離婚や別居の際、子供の将来を見据えると、「養育費はいくらが適切なのか」は非常に重要な問題です。特に、年収1,000万円を超えるような高収入の会社役員となると、一般的な相場よりも養育費が高額になりやすく、注意点も多くあります。
今回は、高所得者における養育費の考え方や算出方法、支払額の目安、そして話し合いや調停で注意すべきポイントについて、弁護士が解説します。
高収入だからこそ、子供の利益を守るための視点を理解しておいてください。
- 1,000万円を超える高収入ほど、実態が把握しづらいので正確に調査すべき
- 会社役員や経営者など、収入が不安定なら、事情変更による養育費の変更が可能
- 法人と個人の資産は区別されるが、例外的に考慮されることもある
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養育費と年収の関係

はじめに、養育費と年収の関係について、基本的な知識を解説します。
養育費を支払う側(義務者)の年収が多いほど、支払うべき養育費は高くなります(養育費の金額は、互いの収入差のほか、子供の人数・年齢などの要素に左右されます)。なお、年収などの条件が同じでも、生活水準や教育の状況など、家庭によって養育費の額は異なることがあります。
養育費の金額を決める要素
養育費の基本は、「子供のために必要な生活費・教育費などを両親で分担する」という考え方です。そのため、以下の要素が、養育費の金額を決定する際に考慮されます。
- 子供の人数・年齢
- 両親の年収と生活水準
- 子の生活保持義務(生活水準を維持)
両親の離婚によって子供の生活水準が大幅に低下しないよう、合理的な金額を決める必要があります。親は、子供に対して「生活保持義務」を負っており、単なる最低限の生活を保障するのではなく、「親自身の生活水準を子供にも維持させる義務」があります。
したがって、親が高収入で、裕福なほど、子供も同様の水準の生活を維持できるようにする必要があり、養育費は高額になる傾向があります。
養育費算定表とその限界
養育費は、まずは夫婦間の協議で話し合って決めますが、決裂する場合には調停や審判、訴訟などで裁判所の判断を受けることとなります。この際、簡易的に「養育費・婚姻費用算定表」に基づいて決めるのが実務です。算定表は、養育費を払う側(義務者)と受け取る側(権利者)の年収、家族構成に応じて、相場を計算できる早見表です。
ただし「算定表」は、義務者の年収が極めて高い場合まで網羅していないという限界があります(想定される年収の上限は、給与所得者で2,000万円、自営業者で1,567万円)。
高所得者の養育費の算定
前述の通り、給与所得者で2,000万円、自営業者で1,567万円を超える年収の場合、養育費について算定表を参考にすることができません。
算定表は、あくまで中所得層を前提に作られており、高収入世帯の生活実態を反映していません。そのため、上限を超える年収であったり、私立学校の学費や習い事、留学費用や特殊な医療費などの高額な支出があるとき、別途考慮する必要があります。
この場合、算定表の上限額の収入があったものと仮定して養育費を算出する考え方があります。ただ、この方法では、上限額を大幅に超えるケースで、受け取る側(義務者)の納得を得づらいです。そうすると、算定表によらず個別に計算する必要があります。
したがって、高所得者の養育費の算定は、交渉では解決できず、調停や裁判でも紛争化しやすい傾向にあります。
具体的には以下の手順で養育費を計算します。
- 基礎収入を計算する
義務者、権利者それぞれの総収入に基礎収入割合表記載の割合を乗じて算出します。収入が多くなると、累進課税の影響により基礎収入割合は下がるので、義務者の収入が2,000万円を超える場合、表よりも低い割合で請求する例もあります。ただし、定まった基準はないので、基礎収入割合そのものが争点となる可能性があります。 - 子供の生活費を計算する
義務者の基礎収入に子供の生活指数を乗じ、義務者と子供の生活指数の合計で割ります。生活指数とは、大人の指数を100としたときに子供に割り振るべき生活費の割合のことで、14歳以下の子供は62、15歳以上の子供は85に設定されています。 - 義務者の負担割合を計算する
2で算出した子供の生活費のうち、義務者が負担する金額を確定します。計算式としては、2で算出した子の生活費に義務者の基礎収入を乗じ、義務者と権利者の基礎収入の合計で割ります。
基礎収入割合表(給与所得者)
給与所得者 | 割合 |
---|---|
0〜75万円 | 54% |
〜100万円 | 50% |
〜125万円 | 46% |
〜175万円 | 44% |
〜275万円 | 43% |
〜525万円 | 42% |
〜725万円 | 41% |
〜1,325万円 | 40% |
〜1,475万円 | 39% |
〜2,000万円 | 38% |
基礎収入割合表(自営業者)
自営業者 | 割合 |
---|---|
0〜66万円 | 61% |
〜82万円 | 60% |
〜98万円 | 59% |
〜256万円 | 58% |
〜349万円 | 57% |
〜392万円 | 56% |
〜496万円 | 55% |
〜563万円 | 54% |
〜784万円 | 53% |
〜942万円 | 52% |
〜1,046万円 | 51% |
〜1,179万円 | 50% |
〜1,482万円 | 49% |
〜1,567万円 | 48% |
例えば、義務者の収入が3,000万円、権利者の収入が350万円、10歳の子供が1人いるケースで計算します。
義務者の基礎収入割合を36%とすると、義務者の基礎収入は1,080万円(=3,000万円×36%)。同様に権利者の基礎収入割合は表により42%なので、権利者の基礎収入は147万円(=350万円×42%)。
10歳の子供の生活指数は62なので、413万3,333円(=1,080万円×62÷(100+62))が子供の生活費となります。したがって、養育費の年額は363万8,141円(=413万3333円×1080万円÷(1080万円+147万円))、月額に直すと30万3,178円となります。
会社経営者・役員の養育費の算定
会社社長や役員など、経営者の場合、給与収入だけでなく、役員報酬、役員賞与、役員退職金(退職慰労金)など、他の収入がある可能性も十分に考えられます。また、株式を保有している人は、定期的に配当を受け取っていることもあります。
養育費を算定する際は、これらの給与収入以外についても考慮する必要があります。裁判所は「給与」のみならず、「実収入」を重視して養育費の額を決めているからです。


