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労働時間に含まれるものとは?判断基準とケース別の残業代請求の可否

残業代を請求する際には、「労働時間」に関する法律知識が欠かせません。

どの時間が「労働時間」に含まれるのかを正しく理解しなければ、未払いの残業代を正確に算出することができないからです。残業代を請求するには、労働基準法で定められた時間数を越えて働いていることが必要です。この「労働時間」には、オフィス内で働く時間が含まれるのは当然ですが、必ずしも業務そのものを遂行していない時間でも、「労働時間」にカウントすべき場合があります。

裁判例では、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指すものとされます。例えば、休憩時間や業務に関連した飲み会、教育研修や移動時間なども、使用者の指揮命令が及んでいると認められる場合は「労働時間」に含まれ、残業代を請求できます。

今回は、「労働時間」の考え方について、重要な裁判例を取り上げながら、その範囲や判断基準を弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと
  • 明示の指揮命令がある場合だけでなく、黙示の指示がある時間も含まれる
  • 「労働時間」が「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えると残業

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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残業代請求できる「労働時間」とは

時間

残業代を請求する際、「労働時間」についての正しい知識が必要となる理由は、この用語が一般的な意味での「働いている時間」とは異なり、法律上の専門的な意味を持つためです。

労働基準法には「労働時間」の明確な定義はありませんが、労働者保護の観点から厳しく規制されています。具体的には、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を越えて労働させることは禁止されており、例外的にこれを超えて労働させるときは、労使協定(36協定)を締結すると共に、残業代を支払う義務があります。

労働基準法32条(労働時間)

1. 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

2. 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労働基準法(e-Gov法令検索)

残業代請求を行う上で、「労働時間」には以下の2種類があることを理解してください。

  • 法定労働時間
    労働基準法32条で定められた上限時間。「1日8時間、1週40時間」。
  • 所定労働時間
    会社が就業規則や雇用契約書で定めた、通常の勤務時間(始業時刻から終業時刻までの間で、休憩を除いた時間)。所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で定める必要があります。例えば、「始業9時、終業17時(うち休憩1時間)」の場合、所定労働時間は1日7時間となります。

法定労働時間を超えて労働させる場合、企業は労使協定(36協定)を締結し、残業代を支払わなければなりません。これは長時間労働を防止するための制度です。

残業代は、「残業代の基礎単価(いわゆる時給)×割増率×残業時間数」という計算式で算出しますが、この際、長時間労働を防止するため、通常の賃金よりも割増して支払うこととされています。割増率は、残業の時間帯によって次の通りです。

スクロールできます
残業代労働の種類割増率
時間外労働法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働25%(月60時間超は50%)
深夜労働午後10時以降、午前5時までの労働25%
休日労働法定休日(1週1日)の労働35%

労働基準法における労働時間規制の背景には、「長時間労働を防止すること」「労働に対して適正な対価(残業代)を保障すること」という考えがあります。

労働者の健康を守り、ワークライフバランスを確保するという労働者保護の観点から、労働時間規制は非常に重要です。そして、その根幹として、「どの時間が『労働時間』に該当するのか」を正確に判断することが必要です。

どれほど厳しい規制があっても、「労働時間」の認定が誤っていれば正しい残業代を請求できなくなってしまうからです。

残業代の計算方法」の解説

「労働時間にあたるかどうか」の判断基準

ポイント

労働基準法では「労働時間」に関して厳格な規制を設ける一方で、法律上の定義は明示されていません。そのため、「どのような時間が労働時間に該当するか」を判断するにあたり、裁判例を参考にする必要があります。

最高裁判所の判例では、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を「労働時間」としています。以下では、その具体的な判断基準について解説します。

最高裁判例の判断基準:「指揮命令下に置かれているかどうか」

最高裁判例では、「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるとされています。この「指揮命令下」に置かれているかどうかは、就業規則や雇用契約書で形式的に決まるのではなく、実際の勤務実態に基づいて個別具体的に判断されます。

