人事労務

会社側の「採用の自由」はどれくらい認められる?採用拒否は違法?

2020年6月23日

採用の自由採用拒否

会社側で労働者を雇用するとき、採用面接などの採用選考を行います。採用選考の結果、採用基準に満たない応募者がいたときに会社側が採用を拒否することは、相当程度広めに認められています。

会社には、労働契約締結の自由、すなわち、いわゆる「採用の自由」が認められており、特定の思想、信条を有する応募者の採用を拒否したとしても、それだけで必ずしも違法となるわけではありません。通常であれば、思想、信条による区別は、差別を生むおそれがあるため許されないと考えるべきですが、採用はそれだけ特殊な状態だということです。

そこで今回は、企業側に認められる採用の自由がどの程度広いものであるのかについて、弁護士が解説します。

「人事労務」弁護士解説まとめ

採用の自由とは

採用の自由採用拒否

採用の自由とは、人を雇用する企業、すなわち「使用者側」が、雇用契約を結ぶ際に認められる契約の自由のことをいいます。

雇用契約の解約、すなわち「解雇」の時点において、日本の法律・裁判例では解雇が厳格に制限されていることの裏返しとして、会社に入社する段階における会社側の自由を制限すべきではないという考え方が理由です。

つまり、会社側としては、ひとたび会社に入社させてしまえば、労働契約の解消の場面においては、一方的な理由で解雇することが難しいことをよく理解し、採用の自由が効く入社時に、十分な選考を行う必要があるのです。そして、そのための幅広い自由について、法律と裁判例が認めている、それが採用の自由です。

民法上の根拠

民法上、契約の自由という考え方があり、これにより、契約を交わす際に、誰と契約を交わすか、もしくは、交わさないかは契約当事者の自由とされています。

採用の自由は、この契約の自由を、雇用契約(労働契約)という特殊な場面にあてはめた考え方です。つまり、雇用契約においても、その契約を結ぶか、結ばないか、あるいは、誰と結ぶかは、締結の主体となる労使の合意で決まるものであり、会社側もこれを拒絶する権利があるということです。

憲法上の根拠

憲法において、国民には経済的な自由券が与えられています。憲法22条、憲法29条においては、財産権の行使、営業、その他広く経済活動の自由が基本的な人権として保障されています。

憲法22条

1. 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2. 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

憲法29条

財産権は、これを侵してはならない。

一方で、憲法上の自由券として、国民には、思想・信条の自由が(憲法19条)が与えられており、思想・信条の自由は侵してはならず、これをもって差別してはなりません。労働問題の場面においては、労働者の思想・信条によって労働条件などの差別をしてはならない、という問題として出てきます。

この点で、採用選考の場面では、労働者の思想・信条の自由と、使用者の経済活動の自由とが対立することがあり、その2つの人権はいずれも憲法上の根拠をもつ重要なものであるため、対立を調整する必要があります。

労働基準法上の根拠

労働者保護を目的とする労働基準法には、採用の自由を認める明文の規定はありません。ただし、労働基準法3条には、次のとおり、労働条件に関する差別的待遇を禁止する規定があります。

労働基準法3条

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

このように、基本的には使用者による労働者の差別は許されないわけですが、次の裁判例でも解説するとおり、労働基準法3条は、雇入れられた後の労働者に対する差別的取扱の制限であり、雇入れそのものを制限する規定ではないものと判断されました。

つまり、一旦入社させた場合に他の労働者と差別することは許されないものの、入社させるかどうかは企業の裁量であるというわけです。これは、終身雇用制の慣習が長く続いていた日本社会において、雇用して入社させた労働者が、企業経営の円滑な運営の妨げとならないようにするためです。

一方、採用後は、解雇権濫用法理による制限がはたらき、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な解雇でなければ、「不当解雇」として違法、無効となります。労働基準法3条によって禁止される差別的取扱に基づく解雇は、不当解雇と判断されるおそれの高いものです。

採用の自由を認めた裁判例

採用の自由が、民法上の契約の自由のあらわれであり、かつ、憲法上の労使双方の重要な権利の調整であることを解説しました。このような中で、裁判例では、採用の自由が一定程度認められています。

企業側に採用の自由を認めた有名な最高裁判例に、三菱樹脂事件判決(最高裁昭和48年12月12日判決)があります。この裁判例では、次のように述べて、採用の自由を認めています。

