労働問題

退職強要に関するトラブルを弁護士に相談するときの全知識

2021年9月14日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

退職強要は、本来であれば退職しなくてもよいにもかかわらず、脅したりだましたり、執拗な働きかけを行ったりといった不当な方法で圧力をかけ、労働者に退職するよう強要する行為です。

退職強要は違法であり、労働者は退職強要に応じる必要はありません。「退職する気持ちはない」と明確に伝えて、拒絶することが重要です。

今回は、退職強要を受けてしまったときに知っておきたい知識について、弁護士がまとめて解説します。

退職強要とは

退職強要とは、会社が労働者に対して、自主的に退職するよううながす行為のことです。

退職強要の違法性

退職強要は、本来であれば退職する必要がなく、「いつ、どのような理由で退職するか」は労働者の自由に判断できるものであるところ、このような自由意思を制圧し、退職を強要する行為です。そのため、退職強要は違法です。

退職強要の違法性には、民事上の違法性と、刑事上の違法性があります。民事上の違法性については、不法行為(民法709条)にあたるときに慰謝料請求をはじめとした損害賠償請求で責任追及することができ、刑事上の違法性については暴行罪・脅迫罪・監禁罪などにあたるとき告訴をして処罰を求めることができます。

退職強要が許されないのは、本来、会社が一方的に労働者を辞めさせることは「解雇」であり、「解雇権濫用法理」による厳しい制限を受けているからです。そのため、そもそも解雇が認められないケースで労働者に無理やり退職させるという点で、退職強要は悪質な行為です。

退職強要が違法になる場面とは、退職強要の手段や方法が社会的相当性を著しく逸脱している場合をいいます。違法な退職強要となる例には、次のケースがあります。

  • 退職強要を拒否したのに、執拗にはたらきかけが続く
  • 暴行・脅迫をともなう退職強要
  • 長時間(2時間以上など)の面談による退職強要
  • 業務時間外に行われる面談による退職強要
  • 何人もの上司で囲んで強く説得する退職強要
  • 退職するまで会議室から出してもらえない退職強要
  • 退職しないと著しい不利益があると脅す退職強要

このように、違法性のある退職強要が面談などの場で口頭により行われるとき、労働者側で証拠収集をしておかなければ、違法であることを証明することができません。違法な強要を受けるおそれがあるときは、ボイスレコーダーやスマホなどで録音の準備をしておくことがおすすめです。

参考解説

退職強要と退職勧奨の違い

退職強要が、労働者の自由な意思を阻害する違法行為であるのに対して、退職勧奨は、労働者の自由な意思によって退職するよううながし、説得する行為であり、適法です。そのため、退職勧奨であれば会社は自由に行うことができ、勧奨の範囲にとどまる限り労働者も面談には応じなければなりません。

ただし、会社が退職勧奨として行ってくるような面談や説得も、ある一定の程度を超えて執拗に行われると違法となるため、労働者側でその境界線を理解し、違法な程度に至ったならば、それ以降はもはや応じる必要はありません。

参考解説

退職強要を受けたとき、弁護士に相談するメリット

退職強要違法損害賠償請求

労使関係では、給与を支払う使用者(会社)のほうが強い立場にあるため、労働者保護が必要です。会社が悪質な退職強要をする場面では、特に、労働者一人では、会社からの執拗な退職強要に立ち向かうのが難しいことも多いです。

このようなとき、弁護士に依頼し、そのサポートを受けることに大きなメリットがあります。

強要を拒否することを強く示せる

退職強要は違法であり、強要があっても労働者は拒否することができます。しかし、強要のプレッシャーやストレスが大きいとき、労働者一人で会社に立ち向かうことは難しく、退職に応じてしまい泣き寝入りになってしまう事例は残念ながら多く存在します。

弁護士に依頼することで、警告書を送付し、退職強要を拒否する意思表示を明確にすることができます。そして、今後の交渉窓口を弁護士としてもらうことで、これ以上の違法な圧力を受けることを防げます。

安心して勤務を継続できる

退職強要の対象となってしまうことは、その会社にとってあなたが不要な人材扱いされてしまったことを意味します。退職強要を断ることができても、その後もハラスメントや過剰なノルマ、追い出し部屋への異動などの嫌がらせを受け続け、居心地の悪い思いをする可能性が高いです。

このとき、弁護士に依頼することのメリットは、退職強要を拒否した後、勤務を継続することができる点です。強要を拒否した後もはたらきかけが続いたり、拒否したことを理由に違法な扱いを受けたりするとき、弁護士から重ねて警告書を送ってもらったり、労働審判や訴訟などの法的手続きで争ったりすることが、勤務継続をしやすくするために有効です。

損害賠償のサポートを受けられる

違法な退職強要のトラブルを弁護士に依頼することで、慰謝料請求をはじめとした損害賠償を請求するサポートを受けることができます。

違法な退職強要は、民法の不法行為(民法709条)にあたり、これにより被った精神的苦痛について慰謝料を請求できますが、一方で、退職強要をしている会社の多くは、その違法性に気づいていないおそれがあります。弁護士が説得的な法的説明をしてもらうことで、会社に違法性を認めさせ、慰謝料を支払ってもらう手助けとなります。

