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誹謗中傷の法的責任と、慰謝料請求された側の対応【弁護士解説】

インターネット上の誹謗中傷が、被害者に与えるダメージはとても大きいものです。顔の見えない多くの第三者から中傷を受けているように感じると、大きな精神的被害を受けてしまいます。

一方で、誹謗中傷する側では、ごく軽い気持ちでしてしまっている方も少なくありません。特に5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)、爆サイなどの匿名掲示板や、Facebook、TwitterなどのSNSの利用で、情報発信が手軽になるにつれて、軽い気持ちによる誹謗中傷が急増しています。

インターネット上の情報発信は、たとえ匿名であっても責任がつきものです。現在では、発信者情報開示請求の手続きにより、発信者が特定できることが多く、厳しい責任追及がされるケースも増えています。

今回は、インターネット上で誹謗中傷することの民事責任・刑事責任と、慰謝料請求や開示請求といった責任追及を受けてしまったときの対応方法など、誹謗中傷の加害者側の立場で知っておきたい法律知識を、弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 誹謗中傷すると、刑事責任として、名誉毀損罪、侮辱罪にあたりうる
  • 誹謗中傷すると、民事責任として損害賠償請求を受ける
  • 違法な誹謗中傷をした自覚があるとき、被害者と示談するのが解決のポイント
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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誹謗中傷の刑事責任

逮捕

まず、インターネット上で誹謗中傷することにより負う、最も重大な責任が「刑事責任」です。刑事責任は、刑法に定められた違法行為に対する責任であり、懲役刑・禁錮刑や罰金刑といった刑事罰を科されることとなります。

刑事責任は、誹謗中傷の対象となった人が直接追及できるわけではありませんが、被害者側は、捜査機関(警察・検察)に告訴することで、逮捕・送検してもらい、処罰してもらうよう求めることができます。

インターネット上で誹謗中傷を行うことで生じる刑事責任には、主に名誉毀損罪侮辱罪による責任があります。

名誉棄損罪

名誉棄損罪は、不特定多数の第三者に対して、事実を摘示して、人の社会的な名誉を低下させるおそれのある行為をしたことで成立する犯罪行為です。刑法230条により「3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金」に処せられます。

名誉棄損罪について定める刑法の規定は、次のとおりです。

刑法230条(名誉毀損)

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法(e-Gov法令検索)

名誉棄損罪は、その摘示された内容が事実であったとしても成立します。つまり、「本当のことなのだからなにを言ってもよいだろう」というのはゆるされません。

名誉毀損罪とは
名誉毀損罪とは

ただし、名誉棄損罪は、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあり、かつ、摘示した事実が真実である場合には、犯罪にはならないとされています。名誉棄損罪が成立しない場合について、刑法230条の2は次のとおり定めています。

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)

1. 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2. 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3. 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

刑法(e-Gov法令検索)

なお、「事実が真実である場合」だけでなく、仮に真実ではなかったとしても「真実であると信じることについて相当の理由があるとき」は名誉棄損罪は成立しないことが最高裁判例(最高裁昭和44年6月25日判決)で示されています。

侮辱罪

侮辱罪とは、事実を摘示することなく、他人の社会的評価を低下させるおそれのある行為をしたことで成立する犯罪行為であり、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に処せられます。より重く罰せられる名誉毀損罪との違いは、事実を摘示しているかどうかという点にあります。

侮辱罪について定める刑法の規定は、次のとおりです。

刑法231条(侮辱)

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法(e-Gov法令検索)

例えば「バカ」、「アホ」、「ブラック企業だ」などの誹謗中傷は、事実をとくに指摘していないため侮辱罪にあたります。

誹謗中傷の民事責任

お金

人を誹謗中傷する行為は、民事上の責任も負うこととなります。民事上の責任の主は不法行為責任(民法709条)であり、民事上の責任は、お金を払わされることです。

不法行為責任

誹謗中傷は、民事上は不法行為(民法709条)にあたります。不法行為にあたる誹謗中傷をしてしまうと、その対象となった人(被害者)から損害賠償請求を受けてしまいます。

