SNSに投稿した内容が原因で内定を取り消されるケースがあります。
就職活動中や内定後でも、SNSの発言や炎上が企業に影響を与えると判断されれば、内定が取り消される原因となります。悪質なケースでは、「採用面接で『SNSをやっている』と回答したら不採用になった」という体験談も話題になりました。古い世代の面接官の中には、SNSに「炎上」「誹謗中傷」など悪いイメージを抱いている人も少なくありません。
しかし、現代ではFacebookやX(旧Twitter)、Instagramなど、SNSを全くやらない人の方が珍しいでしょう。私生活は個人の自由であり、SNSを監視したり、投稿内容を理由に内定を取り消したりすることは違法となる可能性があります。
今回は、SNSが原因で内定を取り消すことの違法性や、その場合の労働者側の対応、就職活動時のSNS利用の注意点について、弁護士が解説します。
- SNSのみを理由とする内定取り消しは違法だが、不適切な利用は避ける
- SNSでの発信や炎上が企業に悪影響を及ぼすと、内定取り消しの理由になる
- 採用する企業が敵視しがちな問題あるSNS利用をしないよう注意する
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SNS投稿による内定取り消しの背景

近年、SNSでの不適切な投稿が原因で、内定を取り消すケースが見受けられます。はじめに、その背景と理由、具体例について解説します。
なぜSNSが採否に影響するのか
そもそも、FacebookやX(旧Twitter)、InstagramといったSNSは最近登場した新しいサービスで、古い世代の人ほど悪い印象を持ちがちです。企業は「採用した人材のSNS上の言動が、自社のイメージや信頼に悪影響を与えるのではないか」というリスク意識を持っています。
以下の通り、現在は大半の人がプライベートでSNSを活用している一方で、就職活動でのSNS利用は進んでいません(HRPro:「2016年卒学生の就職意識調査」結果報告)。これはまさに、採用選考でSNSが敵視されやすい現状を反映したものでしょう。


SNSは誰でも手軽に発信できる一方、投稿が拡散されやすく、過去の投稿も簡単に掘り返される特性があります。実際に、内定者や社員の不適切な投稿が炎上を招き、企業への批判に発展した例は少なからず存在します。このような炎上トラブルの事例を受け、多くの企業が「SNSリスク」への対応として、採用段階から候補者のSNS投稿をチェックするようになっています。
また、SNSでの言動は、価値観やコンプライアンス意識を知る手段としても活用されます。必ずしも不適切な投稿でなくても、企業の求める人物像に合致しないと判断されると、内定取り消しや不採用の理由とされてしまうことがあります。
以上の通り、賛否はあるものの、現代では、SNSでの発言内容が、採否に大きな影響を与えているのが現状です。
SNSを理由とする内定取り消しの具体例
SNSでの投稿が原因で内定を取り消されるケースには、次のような具体例があります。
重要なポイントは、企業側が、「SNS投稿が、企業の信用やブランドイメージに悪影響を及ぼすことがあるかどうか」という視点でチェックしていることです。
誹謗中傷や不適切な投稿
まず、SNS投稿内容が不適切だと、採用に悪影響となります。
例えば、他人への誹謗中傷や侮辱、差別的な投稿(人種差別や性差別など)、攻撃的な投稿、価値観や偏見を押し付ける内容は、社会的にも非難され、企業イメージに悪い影響を与えかねません。飲酒運転や暴力など、犯罪行為に該当するような投稿は、社会的信用を失うことが明らかです。
「誹謗中傷の法的責任」の解説

炎上トラブル
不適切な投稿は、SNS上で非難され、瞬時に拡散され、炎上に繋がるリスクがあります。発信内容にくれぐれも注意し、炎上しないように気をつけなければ、企業から「コンプライアンス意識に欠ける人物」と評価され、内定を取り消されるおそれがあります。
SNSでは過去の投稿を検索できるので、自分でも忘れていたような過去の不適切な投稿が掘り返されて炎上する事例もあります。
企業秘密や個人情報の漏洩
SNSの投稿が、企業秘密や個人情報の漏洩に繋がることもあります。アルバイト先やインターン先で知り得た情報を投稿したことで守秘義務違反に該当すると、SNS上で問題視されるのは当然ながら、法的責任を問われるおそれもあります。
コンプライアンス意識の高い企業は、SNS利用に関するガイドラインを定めていることもあり、企業独自の基準からして問題のある投稿が確認されると、内定者として不適格であると判断されるおそれがあります。
SNSを理由とする内定取り消しは違法?

