婚約した男女間で起こる浮気のトラブルは、慰謝料を請求して解決できます。
とはいえ、浮気した婚約者への慰謝料を認めてもらうには必要な条件があります。
婚約者の浮気による慰謝料は、裁判実務では、50万円〜200万円が相場。
ただし、寿退社したり妊娠したりしていると、婚約者の浮気で生じる苦痛はさらに大きく、相場よりも高額の慰謝料が認められるケースもあります。
婚約者の浮気を知ったとき、とても大きな精神的苦痛を受けるでしょう。
せっかく婚約し「幸せになろう」とした矢先、浮気によって受けるショックは、はかり知れません。
婚約者の浮気をきっかけに婚約を解消せざるをえなかったり、浮気したにもかかわらず婚約者が婚約破棄して結婚できなくなったとき、悲しみを少しでも癒やすため、慰謝料の請求を検討してください。
- 婚約者に浮気されたとき、条件を満たせば慰謝料請求できる
- 婚約者の浮気の慰謝料は、50万円〜200万円が相場
- 慰謝料を増額するには、婚約者の悪質性をきちんと主張し、証拠を準備する
なお、婚約に関する男女の法律問題については、次のまとめ解説もご覧ください。
浮気した婚約者に慰謝料請求するための条件
はじめに、婚約者の浮気で、慰謝料を請求するための条件について解説します。
婚約者に慰謝料請求するための条件は、次の3つです。
以下では、各要件についてわかりやすく説明します。
なお、結婚後に別の異性と肉体関係をもつことを、法律用語で「不貞」といいます。
一般には「不倫」、「浮気」などともいうこともありますが、婚約の段階にすぎないときはまだ夫婦ではないため、一般的な用語にしたがって「浮気」と呼ぶようにしています。
婚約が成立していること
まず、浮気した婚約者に慰謝料を請求したいとき、そもそも「婚約が成立しているかどうか」を検討しなければなりません。
結婚した夫婦なら、夫(または妻)が他の異性と肉体関係(性交渉)をもてば「不貞」にあたります。
慰謝料請求の対象となって当然です。
しかし、婚約者はまだ交際しているカップルにすぎません。
たとえ浮気が発覚しても、慰謝料請求はできない(もしくは、ごく低額にとどまる)のが原則です。
婚約の段階で慰謝料を請求するには、法的な保護に値する「婚約」が成立している必要があります。
婚約が成立しているなら、結婚までは至っていなくても浮気の慰謝料をもらえます。
法的な保護に値する「婚約」といえるには、単なる結婚の口約束にとどまるのではいけません。
第三者からもわかる程度に、結婚の約束を示す事情が形成されている必要があります。
婚約が成立しているかどうかは、多くの事情を総合して判断します。
1つの事情だけで決まるわけでもないものの、次の事情は、重要な考慮要素とされています。
- 婚約指輪を渡しているか
- 結婚式、ハネムーンの予定が決まっているか
- 両親への挨拶をしたか
- 両家の親族の顔合わせが済んでいるか
- 友人や上司に、将来の結婚相手として紹介されたか
- 結納品・結納金の授受をしているか
- 妊娠しているか
- 寿退社したかどうか
- 同棲しているか(もしくは、新居が決まっているか)
婚約者が他の異性と肉体関係を持ったこと
法的に保護される「婚約」が成立していれば、夫婦に準じて保護されます。
そのため、婚約者が他の異性と肉体関係(性交渉)を持ったならば、浮気の慰謝料を請求できます。
このとき、慰謝料を請求できるほどの浮気といえるには、肉体関係が必要です。
デートをした、頻繁にメールをしていたといった「仲良い異性」の程度では、慰謝料はもらえません。
婚約者が浮気した証拠があること
婚約者の浮気で慰謝料を請求するには、浮気したことの証拠が必要です。
婚約者が、肉体関係のある浮気を否定してきたとき、証拠がなければ、突き崩すことができません。
慰謝料を請求できる浮気だというために、性交渉について証拠で証明しなければなりません。
次の資料は、浮気の証拠として活用できますので、あらかじめ準備しておきましょう。
- 浮気相手とラブホテルに入った写真・動画
- 浮気相手を自宅に宿泊させた証拠
- 性行為したとわかるLINEやメール
浮気によって婚約が破棄・解消されなくても慰謝料請求できる