請求される損害の内容には、誹謗中傷の対象者が被った精神的苦痛に相当する慰謝料に加えて、発信者情報開示請求によって情報発信者を特定するのにかかった弁護士費用も含まれるとするのが実務です。

不法行為の要件は、次の4つです。

  • 権利侵害(違法性)
    権利侵害が必要であり、誹謗中傷のケースでは、名誉権の侵害、経営権の侵害、人格権の侵害などが理由とされます。
  • 故意・過失
    権利侵害について、わざと、もしくは、不注意で行ったことが必要です。
  • 損害の発生
    損害が発生している必要があり、誹謗中傷のケースでは、慰謝料に加え、開示請求にかかった弁護士費用などの調査費用が含まれます
  • 因果関係
    権利侵害と因果関係のある損害が、賠償の対象となります。

なお、民法の名誉権の侵害には、刑法のような免責の条項はないものの、刑法230条の2の考え方が裁判例で援用されています。最高裁判例(最高裁昭和41年6月23日判決)は「公共の利害に係る事実について、専ら公益を図る目的で、摘示した事実が真実である場合、もしくは、真実であると信ずるにつき相当な理由がある場合」は不法行為が成立しないと判断しました。

テラスハウス出演者であり、女子プロレスラーの木村花さんが2020年5月29日に自死し、原因がインターネット上の誹謗中傷ではないかと話題になりました。

誹謗中傷の対象者が自殺してしまったとき、誹謗中傷をした人は社会的・道義的に重い責任を負います。そして、死に至らしめるほど苛烈な誹謗中傷は、名誉棄損罪・侮辱罪などの刑事責任、慰謝料などの民事責任を負うこととなります。

なお、自殺の原因が特定の投稿にあったと立証されなければ、行為と死の因果関係は証明できず、自殺という結果までの責任を負うことはないものと考えられます。

プロバイダ責任制限法

誹謗中傷行為をした情報発信者だけでなく、その情報発信を経由したプロバイダもまた、責任を負うことがあります。このことから、不適切、悪質な情報発信を抑制するためプラットフォーマーへの規制を強化しようという議論もなされています。

ただし、インターネット上の表現の自由を守るため、プロバイダが責任を負う場合は「プロバイダ責任制限法」という法律によって限定されています。

プロバイダ責任制限法3条1項に定められた、プロバイダが責任を負う要件は、次のとおりです。

  • 権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信の防止措置を講ずることが技術的に可能であること
  • 当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたか、当該特定電気通信による情報の流通を知っており、かつ、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認める相当の理由があるとき

誹謗中傷してしまい、慰謝料請求を受けたときの対応

ポイント

次に、軽い気持ちで行った誹謗中傷の責任を追及されたときの対応について弁護士が解説します。

残念ながら一時の感情にまかせて誹謗中傷をしてしまったとき、対象となった人から発信者情報開示をされて個人を特定されてしまったり、慰謝料を請求されてしまったりします。

インターネット上の情報発信は完全な匿名ではありません。弁護士のおこなう発信者情報開示請求(仮処分・訴訟)で個人情報を特定できるケースも少なくありません。

プロバイダからの意見聴取に対応する

プロバイダ責任制限法に基づく削除請求、発信者情報請求が起こされると、プロバイダは情報発信者の意見を聴取する必要があるため、プロバイダから連絡が来ます。

もし、自分の行った誹謗中傷行為に心当たりがあり、誹謗中傷の責任追及をされるおそれのあるときは、プロバイダから来た連絡には慎重に対応しなければなりません。前章で解説したとおり、誹謗中傷の責任はとても重いものだからです。

プロバイダからの連絡について、削除には同意をし、発信者情報の開示には不同意とするという回答をするのが通常です。

ただし、同意・不同意にかかわらず最終判断はプロバイダが行うものであり、不同意としたから必ず開示されないわけではありません。また、発信者情報がプロバイダから任意に開示されなかったとしても、誹謗中傷の対象者が訴訟などの法的手続きを行い、結果としてあなたの情報が開示される可能性があります。

