労働問題

退職の意思表示の撤回は可能?いつまで撤回できる?【弁護士解説】

2020年8月6日

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労働者が、会社を退職したいと考えるとき、会社に対して退職の意思表示をすることがあります。しかし、後からじっくりと考えて、その退職の意思表示を撤回したいと考えることも少なくありません。

特に、会社からの退職勧奨、退職強要などの働きかけが原因で、退職の意思を表示するに至った場合、後から考えてみるとそれが労働者の自由な意思決定ではなく、どうしても撤回したいと思い至ることがあります。

このような場合に、体色の意思表示は、会社が受理してはじめて成立するものであることから、会社の受理前であれば、撤回が可能なことがあります。ただし、退職の意思表示の受理、承諾などの手続について、法律上明確なルールはありません。

また、強度の退職強要を受けて退職の意思表示に至った場合など、その意思表示が錯誤、詐欺、強迫によるものである場合には、民法にしたがって退職の意思表示を取り消すことができます。

そこで今回は、労働者側の立場で、退職の意思表示の撤回が可能なのかどうか、また、可能な場合にいつまで撤回できるのかについて、弁護士が解説します。

「労働問題」弁護士解説まとめ

退職の意思表示とは

労働者と会社との間で締結された雇用契約が終了する場合とは、労働者による一方的な雇用契約の解約である「辞職」、使用者による一方的な労働契約の解約である「解雇」と、合意によって解約する「合意退職」とがあります。

解雇については、労働者保護の観点から厳しい制約が法律上設けられていますが、これに対して、辞職は、2週間の予告期間を置けば、いつでも解約できます。ただし、例外的に、「期間によって報酬を定めた場合」n「使用者からの解約の申入れ」の場合と、「6か月以上の期間によって報酬を定めた場合」には、これより長い予告期間を置く必要があるものとされています。

民法627条

1. 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2. 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3. 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。

なお、2020年4月1日より改正民法が施行される前までは、労働者側からの解約申入れについても、期間の前半までに伝えなければならないこととされていました。

つまり、毎月1回払いの月給制の場合には、当月の前半に予告を行えば当月末、当月の後半に予告を行えば翌月末になれば、特に理由がなくても雇用契約を解約することができることとされていました。

これに対して、2020年4月1日の改正民法施行後は、このような制約を負うのは使用者側から解約を申し入れる場合のみとなり、労働者側からの解約の申入れは、月給制の場合であっても原則通り2週間前となりました。

労働者が退職の意思表示を行う場合とは、「辞職」「合意退職」のいずれかの場合です。「解雇」の場合、労働者の意思にかかわらず一方的に行われる処分であるため、退職の意思表示は行われません。

そして、労働者が退職の意思表示を行った後の処理について、「辞職」であれば一方的に退職が進みますが、「合意退職」の場合には会社の承諾を経てはじめて退職となるという点が異なります。

退職の意思表示は撤回できる?

労働者が、会社に対して退職の意思表示を行う場合とは、労働者が辞職、もしくは、合意退職を求めている場合であると解説しました。

そして、このように労働者の意思が辞職であるか、合意退職であるか、いずれであるかによって、退職の意思表示が撤回できるのかどうか、という点についての考え方が異なります。

辞職の場合の、退職の意思表示の撤回

辞職の場合には、労働者の一方的な意思表示によって雇用契約は解約されることとなります。つまり、そこに会社の意思は介在せず、会社の承諾、同意などはそもそも想定されていません。

そのため、労働者による退職の意思表示が、辞職を意味している場合には、会社に到達した後では撤回することができません。

合意退職の場合の、退職の意思表示の撤回

雇用契約の合意解約の申出を行った場合には、会社側がこれに対して承諾をすることが予定されています。そして、会社が承諾した時点で合意退職が有効に成立し、その後は申し出た労働者側といえども自由に撤回することはできません。

逆に言うと、会社側が承諾を行うまでの間であれば、合意退職を申し出た労働者側は、その申出を撤回できることとなります。つまり、会社が承諾の意思表示をするまでであれば、退職の意思表示を撤回できるのです。

なお、労働基準法、労働契約法などの労働法においても、会社の承諾に関するルールは明記されていないため、どのような行為により承諾がなされたのか(どの時点から撤回が許されないのか)が、労使間で大きな対立の火種となることがあります。

辞職と合意退職の違い

このように、辞職と合意退職とで、退職の意思表示が敵愛できるのかどうかという争点の結論が異なりますが、実際には、辞職と合意退職とを、その意思表示だけで区別することは大変困難です。

つまり、この違いはすなわち、労働者が退職届や退職願を提出したり、退職をしたいと発言をしたとき、それが会社側の承諾がなくとも雇用契約の解約という効果を求めるものなのか、それとも、会社に退職を承諾してほしいと求める気持ちなのかは、当事者である労働者自身もしっかりと区別できていない場合が多いからです。