三菱樹脂事件判決(最高裁昭和48年12月12日判決)

憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。

あわせてこの裁判例では、労働基準法3条において、労働者の心情による労働条件の差別を禁じていることは雇用後のことであって、雇入れ時における規制ではないと判断しています。

採用の自由があることから、会社が思想・信条などを理由として雇い入れを拒否すること自体が不法行為となり、慰謝料、損害賠償請求の対象となることもありません。

なお、三菱樹脂事件判決の最高裁は上記の通りですが、控訴審では、採用の自由についてより限定的な判断んをしています。

つまり、控訴審判決では、労働者側が秘匿した事実が、政治的思想、信条に関する事実であって、これにより雇用関係上差別することが、平等原則について定める憲法14条、均等待遇に定める労働基準法3条に違反するものであると判断しました。

そして、採用選考において政治的思想、信条に関係のある事項について申告を求めることは公序良俗に反して許されず、秘匿による不利益を労働者に課すことはできないとし、採用の拒否が無効であると判断しました。

控訴審においては、企業の採用の自由は、労働者の政治的思想、信条の自由に劣後し、制限されるものとして、会社側の敗訴という判断であったわけです。

採用時に質問することができる(調査の自由)

採用の自由採用拒否

採用の自由によって、特定の思想・信条を持つ応募者を採用しないこともまた会社の自由であると解説しました。しかし、採用選考の場面において、採用面接だけで応募者の適性をすべて見抜くことが難しいことは、当然理解していることでしょう。

そのため、採用の自由を実効的に保護するためには、採否の基準となる事項について、質問をし、労働者に回答を求めることが必要となります。事実の申告を求めることができなければ意味がありませんし、労働者側が虚偽の事実を述べたり、事実を隠したり、回答を拒否したりすることが許されるのでは、採用の自由は結局形無しです。

このように採用選考において、企業側が労働者に質問をし、回答を求めることもまた自由に許されることとされています。これを「調査の自由」といいます。

むしろ、採用の自由にかかわる判断を企業がするにあたって行うべき調査は、採否決定の重要な要素となることが明らかな調査であるため、思想、信条にかかわる過去の行動などであっても調査を適法に行うことができるわけです。

企業活動において人間関係、コミュニケーションが重要であることは、これらによってパワハラ、セクハラ、マタハラなどのハラスメント問題や安全配慮義務違反の問題が引き起こされることからも明らかであり、入社時に必ずチェックしておくべき重要なポイントです。

調査の自由を認めた裁判例

さきほど解説した、採用の自由を認めた三菱樹脂事件判決(最高裁昭和48年12月12日判決)では、あわせて、採用の自由を実効的なものとする「調査の自由」についても、次のとおり認めています。

三菱樹脂事件判決(最高裁昭和48年12月12日判決)

企業が雇用の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。

むしろ、採用時の調査で知ることが可能であった事情については、調査が不十分であったために採用時には知ることができず、後から判明したとしても、解雇理由とすることが難しくなってしまうおそれもあります。

これは、採用時に知り得る事情であれば、その際に知り、採用を拒否することができたのであり、採用したのであれば、その事情はその会社においては採否を決定づけるほどの重大なものではないと労働者が期待することが予想されるためです。

採用時の調査方法

以上のとおり、採用の自由、調査の自由が認められ、採用時に十分な調査をすることが会社には許され、その裏返しとして、調査を十分に行わない場合に、後から解雇をすることができないといった不利益を負う可能性がある以上、採用時の調査は特に入念に行う必要があります。

採用選考というと、採用面接をイメージしがちです。もちろん、採用面接において質問をすることは重要な調査方法の1つであり、ここで労働者が嘘をつけば、のちに「経歴詐称」として解雇をすることも検討されます。

しかし、採用面接では、労働者と面と向かって質問をしなければならないため、人間関係を重視する日本の雇用社会では、直球の質問が難しい場合もあるかもしれません。そのため、調査手法は次のとおり、多様なものを利用し、採用前に応募者の問題点が明らかになるようにしてください。

採用時の調査方法

  • 履歴書・職務経歴書・エントリーシートなどを提出させ、書面審査を行う
  • SPIなどの試験を課す
  • 回答を任意として、アンケート形式による書面調査を行う
  • 採用面接において質問を行う
  • 内定を出す前に、調査会社等による行動調査を行う

