離婚するとき、夫婦が車を購入していたときには、財産分与の対象となります。
車は価値のある財産ですから、分与の対象となるのは当然ですが、その分け方や評価の方法には、車の特殊性を踏まえた注意が必要となります。
車は、他の財産分与の対象財産と違って、夫婦の一方が実際に使用していることが多いです。そして、自動車ローンを組んでいたり名義変更が必要であったり、中古車として売買可能であったりなど、車特有のさまざまな問題がからんできます。
今回は、自動車を財産分与するときの分与割合や分け方、ローンの残る自動車を分与するときの注意点など、離婚と財産分与に関する法律知識について、離婚問題にくわしい弁護士が解説します。
- 車が、夫婦の共有財産であるときには、財産分与の対象となる
- 車の査定額が、残ローンを下回る、いわゆるオーバーローン状態のとき、財産分与の対象とならない
なお、離婚時の財産分与について、深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。
まとめ 財産分与について離婚時に知っておきたい全知識【弁護士解説】
車は、離婚時の財産分与の対象となる
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力してつくりあげた財産について、その貢献度に応じて離婚時に公平に分与するという手続きです。
車は、離婚時の財産分与の対象になるのが原則ですが、例外があります。
財産分与の対象となる理由
分与対象となる財産を「共有財産」といいます。共有財産は、原則として別居の時点で存在する財産であり、夫婦の協力によって形成された財産です。例えば、現金・預貯金、不動産、株式や債券、投資信託、生命保険などが挙げられますが、自動車も当然に、財産分与の対象です。
車は、高級車のケースなど財産価値が大きく、夫婦共有の財産として分配しなければ不公平な場合もあります。
夫婦の公平性の観点から、財産分与をするときは、原則として「2分の1ルール」が適用され、対象財産を半分ずつにすることとなります。妻が専業主婦でも、家事労働による貢献が加味されます。例外的に、貢献度が「5:5」ではない場合には、そのように主張する側が貢献度を立証しなければなりません。
例外的に財産分与の対象とならないケース
なお、結婚する前から片方が所有していた車のように、「特有財産」に該当する車は財産分与の対象外です。特有財産とは、「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産」(民法762条)のことをいいます。
自動車の場合には次のようなものがこれにあたります。
- 結婚前に、夫婦の一方が購入した車
- 結婚前後にかかわらず、相続や贈与によって取得した車
- 夫婦の一方が結婚前に有していた預貯金で購入した車
- 経営する会社名義の事業用の車
このように、車が財産分与の対象外となる場合でも、結婚後も自動車ローンを払いつづけていたときには、その婚姻期間中に支払った割合分は夫婦の共有財産とするという考え方が実務では一般的です。
例えば、離婚時の自動車の査定額が200万円だったとして、結婚前に取得した車であったとします。
結婚前の取得時に頭金として半金を支払ったとして、結婚後に自動車ローンとして残り半金を完済したとした場合、査定額の50%である100万円については財産分与の対象となります。婚姻期間中に返済した分は、夫婦の共有財産から支出されたと考えられるからです。
車を財産分与するときの方法
次に、自動車を財産分与するときの具体的な方法について解説します。
車が、財産分与の対象財産に含まれるとき、その特殊性に注意しなければなりません。また、車は動産ですので、その現物自体を2つに分けることはできません。
売却代金を折半する方法(換価分割)
まず、自動車を売却してその代金を折半する方法があります。この方法を、法律の専門用語で「換価分割」といいます。
離婚後には夫婦のいずれも自動車を使う予定がないという場合には、この方法がおすすめです。
ただし、中古車ですとあまり価値がないことが多いため、夫婦のどちらかが使用する可能性があるのであれば、次に紹介する「使用していた側が取得し、代償金で清算する方法」をとるほうが有益です。
使用する側が取得し、代償金で清算する方法(代償分割)
自動車という財産の性質上、夫婦の一方が実生活で使用していることがほとんどです。そのため、財産分与の際には、使用していた側が取得するという解決が多いです。
この場合には、取得した側の配偶者(例えば妻)は、相手(例えば夫)に対して、その財産価値の半分を金銭で清算します。この方法を、法律の専門用語で「代償分割」といいます。現金や預貯金を渡すという調整のほか、他にも財産があるときには、同程度の価値のものを分与するという調整もできます。
