「婚約は、どこから法的な効力を持つのですか?」という相談があります。
結婚を控えたカップルでも、将来に不安を抱いたり、パートナーとの関係性に悩んだりする方は少なくありません。「婚約」という言葉は身近に使われるものの、その法的な意味合いについて明確に理解されていないことも多いようです。
婚約には、法律上の明確な定義は設けられていません。しかし、過去の裁判例では、婚約が成立した後に一方的に破棄された場合、慰謝料の請求を認めたケースも存在します。口約束でも成立する可能性がある一方、破談となった場合の損害賠償請求が認められるかどうかは、状況によっても異なります。婚約に伴う法的なトラブルを未然に防ぐには、その意味を正しく理解し、裏付けとなる証拠を集めておくことが大切です。
今回の解説では、婚約とはどのようなものかという基本から、必要となる証拠、婚約破棄に伴う責任などについて、弁護士が解説します。
- 互いに婚姻する意思が合致することによって、婚約が成立する
- 口約束でも婚約は成立するが、証明するためには証拠が必要
- 婚約破棄の責任を追及するために、証拠は複数揃えることが重要
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婚約とは?

まず、婚約の法的な意味や、プロポーズとの違いといった基本から解説します。
婚約の法的な意味
現在の日本の法律には、「婚約」について明確に定義した規定は存在しません。
過去の裁判例では、「婚約」は婚姻の予約にあたり、「婚約者は互に誠心誠意交際し、将来夫婦となるよう努める義務を負う」とされています(東京高裁昭和43年3月5日判決)。
結婚はあくまで当事者の自由な意思に基づくもので、婚約したからといって必ず結婚を強制できるわけではありません。しかし、婚約関係にあったにもかかわらず一方的に破棄されたら、相手に損害賠償を請求できる可能性があります。例えば、最高裁昭和33年4月11日判決は、「内縁を不当に破棄された者は、相手方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、不法行為を理由として損害賠償を求めることもできる」と判断しています。
したがって、婚姻届の提出前でも、法的に「婚約」が成立していれば、破棄した側に法的な責任が生じるのです。
婚約は、将来の結婚に向けて当事者が真剣に意思を固めたことを示すプロセスの一部です。結婚指輪の交換、結納や結婚式の準備、親族への紹介など、婚姻を前提とした具体的な行動も、婚約の成立を裏付ける要素となります。
婚約とプロポーズの違い
「婚約」と「プロポーズ」は混同されがちですが、法的には全く意味合いが異なります。
婚約は、将来結婚することについてお互いが合意することで成立します。これに対し、プロポーズは片方からの一方的な申込みに過ぎず、これだけで婚約が成立したとはいえません。
したがって、婚約が成立するには、プロポーズに対して相手が承諾することが必要です。たとえプロポーズをしても、相手が回答を保留したり、断ったり、明確に同意を示さなかったりした場合には、婚約は成立しません。
「婚約中の浮気の責任」の解説

婚約はどこから成立するのか

次に、どこから婚約なのか、判断の参考とすべき事情を解説します。
婚約の成立は、当事者双方の合意によりますが、どこから効力を有するのかが争いとなることも少なくありません。どのような基準で婚約の成立が判断されるか理解することが重要です。
婚約の法律上の成立条件
婚約が成立するには、当事者双方の真摯な意思に基づく婚姻の合意が必要です(大審院昭和6年2月20日判決)。つまり、冗談や酔った勢いでプロポーズし、相手がそれに応じたとしても、それだけでは法的に婚約とは評価されません。
婚約可能な年齢について明確な法律の定めはありませんが、裁判例では、たとえ婚姻適齢に満たない場合でも、婚約が当然に無効になるとは限らないとされています(大阪高裁昭和5年7月31日判決)。一般的には、15歳以上であれば単独で婚約の意思表示が可能であると解されています。
婚約は当事者間の合意なので、法律上は家族の同意を要件としません(ただし、親族が強く反対している場合など、事前に配慮すべきケースもあります)。
「義理の両親からの離婚強要」の解説

