既婚者に、「独身だから」とだまされて交際して、性的関係を持ってしまったとき、
- 「独身でなければ交際しなかったのに」
- 「奥さんがいるなら肉体関係はもたなかったのに」
と悔しい気持ちになることでしょう。
性的関係をもつために、既婚者にもかかわらず独身をいつわったり、「妻とは別居中ですぐ別れる」と嘘をついたりして、真剣交際をよそおう人がいます。だましてきた人に責任があるのは当然ですが、あなたもまた、相手の奥さんから慰謝料請求されるおそれもあります。
相手の奥さんからすれば、だまされていたとはいえ、自分の夫(もしくは妻)と肉体関係を持ったことにかわりはなく、許せない気持ちを抱えています。だまされて不倫・浮気に巻き込まれてしまい、本当であればこちらから慰謝料をもらいたい気持ちなのに、逆に慰謝料請求を受けてしまうと、まさに「泣きっ面に蜂」。
今回は、既婚者にだまされ、気づかないうちに不倫・浮気をしてしまった方に向けて、既婚者の妻(または夫)から慰謝料請求されないための注意点、慰謝料請求されてしまったときの対応方法について、弁護士が解説します。
- 既婚者だと知って性交渉した場合だけでなく、注意すれば気づけたときも慰謝料請求されてしまう
- だまされたのだから過失は少ないと反論するときは、気づいたらすぐ別れることが大切
だまされて既婚者と不倫しても、慰謝料請求されるケースとは
不倫・浮気のことを、法律用語で「不貞行為」といいます。「不貞行為」は、夫婦関係にある男女と肉体関係を持つことをいい、不貞行為をしてしまうと、これによって精神的苦痛を負った夫婦の一方から、慰謝料請求されるリスクがあります。
あなたが、わざと不貞行為をしたのではなく、既婚者からだまされて、知らないうちに不倫・浮気に巻き込まれてしまった場合、納得いかないとは思いますが、慰謝料請求されてしまうことに変わりはありません。「既婚者にだまされただけだ」と反論しても、注意して行動しなければ、その既婚者のパートナーからの慰謝料請求をさけられないおそれがあります。
そこで、だまされて既婚者と不貞行為に及んだ場合でも、慰謝料請求されてしまう3つのケースについて解説します。
既婚者だと知っていた場合(故意がある場合)
不貞行為は、民法上の不法行為(民法709条)にあたります。不法行為によって財産以外の損失を他人に負わせたときには、慰謝料が生じます(民法710条)。そして、法律上、不法行為として慰謝料請求の対象となるためには、「故意または過失によって他人の法的な権利を侵害した」という要件にあてはまる必要があります。
故意とは、違法行為だと知りながらあえて行うことをいいます。そのため、既婚者であると知りながら、あえて不貞行為に及んだときには、その既婚者のパートナーに対する「故意」の不法行為となり、慰謝料請求を受けることとなります。
たとえ、その既婚者が、あなたを性のはけ口にしようとして「独身だ」と嘘をついていたとしても、あなたがそのことに気づいていたのであれば「故意があった」と評価されます。
不注意で、既婚者だと気づかなかった場合(過失がある場合)
既婚者にだまされて浮気・不倫に巻き込まれてしまったとして、あなたが相手を既婚者だとは知らなかった場合でも、「注意すれば気づくことができたはずだ」という場合には、慰謝料請求を受けてしまうおそれがあります。
このように、自分が違法行為をしているとは認識していなくても、注意をすれば回避できたにもかかわらず必要な注意をしていなかったとき、「過失があった」といえるからです。
例えば、次のケースでは、十分注意をしていれば既婚者だと気づけたと考えることができ、過失があったと評価されるおそれがあります。「注意をすれば、既婚者だと気付けたはずだ」という過失があるとき、慰謝料の支払義務が生じます。
- 左手の薬指に指輪をしていた
- 交際期間が長いのに、宿泊をともなうデートが一度もなかった
- 交際しているのに、自宅にいくことをかたくなに拒まれる
- 自宅の場所を教えてもらえない
- 名前、住所、職業などの個人情報を全く教えてくれない
- 車にチャイルドシートがついていた
- 携帯の待ち受け画面が子どもの写真
既婚者と知った後も交際を続けた場合
交際当初は、既婚者から「独身だ」とか「妻とはもうすぐ別れるから」などとだまされて交際を開始したとしても、真実を知った後も交際を続けていれば、その後は当然ながら責任を負うこととなります。この場合、既婚者だと知る前については故意も過失もないのであれば、その間の交際期間についての責任は負いません。