ただし、年数が経過した車はあまり中古車としても金銭的価値が高くはないため、実際にはそれほど多額の調整が必要なケースは多くありません。決して、購入当初の代金の半分を支払わなければならないわけではありません。
名義変更が必要
財産分与の結果、自動車をその名義人ではないほうが取得することとなったときは、名義変更の手続きが必要です。
車は、購入時に登録をされています。具体的には、管轄の運輸支局・自動車検査登録事務所で手続きを行います。古い車の場合などで廃車にすることとなった場合にも、手続きが必要となります。
「ローンが残っている自動車を廃車にしたい」、「相手名義の自動車を使用したい」といった場合、離婚の話し合いが難航して相手の協力が得られないと手続きが進められないおそれがあります。離婚協議書に記載するなど、証拠化しておくことで、後のトラブルを回避することができます。
自動車の登録手続きについて詳しくは運輸局のサイトなどを参考にしてください。損害賠償保険の名義変更も忘れずに行ってください。
財産分与する車の価値の決め方
次に、上記の2つの方法のいずれかで自動車の財産分与をするとして、「車の価値をどのように評価するか」という問題について解説します。この問題は特に、自動車ローンの残っている車の価値を考えるにあたってとても重要です。
財産分与では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もまた分与の対象となります。マイナスの財産とは、すなわち、借金やローンなどの負債のことであり、車の財産分与では、自動車ローンがこれにあたります。
車の価値評価の基準時
財産分与の基準時については、財産の「確定」の基準時は「別居時」、「評価」の基準時は「離婚時」とするのが実務です。
そのため、車の価値評価の基準時についても「離婚時」を原則とし、査定額・ローンの返済額は、離婚の時点でのものを出す必要があります。
中古車価格は、インターネット上の販売価格などを参考に、車種・年数・走行距離の近い車の平均的な価値で判断するほか、より厳密に行う場合には中古車販売店の見積もりをとることもあります。
査定額が残ローンより高い場合
車を購入する際にはローンを組んでいることも多いのではないでしょうか。自動車ローンがまだ残っているとき、このローンもあわせて財産分与の対象となることに注意が必要となります。
ローンが残る自動車では、査定額から残ローン額を差し引いた分が、分与の対象となる価値ということになります。
この場合、売却して代金を分割する方法(換価分割)の場合には、査定額から残ローン額を控除した金額を夫婦で分けることとなります。一方が取得し、代償金で清算する方法(代償分割)の場合には、査定額から残ローン額を控除した金額の半分を、代償金として支払うことになります。
査定額が残ローンより低い場合(オーバーローン)
査定額が残ローンより低い状態のことを、「オーバーローン(債務超過)」といいます。
オーバーローンの財産は、財産的な価値がないということなので、財産分与の対象財産からは外すのが実務的な解決です。このことは、住宅ローンでオーバーローン状態となっている不動産の場合も同様です。
まとめ
離婚時の財産分与で損をしないためには、財産分与の対象財産をリストアップするとき、車を忘れずに対象財産に挙げるようにしてください。
また、自動車の特殊性から、ローンの絡む問題では、その評価について夫婦間で争いとなることがあります。特に「取得は結婚前だが、結婚後もローンを支払っていた」という場合には、ローンを支払った分の分与が発生することに注意が必要です。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、離婚問題を得意分野としており、解決実績が豊富にございます。
離婚時の財産分与についてお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
財産分与のよくある質問
- 自動車は、財産分与の対象になりますか?
-
自動車は、夫婦の共有財産であれば、財産分与の対象となります。つまり、結婚前から所有していた車や、相続や贈与などで入手した車でなければ、財産分与のときに、公平の観点から分け与えなければならないのが原則です。もっと詳しく知りたい方は「車は、離婚時の財産分与の対象となる」をご覧ください。
- 自動車ローンが残っている車の財産分与は、どのように行いますか?
-
自動車の財産分与では、まずはレッドブックや中古車屋の相場を調査して、査定額を計算します。その上で、査定額よりも自動車ローンの残債のほうが多い、いわゆるオーバーローン状態の自動車は、財産的価値がないこととなるため、財産分与の対象とはなりません。詳しくは「財産分与する車の価値の決め方」をご覧ください。