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退職強要された時、損害賠償を請求する方法と慰謝料の相場

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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退職強要は、労働者に不当な圧力をかけて一方的に会社を辞めさせる違法な行為です。

本来、会社の一方的な都合で、社員を辞めさせることは「解雇」に当たり、厳しく制限されています。具体的には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、権利濫用として解雇を無効とする解雇権濫用法理が適用されます(労働契約法16条)。

「辞めさせたいが、有効に解雇するのは困難だ」と会社が考えるとき、退職強要によって自主退職を強く迫ることがあります。しかし、退職強要の実質は「解雇」と同じであり、解雇リスクを不当に回避しようとすることを意味するため、違法となり得ます。違法な退職強要を受けた労働者は、慰謝料をはじめとした損害賠償を請求できます。また、退職強要によって不本意に退職してしまっても、錯誤(民法95条)、詐欺、強迫(民法96条)を理由に取り消すことができます。

今回は、退職強要で慰謝料請求するときの方法について、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 退職強要は、実質的には「解雇」の性質を有する違法な行為である
  • 退職強要を受けたとき請求できる慰謝料の相場は30万円〜100万円が目安
  • 退職の撤回や、解雇後の補償を意味する「解決金」を請求する方法も有効

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目次(クリックで移動)

退職強要された時の慰謝料請求とは

お金

退職強要は、労働者の自由な意思に反して、会社を辞めるよう働きかけることを意味します。

会社が一方的に辞めさせるという点で、退職強要の実質は「解雇」と共通しています。そのため、不当な圧力を加えて退職せざるを得なくすることは違法となります。強要が不法行為(民法709条)に該当するときは、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます(民法710条)。

退職強要の違法性

慰謝料を請求するには、退職強要が不法行為(民法709条)に該当する必要があります。

不法行為とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為のことです。退職強要のうち、暴力を伴うものは特に違法性が強く、不法行為に該当します。その他にも、暴言や人格否定などのパワハラを伴う強要行為、「退職するまで会議室から出さない」と告げる監禁行為なども労働者の権利を侵害するため、不法行為となる可能性があります。

一方で、退職強要と区別すべきものとして「退職勧奨」があります。退職勧奨は、あくまで労働者の自由な意思を制約せず、自発的に退職するよう勧めることであり、この範囲であれば適法であり、不法行為にも該当しません。

退職強要と退職勧奨の違いは、退職について労働者が自由な意思で判断することができる状態にあるかどうかという点がポイントとなります。

「退職強要が違法となるケース」の解説

退職強要の慰謝料の相場

退職強要を受けたときに請求できる慰謝料の相場は、30万円〜100万円程度です。

ただし、これはあくまで目安であり、慰謝料の金額はケースバイケースであるため、個別の事情に応じて判断する必要があります。請求できる慰謝料の額は、退職強要の悪質性、回数、時間、頻度、面談時に行われたパワハラの強度といった事情によって増減します。

例えば、労働者が退職を拒否しているにもかかわらず長時間の面談を執拗に行い、その際に「会議室から出さない」などの監禁行為があったり、暴力を振るったりしたときは、慰謝料が上記の相場を超えて高額になる可能性があります。退職強要と並行してセクハラやパワハラなどのハラスメントが行われれば、悪質性が増し、慰謝料の増額につながります。

暴力・暴言を伴うなど、強度の退職強要によってうつ病などの精神疾患を発症してしまったケースでは、労働者の損害が増大しており、慰謝料も増額される傾向にあります。労働者側では、損害が大きいことを立証するため、医師の診断書を入手しておいてください。

解雇の慰謝料と解決金について

退職強要は、法的には「解雇」と同じ性質を有しています。

解雇とは、会社が一方的に労働契約を解約することですが、退職強要も、労働者の自由な意思を奪っている場合、形式的には自主退職でも、その実質は「解雇」と同じです。

解雇トラブルでも「不当解雇の慰謝料」を請求することがあります。それとともに、争いの結果として金銭解決の合意をする際には「不当解雇の解決金」を受け取ることができます。解雇の慰謝料は、上記の退職強要の慰謝料と同じく30万円〜100万円程度が相場となるのに対し、解雇の解決金はそれより高額となることが多く、月額賃金の3ヶ月分〜1年分程度が相場とされます。

退職強要の争いでも、実質的には解雇と同視できるほどの不当な圧力を受けたなら、慰謝料だけでなく、解雇トラブルと同様に解決金をもらえるよう交渉を進めることも検討してください。

退職強要の慰謝料を請求できるケース

退職強要で慰謝料を請求するためには不法行為(民法709条)に該当することが必要です。

そのためには、強要の手段や方法が、社会通念上相当な範囲を著しく逸脱していることがポイントとなります。退職強要の違法性の基準は、退職についての労働者の自由な意思を不当に制圧したかどうかが重視されるため、次のような事情が考慮されます。