投稿を削除する

誹謗中傷をしてしまった投稿に心当たりがあるときは、自分で可能なかぎり、投稿を削除するようにします。投稿してしまったのが自分のSNSであったり、自分のアカウントで運営しているブログであったりするときは、即座に削除しておけば、これ以上の被害拡大を防ぎ、請求される損害を減らすことができるからです。

しかし、5ちゃんねるや爆サイといった匿名掲示板などの場合、投稿した本人でも、事後的に削除することはできない仕様のことがあります。この場合は、相手が、弁護士を通じて削除請求を行うこととなるため、その費用負担を申し出るという方法が、円満解決のために有効です。

謝罪する

次に、誹謗中傷の対象者が判明しているときには、謝罪を行います。

プロバイダから連絡が来ているなど、近日中には慰謝料請求が予定されていると考えられるときには、請求されるよりも前に謝罪をしておくことが、反省を示す意味でもとても有効です。

示談交渉する

過去の誹謗中傷をしてしまったことを後悔しているときは、謝罪し、示談することで問題解決を図る方法があります。相手がわかっているときは直接連絡してもよいですし、発信者情報開示請求されたときは、相手が依頼した弁護士に連絡することで示談交渉を進めます。

示談金の相場としては、少なくとも、慰謝料相場30〜50万円程度と、それに加えて発信者の特定にかかった弁護士費用程度を、示談金として支払う必要があります(なお、事案によっては慰謝料が高額化することもあります)。

示談の合意が成立したときは、証拠化するため、次のような示談書を作成しておきましょう。示談書は、万が一刑事処罰を受けてしまいそうになったときに、有利な情状証拠としてはたらきます。

示談書(例)

甲と乙とは、乙の甲に対するインターネット上の投稿(http://・・・・)による誹謗中傷行為について、以下のとおり示談した。

第1条
乙は甲に対して、本件誹謗中傷行為を認め、自らの行為について深く反省し、謝罪する。

第2条
乙は甲に対して、本件誹謗中傷行為の示談金として金XX円の支払義務を負うことを認め、同金員を20XX年XX月XX日限り、甲の指定する口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。

第3条
乙は甲に対して、今後、本件誹謗中傷行為と同種、類似の行為を含み、一切の誹謗中傷行為を行わないことを確約する。

第4条
甲は、本件事件について、乙の行為を許し、乙に対する刑事処罰を望まない。

第5条
甲及び乙は、本件誹謗中傷行為、本件示談書に至る経緯及び内容について、正当な理由なく第三者に漏洩、口外しない。

第6条
本契約に定めのない事項、または、本契約の各条項の解釈に疑義が生じたときは、甲及び乙は誠意をもって協議をする。

第7条
本契約に関する一切の紛争は、XX地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

甲及び乙は、本書面の通り示談が成立した証として、本書面を2通作成し、署名押印の上、各自1通を保管する。

20XX年XX月XX日

【以下略】

誹謗中傷の責任を負わないための予防策

男性

最後に、誹謗中傷の責任を負ってしまわないため、日常的に気をつけておいてほしい予防策について解説します。

発信者は特定できると理解する

インターネット上の情報発信は、完全な匿名ではありません。このことは、5ちゃんねるや爆サイなどの匿名掲示板や、Twitterのように匿名性の高いSNSでもあてはまります。

プロバイダがIPアドレス、タイムスタンプなど情報発信にかかわるデジタル情報を保存しており、弁護士が発信者情報開示請求という法的手続きを行うことで、これらの痕跡をたどって発信者を特定することができるからです。

悪質な誹謗中傷は、いかなる人を対象としても許される行為ではありません。たとえテレビに出ている芸能人などであっても「有名税だから」と許される行為でもありません。一時の感情に任せずに慎重に行動することが大切です。

