就業規則の懲戒解雇理由にあたると、懲戒解雇処分が下されることがあります。
また、再就職の可能性などに配慮して懲戒解雇処分にまではならなかったとしても、勤怠不良、業務遂行能力の欠如など、労働者側の問題点を指摘されて普通解雇とされることがあります。
このような場合、普通解雇も懲戒解雇も、いずれも会社側からの一方的な意思表示であり、突然給与という生活の糧を失ってしまう労働者側は甚大なダメージを負います。そのため、解雇を制限するルールが「解雇権濫用法理」であり、このルールに違反する違法な解雇が「不当解雇」です。
今回は、著しく不合理であり、社会通念上相当なものとは到底是認できない「不当解雇」の対象となったとき、労働者側が争う方法について弁護士が解説します。
「労働問題」弁護士解説まとめ
目次
解雇権濫用法理とは
解雇とは、労使間で結ばれた労働契約を、会社側の一方的な意思表示によって解約することをいいます。
労働契約を終了する方法には、労働者による労働契約の解約である辞職、会社と労働者の合意によって労働契約を終了する合意退職がありますが、使用者の一方的な意思で行われるのは解雇のみです。
使用者の一方的な意思で行われる解雇は、労働者の意に反して突然行われるおそれがあり、労働者に大きな経済的な打撃を与えます。にもかかわらず、従来は法律上の規制がそれほど厳しくなかったことから、裁判例の中で形作られていった法理が「解雇権濫用法理」です。
具体的には、会社が労働者を、いつでも自由に解雇できることとなると、労働者の地位が極めて不安定となってしまうため、解雇権の行使が一定の場合に権利濫用となるというルールです。そして、解雇が権利濫用となるのは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」です。
判例法理の積み重ねによって確立された解雇権濫用法理は、平成15年の労働基準法改正により労働基準法18条の2に明文化され、その後、平成19年11月の労働契約法成立により、労働契約法16条に移されました。
労働契約法16条解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
「客観的に合理的な理由」の要件
第一に、労働契約法16条の解雇要件の1つである「客観的に合理的な理由」がある場合とは、どのような場合であるかについて解説します。
解雇の理由は、大きく分けて次の3つに分けられます。これらはそれぞれ、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇という解雇の種類に対応しています。そして、各解雇の理由ごとに、客観的に合理的であるかどうかについて、異なった考え方がされています。
- 労働者の性質に関する理由
:労働者の労務提供不能、業務遂行能力の欠如、勤務態度の不良・勤怠の悪化などの適格性の喪失。普通解雇にすべき理由となる。 - 労働者の行為に関する理由
:労働者の規律違反など、企業秩序を乱す非違行為。懲戒解雇にすべき理由となる。 - 経営上の必要性に基づく理由
:会社の業績悪化、経営状況の悪化を理由とする人員削減の必要性。整理解雇にすべき理由となる。
各理由ごとに、客観的に合理的であると認められなければ、解雇権濫用法理に違反する不当解雇となります。また、客観的に合理的な理由であったとしても、解雇が有効と認められるためには、相当性の要件をあわせて満たす必要があります。
労働者の性質を理由とする解雇(普通解雇)
労働者の性質を理由とする解雇は、普通解雇となります。労働者側に解雇理由があるケースには、私傷病による障害で就労が困難となってしまったケース、業務遂行能力の欠如、勤務態度の不良などが該当します。経歴詐称、私生活上の非違行為(犯罪による逮捕など)によって労使の信頼関係が破壊されてしまったケースもこの例です。
これらの労働者側の理由による解雇について、どのような場合に解雇権濫用法理に違反して、不当解雇となるのかについて弁護士が解説します。
私傷病・障害による労務提供不能
持病などの私傷病から身体障碍者等級認定を受けるなど、労働契約に定められた就労を十分に果たせなくなってしまったとき、解雇理由となり得ます。