  • 退職を働きかけた回数・頻度
  • 1回の面談に要した時間
  • 面談時の言動(パワハラ・セクハラや人格否定など)
  • 会社に不当な動機があったか
  • 労働者が拒否してなお継続したか
  • 企業規模や業種
  • 退職強要の対象となった者の地位・役職

これらの事情を総合的に考慮した上で、暴行・強迫を伴う退職強要や、労働者が拒否しても執拗に続いていたり、家族を巻き込んでいたりすると、さらに違法性が強いと評価できます。

退職強要の違法性を認めた重要な裁判例として、下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決)があります。本事案は、高校の教員に対する執拗な退職強要が「社会通念上相当な範囲を逸脱」するとして不法行為と評価され、損害賠償請求が認められました。

具体的な強要行為としては、3ヶ月間に12回など、短期間で頻繁に退職勧奨の面談を行ったこと、面談は短いときで20分、長いときは1時間以上続いたこと、面談の際「退職に応じるまで勧奨を続ける」「退職しないと処遇についての要求には応じない」などと繰り返し伝えたことといった事実が認定されています。

「不当解雇」の解説

退職強要の慰謝料を請求する具体的な方法

次に、退職強要の慰謝料を請求する具体的な方法について解説します。

退職強要が不法行為(民法709条)に該当するほどの違法性があるとき、慰謝料などの損害賠償を請求できます。強要を受け続けると、不安や恐怖を感じ、どう対応すべきか分からなくなってしまうでしょう。プレッシャーに負けて自主退職し、泣き寝入りしないよう注意してください。

STEP

自主退職を拒否する

違法な退職強要を受けた際に最も重要なのは、断固として拒否することです。

違法な退職強要には屈せず、自主的に退職してしまわないようにしてください。前述の通り、退職強要によって退職しても、錯誤や詐欺、強迫による意思表示は取り消せますが、裁判で勝訴するには一定のハードルがあります。取り消せる事案でも、労働者側から争いを起こさなければならないし、証拠が不十分だと敗訴するリスクもあります。

社内の人間関係に配慮していると明確な態度を取りにくいかもしれません。しかし、「退職しない」と断言し、退職に関する面談を打ち切るのが適切です。拒否の姿勢を明確にしても強要が続くときは、次に解説する証拠収集を進めてください。

STEP

証拠を収集する

違法な退職強要を受けたら、後に慰謝料請求をするためにも、証拠を残すことが大切です。労働審判や訴訟などの手続きで慰謝料請求するとき、退職強要の違法性を裁判所に理解してもらうには証拠が重要だからです。

「違法な退職強要を受けたこと」と「自主退職を拒否したこと」の2点について証明するために、次のような資料が証拠として役立ちます。

  • 退職強要を受けた面談の録音
  • 退職強要となる会社の通知書
  • 退職強要となる社長や上司からのメール
  • 退職強要を受けた当時作成した日記

退職強要を受けるおそれのある面談を設定されたときは、ボイスレコーダーやスマートフォンなどの録音の準備が欠かせません。退職強要のように録音が重要な価値を持つ場面では、無断で録音したからといって必ずしも違法にはならず、秘密録音であっても裁判所で証拠として活用することができます。

STEP

内容証明を送付する

違法な退職強要が止まないとき、弁護士名義で警告書を送ることで違法性を指摘する方法が有効です。あわせて、請求書を送付し、慰謝料や損害賠償を請求しましょう。

警告書、請求書といった書面は、証拠として残るよう、内容証明で送るのが適切です。内容証明であれば、配達日、送付した書面の内容を証拠化することができます。

なお、会社に送付する書面には、退職強要の具体的状況を詳しく記載し、証拠に残しておく必要があります。そのため、退職強要を受けたら、その後すぐに、録音や記憶に基づき、できる限り詳しく状況を記載するのが重要なポイントです。

STEP

労働審判で慰謝料請求する

警告書を受け取っても違法な退職強要を続ける会社や、交渉で慰謝料を支払ってもらうのが難しいケースでは、労働審判を申し立てる方法が有効です。

労働審判は、労使のトラブルを解決するための法的手続きであり、訴訟よりも簡易かつ迅速に裁判所の判断を得られるため、労働者の権利を守るのに最適です。原則3回以内の期日で解決するため、訴訟が1年以上かかることも多いのに比べて、早期解決が期待でき、退職強要の問題を解決するのにも向いています。

労働審判で退職強要の違法性を証明できれば、労働審判委員会が会社に対し、慰謝料などを支払うよう説得してくれることが期待できるほか、この説得を会社が拒否したときは審判による最終判断を得ることができます。