結局は、労働者自身がどのような気持ちで退職の意思を伝えたのかによって判断することとなります。なお、一般に、「退職届」というと「届け出て、承諾を要しない」すなわち辞職の意思表示であり、「退職願」というと「願い出て、承諾をしてほしい」すなわち合意退職の申出であると考えることができます。

ただし、日本の労使慣行の中では、労働者が一方的に辞めるということは少なく、退職届、退職願の提出は、会社に対するお願いの気持ちであり、合意退職の申出であると評価されやすい傾向にあります。そのため、そうではなく辞職なのであれば、そのことが明確にわかるような書面内容とすべきです。

いつまで退職届を撤回できる?(退職の意思表示を撤回する「期限」)

以上のとおり、労働者からの退職の意思表示について、辞職を意味するものであれば到達後の撤回はできず、一方で、合意退職を意味するものであれば会社が承諾するまでは撤回が可能であるということになります。

そこで、労働者が行った退職届、退職願などの提出後、労働者の気が代わり、その合意退職の申出を撤回したいと考えるに至ったとき、具体的にはどの時点まで撤回が許されるのでしょうか。この問題は、どの時点で、使用者の承諾の意思表示があったと評価できるのか、という点によって判断されることとなります。

ケースによってその判断は異なるため、参考となる裁判例を示して解説していきます。

直属の上長に退職の意思を表示し、これが人事部長などに伝わり、社長に伝わり、辞令が交付されるといった流れが考えられます。

この流れの中で、会社が、退職届、退職願などが提出されたとき、受理し、どのように取り扱うかは会社の規模、業種、決定権者によって異なることが多いでしょう。

会社が、業務分掌規定などを定め、人事労務に関する権限の所在を明示している場合には、これに従って判断される可能性が高まりますが、形式面だけでなく、実際には誰が判断をしていたのか、という点も踏まえた判断がなされることとなります。

人事部長による受領後は撤回できないとした裁判例

人事部長による退職届の受領時点で、退職届に対する会社の承諾があったと判断し、その後の退職届の撤回を認めなかった裁判例に、大隈鉄工所事件判決(最高裁昭和62年9月18日判決)があります。

この最高裁判例では、新規採用の際には、労働者の経歴、学識、技能、性格などについて使用者に十分な知識がないために慎重な手続をとることを要求するのに対し、採用後であれば労働者の能力、性格、実績などについて十分に把握できることから、人事部長に単独で退職届の承認を行う権限を与えたと考えることは不合理ではないと判断しました。

以上の考え方により、労務部門の責任者である人事部長には、(社長などの許可を得なくても)退職届に対して承諾をする権限があるとし、退職届の撤回を認めないという判断をしました。

工場長による受領後は撤回できないとした裁判例

労働者の所属する工場の工場長が退職届を受理、承認した後には、退職の意思表示の撤回はできないとした裁判例に、ネスレ日本事件判決(東京高裁平成13年9月12日判決)があります。

この裁判例でも、工場長には、その工場に勤務する労働者から退職届を受理、承認する権限があると判断されました。

会社における権限配分の実態から考えても、その所属する工場の工場長であれば、その労働者に関係性の深い上長であるため、退職届を受理する権限を有しているものと考えられます。

役員の受領後も撤回可能とした裁判例

以上の裁判例に対して、役員が退職届を受領した後も、退職届の撤回が可能であると判断した裁判例に、岡山電気軌道事件判決(岡山地裁平成3年11月19日判決)があります。

この裁判例は、会社の作成した「業務分掌規定」によれば従業員の求人、採用、任免などに関する事項が労務部の文章とされている場合に、労務部の統括役員ではない常務取締役兼観光部長に対して、社長に宛てた退職届が提出されたケースです。

これに対して、裁判例では、労務部の統括役員ではない常務には、単独で退職届を承認する権限がなかったとして、常務による退職届受領後も、労働者は退職の意思表示を撤回できると判断しました。

合意書作成前であれば撤回可能とした裁判例

特別優遇措置による退職者募集に応じて退職申出書を提出した労働者について、申出書提出から役2か月半が経過した後に行われた退職の意思表示の撤回を認めた裁判例が、ビーア・ベジー明石工場事件決定(大阪高裁平成16年3月30日決定)です。

この裁判例では、特別優遇措置による退職者募集では、退職申出書を提出した後、退職に関する諸条件を定めた合意書を作成することとなっていたところ、合意書の作成を拒否し、代理人弁護士から退職の意思表示の撤回を求めた労働者には、まだ退職の合意は成立していないと判断しました。