調査結果を証拠に残す

最後に、採用選考の過程において調査を行ったら、その回答を証拠に残しておくことが重要です。後日労働紛争が労働審判・訴訟などの形で裁判所へ持ち出されたとき、立証の成否が鍵となります。

労働者は、入社したいがあまりに嘘をつくかもしれません。しかし、「嘘をついた」という証拠を残すことにより、のちに「経歴詐称」として解雇できる可能性を残すことができるのであり、真実がわからないからといって質問すらしないと、後から判明したとしても会社から出て行ってもらうことが難しくなってしまいます。

特に、採用面接における口頭のやり取りは、後から「言った、言わない」の争いになりがちです。採用面接は必ず複数人で行い、議事録やメモを残しておくほか、採用選考が進んだ内定候補者の場合には、採用面接の録音を行うことも検討してください。

採用の自由の限界

採用の自由採用拒否

採用の自由にもまた、限界があります。というのも、採用の自由は、労使の憲法上認められた重要な自由の調整の結果認められたものであるため、労働者の権利・自由のほうが重視すべきものである場合には、逆に、企業側の採用の自由のほうが制限されるからです。

採用の自由について、法的に制限されることが定められているものがその典型例です。

  • 男女雇用機会均等法による制限
    :事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与える必要があります(男女雇用機会均等法5条)。
    男女差別はとても重大な問題であり、明確に禁止されています。ただし、均等な機会を与えればよいのであって、「男女同数の採用としなければならない」という意味ではありません。
  • 障害者雇用促進法による制限
    :会社は、障害者を進んで雇入れる努力義務を負っています。また、一定の雇用率に達する障害者の雇用を義務として、これを満たさない場合には、障害者雇用納付金を支払う必要があります。
  • 労働組合法による制限
    :労働組合法7条1項では、労働者が労働組合に加入せず、もしくは労働組合から脱退することを雇用条件とすることを禁止しています。
    労働組合の組合員であることを理由として採用を拒否することは、労働組合法に定められた「不当労働行為」という違法行為となります。
  • 雇用対策法による制限
    :雇用対策法10条は、募集・採用において、年齢に関わりなく均等な機会を付与すべき義務を定めています。
    ただし、期間の定めのない労働者を定年年齢を下回ることを条件として募集・採用する場合、新規学卒者を長期雇用のために募集・採用する場合、特定職種において特定年齢層の労働者が少ない場合にその年齢層の者を補うための募集・採用である場合などは例外とされています。
  • 「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(厚生労働省)による制限
    :同指針では、使用者の採用選考時における行動指針が定められています。
    この指針で、使用者は原則として、労働者の人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想、信条及び信仰といった個人情報を収集してはならないことが定められています。
  • 「HIV指針」(厚生労働省)による制限
    :同指針では、HIV(いわゆる「エイズ」)にり患した患者の差別を禁止しており、HIV感染のみを理由とした採用拒否、労働条件に関する差別、不利益な取扱いを禁止しています。
    裁判例でも、本人の同意なくHIV抗体検査やB型肝炎ウイルス検査を行ったケースで、企業側の違法性を認めています。

採用の自由の限度は、これらの法律に禁止された違反行為以外でも問題となることがあり、不当な差別は、労働審判・裁判などの法的手続きで、のちに違法と判断されてしまうリスクがあります。

重要なことは、労働者のある性質や事実、行為に着目して採用を拒否するときに、その「業務上の必要性」があるかどうかを立ち止まってよく検討することです。その採用拒否の理由が、純粋に業務上の必要性があるものであり、このまま採用して入社させてしまうと業務に大きな支障が生じることが説明できれば、後日紛争になったとしても十分戦える材料があることを意味しているからです。

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採用の自由採用拒否

今回は、採用の自由が会社にどの程度認められるのかについて、弁護士が解説しました。

採用の自由が問題になるとき、採用選考で会社が労働者に対して聞く質問は、とてもデリケートなものとなることが多く、会社側が遠慮してしまって、あとから会社の期待していた人物ではなかったことが判明して争いとなることがあります。

会社側に採用の自由が認められ、これに基づく調査の自由があることをきちんと理解し、採用面接段階において適切な対応をすることが、後の労働紛争を未然に防止するのに有効です。

社内の人事労務管理にお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所へお気軽に法律相談ください。

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