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研修は労働時間に該当する?研修の残業代が出ないときの対処法

会社の研修に参加したのに「労働ではないから残業代は出ない」と言われることがあります。

法律的には、「研修」や「教育」も、使用者の指揮命令下に置かれている場合には「労働時間」に該当し、残業代が支払われるのが原則です。「自己成長が求められる」「スキルアップのため」「任意参加だから」などの理由付けで、無給で研修に参加させようとする企業は後を絶ちませんが、実質的に強制参加なら「労働時間」に該当します。

実際、研修の中には、参加が強制されてたり、業務に必須のスキルや資格の取得を目的としたり、就業時間外の自主学習が求められたりするものもあります。形式は任意参加でも、欠席すると業務上の不利益を受ける場合、強制に等しいと言えます。

今回は、研修が労働時間に該当するかの判断基準と、未払い残業代を請求する方法について、弁護士が解説します。「研修=無給」は違法の可能性があることを知り、正当な賃金を取り戻すための参考にしてください。

この解説のポイント
  • 研修や教育、訓練の時間も「労働時間」であれば残業代が支払われる
  • 労働時間に該当するかどうかは、業務との関連性の強さがポイント
  • 明示的に参加を指示されなくても、欠席に不利益があるなら事実上の強制

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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研修・教育訓練と「労働時間」の考え方

時間

労働基準法の「労働時間」とは、裁判例上、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。そして、この「労働時間」が「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超える場合、労働者は会社に対して残業代を請求することができます。

研修や教育訓練に費やした時間が「労働時間」に該当するなら、その時間も残業代計算の対象となります。その結果、研修時間を「労働時間」とは認識していなかった会社では、未払いの残業代が発生します。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年、厚生労働省)も、「参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」は「労働時間」であると明示されています。

一方で、会社側からは以下のような反論が想定されます。

  • 会社が費用負担しているので対価は十分である。
  • 社員のスキルアップのために実施しているので「労働時間」ではない。
  • 研修や教育訓練は直接的な利益を生まないから業務ではない。
  • 任意参加なので、嫌なら参加しなければよい。

しかし、これらの主張が本心なら、そもそも研修や教育訓練は必要ないでしょう。従業員自身がスキルアップを望み、自発的に社外の研修を受講する選択もできるはずです。実際には、次のような会社の本音が、背景に潜んでいることも少なくありません。

  • 活躍のためには、研修を受けてもらう必要がある。
  • しかし、研修自体は利益を生まないので、給与や残業代は支払いたくない。
  • 残業代を避けるため任意参加にしたが、上位の役職者には必ず参加してほしい。

このように、会社の表向きの主張と実態に乖離がある場合、労働者は「参加せざるを得ない」空気を感じ取り、実質的には強制参加となっているケースも見受けられます。悪質な例では、研修に参加しないことで人事評価が下がったり、上司から指導や圧力を受けたりすることもあります。

このような状況では、労働者が「使用者の指揮命令下に置かれている」と評価すべきであり、その時間は「労働時間」に該当するものとして、残業代の支払い対象となります。

研修・教育訓練が「労働時間」かどうかの判断基準

考える女性

研修や教育訓練が、労働基準法上の「労働時間」に当たるか、つまり、残業代の対象となるかどうかの判断基準について解説します。基本は、通常の業務と同じく「使用者の指揮命令下に置かれているか」がポイントです。ただし、研修や教育訓練は業務そのものではないので、その内容や性質によって個別の判断が必要です。

なお、以下の各基準は、いずれか一つで決まるものではなく、総合的に考慮される要素です。

【基準1】明示の指示があるか

会社側から明確に「研修や教育訓練に参加するように」と指示を受けた場合、その時間は使用者の指揮命令下にあるとされ、「労働時間」として残業代の対象になります。

指示の形式は問わず、社長や上司からの口頭の指示はもちろん、入社時の案内なども含まれます。また、明示の指示がない場合でも、実質的に従わざるを得ない状況ならば、黙示の指示・命令があるとして「労働時間」だと考えるべきケースがあります。例えば、業務上必要な資格取得のために、会社が指定した研修を受講しなければならない場合などがこれに当たります。

黙示の指示」の解説

【基準2】業務時間内に実施されたか

会社が定める始業時刻から終業時刻まで間を「所定労働時間」といいます。

所定労働時間内は、労働契約に基づいて業務に専念する義務があり、この時間内に実施される研修は、原則として業務の一環と見なされ「労働時間」に該当します。所定労働時間内の研修は、業務そのものと考えられ「使用者の指揮命令下に置かれている」ことが明らかです。

また、所定労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)より短い場合、その終了後から法定労働時間までの時間に行われた研修も「法定時間内残業(法定内残業)」となります。

法定時間内残業(法定内残業)」の解説

【基準3】研修費用が会社の負担か

研修や教育訓練にかかる費用(講師料、外部研修費、飲食代など)を会社が負担している場合、その研修は企業の利益を目的としていると考えやすいです。したがって、会社が費用負担をしている場合、労働基準法の「労働時間」と評価される可能性が高くなります。

特に、高額な外部研修や著名な講師による講義など、企業が費用を投じて実施している研修は、会社主導であることが明白です。

【基準4】参加が任意か強制か

表向きは「任意参加」とされていても、実際には参加しなければ不利益を被る状況であれば、事実上の強制と見なされます。例えば、次のような不利益がある場合、強制参加と同様に扱われ、「労働時間」と評価されて残業代が支給されるべきです。