年収1,000万円の場合の養育費の相場

次に、年収が1,000万円の場合の、養育費の相場について解説します。
義務者(例えば夫)の年収が1,000万円だった場合、支払うべき養育費は、権利者(例えば妻)の収入と、養育する子供の年齢・人数によって異なります。年収1,000万円の場合の養育費の相場について、家族構成ごとに例を挙げて解説します。
養育費算定表とは
子供の養育費の相場を知るには、「養育費・婚姻費用算定表」が便利です。
算定表の基本的な使い方は、次の通りです。
- 子供の人数・年齢に合った表を選ぶ
- 縦軸で「養育費を支払う側(例:夫)」の年収を確認する
- 横軸で「養育費を受け取る側(例:妻)」の年収を確認する
- 両者の年収が交わるところが1ヵ月の標準的な養育費・婚姻費用の額となる
算定表を用いれば、養育費の金額を算定するにあたって、夫婦の収入差、子供の年齢・人数に応じて、目安となる金額を簡易的に算定できます。夫婦間の協議がまとまるなら、必ずしも算定表に基づく必要はありませんが、合意に至らない場合は離婚調停、離婚裁判(離婚訴訟)で裁判所の判断を仰ぐこととなり、その場合には算定表が重要な参考資料とされます。
「子供がいる夫婦の離婚」の解説