夫婦の不貞では、「不貞の慰謝料」はもちろん、夫婦が離婚に至れば「離婚の慰謝料」も請求できます。
同じく、婚約者の浮気でも、浮気によって将来の結婚が取りやめになってしまったら、その「浮気の慰謝料」とともに「婚約が破棄・解消されたことの慰謝料」も請求できます。
これに対して、婚約者の浮気が発覚したものの、婚約は解消されず、予定どおり結婚したというケースでも、「浮気の慰謝料」は請求することができます。
ただし、「浮気があったが結婚はした」というケースは、「浮気を理由に結婚が取りやめになった」というケースより、精神的苦痛が小さいと考えられます。
そのため、浮気によって婚約が破棄・解消された場合のほうが、損害が大きいと考えられ、もらえる慰謝料額が高額となる傾向にあります。
浮気した婚約者に慰謝料を請求する方法
浮気の慰謝料を請求する方法には、交渉によって請求する方法と、裁判による方法との2つがあります。
まずは、話し合いで請求する方法を試してみてください。
しかし、浮気した婚約者が、話し合いでは慰謝料支払いに応じてくれないとき、裁判によって強制的に慰謝料を回収する必要があります。
話し合いのほうが、手間や費用をかけず速やかに解決できます。
一方、相手が誠実に応じてこないなら訴訟提起するしかありません。
裁判では、証拠がとても重要となります。
証拠がしっかりと確保できていれば、裁判所の判断で、慰謝料の支払いを命じてもらえます。
浮気した婚約者が、裁判所で勝訴してもなお慰謝料を払わないなら、判決に基づいて強制執行を命じてもらえます。
浮気した婚約者に請求する慰謝料の相場
次に、浮気した婚約者に請求する慰謝料の相場について、当事務所の解決事例をまじえて解説します。
婚約者の浮気で請求できる慰謝料の相場は、おおむね50万円〜200万円が目安です。
慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償請求のこと。
しかし、「精神的苦痛」は目には見えませんから、金銭評価は難しいものです。
そのため、婚約者の浮気の慰謝料について、相場を知りたいなら、実際の解決事例や裁判例で、どれくらいの金額が認められたかを知る必要があります。
相場はあくまで目安にすぎません。
浮気が結婚式の直前だったとか、浮気相手に子どもができてしまったなど、悪質性の高いケースだと200万円以上の慰謝料をもらえたケースもあります。
参考までに、当事務所の扱った解決事例を示しておきます。
慰謝料額 | 考慮された要素 |
---|---|
50万円 | 婚約といえるかについて争いあり |
100万円 | 婚約指輪を渡し、1年間の家族づきあいあり |
200万円 | 結婚式場を決め、すでに寿退社済み |
250万円 | 結婚相手と子どもをつくり、婚約者には堕胎歴あり |
慰謝料額の相場をしっておくことは、損をしない交渉のためにとても重要。
相場を知らずに交渉を進め、本来であればもらえたはずの金額をもらえずに終わり損をしてしまうおそれがある一方、相場より高額すぎる請求に固執してしまうと交渉がうまくいかず、結局納得のいく慰謝料はもらえなくなってしまいます。
浮気の慰謝料額を増額・減額する事情
前章で解説した、婚約者の浮気についての慰謝料の相場(50万円〜200万円)はあくまでも目安。
個別の事情によっては、ケースバイケースで慰謝料が増額されたり減額されたりします。
そのため、浮気の慰謝料の交渉では、(請求する側なら)慰謝料を増額する事情、(請求される側なら)慰謝料を減額する事情を知り、具体的に主張・反論していく必要があります。
慰謝料を増額したり、減額したりする具体的な事情には次のものがあります。
以下では、どんな事情を主張すべきか、わかりやすく解説します。
婚約者が浮気した回数・期間・頻度
婚約者の浮気が発覚したとき、その交際期間がどれくらい長いか、その期間中に何回ほど肉体関係(性交渉)をもったかといった事情で、浮気の悪質性が判断されます。
婚約者が、複数人と浮気していたときは、浮気した人数、肉体関係(性交渉)の頻度なども、婚約者の浮気の悪質性に影響する重要な要素です。
