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付加金と遅延損害金を請求することで、残業代請求を増額する方法

残業代を請求するときには、付加金と遅延損害金をあわせて請求することで、できるだけ多くの金額を回収するのが大切なポイントです。

残業代請求が、労働審判・訴訟など法的手続きになって長期化したとき、苦労を重ねたにもかかわらず「本来払ってもらえるのが当然な残業代をもらっただけでは、得した気持ちがしない」と考えることでしょう。残業代は、自分が働いた対価であり、法律上当然に払われるべきものです。会社が支払いを拒否しつづけたためにトラブルが長期化したのに、当然払われるはずの残業代だけでは到底満足とはいえないケースもあります。

このとき「争いに長期間かかったこと」を理由にして請求額を増やせるのが、今回解説する「付加金」と「遅延損害金」です。いずれも、会社がゴネて長期間かかってしまったことに対する制裁の意味があります。ただし、いつでも請求できるわけではなく、悪質だと裁判所が認定したことなど、一定の要件が必要です。

今回は、残業代請求のとき、付加金・遅延損害金もあわせて請求する方法と、支払いを認めてもらうための注意点について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 残業代請求で回収額をできるだけ増やすには、付加金・遅延損害金もあわせて請求する
  • 付加金は、訴訟で残業代を請求し、判決で命令されてはじめてもらうことができる
  • 遅延損害金は、退職前、退職後で利率が異なるため、正しく算出するよう注意が必要

なお、未払い残業代を請求する方に知っておいてほしい法律知識について、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 未払い残業代を請求する労働者側が理解すべき全知識【弁護士解説】

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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残業代請求と「付加金」の請求

お金

付加金とは、会社が労働者に対して、労働基準法に定めた一定の金員を支払わなかったとき、裁判所が労働者の請求によって、その未払金とは別に、未払金と同一額を上限として支払いを命じることのできる金銭です。

付加金について定めた労働基準法114条は、次のとおりです。

労働基準法114条(付加金の支払)

裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から5年以内にしなければならない。

労働基準法(e-Gov法令検索)

付加金は、悪質な未払いに対する制裁の意味があります。

会社の未払金について制裁がないとすれば、悪質な会社のなかには「裁判で負けたら支払えばよい」と考えて、ひとまず支払いを拒絶しておこうと考える会社もあることでしょう。このような最悪のケースを回避するために、悪質な未払いに対する制裁として定められたのが付加金なのです。

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付加金の対象

付加金の対象となる未払金には、次のものがあります。

  • 解雇予告手当(労働基準法20条)
  • 休業手当(労働基準法26条)
  • 時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜労働割増賃金(労働基準法37条)
  • 年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条6項)

これらのお金は、会社が労働者に対して支払うべきと労働基準法に定められているもので、未払いがあるときには、裁判所は付加金の支払いをあわせて命じることができます。

このうち、最も重要なのが「割増賃金」、つまり、残業代です。

なお、いずれの場合にも、付加金は、悪質であると判断して裁判所が支払いを命じるときにはじめて支払われるもので、未払いがあるだけで認められるわけではありません。

付加金の金額

付加金の金額は、「未払金と同一額」を上限として裁判所が命じる金額となります。

つまり、請求できる金額は、付加金が命じられることによって最大で2倍まで増額できるというわけです。例えば、未払い残業代が100万円認められたとき、悪質な未払いとして裁判所がもう100万円の付加金を命じてくれれば、もらえる金額は200万円になります。

付加金の金額
付加金の金額

ただし、あくまでもこの金額は「上限」であるため、裁判所は、未払いの悪質性の程度に応じて、それより低い金額の付加金を命じることもあります。

なお、請求すべき残業代の金額がいくらかについては、次の解説を参考にしてください。

付加金の請求期限

付加金の請求期限は、「違反のあったときから5年以内にしなければならない」(労働基準法114条)と定められています。この付加金の請求期限は、各未払金の支払期限から起算します。

なお、2020年4月1日に施行された改正民法の関係で、付加金の請求期限は従来の2年から5年に延長されましたが、経過措置として当面は3年とされています。

これは、法律の専門用語で「除斥期間」といわれる期間であり、時効とは違って「中断」することができません。そのため、この除斥期間が経過したら、会社が援用することなく、付加金の請求権は消滅してしまいます。

これに対して、残業代の消滅時効は3年(2020年4月1日の改正民法施行〜)とされていますが、この消滅時効は、労働審判を申し立てたり、訴訟を提起したりすることによって時効中断をすることができます。

付加金が認められるための要件

ポイント

次に、付加金が認められるための2つの要件について解説します。

労働者側にとって、受けとれる残業代を倍増することのできる付加金ですが、どんな場合でももらえるわけではありません。あくまでも、未払いが悪質であるとして裁判所が命令してはじめて、付加金を受けとれるのです。