子供が1人の場合の養育費
義務者の年収が1,000万円で、子供が1人の場合の養育費の目安は、次の通りです。
子供が0歳から14歳の場合
この場合「(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 12万円〜14万円 |
給与所得者 | 100万円 | 10万円〜12万円 |
500万円 | 8万円〜10万円 | |
自営業者 | 100万円 | 10万円〜12万円 |
500万円 | 6万円〜8万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 16万円〜18万円 |
給与所得者 | 100万円 | 14万円〜16万円 |
500万円 | 10万円〜12万円 | |
自営業者 | 100万円 | 14万円〜16万円 |
500万円 | 10万円〜12万円 |
子供が15歳以上の場合
この場合「(表2)養育費・子1人表(子15歳以上)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 14万円〜16万円 |
給与所得者 | 100万円 | 12万円〜14万円 |
500万円 | 10万円〜12万円 | |
自営業者 | 100万円 | 12万円〜14万円 |
500万円 | 8万円〜10万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 18万円〜20万円 |
給与所得者 | 100万円 | 16万円〜18万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 | |
自営業者 | 100万円 | 16万円〜18万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 |
子供が2人の場合の養育費
義務者の年収が1,000万円で、子供が2人の場合の養育費の目安は、次の通りです。
子供2人とも0歳から14歳の場合
この場合「(表3)養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 18万円〜20万円 |
給与所得者 | 100万円 | 16万円〜18万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 | |
自営業者 | 100万円 | 16万円〜18万円 |
500万円 | 10万円〜12万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 22万円〜24万円 |
給与所得者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 16万円〜18万円 | |
自営業者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 14万円〜16万円 |
子供1人が15歳以上、もう1人が0歳から14歳の場合
この場合「(表4)養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 18万円〜20万円 |
給与所得者 | 100万円 | 16万円〜18万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 | |
自営業者 | 100万円 | 16万円〜18万円 |
500万円 | 10万円〜12万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 24万円〜26万円 |
給与所得者 | 100万円 | 22万円〜24万円 |
500万円 | 16万円〜18万円 | |
自営業者 | 100万円 | 22万円〜24万円 |
500万円 | 16万円〜18万円 |
子供2人とも15歳以上の場合
この場合「(表5)養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 20万円〜22万円 |
給与所得者 | 100万円 | 18万円〜20万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 | |
自営業者 | 100万円 | 18万円〜20万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 26万円〜28万円 |
給与所得者 | 100万円 | 24万円〜26万円 |
500万円 | 18万円〜20万円 | |
自営業者 | 100万円 | 24万円〜26万円 |
500万円 | 16万円〜18万円 |
子供が3人の場合の養育費
義務者の年収が1,000万円で、子供が3人の場合の養育費の目安は、次の通りです。
子供3人とも0歳から14歳の場合
この場合「(表6)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 20万円〜22万円 |
給与所得者 | 100万円 | 18万円〜20万円 |
500万円 | 14万円〜16万円 | |
自営業者 | 100万円 | 18万円〜20万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 26万円〜28万円 |
給与所得者 | 100万円 | 24万円〜26万円 |
500万円 | 18万円〜20万円 | |
自営業者 | 100万円 | 24万円〜26万円 |
500万円 | 18万円〜20万円 |
子供1人が15歳以上、もう2人が0歳から14歳の場合
この場合「(表7)養育費・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 22万円〜24万円 |
給与所得者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 14万円〜16万円 | |
自営業者 | 100万円 | 18万円〜20万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 28万円〜30万円 |
給与所得者 | 100万円 | 26万円〜28万円 |
500万円 | 20万円〜22万円 | |
自営業者 | 100万円 | 24万円〜26万円 |
500万円 | 18万円〜20万円 |
子供2人が15歳以上、子供1人が0歳から15歳の場合
この場合「(表8)養育費・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 22万円〜24万円 |
給与所得者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 14万円〜16万円 | |
自営業者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 12万円〜14万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 28万円〜30万円 |
給与所得者 | 100万円 | 26万円〜28万円 |
500万円 | 20万円〜22万円 | |
自営業者 | 100万円 | 26万円〜28万円 |
500万円 | 18万円〜20万円 |
子供3人とも15歳以上の場合
この場合「(表9)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)」を利用します。
【義務者が給与所得者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 24万円〜26万円 |
給与所得者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 14万円〜16万円 | |
自営業者 | 100万円 | 20万円〜22万円 |
500万円 | 14万円〜16万円 |
【義務者が役員・自営業者の場合】
権利者の就業形態 | 権利者の年収 | 養育費の目安 |
---|---|---|
専業主婦 | 0円 | 30万円〜32万円 |
給与所得者 | 100万円 | 26万円〜28万円 |
500万円 | 20万円〜22万円 | |
自営業者 | 100万円 | 26万円〜28万円 |
500万円 | 18万円〜20万円 |
会社役員である義務者の収入減少が予想される場合は?

