合意書、誓約書などにサインを求められることがあります。

これらの書面に清算条項(相互に債権債務のないことを確認する旨の条項)が記載されていると、今後は未払い賃金、残業代などが請求できなくなるため、未払い分がないか確認しておくことが大切です。

失業保険

失業保険について、退職強要で退職するときは、いわゆる「会社都合」となります。会社によっては自己都合扱いとされてしまうことがありますが、自己都合だと3ヶ月の給付制限期間があるほか総額(自己都合であれば年齢や勤続年数によって90日〜150日、会社都合であれば90日〜330日)も減少してしまうというデメリットがあります。

会社都合と自己都合の違い
会社都合と自己都合の違い

離職票に記載された離職理由を確認し、必ず会社都合扱いとしてもらえるよう交渉しておきましょう。

まとめ

今回は、退職強要を受けてしまったときの対応として重要なポイントとなる、慰謝料請求をはじめとした損害賠償請求について解説しました。

退職強要をされると、本来辞めなくてもよかったのに、不当な圧力によって会社にいづらくなってしまいます。そのため、退職強要を受けて退職してしまったときは、慰謝料をはじめとした損害について請求できます。

退職強要で受けた精神的苦痛について慰謝料を獲得するためには証拠収集が重要であり、特に、退職強要の面談中の録音がもっとも価値の高い証拠です。退職強要を受けそうなとき、ボイスレコーダーやスマホで録音の準備をしておいてください。

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題について注力しており、多くの解決実績があります。

退職強要の慰謝料請求・損害賠償請求をはじめ、労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

退職強要のよくある質問

退職強要とは、どのような行為ですか?

退職強要とは、本来退職するかどうかは労働者の自由なのに、パワハラなどのプレッシャーを与え、やめざるをえないような状況に追い込む行為です。退職強要は、自主退職のようにみえながら、実際には意に反する退職を強要されており、解雇と同じことを意味するため、違法です。詳しくは「退職強要の違法性」をご覧ください。

退職強要の慰謝料を請求するとき、どのように進めたらよいですか?

退職強要は違法な行為なので、これによって受けた精神的苦痛について慰謝料を請求できます。慰謝料を請求するとき、意に反する退職を強要された事実について証明できる証拠を集め、内容証明、労働審判などで請求の意向をつたえて交渉します。もっと詳しく知りたい方は「退職強要の慰謝料を請求する具体的な方法」をご覧ください。

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