婚約は口約束でも成立する?
婚約は、当事者間の契約なので、決まった形式はなく、口頭の合意でも成立します。
しかし、口約束による婚約は、その存在を証明するのが困難であり、「軽率な言葉のやり取りに過ぎない」と受け取られるおそれもあります。例えば、カップル間で日常的に「いつか結婚しよう」と雑談していたとしても、それだけでは婚約の成立は認められません。
最終的には、当事者の言動、交際の経緯、周囲の認識、将来に向けた具体的な行動など、総合的な事情を踏まえ、社会通念上「婚約が成立していた」と判断できるかどうかがポイントです。
なお、過去の判例では口約束で婚約が認められたケースがありますが、求婚をきっかけに交際を開始し、互いに結婚するつもりで付き合いを続けたという背景がある事例で、軽い口約束で婚約の成立を認めたわけではありません
幼馴染だった男女が、21歳頃から情交関係を伴う交際を5年以上続けていたものの、男性が別の女性と事実上の婚姻をするに至った事案。
女性が婚約破棄を理由に慰謝料請求をした点について、裁判所は「真実夫婦として共同生活を営む意思で婚姻を約し、長期にわたり肉体関係を持ち続けていた」ことを理由に、双方の婚姻の意思は明確であったと認定し、慰謝料の請求を認めました。
なお、親兄弟に相手を紹介していない、結納や同棲をしていなくても、婚約は成立するという判断も示されています。
婚約に至るまでの一般的な流れ
婚約は、出会ってすぐ成立するものではなく、一定の交際期間を経て、互いが将来の結婚について合意することで成立します。
婚約に至るまでの一般的な流れは、以下の通りです。
- 交際と将来についての話し合い
交際を通じて、互いの価値観や将来設計を共有し、結婚を視野に入れた関係性を構築していきます。 - 結婚の意思を確認(プロポーズと受諾)
プロポーズとその受諾によって婚約が成立します。形式的なものであっても、受け入れた後に結婚準備を具体的に進めていれば、婚約の意思があったと評価されます。 - 家族への紹介や同居の準備
互いの家族への紹介や、結婚を前提とした同居も、婚約を裏付ける一事情となります。 - 婚約指輪や結納、婚約書の取り交わし
婚約指輪や結納の交換、婚約の意思を記した文書の作成なども、婚約の成立を補強する事情となります。
このように、婚約までの進め方に明確なルールはなく、当事者の合意とその裏付けとなる様々な事情の積み重ねによって進みます。
外形的な事情があると婚約成立と評価されやすい
婚約が口約束だけだと、その成立を客観的に立証することは難しいです。しかし、口約束に加え、以下のような外形的な事情があれば、婚約成立と評価されやすくなる傾向にあります。
婚約指輪の授受
高価な指輪の贈与は、一般的に婚約の意思を示すものとされます。
そのため、婚約指輪の購入や授受の事実があれば、婚約の証拠となります(なお、指輪を授受しても、どちらか一方が結婚に反対していれば、婚約は成立しません)。
なお、婚約が破断となった場合、婚約指輪の返還が問題となります。婚約を前提にやり取りした指輪や金品は、不当利得として相手に返すのが通例ですが、一方に重大な非(浮気やDV、親族への非礼など)がある場合、返還義務の有無が争いになります。
家族への紹介
結婚を考えるほどの間柄なら、家族に紹介することは珍しくありません。この場合、結婚を意識した交際であることが周囲に伝わるので、婚約を推認させる一事情となります。
友人や職場への紹介
友人や職場への紹介も、状況次第では婚約を裏付ける材料となります。
結婚式への招待や社長への挨拶の依頼など、具体的な話が進んでいるほど、婚約をしていたと判断されやすくなるでしょう。いわゆる「寿退社」を前提に交際の事実を告げていた場合、婚約破棄による影響が大きく、法的な責任を問われやすくなります。
結納
結納は、両家が婚約の成立を確認する儀式であり、重要な証拠となります。ただし、昨今は簡略化や省略されるケースもあり、結婚を前提とした食事会や顔合わせなど、代替となるイベントを実施する場合、それも婚約の成立を裏付ける事情となります。
その他の事情
その他にも、結婚やその後の共同生活に向けた具体的な動きがあれば、婚約の存在が認められる可能性があります。
- SNSやメールでの結婚意思の表明
- 同棲の開始や引越し準備
- 避妊をしない性交渉、不妊治療の開始
- 結婚式場の予約や招待状の準備
- 共同生活のための契約行為(賃貸借契約、家具購入など)
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婚約を証明する方法