ただし、「客観的に合理的な理由」といえるためには、体調悪化などの程度が、労働契約上の労務提供が不可能な程度に至っている必要があり、傷病であっても軽度のもの、欠勤が不要なもの、従前の業務はできないとしても短期間で回復可能なものは解雇理由となりません。つまり、「客観的に合理的な理由」と認められる労務提供不能は、かなり重度のものです。
回復や復職に向けた措置を会社が十分に取らないままに解雇をした場合、解雇権濫用法理違反となり、不当解雇として違法、無効となります。
会社に休職制度が整備されている場合には、休職命令を受け、期間満了までに復職可能であることを証明できなかったときにはじめて退職となります。
なお、傷病や障害の原因が会社の業務にあるときは、労災(業務上災害)となり、療養のために休業する期間とその後30日間は原則として解雇をすることができません(労働基準法19条1項)。
業務遂行能力の欠如
業務遂行能力が欠如し、社員としての適性が十分でないとき、解雇理由となり得ます。
ただし、「客観的に合理的な理由」といえるためには、会社が期待した成績を残せないだけでなく、社員全体から見ても下位であるなど、労働契約において求められる能力値から著しくかけ離れている必要があります。どの程度の能力が求められるか、言い換えると、どの程度の能力しかなければ能力不足、能力の欠如といえるかは、新卒入社であるか中途採用であるか、資格を取得しているかなど、採用段階における契約内容によっても変わってきます。
無期雇用の正社員など、他の職種に異動することが予定されている場合、1つの職種に向いていなくても、他の職種の適性を測るなどの配慮が必要となります。
また、解雇をする前に、会社が教育指導を十分に行ったりやり直しの機会を与えたりして、それでも改善の余地がないような状況でなければ、解雇権濫用法理違反となり、不当解雇として違法、無効となります。
信頼関係の喪失
注意指導、教育を受けても会社に反抗的な態度を示したり、遅刻や業務命令違反などの問題行為を起こしたり、セクハラ・パワハラ問題を引き起こしたり、私生活上の非違行為(犯罪による逮捕など)を引き起こしたりといった労働者側の問題行為を理由として、労使間の信頼関係が喪失したとき、解雇理由となり得ます。
故意の行為によって労働契約上の信頼関係を著しく損なう場合には、何度も繰り返し注意指導をして、やり直しの機会を与えることが難しい場合があります。重度のセクハラや業務上横領などがこの例です。
ただし、程度が重大でない場合には、まずは軽度の懲戒処分などを先行させるべきであり、教育の機会を与えずにすぐに行った解雇は、解雇権濫用法理違反となり、不当解雇として違法、無効となります。
労働者の行為を理由とする解雇(懲戒解雇)
労働者の規律違反行為に対して、労働者を会社から辞めさせる処分は、原則として懲戒解雇です。ただし、規律違反の程度によっては、懲戒解雇を行う代わりに普通解雇とする場合があります。
そして、いずれにしても「客観的に合理的な理由」といえるような規律違反行為が存在しなければ、解雇権濫用法理違反となり、不当解雇として違法、無効となります。
解雇をするほどの重大な問題行為であるという場合には、口頭の注意だけにとどまらず、書面による注意、譴責・戒告などの軽度の懲戒処分、降格・減給などの重度の懲戒処分を経て解雇に至るというプロセスが必要となります。労働者側の反論について十分な事情聴取がなされず、弁明の機会が与えられない場合にも、不当解雇である可能性が高まります。
経営上の必要性を理由とする解雇(整理解雇)
会社側の業績悪化、経営状況の悪化など、経営上の必要性を理由とする場合、整理解雇となります。一般的に「リストラ」と呼ばれるものが典型例です。
整理解雇の場合には、解雇権濫用法理をより詳細化した判例法理が形成されています。これを「整理解雇の4要件」といい、次の4つの要素の総合考慮により、不当解雇であるかどうかが判断されます。
- 業務上の必要性
:整理解雇をする業務上の必要性があるかどうか - 解雇回避の努力義務
:整理解雇を回避するための努力(経費削減、役員報酬カット、残業削減、シフト調整、配置転換、希望退職の募集など)を尽くしたかどうか - 人選の合理性