婚約者による浮気のうち、次の例は、悪質性の高いケースです。
- 長期にわたって何度も肉体関係(性交渉)をもったケース
- 浮気相手とも真剣交際だったケース
- 出会い系、マッチングアプリで、不特定多数と頻繁に浮気したケース
- 一度浮気が発覚し、許してもらった後に、さらに浮気を繰り返したケース
何度も浮気を繰り返す悪質な婚約者と、それでもなお関係を継続するなら、もう浮気しないよう誓約書を書かせ、今後のルールを定める方法が有効です。
婚約者が浮気した理由・原因・経緯
婚約者が浮気した理由・原因や経緯もまた、悪質性に影響し、慰謝料の額を増減します。
婚約者が、積極的に誘い、自ら浮気に走ったなら、婚約者の責任の度合いはとても重いです。
したがって、慰謝料を増額すべき事情にになります。
一方で、次のケースのように浮気の責任が軽いといえる場合があります。
- 浮気相手から積極的に誘ってきた
- 会社の上司からセクハラされ、浮気に発展した
- 自分の意思に反して性交渉を強要された
被害者の精神的苦痛の度合い
被害者の精神的苦痛の度合いが強度なほど、慰謝料額が増額される傾向にあります。
精神的苦痛が大きいというために、婚約者の浮気でどれほどの苦痛があったか、具体的に主張する必要があります。
このとき、精神的苦痛は他人には目に見えず理解されづらいもの。
精神科・心療内科などを受診し、診断書をもらうのが有効な方法です。
診断書は、その心身の症状にあわせ、うつ病や適応障害といった精神疾患を書いてもらいます。
浮気後の、婚約者と浮気相手の関係性
浮気が発覚した後、婚約者と浮気相手がどんな関係になったかも、慰謝料の額を増減する重要な事情です。
浮気の発覚後に、婚約者がどんな事後対応をするのかが、婚約者の悪質性に影響するからです。
例えば、次の事情はいずれも、浮気・不倫が発覚した婚約者の事後対応として誠意がないといえます。
したがって、浮気の慰謝料を増額する事情として考慮されます。
- 浮気相手を妊娠させた
- 浮気相手との子どもを認知した
- 浮気が発覚した後、浮気相手と同棲をはじめた
- 婚約を破棄し、浮気相手と結婚することとなった
- 浮気相手に、金銭を与えた(貢いだ)
浮気後の、婚約者と被害者との関係
浮気後に、婚約者が被害者にどう対応するかも、「婚約者の悪質性がどれほど高いか」を評価するのに重要です。
誠意をもって対応しないとき、悪質だと考えられ、慰謝料が増額される傾向にあります。
例えば、次の事情は、浮気後の被害者への対応として不適切、不誠実。
したがって、浮気の慰謝料を増額する事情として考慮されます。
- 浮気したことが証拠上明らかなのに、否定し続ける
- 謝罪しない
- 浮気が発覚した後も反省の態度を見せない
- 浮気は「仕方ない」と開きなおり、さらに相手を傷つけた
- 浮気が発覚した後、婚約を解消して浮気相手と結婚したいと発言した
婚約期間の長さ、結婚準備の程度
婚約は、他の異性と肉体関係(性交渉)をもってはならない点では、夫婦に類似しています。
しかし、すでに結婚している夫婦の関係よりは保護の度合いが低いもの。
婚約にすぎない段階だと、浮気の慰謝料は、夫婦の不貞の慰謝料より低くなりがちです。
そのため、婚約を強く保護してもらうためには、「結婚に近い状態だった」ことが重要になります。
この点で、婚約の期間が長かったり、結婚準備が直前まで進んでいたりすれば、長年の信頼を裏切って浮気した婚約者の責任は、重く評価されます。
同じく、寿退社や同棲、妊娠出産など、結婚準備が進行しているほど、慰謝料は高額になります。
婚約は、結婚とは違って法的な制度ではありません。
それほど結婚の準備が進んでいないと、薄い保護しか受けられません。
結婚と婚約の違いを理解し、できるだけ結婚に近いと主張するのが増額のポイントです。
結婚 | 戸籍に記載される 結婚指輪がある 同居し、子がいることが多い |
婚約 | 戸籍に記載されない 結婚指輪がない 外形的事情がないこともある |
婚約期間が相当長期となるときは、ケースによっては「婚約」ではなく「内縁」ないし「事実婚」としての保護を受けるべき場合もあります。