しかし、既婚者だと知った後に行った不貞行為については、既婚者の妻(または夫)から慰謝料請求を受けてしまうこととなります。
相手が既婚者だと気づいた後の不貞行為は、あなたと相手の「共同不法行為」となります。共同不法行為は、違法行為を2人で共同して行ったことを意味します。このとき、慰謝料の支払義務を、2人で連帯して負うこととなります(不真正連帯債務)。
共同不法行為では、共同不法行為者のいずれに対しても慰謝料の全額を請求できます。
そのため、
- 不倫・浮気の相手に資力がないとき
- 夫婦関係が継続し、夫婦間での請求はしないと決めたとき
といったケースで、あなたが慰謝料の全額を請求されてしまうおそれがあります。
だまされて不倫してしまったとき、慰謝料請求されないための注意点
既婚者にだまされて不倫・浮気をしてしまっていたとき、後から慰謝料請求をされないために、早めの対処が必要となります。
そこで、不貞行為を理由とする慰謝料を請求されてしまわないために、事前の対策や注意点について弁護士が解説します。
既婚者だと知ったらすぐ別れる
注意点の1つ目は、既婚者だと知ったらすぐに別れることです。
だまされている間は、あなたは相手を既婚者だとは知らないわけですから、不貞行為の責任を負いません。しかし、既婚者だと知ってからも交際を続け、性的関係を持ち続ければ、その後は不貞行為にあたり、交際相手の配偶者(パートナー)から慰謝料請求されてもしかたありません。
たとえ、交際相手と真剣交際をしており、将来は結婚したいと考えていたとしても、慰謝料請求されたくないのであれば、交際相手の離婚が成立してから付き合うようにしてください。心からの真剣交際であれば、相手も早く夫婦関係を清算してくれるはずです。
しかし、残念ながら、「独身だ」、「すぐ離婚するから付き合ってほしい」などと嘘をついて性的関係を結ぶ人の多くは、真剣交際ではありません。そのため、口先だけの約束を信じて不貞行為を続けることはリスクがとても大きい行為です。
実際は真剣交際ではなく、遊びの関係だったということが明らかになった時点で、既婚者とはすぐに別れておくことを強くおすすめします。
「だまされた」という証拠を集める
だまされて不倫をしてしまったにもかかわらず慰謝料請求されてしまわないためには、「だまされた」という証拠を収集しておくことが重要です。慰謝料請求が訴訟になったとき、裁判所で反論を認めてもらうためには、証拠の有無がとても重要視されるからです。
あなたがだまされていたことを示す証拠とは、言い換えると、交際相手が「自分は既婚者である」と嘘をついてあなたをだましていた証拠です。
例えば、次のような証拠が、あなたがだまされていたことを示す証拠として役立ちます。
- メールやLINEで、「独身であるかどうか」を確認した証拠
- 「結婚を前提に付き合ってほしい」と伝えた証拠
- これに対して交際相手が既婚者だと回答しなかった証拠
交際相手(既婚者)に慰謝料請求する
だまされて不倫をしてしまい、慰謝料請求されたとして、あなたに多少の非があるとしても、一番悪いのは「だました人」、つまり、交際相手(既婚者)です。
そのため、既婚者であることを隠して不倫の関係をもった交際相手に対して、あなたから慰謝料請求をすることができます。だまして肉体関係を持つことは、あなたの貞操権を侵害する違法行為だからです。
既婚者であるとわかった時点ですぐに別れ、距離を置くことは当然、金銭的に損をしてしまわないためにも、できる限りの慰謝料を請求しておくことがおすすめです。慰謝料の相場はおよそ50万円〜200万円程度ですが、だます行為の悪質性の程度や、交際の経緯、性的関係を持つに至った理由、どちらが主導的に進めていたかといった事情によって、増額される例があります。
だまされた不倫で慰謝料請求されてしまったときの対応方法
前章で解説した事前の対策にもかかわらず、残念ながら不倫相手の配偶者(パートナー)から慰謝料請求されてしまったときの対応方法について、最後に解説します。
なお、慰謝料請求を受けるまでだまされていたことに気づいていなかったとき、証拠収集や交渉に使える時間は限られており、早急な対処が必要です。
相手の要求を確認する
だまされた不倫で、慰謝料請求されたとき、まずは相手の要求を確認するようにしてください。
相手方やその代理人となった弁護士から、通知書、請求書などが送られてきたとき、その文面を読み解くことで、相手の要求をある程度具体的に知ることができます。