:整理解雇の対象となる労働者の選定基準に合理性があるかどうか - 手続きの適正
:労働者や労働組合に誠実な説明を尽くしたかどうか
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業績悪化による整理解雇は違法?認められる要件と整理解雇の方法
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「社会通念上の相当性」の要件
第二に、労働契約法16条の解雇要件の1つである「社会通念上の相当性」がある場合とは、どのような場合であるかについて解説します。
「社会通念上の相当性」の要件は、たとえ解雇理由が合理的なものであったとしても、解雇をするほどの程度に至っていない場合に、労働者に大きなダメージを与えかねない解雇という厳しい処分に至らないよう制限するための要件です。就業規則に定めた解雇理由に形式的に当てはまるとしても、簡単に解雇できるわけではありません。
会社の処分や取扱いが、「自分を解雇させるため、辞めされるためにやっているのではないか」と疑念を抱くようなときには、この「社会通念上の相当性」の要件は満たされておらず、不当解雇である可能性が高いといえます。
そのため、解雇の相当性は、新卒入社であるか中途採用であるか、異動・転勤が予定されているかどうかなど、その労働者の労働条件ごとの保護の程度に応じて判断が変わってきます。
少なくとも、解雇の理由が重大な程度に達しており、注意指導をして改善の機会を与えるなど、解雇を回避する手段を尽くしてもなお、解雇がやむを得ない状態にあることが必要となります。あわせて、労働者側に酌むべき情状がある場合には考慮すべき事情となります。
解雇前に尽くされているべき解雇回避の努力は、解雇理由によって異なりますが、代表的には次のとおりです。
- 「業務遂行能力の不足」が解雇理由のとき
:注意指導、教育を行い、改善の機会を与える。ある職種への適性に欠けるとしても移動、配転を試みる。 - 「労働者の問題行為」が解雇理由のとき
:注意指導を書面で行い改善を求める。譴責・戒告など軽度の懲戒処分を行い、反省を促す。既に軽度の懲戒処分の処分歴がある場合でも、降格・減給などより重い懲戒処分を下すことで、更なる反省を促す。
また、以上のような手順を踏んで、解雇の理由が認められる可能性がある場合でも、いきなり解雇するのではなく、まずは話し合いを行い、協議によって自主退職をするよう働きかけるべきです。
会社から、脅されたり、騙されたり、真実でないことを伝えられて退職届を欠かされるような場合、労働者側の意思表示には瑕疵があると考えられ、後に取り消すことができます。
不当解雇を争う方法
ここまでの解雇権濫用法理の基本を理解していただいた結果、不当解雇であると判断できる場合には、その不当解雇について会社と争う必要があります。
そこで最後に、不当解雇を争う具体的な方法について弁護士が解説します。
内容証明で不当解雇を争う
まず、不当解雇を争う場合には、解雇をされたらすぐに、解雇に異議があることを会社に伝える必要があります。この異議の意思表示について、必ず証拠に残すため、内容証明郵便の方法で送付することがお勧めです。
あわせて、解雇理由が具体的に明らかでない場合には、解雇理由を書面で示すよう要求します。
解雇理由を解雇時に、具体的に特定しその証拠を収集しておくことは、後に労働紛争が激化した後で、会社から新たな解雇理由を追加で主張されたり、当初の解雇理由をすり替えられたりすることを防ぐことができます。
労働審判で不当解雇を争う
解雇の撤回を求め、これに会社が応じない場合には、労働審判で不当解雇を争う方法があります。
不当解雇について会社と争うことは、「地位確認請求」といって、「解雇は無効であり、社員としての地位を有し続けることを確認する」という争いです。しかし、不当解雇とはいえ、ひとたび解雇された会社に勤務し続けることは人間関係的に難しいと考えるほうがむしろ一般的です。
そのため、日本にはまだ整備されていない「解雇の金銭解決制度」の代替手段として、退職を前提として解決金をもらうという金銭解決を目指して交渉が進むことが多くあります。