次に、SNSを理由とする内定取り消しや不採用の違法性について、法的に解説します。
SNS投稿を理由とする内定取消しも、必ずしも違法とは限りません。企業には「採用の自由」があり、採否を決める裁量があります。ただし、労働者にとって不利益な内定取り消しは、解雇と同様に法律上の一定の制限があります。
採用内定の法的性質
採用内定は、法律上は「始期付解約権留保付労働契約」と解釈され、単なる「入社の予定」とは異なります。その意味は、「就労は入社日(始期)から始まるが、既に労働契約が締結されている」という趣旨です。そして、企業には「解約権が留保されている」ので、入社日前でも、合理的な理由があれば、企業側から契約を解除することができます。
ただし、内定を一方的に取り消すのは労働者に大きな不利益となるので、「解雇」と同様に、客観的に合理的な理由と、社会通念上相当と認められる事情が必要とされます(労働契約法16条)。

「採用の自由」の解説

SNS投稿による内定取り消しが違法となるケース
上記の通り、内定の取り消しは法的には「解雇」と同じ性質であり、解雇権濫用法理による制限を受けます。そのため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、不当解雇として違法、無効になります(労働契約法16条)。
そのため、次のような事情の場合、内定取り消しは違法と判断される可能性があります。
- 「SNSを利用している」という理由のみでの内定取り消し。
- 完全にプライベート投稿のみ。
- 企業に実質的な被害が生じていない。
- 「過去の些細な投稿が気に入らない」という理由。
- 投稿の内容が誤解や切り取りで広がっただけに過ぎない。
- 企業がSNS調査をして内定を出したのに、後から問題視されたので内定を取り消した。
このようなケースでは、内定取り消しに正当な理由はなく、違法であり無効となると考えられます。労働者としては、内定取り消しの撤回を求めて「地位確認」を請求し、あわせて損害賠償を請求することができます。
SNS投稿による内定取り消しが正当化される場合
一方で、問題のあるSNS投稿や利用態様だと、内定取り消しが正当化されます。例えば、次のような事情がある場合には、内定を取り消されても仕方なく、違法でもありません。
- 投稿内容が社会的に著しく不相当。
- 企業の社会的信用を損なうおそれがある。
- 企業のコンプライアンス方針に反する重大な投稿がある。
- 入社後に炎上トラブルを引き起こす危険性が非常に高い。
- 犯罪行為に該当する投稿がある。
このような場合は、内定取り消しには正当な理由があるため、適法とされます。
内定取り消しを争うための対応策

次に、内定取り消しを争うための具体的な方法と流れを解説します。
SNS投稿を理由に内定を取り消された場合でも、その取り消しが違法となる可能性があることを解説しました。そのため、不当な扱いだと感じたら、法的手段を検討すべきです。
取り消し理由を確認する
内定を取り消された際、まずは企業側の理由を確認しましょう。
必ず文書で通知するように求めることが大切です。前述の通り、内定段階において既に雇用契約が締結されているので、労働基準法22条に基づき、労働者が求める場合に、使用者は、退職や解雇の理由を書面で明らかにする義務があります。
企業が「SNS投稿が理由」と主張する場合、どの投稿が、どのように問題なのか、具体的な事情まで把握するようにしてください。
SNS投稿を整理し、証拠を保全する
自分のSNS投稿が問題視され、内定取り消しの理由となったことが判明したら、該当のSNS投稿やその他のやり取りなどを含め、スクリーンショットを撮って保存してください。投稿を削除しても、企業側が保存している可能性が高いので、証拠は必ず確保しなければなりません。
内定取り消しの撤回を求める
次に、SNS投稿を理由とした内定取り消しが違法の可能性があるなら、撤回を求めて交渉しましょう。
労働問題に精通した弁護士に依頼すれば、弁護士名義の内容証明を送付して、企業に再考を迫ることができます。自分一人で交渉するのは不安なときも、弁護士のサポートを受ければ、法律知識をもとに有利な主張をすることができます。
労働審判や訴訟で争う
会社側が撤回に応じないときは、労働審判や訴訟などの法的手続きを検討してください。特に、労働審判は、3回以内の期日で解決を目指すため、比較的迅速に結論が出る点で労働者保護のための手続きとして設けられたものです。
内定取り消しを争う法的手続きでは、地位確認(労働者としての地位があることの確認請求)と共に、損害賠償を請求することができます。
内定取り消しを防ぐためのSNS上のリスク管理