婚約に関するトラブルが生じたとき、最も重要なのが「婚約の事実を証明できるかどうか」です。特に、慰謝料請求を訴訟などの法的手段で進める場合、証拠の有無が結論を大きく左右します。
以下では、婚約の成立を証明するための代表的な証拠について解説します。
- 書面による婚約書・覚書
最も明確な証拠は、当事者間で交わされた書面です。書式に決まりはありませんが、婚約の事実を証明するには、当事者双方の氏名、婚約の合意日、結婚の予定日や時期などを記載しておくことが望ましいです。 - LINE・メールなどのメッセージ履歴
「結婚しよう」「◯月◯日に両親に挨拶に行こう」「式場はどこにする?」といった具体的な会話が残っていれば、婚約があったと認められやすいです。ただし、恋愛感情の表現や冗談にとどまる内容では証拠としての価値は低く、結婚に向けた真剣な合意がうかがえる内容であることが重要です。 - 指輪や結納金の授受
結婚指輪や結納金の授受は、婚約を強く推認させます。ただし、金品のやり取りだけでなく、それが婚約の意思に基づくことが重要です。 - 周囲の証言(家族・友人など)
当事者の周囲の人物による証言も、有力な証拠となります。- 両家顔合わせに同席した親族の証言
- 結婚準備の相談を受けた友人の証言
- 結納に立ち会った人の証言
- SNS投稿や写真など
近年では、SNS上での婚約発表や写真(両家の顔合わせやプロポーズの写真、式場見学やドレス試着の様子など)が証拠として用いられることもあります。 - 同居の実態
婚姻を前提とした同棲や、家計の共有、共同名義での契約なども、婚約の実態を裏付ける証拠となります。 - 結婚式場との契約・招待状の作成
結婚式場の予約や、結婚式の案内状(招待状)などは、婚姻を前提とした準備行為であり、有力な証拠です。式場キャンセルに伴う損害の負担が争いになることもあるので、必ず契約書や領収書などを保存しておきましょう。
以上の証拠は、それぞれ単体でも一定の効果はありますが、複数を組み合わせることで証明力が一層強化されます。したがって、婚約の成否が争点となる可能性のあるときは、日頃から証拠を意識して記録・保管しておくことが重要です。
「離婚裁判で証拠がないときの対処法」の解説

婚約の法的効力と責任について

最後に、婚約に伴う法的な責任について解説します。
婚約が成立すると、当事者双方は、正当な理由がない限り将来結婚するという合意を誠実に履行すべき義務を負います。そのため、一方的かつ不当な理由で婚約を破棄した場合、債務不履行や不法行為に基づく法的な責任が生じます。したがって、正当な理由のない破棄については、損害賠償の対象となる場合があります。
正当な理由のない婚約破棄は、例えば次の通りです。
- 相手に対する気持ちが冷めた。
- 他に好きな人ができた。
- 性格の不一致が気になり始めた。
- 将来が急に不安になってきた。
- 親や友人からの反対で心が折れた。
- 仕事が忙しくて結婚する気がなくなった。
婚約者が浮気していた場合、慰謝料を請求する余地があります。実際、婚約中の貞操義務を認め、不貞行為を理由に損害賠償請求を認めた裁判例も存在します(佐賀地裁平成25年2月14日判決)。もっとも、婚約中の貞操義務の強さについては議論のあるところで、仮に認められるとしても、夫婦間の不貞に比べれば、請求できる慰謝料額は低めになる傾向があります。
結婚式場や新婚旅行のキャンセル料など、婚約破棄に伴う損失があるときは、基本的には「どちらの原因で婚約破棄に至ったか」を基準に判断します(当事者の合意があれば、折半で負担するケースもあります)。なお、婚約破棄の責任は、民事の問題であり、刑事責任を問われることはありません。ただ、婚約破棄を切り出されたのがきっかけで暴行トラブルなどに発展する例もあるので、冷静に対応してください。
「浮気した婚約者に慰謝料を請求できる条件」の解説

まとめ

今回は、婚約がどこから成立するのかについて解説しました。
婚約とは、単なる「口約束」ではなく、当事者間で結婚の意思が合致した場合に成立する、法的にも一定の効果を持つ合意です。書面がなくても成立することはありますが、後日のトラブル回避のためにも、婚約を証明できる外形的な事実(婚約指輪、結納、家族との顔合わせなど)を証拠に残しておくことが重要です。
婚約成立と認められれば、一方的な破棄には法的責任が生じることもあり、慰謝料や損害賠償を請求されるリスクもあります。そのため、安易な婚約は避け、慎重に進める必要があります。
「自分達の関係が婚約にあたるか」「トラブルになったら、どう対応すべきか」など、不安がある場合は、弁護士に早めに相談することが大切です。
- 互いに婚姻する意思が合致することによって、婚約が成立する
- 口約束でも婚約は成立するが、証明するためには証拠が必要
- 婚約破棄の責任を追及するために、証拠は複数揃えることが重要
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婚約破棄では、「婚約」の解消にあたって生じる法的なトラブルに適切に対処しなければなりません。「まだ結婚していないから」と軽い考えではいけません。結婚前でも「婚約」に至れば法的な保護を受けるケースもあります。
破棄した側、された側のいずれも、以下の「婚約破棄」に関する詳しい解説を参考に、正しい対応を理解してください。