また、弁護士に依頼しておけば、交渉をしても会社が任意に支払ってもらえないとき、慰謝料をはじめ損害賠償の請求をするために、労働審判、訴訟を起こすことができます。交渉段階から弁護士のサポートを受けていれば、裁判所で重視される証拠の収集を任せることができ、より確実に慰謝料を勝ち取ることができます。

有利な退職条件を勝ち取れる

違法な退職強要を受け、そのような問題のある会社にこれ以上とどまるつもりがないというとき、退職に応じる際には、有利な退職条件を勝ちとっておきたいところです。この点で、弁護士に依頼することで、有利な退職条件を勝ちとりやすくなるメリットがあります。

退職にともなう労働問題を多く取り扱う弁護士であれば、労使双方の事情にあわせて、会社にも受け入れてもらいやすく、かつ、労働者の希望にもあうような様々な条件をケースバイケースで提案して交渉することができます。

違法な退職強要を受けたときの対応

退職強要が違法な行為であることを理解していただいたところで、次に、実際に会社から退職強要を受けてしまったときの対応について解説します。

退職強要を拒否する

退職するかどうかは、労働者が自由に決められますから、ブラック企業から強要を受けたからといって退職に応じる義務はありません。そのため、最も重要なことは「退職したくない」と伝え、これ以上のはたらきかけを断ることです。

面談の場で、口頭で拒絶の意思を伝えてもなお退職へのはたらきかけが続くときは、その場をすぐに立ち去ってください。立ち去ることが許されないとき、例えば「退職するまで帰さない」といった発言は逮捕監禁罪にもあたりかねない違法性の強い行為です。

何度も執拗に面談を設定され、退職のはたらきかけの話を聞くよう強要される場合は、弁護士名義で内容証明により警告書を送ってもらい、拒絶したことを証拠化しておきます。警告書を送ったことを証拠化することは、これ以降のはたらきかけが違法であることを証明するのに役立ちます。

なお、労働者が拒否しても、労働者に有利な退職条件を提示して説得するという範囲であれば退職勧奨として許されます。そのため退職したくないなら強い拒否の姿勢を示し、会社にあきらめてもらう必要があります。

即答を避け、回答を保留する

退職強要を受けたとき、退職するかどうかについて悩むときには、回答を保留することができます。その場で即答する必要はありません。

会社から提案された条件が良いものなら、退職に応じることも可能ですが、会社がどうしても辞めてほしいときには様々な条件を提示してきますので、納得がいくまでは退職に応じず交渉を続けるべきです。

会社との間で、退職条件についての交渉をするのであれば、感情的にならず、冷静に判断することが大切です。退職に応じる意向を示せば、会社のはたらきかけは弱まる可能性が高いですから、メリット・デメリットを比較し、退職条件が有利なものか吟味しましょう。提案された退職条件が、法的に有利なものかどうかは、退職前に弁護士のアドバイスを求めることがおすすめです。

なお、言った言わないの水掛け論にならないよう、会社から退職に際しての条件が提案されたときは、提案された条件を書面でもらえるよう求めてください。

損害賠償を請求する

退職強要の方法・態様が社会通念上の相当性を逸脱するようなものであるとき、不法行為(民法709条)にあたり、これによって被った精神的苦痛についての慰謝料請求をはじめ、損害賠償請求をすることができます。

慰謝料請求は、退職強要を拒否して会社に勤務し続ける場合にも、強要に屈して退職してしまう場合にも、いずれでも請求することができます。

退職後でも請求可能ですが、不法行為の時効について注意が必要です(民法724条、民法724条の2。なお、2021年4月施行の改正民法により、不法行為の時効は下記のとおり改正されています)。

  • 損害及び加害者を知った時から3年間
  • 不法行為の時から20年間
  • (人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権)
    損害及び加害者を知った時から5年間

慰謝料請求など損害賠償請求を労働審判、訴訟といった法的手続きで行うとき、面談の録音をはじめとする証拠の収集が大切です。

参考解説

告訴する

退職強要の際に用いられた手段の違法性が強度である場合には、刑事事件化することが可能なケースもあります。刑事的にも違法な場合とは、退職強要を担当した社長や上司が、暴行・脅迫・監禁や、名誉毀損・侮辱など、犯罪行為にあたるような言動を行うようなケースです。

退職強要で成立する可能性のある犯罪には、次のものがあります。

  • 暴行罪(刑法208条)
    「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」
    2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
  • 傷害罪(刑法204条)
    「人の身体を傷害した」
    15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
  • 脅迫罪(刑法222条)
    「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者」、「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者」
    2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
  • 逮捕監禁罪(刑法220条)
    「不法に人を逮捕し、又は監禁した者」
    3月以上7年以下の懲役
  • 名誉毀損罪(刑法230条)
    「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」
    3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
  • 侮辱罪(231条)
    「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」
    拘留又は科料