裁判所が判決で命令すること

付加金は、労働者が請求をすれば必ず認められるものではなく、裁判所が判決により支払いを命令することではじめて支払い義務が生じます。

残業代は、労働基準法に定められている要件(一定時間以上の労働など)を満たせばかならず認められます。これに対して、付加金は、裁判所が判決によって命じなければもらえません(「判決」で命じる必要があるため、「労働審判」では付加金はもらえません)。

このとき、裁判所が支払いを命じるかどうかを決めるときの判断基準は、次のような事情が参考にされます。付加金には制裁の意味合いがあるため、未払いが悪質であることが重要です。

  • 会社側の労働基準法違反の程度
  • 未払いとなっている金額
  • 法違反の改善の程度
  • 労働者側が受けた不利益の内容・性質・程度
  • 労働問題の交渉の経緯

「事実審の口頭弁論終結時」まで未払であること

もう1つとても重要なことが、付加金をもらうためには、裁判所が判決で命令しなければならないこととの関係上、会社による悪質な未払いが、「事実審の口頭弁論集結時まで継続していること」が必要となります。

つまり、日本の裁判は「三審制」といって、第一審で負けても控訴審、上告審と3度の審理を受けることができますが、このように争いを継続していく中で、会社が未払い残業代を支払ってしまったときには、もはや悪質な未払いは継続しておらず、付加金をもらえなくなってしまいます。

三審制とは
三審制とは

このことは、最高裁判例(最高裁平成26年3月6日判決)で、次のとおり示されています。

労働基準法114条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法37条の違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなると解すべきである

最高裁平成26年4月6日判決

日本の裁判制度の「三審制」のうち、第一審、控訴審を「事実審」といい事実についての審理、最高裁で行われる上告審を「法律審」といい、事実関係は争うことができず法律の解釈についての争いが行われます。

このうち、付加金をもらうためには、事実審の終了時まで、悪質な未払いが継続していなければ、裁判所の判決によって付加金を命じてもらうことができないということなのです。つまり、会社側の立場からすれば、残業代を払うよう命じられてしまいそうなとき、付加金を避けようとすれば、控訴審が終わるまでに支払っておけばよいということを意味しています。

付加金を請求する方法と、注意点

お金の注意点

未払い残業代の請求は、まずは通知書を会社に送付して交渉を行い、交渉で合意できないときは、労働審判や訴訟などの法的手続きで請求をします。

付加金もまた、この未払い残業代の請求の流れと同時に行いますが、付加金に特有の請求時の注意点があります。

内容証明で付加金を請求する方法

未払い残業代を請求するとき、まずは請求する金額を記載した通知書を、内容証明の形式で会社に送付します。内容証明を使うのは、将来の裁判のために証拠を残しておく必要があるからです。内容証明であれば、その送付日・到着日、送付した文書の内容を、郵便局が証拠化してくれます。

内容証明とは
内容証明とは

内容証明に記載する請求額として、未払い残業代の金額とともに、「同額の付加金を請求する」と記載しておくのがおすすめです。ただし、前章で解説したとおり、付加金はあくまで裁判所の判決による命令がなければもらうことはできず、交渉で会社が付加金を支払ってくれるとは到底期待できません。

そのため、「現時点ですぐに払ってくれるのであれば付加金は不要だが、裁判に移行するときには、付加金も含めて厳しく請求する」というように伝えて、付加金を交渉材料として使う方法が有効です。

労働審判で付加金を請求する方法

交渉で会社が未払い残業代を支払ってくれないときには、労働審判の申立てをします。

前章で解説したとおり、付加金は、判決で命令してもらう必要があるため、労働審判で付加金をもらうことはできません。

ただし、労働審判に対して異議申立てをしたときは訴訟に移行しますが、その際、最初に提出した「労働審判申立書」が「訴状」とみなされることとなっているため、労働審判申立の段階でも、付加金の請求を記載しておくのが実務の対応です。

訴訟で付加金を請求する方法

最後に、未払い残業代のトラブルが訴訟にまでもつれこんだときには、まさに付加金を請求すべきケースといえます。

訴訟における判決で、裁判所が未払いの悪質性を認め、付加金を認めてくれれば、もらえる金額を増額することができます。また、「付加金を命じられてしまうかもしれない」というおそれが、会社が和解に応じて支払いをしてくれる可能性を高めてくれます。

そのため、訴訟で残業代請求をするときには、付加金の請求を行い、かつ、会社の未払いが悪質であることを裁判所に強く主張していくようにしましょう。

残業代請求と「遅延損害金」の請求

お金

遅延損害金とは、債務不履行によって発生した損害の賠償のことをいいます。

冒頭で解説のとおり、支払を遅らせてもまったく増額しないのであれば、「後倒しすればするほど得」となってしまいます。遅延損害金があることで、その分の利息を追加で支払わなければらなくなり、早く払おうという動機が生まれるのです。