そのため、たとえ会社が就業規則で「始業から終業までが労働時間であり、それ以外は労働時間に含まれない」と定めても、会社の一方的な主張は認められません。実際は、その前後にも使用者の指示による拘束があれば、それも労働時間に含まれる可能性があります。

判断に影響する具体的な要素

明示の指示・命令の有無

会社から、明示的な指示・命令が出されている時間は、当然に「労働時間」となります。

例えば、就業規則や雇用契約書に基づいて業務を行う「所定労働時間」は、明示的な業務指示のもとで労働が行われているので、労働基準法上の「労働時間」に該当します。所定時間外でも、個別の残業命令があれば、それも指揮命令が明らかなので「労働時間」です。

未払い残業代請求の方法」の解説

黙示の指示・命令の有無

明確な指示がなくても、会社の指示に事実上従わざるを得ない状態であれば、黙示の指示・命令があったもとの評価され、「労働時間」に含まれる場合があります。

例えば、以下のケースが該当します。

  • 業務に関連する行為を会社が黙認している場合
    例:持ち帰り残業が常態化しているが、会社が特に制止しない場合
  • 従わなければ不利益がある場合
    例:残業しなければ終わらないほど業務量が多く、未完了だと叱責されたり評価を下げられたりする場合
  • 当然に行うものと扱われている場合
    例:始業前に制服に着替え、職場の清掃をするようマニュアルに記載されている場合、就業後に翌日を締め切りとする業務を指示された場合

黙示の指示・命令」の解説

時間的・場所的拘束の有無

労働者が一定の場所にとどまり、行動が制限されている状態であれば、指揮命令下にあると評価されやすく、労働時間と認められることがあります。逆に、労働者が自由に移動でき、拘束されていない状況であれば、その時間は労働時間とは認められにくいです。

業務性の有無

行為そのものが必ずしも業務とは言い切れない場合でも、業務との関連性が強ければ労働時間に該当する可能性があります。業務時間外の行為でも、業務との関連性が密接であると評価されやすいのは、例えば次のケースです。

  • 始業前の準備や終業後の片付け
  • 会社主催の飲み会
  • 業務に資する資格取得のための研修や講座

これらは、業務性が高いと判断されると「労働時間」に含まれることがあります。

対応の頻度や緊急性

待機中であっても、頻繁な対応が求められる状況にある場合は、使用者の指揮命令下にあるとされ、労働時間と認定される可能性が高くなります。例えば、待機中に緊急対応を命じられたり、電話の応対や顧客対応が頻繁に必要となったりするケースです。

これに対し、仮眠が中心で、対応が非常に限定的かつ稀である場合は、労働時間に該当しないと判断されることもあります。

【ケース別】労働時間にあたる場合の残業代請求のポイント

ポイント

次に、最高裁判例の「使用者の指揮命令下に置かれているかどうか」という基準を元に、特に相談の多いケース別に、「労働時間」に該当するかどうかの判断のポイントを解説します。

就業時間の前後や、会社側が「業務とは言えない」と扱う時間も、労働者が「仕事としてやらざるを得なかった」と感じるなら、それは「労働時間」にあたる可能性があります。そのような時間も見逃さず、残業代請求を検討すべきです。

持ち帰り残業

持ち帰り残業とは、会社の業務を、自宅など社外で行う残業です。

会社に居残って残業するなら「使用者の指揮命令下に置かれている」のは明らかです。これに対し、持ち帰り残業は場所的な拘束がないため、労働時間に該当するかが争点になります。

しかし、以下の事情があれば、労働時間と評価される可能性があります。

  • 会社が認識しながら黙認していた。
  • 持ち帰らなければ処理しきれないほど業務量が多い。
  • 業務を期限までに終えないと不利益がある。

このような事情があれば、業務をせざるを得ない状況にあるといえ、使用者の指揮命令下に置かれていると判断することができるからです。

手待ち時間

手待ち時間とは、作業の合間で、いつでも指示があれば業務に従事できるよう待機している時間のことです。手待ち時間は、実作業をしていなくても、労働から解放されていないため労働基準法上の「労働時間」に当たります。

