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年俸制でも残業代請求は可能!年俸制の残業代の計算方法

年俸制は、賃金を年単位で決めるという給与体系です。年俸制の労働者でも、残業代請求できます。

年俸制の労働者は、高給取りだったり、責任ある地位・役職についたりしていることが多いです。プロ野球選手のように高額の年俸をもらう人もいますし、成果を出せば、翌年から大きく昇給する可能性もあります。年俸制だと、「時給制のような働いた時間で給料が決められる制度ではない」という意識が強いことでしょう。

しかし、年俸制といってもさほど高額の給与でなかったり、業績によって次年の年俸が大きく下げられたりすることもあります。残業代が払われず、深夜遅くまで働かされたとき、年俸制だからという理由であきらめる必要はありません。「年俸制だと残業代を払わなくてよい」という誤解で、少額の給与でも「年俸制」と呼ぶ会社も増えていますが、年俸制でも残業代は発生します。

今回は、年俸制でも残業代請求ができる理由と、その計算方法、注意点について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 年俸制でも残業代がなくなるわけではなく、単に賃金を年で決めるのみ
  • 年俸制なのに加え、固定残業代、管理監督者などの要件を満たすとき、残業代が払われないことはある

なお、残業代を請求したい労働者に理解してほしい基礎知識は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 未払い残業代を請求する労働者側が理解すべき全知識【弁護士解説】

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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年俸制でも残業代請求が可能

計算

はじめに、年俸制でも残業代請求が可能なことについて、年俸制の基礎知識と、残業代請求ができる理由を解説します。

年俸制とは

年俸制とは、賃金について年単位で決定するという給与体系です。

賃金を年単位で決定することの意味は、1年ごとに、当年の労働者の達成した成果、会社の業績などを評価し、年単位で賃金を増減させることにあります。

「年俸制」という用語は労働基準法に定義がなく、単に「年単位で賃金を決める」ということを、そう呼んでいるにすぎません。給与の決め方の1つの呼び名なのです。ただし、労働基準法では、賃金は毎月1回以上支払わなければならない(労働基準法24条)とされているため、「年に1回支払う」という払い方は違法で、年俸で決めても、毎月支払うこととなります。

残業代請求できる理由

先ほど解説した「年俸制」の定義のとおり、「年俸制」は単なる給与の決め方に過ぎません。そのため、労働基準法に「年俸制であれば残業代は発生しない」という決まりがない以上、原則どおり、残業代請求ができます。

一方で、「年俸制だと残業代は発生しない」という誤解が生じたのは、年俸制が「年単位で成果・業績を評価して給与を増減させる」という成果主義的な発想にもとづく点で、管理監督者、裁量労働みなし制など、労働基準法で残業代を払わなくてもよいとされる他の制度と併用される例が多いためです。

また、年俸は、月給制社員に比べてとても高額となることもあり、高額であるほど「固定残業代として一部は残業代に充当される」という会社の反論も認められやすくなります。

しかし、これらの労働基準法において残業代を支払わなくてもよいとされる他の制度はいずれも厳格な要件があり、「年俸制だから」というだけで有効と認められるわけではありません。これらの制度の有効要件について検討することなく「年俸制だから」という理由だけで残業代が払われないときは、未払い残業代の請求が可能と考えてよいでしょう。

年俸制の典型例として思い浮かぶ、プロ野球選手の例では、たしかに残業代は発生しません。ただ、これは、プロ野球選手がそもそも、雇用契約の「労働者」ではなく業務委託の個人事業主だからです。

残業代について定める労働基準法は「労働者」にしか適用されませんから、プロ野球選手は残業代請求できませんが、その理由は「年俸制だから」ではありません。

年俸制の未払残業代の計算方法

お金

計算式

年俸制でも残業代請求できる理由として、雇用されている労働者であれば「年俸制だから」という理由によって時間規制は変わらないと解説しました。したがって、年俸制のときの未払い残業代の計算方法もまた、他の一般労働者とまったく変わりなく、次のとおり計算されます(労働基準法37条1項)。