STEP

訴訟で慰謝料請求する

労働審判で解決できなかったときは、訴訟で慰謝料請求を行います。

労働審判に対していずれかの当事者が2週間以内に異議申立てをすると、自動的に訴訟に移行します。また、会社の姿勢が強硬であり、労働審判での解決が見込めない場合は、最初から訴訟提起を選択するケースもあります。

退職強要で退職してしまった後でも請求できること

最後に、退職強要で退職してしまった後でも請求できることについて解説します。

退職強要は違法でも、労働者側としても「退職すること」には心から同意できるケースもあります。退職強要の対象となるということは、会社から不要な社員であると示されるのと同じであり、居づらい会社で働き続けるより、転職する方が幸せなこともあります。

退職後でも慰謝料を請求できる

退職強要が違法であるなら、慰謝料や損害賠償請求は退職後でも可能です。

ただし、退職強要の慰謝料を請求するには、その違法性を立証する証拠が必要となるところ、既に退職済みだと、証拠の収集が難しいことがあります。特に、強要時の言動については、その際の録音などがなければ証拠に残しにくいため、注意が必要です。

退職の撤回・取消を求める

違法な退職強要に屈して退職届を出してしまった方も、あきらめるのは早いでしょう。

退職届は、会社が受理して初めて効力を発揮しますが、人事権のある者(社長や上位の役職者など)が受け取る前であれば、退職を撤回できる可能性があります。そのため、退職強要が止んだ後で考え直し、「退職したくない」と考えるときは、速やかに退職の撤回を申し入れてください。

また、脅したり騙したりして退職させられたなら、錯誤(民法95条)、詐欺、強迫(民法96条)を理由に、その意思表示を取り消すことができます。例えば、「退職しないと懲戒解雇にする」「業績悪化で倒産する前に退職した方が得だ」などと嘘をつかれた場合、退職を取り消すことができます。

退職強要の違法性を会社も認めており、後ろめたい気持ちがあるなら、撤回や取消しを交渉すれば、会社に応じてもらえる可能性があります。なお、退職の撤回、取消しに成功したときは、退職時から復職時までの未払い賃金(バックペイ)を請求することができます。

「退職届は撤回できる?」の解説

有利な退職条件を交渉する

退職強要に応じる場合でも、できる限り有利な退職条件となるよう交渉することが大切です。

本来応じる必要のない違法な退職強要である場合は特に、会社側には、退職条件の面で精一杯の譲歩をしてもらえるよう交渉してください。退職に応じることを決めたとき、労働者が交渉しておくべき退職条件には、次のようなものがあります。

  • 退職金の増額
  • 未消化の有給休暇の買取り
  • 再就職支援サービス

なお、退職強要に応じて退職するとき、合意書や誓約書といった書面へのサインを求められることがあります。これらの書面に「清算条項」が記載されていると、その後は未払賃金や残業代などの請求ができなくなるため、未払いがないかどうかを慎重に確認してください。

「未払い残業代請求の方法」の解説

失業保険を受け取る

失業保険については、退職強要に応じて辞めるなら「会社都合退職」となります。

会社によっては自己都合退職扱いとされてしまうことがありますが、自己都合退職だと原則として1ヶ月の給付制限期間があり、総額も減少してしまうデメリットがあります(自己都合であれば年齢や勤続年数によって90日〜150日、会社都合であれば90日〜330日)。

離職票に記載された離職理由を確認し、必ず会社都合扱いとするよう交渉しておきましょう。会社が応じてくれない場合、ハローワークに変更を申し出る方法もあります。

【まとめ】退職強要の慰謝料の相場

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、退職強要を受けた際、慰謝料などの損害賠償を請求する方法や相場を解説しました。

退職強要を受けると、本来なら辞めなくてもよかったのに、不当な圧力によって会社に居づらくなってしまいます。そのため、退職強要によって退職を余儀なくされたときは、精神的苦痛をはじめとした損害について、慰謝料などの損害賠償を請求することを検討してください。

もっとも、退職強要で慰謝料などの損害賠償を請求するには、精神的苦痛をはじめとした損害について、労働者側で証明するため、証拠を収集しておくことが不可欠です。特に、退職強要の面談が行われるときは、その最中の録音が最も価値の高い証拠となります。退職強要を受けそうな面談を設定されたら、ボイスレコーダーやスマートフォンで録音の準備をしておきましょう。

退職強要の損害賠償請求をはじめとした労働問題に悩む場合、一人で抱え込まず、専門的なアドバイスを得るために、ぜひ弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • 退職強要は、実質的には「解雇」の性質を有する違法な行為である
  • 退職強要を受けたとき請求できる慰謝料の相場は30万円〜100万円が目安
  • 退職の撤回や、解雇後の補償を意味する「解決金」を請求する方法も有効

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