例えば、懲戒解雇のように非常に重い処分を示唆して強く退職を求めることは、労働者にとって不利益が大きく、脅迫となる可能性があります。

犯罪行為の被害者となったとき、捜査機関(警察・検察)に対して処罰を求めることを告訴といいます。犯罪にあたる退職強要が執拗に行われるとき、告訴をして処罰を求め、退職強要を中止するよう強く求めることが必要となります。

実質的には解雇だとして争う

退職強要によって労働者が自由な決定をすることができず、会社をやめざるを得ないとすれば、それは、会社が一方的な意思表示によって雇用契約(労働契約)を解約する「解雇」と実質的に同じです。

このとき、「解雇権濫用法理」による制限がはたらき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用として無効になります。

退職強要が、実質的には解雇にあたるとき、不当解雇トラブルと同様に、解雇の撤回を求めて労働審判、訴訟などで争い、不当解雇の解決金不当解雇の慰謝料を得ることができます。

まとめ解説
不当解雇されてしまった労働者が知っておきたい全知識【弁護士解説】

続きを見る

退職強要の結果、退職するときの対応

退職強要をされてしまうということは、違法な状態となるほどに強いプレッシャーをかけてでも辞めてほしいことを意味しており、その理由はともかくとして、あなたがその会社で活躍し続けることは難しいかもしれません。

違法行為を行うようなブラック企業にこれ以上時間を費やすよりは、転職して新天地での活躍を目指そうと考えたとき、退職強要ではあるけれど退職するというケースもあります(なお、この場合も、慰謝料請求は可能です)。

有利な退職条件を交渉する

違法な退職強要を行われたけれども、退職はするというケースでは、本来であれば退職する必要もないのに会社に譲歩するわけですから、有利な退職条件となるようしっかり交渉しておく必要があります。

会社側でも、退職に応じてくれるなら退職金を増額する、未消化の有給休暇を買い取る、転職支援サポートの費用を負担するなど、有利な退職条件を提案してくることがあります。

このような退職条件について合意し、退職に応じる時は、将来の履行確保のため、必ず退職合意書などの書面を締結しておくようにしてください。

失業保険は、会社都合退職としてもらう

退職する際に、最も注意しておきたい退職条件が、失業保険の扱いです。失業保険は、転職活動中の生活の糧とするため、とても重要です。

失業保険の観点からみると、会社都合退職のほうが3ヶ月の給付制限期間なく受給でき、かつ、給付期間の上限が長い点で、自己都合退職より有利になります。会社からの退職のはたらきかけによって労働者が退職することとなったとき、失業保険の点からは会社都合退職となります。労働者が完全に自分の意思だけで辞職を決断するという自己都合退職のケースとは異なります。

離職票に自己都合退職と記載されてしまい、会社に修正を求めても応じてくれないとき、ハローワークに異議を申し立てることができます。このとき、ハローワークが調査を行った結果、退職理由を変更してもらえることがあります。

退職の撤回・取消が可能なケース

退職強要を受けて出してしまった退職届・退職願について、撤回や取消を求めることができる場合もありますから、退職強要に屈して一旦は退職の意思表示をしてしまったとしても、まだあきらめるのは早いでしょう。

退職届・退職願の提出が、自主退職(辞職)の意思表示と評価できるときには会社による受理前、合意退職の申入れと評価できるときには会社による承諾前であれば、まだ退職が確定しておらず撤回することができます。

また、退職の意思表示に誤解があった場合には錯誤(民法95条)、会社によるだましたり脅したりする行為の結果としてなされたときには詐欺・錯誤(民法96条)により、退職を取消すことができます。例えば、解雇理由がないのに「退職しなければ懲戒解雇になってしまう」と誤解させられて退職してしまったとき、取消可能なケースにあたります。

参考解説

労働問題は浅野総合法律事務所にお任せください!

今回は、違法な退職強要を受けてしまったときに、労働者側の立場で知っておいてほしい法律知識について、弁護士がまとめて解説しました。

退職してほしい労働者に対して会社を辞めるよう説得することは、退職勧奨として許される行為ですが、その方法・態様が社会通念上の相当性を逸脱し、労働者の自由な判断を阻害するときには、退職強要として違法な行為となります。

退職を拒否しているのに、執拗に退職強要を続けることは許されません。

退職強要をはじめ、労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。なお、弁護士へのご相談は、必ず、退職してしまう前に行うことが大切です。

解説の執筆者

弁護士 浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院終了。

豊富な知識・経験に基づいた戦略的リーガルサービスを提供します。
専門分野の異なる複数の弁護士がタッグを組むことで、お客様にとって最も有利なサービスを、総合的に提供できることが当事務所の強みです。

弁護士 浅野英之の詳細はこちら

ご相談予約受付中!

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

-労働問題
-, ,

法律相談のご予約は、
 24時間お受付しております。 

03-6274-8370

お問い合わせ

© 2021 弁護士法人浅野総合法律事務所