労働問題

退職勧奨とは?丨退職勧奨が違法となる場合の対応と、退職強要との違い

2021年9月13日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

退職勧奨とは、会社が労働者に対してはたらきかけを行い、自主退職するよう勧めることです。退職勧奨はあくまでも「勧奨」、つまり「お願い」、「お勧め」です。退職勧奨でも、会社は社員と面談をして「会社を辞める気はないか」と伝えることとなりますが、退職勧奨は違法な退職強要とは異なります。

退職強要は違法ですが、退職勧奨は違法ではありません。適法なものですから、会社側では、人件費カットや問題社員対応などの様々な理由で、ある程度自由に退職勧奨することができます。そのため、退職勧奨を受けてしまったとき、労働者側の立場では、それが適法な退職勧奨の範囲にとどまるのか、退職強要として違法性を有するのかを判断して対応しなければなりません。

退職勧奨であれば拒否することができ、労働者が合意しない限り会社を辞めることはありません。一方的に辞めさせるわけではない点が、退職強要や解雇との違いです。

今回の解説では、

  • 退職勧奨と退職強要の違い
  • 退職勧奨が違法となる基準

といった退職勧奨に関する法律知識について、弁護士が解説します。

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退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社が労働者に対して、自主退職(辞職)をするようはたらきかけ、お勧めする行為のことです。退職勧奨はあくまでもお勧めに過ぎませんから、労働者は退職を拒否することができます。

退職勧奨に応じて労働者が退職の意思表示をすると、合意退職が成立し、会社を辞めることとなります。

会社が退職勧奨を行う理由

会社が社員に辞めてほしいと考えるには様々な理由があります。例えば、業績悪化による人件費削減、問題社員対応、企業秩序の維持といったケースです。

このようなとき、本来であれば一方的に辞めさせるために解雇をすれば早いのですが、実際は解雇には「解雇権濫用法理」という厳しいルールがあり、簡単に辞めさせることはできません。不当解雇は無効となり、労働者側から争われると会社が負けてしまいます。

そこで「解雇は制限されているけれども、社員には辞めてほしい」という目的を達成するために行われるのが、退職勧奨です。退職勧奨はあくまでもお勧めで、強制的にクビにするわけではないため、解雇の制限は適用されず、法律にとらわれずに社員にやめてもらうことができるというわけです。

退職勧奨のよくある手口

退職勧奨でよくある手口には、直接的な表現で伝える方法と、間接的な表現で伝える方法とがあります。

直接的な表現で伝える方法とは、次のような発言で、自主退職するという選択肢を労働者側に明確に提示する方法です。直接的な表現で伝える方法では、その表現が強くなりすぎ、労働者の自由な意思を制圧していると考えられるときは、違法な退職強要です。

  • この会社の社風に合わないから辞めたほうが良い
  • この仕事には向いていないから転職したほうがよいのではないか
  • このままだといずれ解雇になる可能性がある

これに対して間接的な表現で伝える方法とは、次のように労働者が自発的に辞めるように仕向ける会社の様々な言動です。

  • 過大なノルマを与え、未達成となったことについて責める
  • いわゆる「追い出し部屋」に部署異動させ、仕事を与えない
  • PIPや外部研修などの対象とし、能力の低い社員として扱う

大企業や外資系企業ほど、PIPなどの問題社員への指導という見かけでありながら、実は退職勧奨の手段であるという制度を作っていることがあります。

また、これらの退職勧奨のための制度運用について、外部の人材紹介会社、産業医などの協力を得ていた相談例もあります。

退職勧奨と退職強要の違い

退職勧奨と退職強要の違いは、労働者が退職を拒否する余地が残っているかどうかという点が重要なポイントです。

退職強要は違法ですから、会社側で、退職勧奨と退職強要の違いを意識して行っていることは通常なく、会社側では、やめてほしい労働者に退職勧奨をしようと考え、その気持ちが行き過ぎてしまって違法な強要になってしまっている例が多いです。

そのため、労働者側で退職強要かどうかを判断し、辞める気持ちがないのであれば退職を拒まなければなりません。退職強要は違法ですから、慰謝料請求ができることは当然、強要がひどいケースでは暴行罪・脅迫罪・監禁罪などの犯罪にあたる可能性もあります。

参考解説

退職勧奨が違法となる基準

次に、会社が行う退職勧奨が、退職強要の程度に至って違法となる基準について解説します。

会社としては、労働者を辞めさせようとして、退職勧奨の範囲では許されないことをしてしまうことがあります。労働者側で、退職勧奨と退職強要の違いをしっかり理解して対応しなければなりません。違法な退職強要には、慰謝料をはじめとした損害賠償請求のほか、暴行罪・脅迫罪・監禁罪など刑事責任の追及も可能です。

拒否した後も執拗に繰り返されたか

まず、退職勧奨は、あくまでもお勧めないし説得であり、労働者側で拒否できることが原則です。そのため、拒否しても繰り返し行われているときは、もはや退職勧奨ではなく退職強要であり、違法です。