だまされて不倫・浮気にまきこまれてしまったケースで、交際相手の配偶者(パートナー)としても、慰謝料額にそれほどこだわるわけではなく、「今後、会わないでいてくれればそれでよい」というケースもあるからです。
「だまされたのだから、責任はない」と反論するにしても、まずは相手の要求を確認してからでも遅くはありません。焦らず、相手の出方を見て交渉を進めるようにしてください。
謝罪し、今後不倫しないことを誓う
相手の請求する慰謝料について、減額交渉をしたり、支払いを拒絶したりする場合でも、不倫してしまった点については反省し、謝罪をしておくことが有効なケースが多いです。
たとえだまされて不倫してしまっただけであっても、夫婦の仲を乱してしまったことは確かであり、最初から開き直ることはおすすめできません。言い訳することなく、誠意をもって謝罪をすることが、結果的に円満な解決につながることもあります。
相手の要求次第で、次のような解決策を検討するようにしてください。
- 交際相手(既婚者)の連絡先を削除する
- 今後は会わないことを約束し、誓約書を記載する
- 謝罪文を交付する
慰謝料の減額交渉をする
慰謝料請求をされたときには、減額交渉をしたり、支払う義務がないと反論したりする必要があります。このようなケースでは「だまされていたのだから責任はない(もしくは、責任は小さい)」と反論します。
既婚者であることを知っていたとか、不注意によって知らなかったというケースで、どうしても慰謝料請求を回避することが難しい場合でも、できるだけ支払額を抑えるために減額交渉をすべきです。不注意(過失)があったとしても、その程度が軽度であれば、慰謝料の減額交渉が可能です。
例えば、結婚指輪をしていたり、携帯の待ち受け画面が子どもの写真であったりなど、既婚者だと気付く機会はあったものの、既婚者の側でも隠そうと努力しており、よく注意しなければ気づくことが難しいとき、過失の程度は軽度だったということができます。
慰謝料の減額交渉で主張しておくべき、不貞慰謝料の減額事由には、次のものがあります。
- 既婚者にだまされて不倫したが、軽過失しかない。
- 既婚者にだまされて不倫したが、肉体関係の回数、頻度、期間はいずれも小さい。
- 既婚者の側から積極的にだまし、積極的に肉体関係を誘ったという事情がある。
- 既婚者であることに気づいたらすぐに別れ、誠意をもって反省、謝罪を示した。
裁判で争う
交渉はあくまでも話し合いであるため、慰謝料を支払うかどうかや、慰謝料額について折り合いがつかないときは、応じる必要はありません。
相手から請求された慰謝料の支払いに応じないとき、相手が訴訟提起してくると、裁判で争うこととなります。
裁判では、適切な準備書面を作成し、証拠を提出して戦っていかなければなりません。そのため、十分な法律知識と経験が必要となりますので、弁護士にご相談いただくのがおすすめです。
弁護士に依頼するメリット
だまされて既婚者と浮気をしてしまい、残念ながら慰謝料請求をされてしまったとき、離婚・男女問題を得意とする弁護士に依頼することには多くのメリットがあります。
弁護士に依頼することで、今後の交渉窓口を弁護士に担当してもらえるため、わずらわしいやりとりを全て任せることができます。男女トラブルを多く取り扱う弁護士であれば、重要な法律知識や証拠に関するノウハウを十分に身に着けており、あなたをサポートすることができます。
不倫をしてしまった交際相手の配偶者(パートナー)からの慰謝料請求が訴訟になった場合にも、「だまされていた」という証拠を的確に収集し、反論をし、慰謝料請求をしりぞけたり、減額交渉をしてもらったりすることができます。
あわせて、弁護士に依頼することにより、この慰謝料請求に交際相手も参加させる「訴訟告知」の制度を利用したり、交際相手に対してあなたからも慰謝料請求訴訟を起こしたりといった選択肢をとることも大きなメリットです。
まとめ
まさか既婚者であるとは思わず、結婚を前提に真剣交際していたようなとき、だまされていて実は既婚者だったと知れば、誰しもとても驚き、冷静ではいられないことでしょう。
そして、既婚者にだまされた被害者であるにもかかわらず、相手の妻(または夫)から突然慰謝料請求を受けてしまえば、強い怒りを感じるのも当然です。
しかし、「だまされたのだから仕方ない」と軽く考えていると、不貞行為を理由として慰謝料請求が認められてしまうおそれがあります。「だまされた」という証拠をきちんと収集し、的確に反論することで、慰謝料請求を回避する必要があります。
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