最後に、内定取り消しや不採用といった結果を招いてしまわないための、SNS上で徹底すべきリスク管理について解説しておきます。
SNSは気軽に使える反面、一度の投稿が大きなトラブルにつながるリスクも抱えています。
企業がSNSを監視していることを知る
まず、就職活動中は特に、企業がSNSを監視していることを知るべきです。
SNSでの不適切な投稿や炎上が企業に大きな影響を与えることは、メディア報道でも明らかなので、コンプライアンス意識の高い会社ほど採用予定者のSNSをチェックします。特に新卒採用の場合、社会常識が欠如している社員が入社するリスクもあり、会社は厳しく目を光らせています。
実名で検索可能なSNS(Facebookなど)や、「◯◯年卒」など就職に深く関わるアカウト、内定した社名を公表するようなSNS運用では、注意深く行動しなければなりません。
企業側のSNSルールを理解する
企業の立場で考えれば、SNSの不適切利用が大きな被害となる以上、そのような兆候のある人を不採用とするのは当然の流れです。採用後も、SNSの運用や投稿について、企業独自のルールを設けている会社も少なくありません。
例えば、企業側が設けるSNS利用のルールには、次のような例があります。
- 出会い系・アダルトSNSなど不適切なコンテンツの禁止。
- 業務時間中のSNS利用を禁止する。
- 企業の公式見解と受け取られないよう、「個人の意見・感想である」と明記する。
- SNS上に所属する企業名を記載しない。
- 違法性のあるSNS書込みを行わない。
- 社会的非難や炎上の原因となる言動は控える。
会社の定めるSNS利用のルールが、企業秩序を守るための合理的なものであるとき、違反した社員を懲戒処分や解雇とすることが許されます。したがって、採用段階においても、内定取り消しや不採用の理由となってしまいます。
企業イメージを意識した発信をする
内定を受けた企業名を公表して発信をすることが許されている場合でも、あなたの投稿内容や情報発信が、企業のイメージと結びついて判断されることに注意しなければなりません。
多くのフォロワーを有するインフルエンサーでなくても、SNSの投稿は「企業の顔」として受け取られます。信頼性のある言動を心がけ、他人への批判や愚痴など、ネガティブに評価される内容はできる限り慎むべきです。たとえ個人アカウントでも、「誰かに見られている」という前提で発信することを心がけてください。
炎上に備えた危機管理対策を知る
どれだけ注意していても、意図せず炎上することがあります。そのため、万が一の事態に備え、危機管理対策や事後対応を知っておいてください。
- 投稿内容を一度見直してから公開する習慣をつける。
- SNSの公開範囲を適切に限定する(鍵アカウントにするなど)。
- 不用意なタグ付けを避ける。
- 写真や動画の投稿には特に注意する。
- 予想外に拡散されたときは早急に投稿を削除する。
自分では問題がないと思っていた投稿も、他人にとってどのように受け取られるかはコントロールできません。過去の投稿が遡って炎上するケースもあるので、定期的に過去の情報発信を見返し、リスクを軽減するよう心がけてください。
まとめ

今回は、採用内定のタイミングにおけるSNS利用の労働問題について解説しました。
SNSの投稿を理由に内定を取り消されるケースが見受けられますが、SNSが広く普及した昨今、「利用している」というだけで採用・不採用を決めるのは不適切です。むしろ、SNSのみを理由とした内定取り消しは違法の可能性が高いでしょう。一方で、バイトテロや炎上トラブルなど、不適切なSNS利用は企業に損害を与えるので、労働者側も注意しなければなりません。
労働者に不利益となる内定取り消しは法的に制限され、「解雇」と同じく、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合、違法となります。違法な内定取り消しを受けたら、撤回を求め、法的手段を検討すべきです。
一方で、企業がSNSトラブルに敏感であることを理解し、普段から投稿内容を慎重に見直し、プライバシー設定をするなど、リスク管理の徹底も不可欠です。就職活動中こそ、適切なSNS利用を心がけ、トラブルを未然に防ぐ努力をしてください。
- SNSのみを理由とする内定取り消しは違法だが、不適切な利用は避ける
- SNSでの発信や炎上が企業に悪影響を及ぼすと、内定取り消しの理由になる
- 採用する企業が敵視しがちな問題あるSNS利用をしないよう注意する
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