つまり、会社が合意書作成を手続として予定し、説明していたことを理由に、退職の合意書作成までの間であれば、退職の意思表示を撤回することができると判断しました。

退職の意思表示に瑕疵があるケース

ここまでの解説は、労働者が自由な意思で退職の意思表示をした後で、そうであるにもかかわらず意思表示の撤回を求めるケースのお話です。これに対して、労働者の退職の意思表示に、そもそも瑕疵があったという場合には、退職の意思表示を取り消すことができる場合があります。

「意思表示の瑕疵」というときの「瑕疵」とは、すなわち、「キズ」のことであり、要するに「労働者による退職の意思表示が完全ではなかった」ということです。

退職の意思表示に瑕疵があるケースには、強迫、詐欺、錯誤の3つがあります。

強迫による退職の意思表示

強迫とは、害悪を告知し、恐怖を感じさせることによって意思表示を強要することです。例えば、退職の意思表示をすぐにしないと家族に危害を加えると伝え、退職届を提出させるケースがこれにあたります。

民法96条1項において、強迫による意思表示は取り消すことができると定められていますので、これを理由に、退職の意思表示を取り消すよう求めることができます。

強迫により取り消された意思表示は最初からなかったこととなるため(民法151条)、退職はなかったこととなり、在職し続けることとなります。強迫による意思表示の取消権は、畏怖した状態を抜け出したときから5年間となります(民法156条)。

詐欺による退職の意思表示

詐欺とは、他人をだまして、錯誤に陥らせて意思表示をさせることです。例えば、懲戒解雇事由がないにもかかわらず、退職の意思表示をしないと懲戒解雇にすると伝えて、退職届を提出させるケースがこれにあたります。

民法96条1項において、強迫の場合と同様に、詐欺による意思表示を取り消すことができると定められています。

詐欺により取り消された意思表示は、はじめからなかったこととなるため(民法151条)、退職はなかったこととなり、在職し続けることとなります。詐欺による意思表示の取消権は、錯誤の状態を抜け出したときから5年間となります(民法156条)。

錯誤による退職の意思表示

錯誤とは、意思表示をした人が誤った認識に基づいて判断をしていた、すなわち、勘違いをしていたことをいいます。そして、重要な要素に錯誤があったとき、民法95条はその意思表示を取り消せることを定めています。

また、その意思表示をした動機に錯誤がある場合にも、その動機が表示されていた場合には、取消可能となります。

例えば、退職届を提出すれば解雇にされることはないと勘違いして、実際には解雇理由が存在しないにもかかわらず退職届を提出してしまったとき、その退職の意思表示は、錯誤を理由に取り消すことができます。

心裡留保による退職の意思表示

心裡留保とは、意思表示をした人が、その意思表示が真意でないことを知りながらする意思表示のことです。つまり、労働者が、実際には退職する意思がないにもかかわらず退職届を提出するようなケースです。

そして、民法93条では、真意でない意思表示は、その意思表示を受けた人が、真意でないことを知っていた場合や、知ることができた場合には無効となると定められています。

例えば、勤務を継続する意思があるけれども、「一旦は退職届を出して反省の意思を示せば円満に上司が円満に治めてくれる。実際には退職をする必要はない。」などと働きかけられて結果、退職届を手出してしまったとき、実際には退職の意思はなく、それを会社も知っている状態ですから、心裡留保により退職の意思表示の効力は無効となります。

退職の意思表示を撤回する方法

最後に、具体的に退職の意思表示を撤回する方法、手順について弁護士が解説します。

退職の意思表示を撤回したいと考えるとき、退職強要など会社からのパワハラにもあたりうる不当な圧力がその根底にあることがよくあります。しかし、退職の意思表示をせず、退職強要の不当性を争う場合に比べて、ひとたび退職の意思表示をしてしまった後だと、会社と争うハードルは高くなってしまいがちです。

個人で会社組織と立ち向かうことが難しい場合、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

退職の意思表示は、退職届、退職願の提出といった書面による形で客観的な証拠として残っていることが通常です。

このような場合に、退職の意思表示をただちに撤回したこともまた証拠に残しておくため、配達証明付き内容証明郵便の形式によって、退職の意思表示の撤回を会社に伝えることが重要です。

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今回は、ひとたびは退職の意思表示をしてしまったものの、その後にやはり退職したくないと思い返して、過去の意思表示を撤回したいと考える方に向けて、退職の意思表示の撤回について解説しました。

一旦は退職の意思表示をしてしまっても、後に撤回したい、この会社で働き続けたいと考えることがあります。このような場合、撤回が認められた裁判例もあるものの、少しでも撤回できる可能性を上げたいと考えるのであれば、意思表示後、できる限り速やかに撤回をする旨を伝える必要があります。

退職の意思表示をしてから、時間が経過すればするほど、会社内での手続きは進み、かつ、労働者側においても十分に検討、判断する時間が与えられていたことを意味することとなります。

退職の意思表示の撤回をはじめ、労働問題にお悩みの労働者の方は、ぜひお早めに、当事務所へ法律相談をご依頼ください。

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