残業代=基礎単価×割増率×残業時間

ただし、「基礎単価」の算出方法について特別な注意が必要となる点など、給与体系が「年俸制」であることによって注意しておくべき点がありますので、それぞれ「基礎単価」「割増率」「残業時間」について順に解説します。

なお、残業代の計算方法の基本的な考え方については、下記の解説も参考にしてみてください。

年俸制の「基礎単価」の計算方法

年俸制の「基礎単価」の計算も、一般的な計算と同じく、「月に支払われる金額」から「除外賃金(家族手当・住居手当など)」を控除して計算します。

一般的な「基礎単価」の計算では、賞与(ボーナス)は「臨時に支払われた賃金」という「除外賃金」にあたり、残業代の基礎には含まれませんが、年俸制のときには、賞与(ボーナス)も含めて計算する必要があるケースがあります。

というのも、月給制のとき、賞与(ボーナス)はかならず払われるわけではありませんが、年俸制では、例えば、「年俸額を16で割り、その12を毎月の額、残りの4を賞与にあてる」という制度のとき、賞与(ボーナス)分もかならずもらう権利があります。そのため、賞与にあてられた分についても、残業代の基礎に入れて計算すべきこととなります。

したがって、年俸制の「基礎単価」の計算方法は、次のようになります。

基礎単価=(年俸額-除外賃金)÷12÷月平均所定労働時間

年俸制だと、「基礎単価」を計算する際に、かならずしも毎月もらっている金額だけをベースにするわけではない、という点は、損をしないために重要なのでおぼえておいてください。なお、月給正社員についての「基礎単価」はこちらの解説を参考にしてください。

割増率

残業代請求するときの割増率については、年俸制の社員であっても、一般の社員とまったく変わりはありません。なお、月給制社員についての「割増率」はこちらの解説を参考にしてください。

残業代の割増率
残業代の割増率
スクロールできます
残業代労働の種類割増率
時間外労働法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働25%
(月60時間超は50%)
深夜労働午後10時以降、午前5時までの労働25%
休日労働法定休日(1週1日)の労働35%

年俸制の「残業時間」の把握方法

年俸制でも、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える時間について残業代を請求できますが、年俸制のとき、成果主義的な発想から、会社が労働時間をきちんと把握していないことがあります。

労働者側でも、労働時間に関係なく働き、成果や業績に応じて年単位の給与を決めてもらっているという感覚から、労働時間をきちんと記録していないこともあります。

しかし、年俸制であっても会社は労働時間を把握する義務があります。そのため、年俸制社員にはタイムカードなどを導入していない会社で働いているとしたら、労働者側で、労働時間の記録をしっかりとつけておかなければなりません。

なお、残業代支払の対象となる「労働時間」とは、裁判例で「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています。詳しくは次の解説も参考にしてください。

年俸制で、残業代請求ができないケース

悩む男性

ここまで解説してきたとおり、「年俸制だから」というだけの理由で残業代が払われないというのは間違いなわけですが、一方で、年俸制の労働者の中には、残念ながら残業代請求できないケースがあります。

それは、年俸制とあわせて、労働基準法で残業代請求ができないとされる他の制度が併用されているケースです。注意してほしいのは、このとき残業代請求できない理由は「年俸制だから」ではなく、併用されているその他の制度にあるということです(したがって、月給制社員でも、次の理由があれば残業代請求はできません)。

固定残業代が払われていたとき

1つ目が、年俸の中に、残業代が既に含まれて支払われているというケースです。このようにあらかじめ残業代の全部または一部を支払っておくやり方を、「固定残業代」、「固定残業手当」、「みなし残業代」などと呼びます。