1,000万円を超える高収入があっても、いつまでも同じ収入が続くとは限りません。
会社役員や経営者は特に、一時的には高収入が得られても、収入が大きく変動するリスクを常に抱えています。そのため、将来の収入減少があった場合に、養育費をどう扱うかが問題となります。例えば、会社役員、経営者に特有の、次のようなリスクに注意してください。
- 賞与・業績連動報酬が変動する
一般的な給与所得者とは異なり、業績連動型の報酬(インセンティブ、賞与など)やストックオプション、配当などを収入としているとき、会社の業績や景気、経営方針などによって大きく変動する可能性があります。 - 役員の退任や解任
期間満了によって役員を退任したり、株主から解任されたりすることで、無収入になるおそれがあります。なお、解任の場合、解任について正当な理由がある場合を除いて、残期間分の報酬(任期満了時に得られていたであろう利益があればその利益)を請求できる可能性があります。 - 株主兼役員だと会社の財産との区別を付けづらい
配偶者が会社のオーナー経営者である場合、その報酬は自分の自由に設定できます。すると、「養育費を支払いたくない」という理由から報酬を下げ、会社に内部留保を残そうとするおそれがあります。
このように、義務者側が、離婚後になって当初の高年収を前提にして決めた養育費を払えなくなった場合、養育費変更(減額)の調停を申し立てることができます(調停が不成立の場合には審判に移行します)。ただし、養育費の変更が認められるためには、以下のような「事情の変更」が認められることが必要です(民法880条)。
- 帰責事由なく役員を解任されて無収入となった。
- 病気や事故で退任せざるを得なくなった。
- 権利者の収入増や再婚があった。
- 子供の生活や教育の状況が変わった。
- 義務者に新たな扶養家族ができた。
ただし、収入減が義務者自身の選択によるものだったり、回避可能であったりする場合、減額は認められないことも多いので注意してください。例えば、自分の都合で役員を退任したり、十分な貯蓄があるのでFIREしたりといった理由は、減額理由とはならない可能性が高いです。
養育費を支払う側で、養育費減額調停を申し立てるなら、必要書類として、直近の収入資料(確定申告書・給与明細・源泉徴収票など)を揃え、収入の減少を客観的に示す必要があります。また、変動が予想される場合は、定期的に養育費の金額を見直すことを内容とした条項を盛り込むこともあります。
「養育費が支払われないときの対応」の解説

会社役員や経営者の養育費に関する注意点

最後に、養育費を支払う側(義務者)が役員や経営者である場合の注意点を解説します。
会社役員や経営者は、収入の性質が多様である上、法人と個人の境界が曖昧であることも多く、養育費を確実に支払わせるには、給与所得者以上に慎重な情報収集が必要です。
会社役員の収入の把握と調査
養育費の金額の決定にあたっては、収入を証明する資料の収集が重要になります。
正確な収入が分からなければ、妥当な養育費の金額も求められません。会社員などの給与所得者なら、雇用契約書、労働条件通知書、給与明細、源泉徴収票などを収集しますが、会社役員や自営業の場合、確定申告書、決算書、源泉徴収票、報酬明細などの資料が役立ちます。
証拠を開示するよう求めても相手が応じない場合、まずは弁護士を通じて請求し、それでも応じない場合は調停を申し立て、調査嘱託などの法的手段を講じます。また、資料の扱いを含めてトラブルが起きたときは、その際の対応を記録しておきましょう。電話内容のメモやLINEのスクリーンショットを撮るのも効果的です。
「相手の財産を調べる方法」の解説