「労働時間」に該当する手待ち時間には、例えば次のケースがあります。

  • 運送業の荷待ち時間(荷受けや荷下ろしの待ち時間)
  • 店舗スタッフの客待ち時間

手待ち時間では、実際に会社から指示を受けて業務を行った時間数だけではなく、手待ち時間全体が労働基準法の「労働時間」と評価されます。

仮眠時間

仮眠時間とは、業務の合間に仮眠を取るための時間です。

例えば、深夜労働や交代制勤務の労働者の残業代請求では、仮眠時間が「労働時間」に該当するかが争点となります。仮眠時間は、睡眠を取ることを目的とするため、その間は業務に従事しません。しかし一方で、次のような拘束があると、「労働時間」と評価される可能性があります。

  • 仮眠場所の指定がある(場所的拘束)。
  • 緊急対応や電話対応などが義務付けられている。
  • 定期巡回を行わなければならない。
  • 実際に対応する頻度が高い。

仮眠時間中でも、上記のような拘束や対応義務がある場合、その時間全体が労働時間と認定され、残業代請求の対象となる可能性があります。

仮眠時間と労働時間」の解説

業務時間中の移動時間

営業職などが業務の一環として移動する時間は、たとえ移動中に自由な行動ができたとしても、業務遂行に必要な行為であるため、「労働時間」に含まれます。移動時間中に作業をしておらず、音楽を聞いたり読書をしたり、スマホゲームをしていたりしても、場所的な拘束があり、労働から解放されているとは言い切れません。

一方で、業務開始前や終了後に自宅への移動については、「通勤」を意味する移動であり、労働基準法にいう「労働時間」には当たりません(通勤については、残業代はもちろん、賃金の支払対象ともならないのが基本です)。

出張先への移動時間

出張に伴う移動が業務時間外に行われ、移動中に業務が指示されていない場合、その時間は原則として労働時間にあたりません(前述の「通勤」と同じ扱いとなります)。

ただし、出張の移動時間中に一定の作業を指示されている場合、その間も使用者の指揮命令下に置かれていると評価でき、労働基準法の「労働時間」にあたり、残業代を請求できます。また、出張命令が権利の濫用と判断される場合には、無効となる可能性もあります。

教育研修

教育研修が「労働時間」にあたるかの判断は、その拘束の程度により異なります。

自由参加が保障され、教育研修に参加しなくても一切の不利益がないなら、その時間は労働基準法上の「労働時間」には含みません。一方で、次の場合、労働時間と認められます。

  • 参加が義務である。
  • 不参加によって不利益が生じる(人事評価や処分など)。
  • 会社の業務と密接に関連する。
  • 仕事に必須の資格取得のためである。
  • 社内や業務指示の延長上で行われている。

教育や研修を受けている時間は、利益に直結しないことも多いですが、業務に関連する時間であれば「労働時間」と評価される可能性があるのです。

研修と労働時間」の解説

会社の飲み会

会社主催の飲み会についても、以下の点から労働時間にあたるかを検討してください。

  • 会社または上司の主催であるか。
  • 開催時間が業務時間内か業務時間外か。
  • 開催場所が社内か社外か。
  • 参加が事実上強制されているか(不参加で不利益があるか)。

業務上の一環と評価される場合や、強制参加で精神的拘束が強い場合は、労働時間に含まれる可能性があります。

開催する側では福利厚生やレクリエーションの一貫という意識かもしれませんが、労働者としては苦痛を感じることもあるでしょう。上司に気を使わなければならない会社の飲み会やイベントは、「労働時間」に該当する可能性がないか、よく検討してください。