固定残業代・固定残業手当とは
固定残業代・固定残業手当とは

年俸が高額になるとき、そのうちの一部が残業代見合いとしてあらかじめ払われていた、と会社から反論されることがあります。「年俸には、月20時間分の残業代を含む」と就業規則などで定めているケースです。

しかし、年俸の一部を残業手当の前払いと認めてもらうためには、裁判例で、次の要件が必要とされています。

  • 年俸のうち、残業代に充当される部分と、その他の部分が明確に区別できる
  • 年俸に含んで支払われた残業代を超える残業があったとき、差額が支払われている

管理監督者にあたるとき

年俸制で働く人の中には、責任ある役職についていて、かつ、出社は自由、年俸は数千万円という方もいて、そのようなときには「管理監督者」(労働基準法41条2号)にあたり、残業代請求ができません。

労働基準法41条2号では「監督若しくは管理の地位にある者」は、労働時間規制の適用が除外されると定めらています。これを、法律の専門用語で「管理監督者」といいます。

管理監督者は、裁判例により厳しく限定されており、経営者と一体的な立場にあり、労働時間の裁量があり、相応の処遇をされている必要があるとされています。そのため、それほど責任・権限がないときや、給与がそれほど高額でないときには、管理監督者にはあたらず残業代を請求できます。

このように、会社には「管理職」として扱われながら、実際には労働基準法の「管理監督者」にあたらず残業代を請求できる人のことを「名ばかり管理職」といいます。

名ばかり管理職とは
名ばかり管理職とは

裁量労働制

裁量労働制とは、高度に専門的な業務に従事する労働者などについて、実労働時間にかかわらず一定の時間だけ働いたものとみなす制度のことです。

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と、企画業務型裁量労働制の2種類があります。

年俸制で働く人の中には、これらの裁量労働制の適用を受けることで、残業代請求ができない方がいます。ただし、裁量労働制が認められるためには、高度に専門的な業務と認められる一定の職種であることが必要となり、かつ、労働についての一定の裁量がなければ、制度自体が無効であり、残業代請求できます。

高度プロフェッショナル制

高度プロフェッショナル制は、2019年4月より順次施行される働き方改革法の中で導入された制度で、一定の年収要件(年収1075万円)を満たす、高度に専門知識等を有する労働者について、労働時間規制を適用しないという制度です。

この制度が適用されるとき、残業代請求をすることができませんが、一方で、年収要件があり、かつ、年間104日の休日確保をはじめとした健康確保措置が義務とされている厳しい制度です。

請負・業務委託のとき

会社と結んでいる契約が請負・業務委託のときは、労働基準法の「労働者」ではなく、独立した個人事業主です。そのため、労働基準法の適用を受けないことから、残業代も発生しません。

年俸制で思い浮かぶプロ野球選手は、まさにこのような個人事業主の典型例です。

ただし、請負・業務委託で働く個人事業主は、労働法の保護を受けられず、会社と対等で独立した自営業者ですから、保護の必要がないほどに会社から独立していなければなりません。

そのため、形式的には請負・業務委託でも、実際には一社専属であり、会社から具体的な業務指示を受けているというケースでは、実質的には「労働者」であると評価でき、残業代請求を認めてもらうことができます。

まとめ

年俸制だからという理由で残業代請求ができなくなってしまうことはありません。「年俸制なので残業代は払わない」と会社にいわれたとき、更にその理由を問いただしてみてください。

これ以上にくわしい理由が聞けない場合や、聞けたとしても「個人事業主だった」、「管理監督者だった」など、労働基準法で残業代が払われないとする制度が適法にとられていないかぎり、あなたには未払い残業代を請求する権利が残されていると考えてよいでしょう。

年俸制で、十分な高給をもらっていて、なんの不満もないというのであればよいですが、実際には、年俸制といいながら低賃金かつ長時間労働という方も多くいます。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題に注力しており、残業代請求について多くの方からご相談をお寄せいただいております。

残業代請求をお考えの方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。

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