内縁や事実婚は、籍は入れていないものの夫婦と同等の保護を与えるべきとされます。
そのため、慰謝料をさらに増額することができます。
慰謝料以外に、浮気した婚約者に請求すべきもの
慰謝料とは、精神的苦痛についての損害賠償請求のことです。
わかりやすくいうと、浮気によって負った「心の痛み」の対価が、慰謝料です。
しかし、婚約したにもかかわらず浮気されてしまえば、損害は「心の痛み」だけにとどまりません。
そのため、婚約者の浮気によって婚約破棄になったら、慰謝料以外にも請求すべき損害があります。
慰謝料以外に、認められる可能性のある損害は、次のものがあります。
- 婚約破棄のために中絶したとき、中絶費用、治療費
- 婚約破棄したが出産したとき、出産費用、治療費
- 結婚準備ために支出した金銭
(婚約指輪の購入費用、結婚式・ハネムーンのキャンセル代、新居の初期費用など) - 寿退社したとき、将来得られるはずだった収入(逸失利益)
慰謝料以外に、浮気をした婚約者にどんな金銭を請求できるかは、「因果関係」を検討しなければなりません。
損が出たとしても、浮気と因果関係のある損害でなければ、請求することはできません。
浮気した婚約者に慰謝料を請求する際の注意点
最後に、浮気した婚約者に、慰謝料を請求するとき、注意したいポイントについて解説します。
時効が過ぎると慰謝料を請求できない
注意点の1つ目は、慰謝料請求の時効に注意することです。
消滅時効が過ぎてしまえば、慰謝料を請求することができなくなってしまうからです。
浮気の慰謝料は、不法行為(民法709条)が理由なので、時効は「損害及び加害者を知ったときから3年」です。
ただし、生命または身体を侵害する不法行為なら、時効は5年に延長されます。
時効の考え方は、2020年4月施行の民法改正で大きく変更されました。
浮気相手にも慰謝料を請求できる
婚約者が浮気したとき、慰謝料は、浮気相手にも請求することができます。
浮気相手のほうが積極的に誘っていて責任が大きいとき、婚約者よりむしろ浮気相手のほうが許せないという気持ちも強いことでしょう。
このとき、浮気相手に少しでも多くの慰謝料を請求するには、婚約者の協力も役立ちます。
婚約者が、浮気の事実について証言してくれ、証拠を提供してくれれば、慰謝料の増額が見込めます。
なお、婚約者は受け身で、むしろ浮気相手が積極的に誘ったケースなら、浮気相手への慰謝料請求も検討してください。
まとめ
今回は、「婚約者の浮気が発覚した」という法律相談で、婚約者に慰謝料を請求する方が理解すべき、浮気の慰謝料についての法律知識を解説しました。
浮気の慰謝料の請求方法、相場や増額・減額する事情を、よく理解してください。
婚約し、幸せの絶頂だと信じていたとき、裏切られたショックはとても大きいでしょう。
婚約者の浮気でもらえる慰謝料の相場は50万円〜200万円が目安ですが、少しでも多くの慰謝料を請求するには、婚約者の悪質性をしっかりと証明できるよう準備が欠かせません。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、男女問題にまつわるケースに精通しています。
婚約破棄の慰謝料請求についても多くの実績があります。
婚約者の浮気で払ってもらえる慰謝料を増額するための事情をよく知るのが大切。
証拠収集の段階から、サポートをお任せいただけます。
婚約者の浮気にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
婚約者の浮気についてよくある質問
- 浮気した婚約者に請求できる慰謝料に相場はありますか?
-
婚約者の浮気について、請求できる慰謝料の相場は50万円〜200万円程度が目安です。もっと詳しく知りたい方は「浮気した婚約者に請求する慰謝料の相場」で事例を踏まえながら解説します。
- 浮気した婚約者に請求する慰謝料を増額するための方法は?
-
婚約者の浮気について、より高額の慰謝料を認めてもらうためには、婚約者の悪質性を主張することが大切です。もっと詳しく知りたい方は「浮気の慰謝料額を増額・減額する事情」をご覧ください。