遅延損害金の利率

未払い残業代のトラブルで、残業代に適用される遅延損害金の利率は、次のとおりです。

スクロールできます
未払い時期適用される法律利息
残業代の遅延損害金(退職前)
(2020年3月31日以前の未払い)
旧民法の商事法定利率年6%
残業代の遅延損害金(退職前)
(2021年4月1日以降の未払い)
現民法の民事法定利率年3%
残業代の遅延利息(退職後)賃金支払確保法の遅延利息年14.6%

重要なポイントは、2021年4月1日より施行された改正民法により、商事法定利率が廃止され、民事法定利率も変更されたため、残業代の遅延損害金の利率が、「いつ未払いになったか」によって変わる点です。どの利率が適用されるかは「遅滞となった時点」を基準に決まるため、民法改正以前から未払いだった残業代には、民法改正以前の利率が適用されます。

また、上記表にもあるとおり、残業代に適用される遅延損害金の利率は、退職前と退職後で大きく異なっています。これは、「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃金支払確保法)で、退職した労働者が、退職後に賃金を請求するときには、その利率を年14.6%とすると定めているからです。これを「遅延利息」と呼びます。

賃金支払確保法6条

1. 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
2. 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。

賃金支払確保法(e-Gov法令検索)

これは、退職後まで未払いとなってしまっているような悪質な事例で、労働者を救済することが目的です。低金利が一般化した現代で、14.6%もの高率の利息は、未払い残業代に対する十分な制裁として機能します。なお、「賃金」には、基本給だけでなく残業代・賞与も含みますが、退職金は含まれません。

ただし、賃金の支払遅滞に天災地変などのやむを得ない理由がある場合には、適用が除外されます。天災地変の場合だけでなく、これと同視しうるような理由のある未払いでは、14.6%の適用を認めなかった裁判例もあるので、この裁判例を参考にして、会社の悪質性を主張していく必要があります。

「単に事業主が裁判所において退職労働者の賃金請求を争っているというのでは足りず、事業主の賃金支払い拒絶が天災地変と同視し得るような合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められた場合に限ると解するべきである」

医療法人大寿会事件(大阪地裁平成22年7月15日判決)

「事業主の賃金支払拒絶が天変地異と同視しうるような合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められる場合に限り、同法6条1項の適用を除外したものと解するのが相当である」

レガシィほか1社事件(東京地裁平成25年9月26日判決)

「裁判所又は労働委員会において、事業主が、確実かつ合理的な根拠資料が存する場合だけでなく、必ずしも合理的な理由がないとはいえない理由に基づき賃金の全部又は一部の存否を争っている場合も含まれているものと解するのが相当である」

十象舎事件(東京地裁平成23年9月9日判決)

「合理的な理由はあまり限定されるべきでないといえ、合理的な理由には、合理的な理由がないとはいえない場合も含まれるものと解するのが妥当である」

オリエンタルモーター事件(長野地裁松本支部平成25年5月24日判決)

付加金に対する遅延損害金

残業代請求について付加金の支払いが命じられたにもかかわらず、さらに、会社がその支払いをしなかったときは「付加金に対する遅延損害金」もあわせて請求できます。

このとき、付加金は裁判所の命令によって支払い義務が生じるものなので、その利率は民事法定利率により、改正民法施行前(2020年3月31日以前)は5%、改正民法施行後(2020年4月1日移行)は3%となります。なお、付加金に対する遅延損害金が発生するのは、付加金の支払を命じる判決が確定した日の翌日からです。

まとめ

今回は、残業代請求をするとき、より高額の請求を実現するために理解しておきたい、付加金と遅延損害金の基礎知識、請求時のポイントなどについて弁護士が解説しました。

残業代請求を、交渉、和解によって終了するときは、付加金や遅延損害金は払われないことのほうがむしろ多いです。しかし、労働審判、訴訟などの法的手続きに移行しなければ満足に支払いを受けられないような悪質なブラック企業を相手にするとき、付加金と遅延損害金はとても重要です。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題に注力しており、多数の残業代請求のケースについて解決してきた経験があります。

少しでも有利な請求を行うためにも、弁護士のサポートをお受けください。残業代請求を検討している労働者の方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。

残業代請求のよくある質問

残業代の付加金とは、どのようなものですか?

残業代の付加金は、悪質な態様によって残業代を払わないようなブラック企業に対する制裁として機能するお金です。残業代が未払いであることに加えて、裁判所が付加金の支払いを命じることによって、払ってもらう事ができます。もっと詳しく知りたい方は「残業代請求と「付加金」の請求」をご覧ください。

残業代の遅延損害金とは、どのようなものですか?

残業代の遅延損害金とは、残業代が支払われないまま期間が経過したときに、その遅れた期間に相当する利息を払ってもらえることをいいます。遅延損害金の利率は、退職前は3%、退職後は14.6%です(2020年4月改正民法施行後)。もっと詳しく知りたい方は「残業代請求と「遅延損害金」の請求」をご覧ください。

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