安易に賛同しない

誹謗中傷が行われているとき、その空気にのっかって一緒に誹謗中傷すれば、一緒に責任を負うこととなります。

インターネット上の情報発信のルールでは、次のような行為は、特定の書込みや投稿に対する「賛同」の意思表示と解釈されるおそれがあります。

  • LINEのタイムライン上の投稿にスタンプを押す行為
  • Facebookのタイムライン上の投稿に「いいね」をする行為
  • Facebookのタイムライン上の投稿をシェアする行為
  • Twitterにおける特定の投稿をお気に入りに入れる行為
  • Twitterにおける特定の投稿をリツイートする行為
  • SNS上の投稿を引用したり、まとめサイトを作成して拡散したりする行為

これらの行為は、情報拡散の一旦を担ったり、賛意を表するかのようなイメージを作出して、他の人が増長し、加担しやすい空気を作ったりすることから、社会的・道義的にも避難を受けることがあります。あらたな誹謗中傷のターゲットとなり、炎上をまねく危険もあります。

裁判例(大阪高裁令和2年6月23日判決)でも、コメントなしのリツイート行為について、次のように述べて民事責任を認めた例があります。

単純リツイートに係る投稿行為は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、元ツイートに係る投稿内容に上記の元ツイート主のアカウント等の表示及びリツイート主がリツイートしたことを表す表示が加わることによって、当該投稿に係る表現の意味内容が変容したと解釈される特段の事情がある場合を除いて、元ツイートに係る投稿の表現内容をそのままの形でリツイート主のフォロワーのツイッター画面のタイムラインに表示させて閲読可能な状態に置く行為に他ならないというべきである。そうであるとすれば、元ツイートの表現の意味内容が一般閲読者の普通の注意と読み方を基準として解釈すれば他人の社会的評価を低下させるものであると判断される場合、リツイート主がその投稿によって元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くということを認識している限り、違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められる場合を除き、当該投稿を行った経緯、意図、目的、動機等のいかんを問わず、当該投稿について不法行為責任を負うものというべきである。

大阪高裁令和2年6月23日判決

この裁判例は、リツイートは、自分のフォロワーに元のツイートがみられるようにする行為だから、元ツイートが他人の社会的評価を低下させるときは、閲覧可能にして広めることを意味するリツイート行為もまた責任を負う、という判断です。リツイートだけでも責任が認められる場合があると示した点で、注目を集めています。

まとめ

今回は、インターネット上の誹謗中傷が、実は刑事・民事の重いな責任を負いかねないこと、そして、つい軽い気持ちで誹謗中傷をしてしまい、慰謝料請求を受けてしまった方の適切な対応について弁護士が解説しました。

誹謗中傷は、その内容や程度によって、慰謝料請求をされてしまったり、場合によっては犯罪になり逮捕されてしまったりすることもあります。

誹謗中傷を受けた側は、弁護士に依頼することで「発信者情報開示請求」をし、匿名の加害者を特定することができます。そのため、インターネット上の情報発信は完全に匿名とはいえず、誹謗中傷をしてしまい責任追及を受けてしまったときは、適切な対応が必要となります。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷の問題について、豊富な解決実績があります。

誹謗中傷の被害者側で、削除請求、発信者情報開示請求、慰謝料請求といった対応をするのはもちろん、加害者側で、プロバイダなどから来た連絡への対応、慰謝料請求への対応といったケースも担当しています。お悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

インターネット上の問題のよくある質問

インターネット上で誹謗中傷すると、どんな責任を負いますか?

インターネット上で誹謗中傷すると負ってしまう責任には、民事責任、刑事責任の2つがあります。民事責任は、不法行為にあたるときの慰謝料などの金銭請求です。より重度な誹謗中傷では、名誉毀損罪、侮辱罪といった犯罪となり、刑事罰が科されます。詳しくは「誹謗中傷の法的責任と、慰謝料請求された側の対応」をご覧ください。

誹謗中傷し、被害者から責任追及を受けたら、どう対応したらよいですか?

誹謗中傷の被害者から責任追及を受けたとき、その責任を少しでも軽くするためには、被害者と示談を成立させるのが重要です。被害者との示談では、被害者の負った被害を回復するために、示談金を支払う代わりに、刑事事件化したときには有利な情状としてはたらきます。詳しくは「誹謗中傷してしまい、慰謝料請求を受けたときの対応」をご覧ください。

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