このとき、面談回数、繰り返される頻度や期間などで、プレッシャーの強さを判断することが重要なポイントです。

裁判例では、4か月間に13回、短いときには20分、長い時には2時間を超える退職のはたらきかけは、「再現なく勧奨が続くのではないかとの不安感を与え心理的圧迫を加えたものであって許されない」として、損害賠償請求を認めました(下関商業高校事件判決:最高裁昭和55年7月10日判決)。

ただし、複数回の面談をしたら必ず違法というわけではありません。面談が何度も行われたとき、拒否の意思を明確に伝えたにもかかわらず次の面談が設定されたかどうか、次の面談で提案された内容が、前の面談と同じことの繰り返しか、それとも新たに有利な条件が提案されたか、という点が退職勧奨か退職強要かの判断を分ける基準となります。

拒否したことで不利益があるか

会社は退職勧奨のつもりでも、拒否したことによって労働者側に不利益があるのであれば、それは違法な退職強要です。

退職勧奨はあくまで労働者の自由な意思を阻害してはならないところ、拒否したら不利益があるというのでは、労働者が退職するかどうかについて自由に判断することはできません。その最たる例が「拒否したら解雇する」というものです。

違法となるような不利益には、次のようなものがあります。

  • 退職勧奨を拒否したことを理由に懲戒解雇とする
  • 嫌がらせを行う
  • 無視する、仕事を与えない
  • パワハラ、職場いじめの対象として会社に居づらくする
  • 大幅に減給する

労働者側のメリットが提案されているか

退職勧奨を行うとき、会社が退職に応じてもらいやすくするために労働者側に対してメリットを提示することがよくあります。メリットを提示して退職をうながすことは強要ではなく、適法なものです。

例えば、退職金の増額、再就職先の斡旋、未消化の有給休暇の買取といった提案です。

労働者側でも、会社から提案されたメリットをじっくり検討して、退職するかどうかを判断できるのであれば、自由な意思を制圧されておらず、強要とはいえません。また、複数回面談が行われるときでも、前の面談よりも良い条件が提案されているのであれば、面談回数が多いだけで違法となるわけではありません。

退職勧奨について判断した裁判例

退職勧奨については、下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決)の原審に次のように示されています。

下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決)

退職勧奨は、任命権者がその人事権に基づき、雇用関係ある者に対し、自発的な退職意思の形成を慫慂するためになす説得等の行為であって、法律に根拠を持つ行政行為ではなく、単なる事実行為である。従って被勧奨者は何らの拘束なしに自由にその意思を決定しうるこというまでもない

ここまで解説してきたのと同様に、退職勧奨は、労働者が自発的に退職してもらえるよう説得する行為であり、自由な意思決定を阻害してはならないとされています。つまり、裁判例でも、説得の程度を超えれば、違法な退職強要となるとされているわけです。

この裁判例では結論として、違法な退職強要であるとして慰謝料請求を認めていますが、その判断において「退職勧奨によりその精神的自由を侵害され、また、受忍の程度を超えて名誉感情を傷つけられ、さらには家庭生活を乱されるなど相当の精神的苦痛を受けた」と判示しています。

つまり、退職勧奨が、説得の程度にとどまるのであれば、ある程度は労働者の側でも受忍しなければならない場合もあるということです。退職勧奨には許される限界というものがあり、これを超えるまでは、労働者としても会社の説得を聞かなければなりません(もちろん、退職に応じなければならないわけではありません)。

退職勧奨と失業保険

失業保険において、退職の理由には次の2つがあります。

  • 自己都合退職
    労働者の都合による退職。自主退職(辞職)などがこれにあたる。
  • 会社都合退職
    会社側の都合による退職。解雇が典型例。労働者保護の必要があることから、失業保険の支給において有利に取り扱われる。

失業保険を受取るときには、会社都合退職のほうが労働者にとって有利です。具体的には、自己都合退職では退職してはら7日間と3ヶ月後に支給開始となるところ、会社都合退職では7日間経過したらすぐに支給されます。また、給付期間も会社都合のほうが長く設定されています。

退職勧奨は、違法な強要に至っていなかったとしても、会社都合退職として扱われます。会社からの説得や働きかけによって退職することとなるからです。

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今回は、退職勧奨について解説しました。退職勧奨は、退職をお勧めする行為で、労働者の自由な意思によって退職するかどうかを判断させる行為である限り、完全に適法です。一方で、退職勧奨であれば、労働者はこれを自由に断ることができます。

しかし、退職勧奨をする会社には、業績悪化による人件費カットや本来であれば解雇したい問題社員への対応など会社をやめてほしい理由があります。そのため、その気持ちが強すぎて、違法な退職強要になってしまうことがあります。

重要なことは、労働者側で、退職勧奨と退職強要の違いを理解し、退職する気がなければ勧奨にも強要にも応じないこと、違法な強要であるときには慰謝料請求などの責任追及を行うこと、という点です。

退職勧奨をはじめ、労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院終了。

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