労働審判は、訴訟が長期化すると労働者にとって負担が大きいことを考慮して設けられた制度であり、簡易迅速、かつ、状況に応じた柔軟な解決を、調停の機能を利用して目指すことができます。
訴訟で不当解雇を争う
不当解雇の争いについて、労働審判を行い、その結果に納得のいかない場合には、異議申立てを行うと訴訟に移行します。また、労働審判を通さず、初めから訴訟を提起することもできます。
特に、労働審判において「解雇の金銭解決制度」の代替手段としての側面があることから、金銭解決を考えておらず、初めから復職を目指して徹底的に争いたいという意思がある場合には、労働審判を経ずに訴訟提起をすることができます。
一旦は訴訟提起を行ったとしても、訴訟の審理を進める中で、納得のいく提案があれば、和解をすることもできます。
不当解雇の慰謝料・解決金の相場
不当解雇による損害が甚大な場合には、「地位確認請求」とともに会社に対する慰謝料請求をあわせて行うことがあります。
ただし、不当解雇について異議のあるとき、金銭面を考えると、高額の慰謝料請求が認められるのは、強度のパワハラやセクハラが併存する場合などに限られ、一般的には、解決金による解決を目指すほうが、高額の金銭を得ることができる場合が多いといえます。
不当解雇の解決金は、交渉や労働審判で和解をする場合、月額賃金を基準として検討されることが多く、一般的に解決金の相場は「月額賃金の3か月分~月額賃金の1年分」程度とされています。
不当解雇の解決金の基準は、労使のいずれに責任があるか、不当解雇が違法無効と認められる可能性がどの程度あるかに加えて、紛争にかかった期間(その間の未払い賃金、いわゆる「バックペイ」)などを考慮して判断されます。
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不当解雇の慰謝料を請求する方法と、慰謝料額の相場
会社からの一方的な解雇を通告されたとき、解雇の撤回要求、地位確認請求や未払賃金請求とともに、違法な解雇によって受けた精神的苦痛について、慰謝料を請求することがあります。 突然、理不尽な解雇を言い渡され ...
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解雇無効の場合の法律関係
不当解雇について争った結果、裁判や労働審判において、解雇が解雇権の乱用とされ、解雇が無効であると判断された場合には、解雇処分がなくなるわけですから、労働者の原職への復帰が認められることとなります。このことを「(社員としての)地位の確認」といいます。
解雇処分がなくなってそのまま社員としての地位に戻るわけですから、解雇が無効であることを理由に他の部署に配置転換したり、給与を減額したりといった不利益な処分をすることは許されません。
あわせて、無効となった解雇をされた日から解雇無効となった日に至るまで、労働者であり続けたこととなりますが、会社側の誤った解雇によって仕事ができない状況となっていたわけですから、労働者は賃金請求権を失いません。
なお、解雇期間中に他社で就労して収入を得ていた場合であっても、平均賃金の6割までの支払は保障されるものとされています。
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今回は、解雇処分を受けてしまった労働者が「不当解雇」だとして争う際に理解しておくべき「解雇権濫用法理」の基本について、弁護士が解説しました。
解雇は、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇のいずれであっても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合に、解雇権を濫用した不当解雇として違法無効となります。ただし、この解雇権濫用法理の要件は、ケースバイケースで考えなければならず、最終的には、裁判所の判断に委ねられることとなります。
そのため、解雇を労働者側有利に戦うためには、解雇について無効という判断をした判例・裁判例を分析し、労働者側に有利な事情について十分に主張しなければなりません。
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