  • 不参加により注意や叱責を受ける。
  • 人事評価にマイナス影響がある。
  • 参加しないと重要な業務を任せてもらえない。
  • 欠勤扱いとなり給与が差し引かれる。
  • 上司や経営者からの圧力や嫌がらせがある。

このような事実上の強制参加となっている研修・教育訓練もまた、労働基準法の「労働時間」にあたり、残業代請求の対象となります。

【基準5】業務との関連性の有無

研修や教育訓練の内容が、会社の業務と密接に関連している場合、業務遂行に必要な活動とみなされ、「労働時間」に該当する可能性が高くなります。これに対し、英会話レッスンや一般的なパソコンスキル、ビジネスマナーやヨガなど、勤務先の業務と直接の関連性がない内容の場合、労働時間とは評価されにくい傾向があります。

【基準6】報告義務や課題の有無

研修後に会社への報告が求められたり、課題の提出や試験の合格が必要とされる場合、その研修時間は「使用者の指揮命令下にある」と評価されやすくなります。この場合、その課題や試験そのものに要した時間のみならず、それに先立って受講した研修や、関連する自己学習の時間も「労働時間」として扱われる可能性があります。

【基準7】法令による受講義務の有無

社員が受ける研修の中には、法令で受講が義務付けられているものもあります。

労働安全衛生法に基づく「安全衛生教育」や、消防法に定められた「消火訓練」「避難訓練」などは、法令によって受講が義務付けられている研修は、当然ながら業務の一環とされ、「労働時間」に含むこととなります。したがって、法定労働時間外に行った場合、残業代の支払いが必要です。

研修と労働時間について具体例で解説

はてな

最後に、ここまで解説した判断基準をもとに、研修・教育訓練が、労働基準法の「労働時間」にあたるかどうかについて、具体例を示して解説します。

労働時間にあたる例

研修・教育訓練の時間が、労働基準法の「労働時間」にあたる例とは、明示の指示がある場合、または黙示の指示があると評価できる場合です。不参加の社員に対して事実上不利益な扱いがされるときは、「労働時間」に該当し、残業代を請求できます。

次の裁判例(大坂地裁平成22年10月29日判決)のように、明示的なペナルティが課せられていなくても、課題があったり、遅刻や欠席時に指導がなされたりといった事情のある勉強会は「労働時間」にあたると判断した事例があります。

被告は、勉強会への参加は、共同経営者として広く社会状況をつかむための場であり、業務とは直接関連性・対応性がない小(ママ)参加者による自主的サークル活動であって、仮に欠席したり成果が出なくとも、業務に支障が一切ない活動であり、何らペナルティが課されることはないことから、労働時間には該当しないと主張する。…(略)…勉強会は、被告によって、予め参加者が割り振られており、日時及び場所が決められていたこと、被告従業員には、勉強会に参加した後にその内容に沿った「投稿(感想文のようなもの)」を起案して被告の掲示板へ投稿するよう求められていたこと、勉強会に遅刻したり、欠席すれば、上長から指導を受けたこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、勉強会は、たとえ、参加しなかったからといって何らかのペナルティを課せられるものではなかったとしても、自主的なサークル活動であるとは認め難く、結局のところ、被告の指揮命令下において実施されていたと認めるのが相当である。そうすると、原告が勉強会に参加した時間は、労働時間であると認めるのが相当である。

大阪地裁平成22年10月29日判決

労働時間にあたらない例

一方、労働者が自発的に望んで参加した研修・教育訓練や、会社の業務とは直接の関連性のないものの場合、労働基準法の「労働時間」にはあたりません。会社が善意で提供する研修が魅力的で、自分の時間を使ってでも学びたいと考えるなら、その研修に賃金・残業代は発生しません。

裁判例(大阪高裁平成22年11月19日判決)でも、労働者個人のスキルアップとなるWEB学習について、「労働時間」にはあたらないとして残業代請求を認めなかった事例があります。

WEB学習は、パソコンを操作してその作業をすること自体が、控訴人が利潤を得るための業務ではなく、むしろ、控訴人が、各従業員個人個人のスキルアップのための材料や機会を提供し、各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものであるといえる。…(略)…そのような試験が行われているわけでもない。…(略)…WEB学習の推奨は,まさに従業員各人に対し自己研鑽するた(ママ)のツールを提供して推奨しているにすぎず、これを業務の指示とみることもできないというべきである。

したがって、WEB学習の上記のような性質・内容によれば、これに従事した時間を、労務の提供とみることはできないというべきであり、これを業務の一環として実施するよう業務上の指示がなされていたとも評価できないことから、被控訴人がWEB学習に従事した時間があったとしても、それを控訴人の指揮命令下においてなされた労働時間と認めることができない。

大阪地裁平成22年11月19日判決

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、研修の時間が、労働基準法の「労働時間」に該当するケースについて解説しました。

研修でも「使用者の指揮命令下」にあるなら残業代が発生します。研修でも、業務上の必要性があり、参加が事実上強制される場合は、労働時間として扱われて残業代の支払い義務があります。会社が「自主参加」「無給が当たり前」と説明していても、法的に誤りであるときは、会社と戦って残業代請求をすべきです。

もし、研修に参加したにもかかわらず賃金や残業代が支払われない場合、証拠を残して会社に説明を求め、適正な残業代を算定してください。会社が誠意ある対応をしないときも、泣き寝入りはせず、弁護士への相談も検討するのが有効です。

この解説のポイント
  • 研修や教育、訓練の時間も「労働時間」であれば残業代が支払われる
  • 労働時間に該当するかどうかは、業務との関連性の強さがポイント
  • 明示的に参加を指示されなくても、欠席に不利益があるなら事実上の強制

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