役員報酬以外の所得がある場合
1,000万円を超える高収入の人は、給与や報酬以外で収入を得ている可能性もあるため、漏れなく調べ上げましょう。具体例として、以下のものが挙げられます。
- アパート、マンションなど不動産の賃料収入(不動産所得)
- 株式の配当(配当所得)
- 公社債の利子、合同運用信託の収益分配(利子所得)
- 不動産の売却益(譲渡所得)
これらの所得についても、養育費の算定にあたっては反映させる必要があります。
なお、会社役員の場合、養育費を低く抑えるために、離婚紛争発生後にあえて役員報酬額を極端に減額する操作を行うこともある点に注意が必要です。そのような操作が行われていても、給与や報酬以外の収入があれば養育費の額を増やせる可能性があるため、しっかりと確認しましょう。
「投資信託の財産分与」「共有名義の不動産の財産分与」の解説


会社の内部留保の扱い
法人としての利益を内部留保している場合、個人の収入とは区別して扱うのが原則です。
ただし、法人格の形骸化や濫用が認められる事例であれば、内部留保についても考慮して養育費の金額を決める例もあります。例えば、次のような事情があるケースが考えられます。
- 法人が、役員一人で運営しており社員がいない。
- 法人と個人の資産の境目が曖昧である。
- 株主総会や取締役会などの運営が形骸化している。
- 経営状態が良くないのに多額の内部留保がある。
- 離婚の話が出てから急な資金移動があった。
なお、一人会社の役員兼株主である義務者(元夫)に対し、権利者(元妻)が会社の内部留保を個人の収入として扱い、養育費を払うよう求めたものの、認められなかった判例があります(東京高裁令和4年5月24日決定)。この事例で裁判所は、「一人会社であっても、法人格が形骸化し又は濫用されている場合でない限り、人格の異なる会社の内部留保を株主が自由に使用できるわけではないから、直ちに株主個人の収入と同視することはできない。」とし、元妻の抗告を棄却しています。
判断はケースバイケースとなるので、事前に弁護士に相談して進めるのがよいでしょう。
「会社名義の資産の財産分与」の解説

まとめ

今回は、年収1,000万を超える会社役員の養育費を、どう考えるべきか解説しました。
「年収1,000万円」というように、一方の収入が高額になるほど、養育費について算定表だけでは導き出せない個別事情を含むことがあります。この場合、役員報酬の内訳や支出の実態、子供の年齢や教育環境などを踏まえて、妥当な金額を判断しなければなりません。
また、高所得者だと、養育費もまた高額になりがちなので、後の紛争を防ぐためにも、公正証書を作成したり、家庭裁判所の手続きを活用したりすべきです。将来にわたって子供の健やかな成長を支えるにも、適正な養育費が重要な役割を果たします。
当事者間の協議に不安がある場合や、相手との交渉が難航している場合は、早めに弁護士に相談して、専門的なサポートを受けるようにしてください。
- 1,000万円を超える高収入ほど、実態が把握しづらいので正確に調査すべき
- 会社役員や経営者など、収入が不安定なら、事情変更による養育費の変更が可能
- 法人と個人の資産は区別されるが、例外的に考慮されることもある
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養育費や婚姻費用は、家族の生活を支えるための重要な金銭です。請求の手続きや適正額の計算方法を理解することが解決のポイントとなります。
別居中の生活費や子供の養育費について、どのように請求すべきかお悩みの場合、「養育費・婚姻費用」に関する解説を参考にしてください。