携帯電話の応答待機

業務時間外でも、会社からの電話に即時対応するよう命じられている場合、その待機時間は拘束を伴うことから「労働時間」と評価される可能性があります。労働者にとっても、連絡にすぐ応答しなければならないことは精神的負担となるでしょう。

このような労働時間の典型例は、医師のオンコール待機です(病院から一定の距離にいなければならないなど、場所的な拘束を伴うことも多いです)。

対応頻度や拘束の程度が高ければ、待機時間全体が残業代の対象となる可能性もあります。

「労働時間」に関する重要な最高裁判例

最後に、「労働時間」に該当するかどうかの判断基準となる「使用者の指揮命令下に置かれている」かどうかについて、具体的に参考となる最高裁判例を紹介します。

三菱重工長崎造船所事件

三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)は、始業前、終業後に行う作業の準備行為の時間について、労働基準法の「労働時間」にあたるとして残業代請求を認めたケースです。

本判決では、「労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」という判断基準のもと、就業の準備行為を事業所内で行うことを義務付けたり、余儀なくされたりしたときは、特段の事情のない限り「労働時間」に該当すると判断しました。

その上で、事業所内の更衣室で行うものとされていた作業服及び保護具などの装着、更衣室から準備体操場までの移動などについて、労働基準法上の「労働時間」にあたると判断しました。

大星ビル管理事件

大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)は、時間外勤務手当と深夜就業手当の支払を求めたケースで、ビルの設備点検などを行う社員の仮眠時間が、労働基準法の「労働時間」にあたるかどうかが争点となりました。

本事案では、仮眠時間中はビルの管理室に待機し、警報が鳴ったときには所定の作業を行うものの、これ以外の時間は仮眠してよいこととなっていました。

最高裁判決では、上記のようないわゆる「不活動仮眠時間」について、労働者が労働から離れることを保障されて初めて指揮命令下に置かれていないものと評価できるとして、一定の作業が義務付けられている以上、その必要性が生じることが皆無であるといった場合でない限り指揮命令下に置かれているものと判断しました。

大林ファシリティーズ事件

大林ファシリティーズ事件(最高裁平成19年10月19日判決)は、所定労働時間外に行った管理人室の証明の点灯・消灯、宅配物の受け渡しなどが、労働基準法上の「労働時間」にあたるかどうかが争点となりました。

本事案では、会社のマニュアルに、宅配物の受け渡しなどに対応するよう記載されており、管理人は待機中に一定の対応をせざるを得ない状態にありました。最高裁判決では、業務をせざるを得ない状態にあったことを捉え、黙示の指示があり「指揮命令下に置かれている」ものと評価しました。

なお、この判断は、十分な業務量が存在した平日、土曜についてのものであり、労働からの解放を保障されていたと考えられる日曜日、祝日については実際に作業を行った時間のみを「労働時間」と判断しました。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、残業代請求でよく争点となる、労働基準法上の「労働時間」の意味を解説しました。

残業代請求を適切に行うには、「正しい計算方法」や「残業時間の把握の仕方」など、重要なポイントを理解することが極めて重要です。その中でも、「どの時間が、残業代の発生する『労働時間』に該当するのか」を理解しておかなければ、正確な計算ができず、本来受け取れるはずの残業代で損をしてしまいます。

労働時間の管理・把握は会社の義務ですが、「何が労働時間に含まれるのか」について労使の対立があると、労働者が「労働時間」であると主張したい時間についてタイムカードが打刻されていないなど、会社の把握・管理が十分でないおそれがあります。

残業代請求をする労働者側で、「労働時間」と考える時間の証拠を集める必要があります。正当な請求をするには、法律知識に基づき、弁護士のサポートを受けるのが賢明です。

この解説のポイント
  • 「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと
  • 明示の指揮命令がある場合だけでなく、黙示の指示がある時間も含まれる
  • 「労働時間」が「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えると残業

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