「採用面接で『SNSをやっている』と回答したら不採用になった」という体験談がTwitterで話題になりました。面接官から「SNSをやっていますか?」と質問され、「Twitterをやっています」と回答したところ内定が出なかったとのこと。
「会社の悪口を言ったり、問題投稿をしたりなど会社に悪影響のため、当社ではSNSは禁止」とのこと。同じように、SNSをやっていたのが見つかって不採用となってしまったという相談を受けることもあります。
しかし、むしろTwitter、Facebook、インスタグラムなどのSNSをまったくやらない人のほうが珍しいでしょう。「SNSをやるかどうかは個人の自由ではないか」という反論・批判もあります。「SNSをすべて監視されているのか」、「SNSの投稿内容が合否に影響するのか」と戦々恐々とする方も多いのではないでしょうか。
今回は、「SNSをやっている」という理由で内定を与えないことの違法性と、就職活動時に気をつけたいSNS利用の注意点について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。
- SNS利用だけで不採用とするのは不適切だが、企業側にも不適切なSNS利用によるリスクあり
- 不適切な態様でSNSを利用していたときは、それを理由に採用を拒否される
- 企業が敵視しがちな不適切なSNS利用を理解し、行わないよう注意するのが大切
採用面接におけるSNS事情
実際のところ、採用面接で、Twitter、Facebook、インスタグラムなどのSNSは、どう扱われているのでしょうか。
まず、次のグラフにあるとおり、現在はほとんどの人がプライベートではSNSを利用しますが、一方で、就職活動ではSNSを利用していません。このことはまさに、採用面接でSNSが敵視されている現状を反映しているといえます。
それでもなお、冒頭に紹介したように「SNSをやっている」と回答しただけで不採用となったケースについては、肯定・否定のそれぞれの意見があります。
SNSを敵視する考え方は、いかにも古臭く、年寄りの意見のようにも聞こえます。しかし、偏見も多いものの、SNSにはまりやすい人のなかには、根暗だったり、執着しやすく考え方が固定しやすかったり、自己顕示欲や承認欲求から不適切な投稿をしてしまったりといった問題性のある人もたしかに存在します。
SNSをとりまく採用事情は、「世代間ギャップ」によっても大きく変化します。
否定的な意見の例
- 「閉鎖的な社会、年齢層の高い面接官にありがちな時代遅れの考え方だ」
- 「ブラック企業であり、入社しなくて正解だ」
- 「今時SNSやスマホをやっていない人のほうが珍しい」
肯定的な意見の例
- 「バイトテロ問題、バカッター騒動など、SNSはよく悪用されている」
- 「社員の不適切なSNS利用、炎上トラブルで、会社に大きな被害を与える事例は実際にある」
- 「一定のルールは設けるべきだ」
「SNS利用を理由に不採用」は違法?
SNSの利用を理由に不採用とするのが「違法かどうか」について、労働法の観点から解説します。
SNSが広く普及した現代、冒頭ケースのように「SNSを利用していたら不採用」という判断は時代遅れで、ブラック企業のおそれもあります。
一方、会社側としても、不適切なSNS利用をする人、常識のない人を採用しないよう、採用面接では厳しい目で見ているはずです。たとえ就職活動中は不適切なSNS利用をしなくても、将来トラブルになるような社員の採用はひかえたいはずです。
会社に認められた「採用の自由」
会社には「採用の自由」があります。そのため、法的に許されない差別(男女差別・年齢差別・人種差別)でない限り、「誰を、どのような条件で採用するか」は、企業が判断できます。
採用候補者が複数いたときには、「不適切なSNS利用をするのでは」と疑われる人物よりも、「SNSを利用せず、今後も不適切利用によるトラブルはないだろう」という人を採用するのは当然であり、違法ではありません。
したがって、「SNSを利用している」という理由で不採用とすることについて、いかにも時代錯誤的で、不合理、理不尽な判断だという印象は抱くものの、「違法」とまでは言いきれません。
内定取り消しは制限される
会社に「採用の自由」が認められ、SNS利用を理由に不採用としても「違法」とまではいいきれないと説明しました。しかし、ひとたび採用後は、会社の一方的な判断で社員を辞めさせることはできません。採用後に入社を取り消すことを「内定取り消し」といいますが、法的には「解雇」と同じ性質とされており、「解雇権濫用法理」が適用されます。
そのため、「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」と認められない限り、「不当解雇」として違法、無効になります(労働契約法16条)。
一旦採用すると、SNSを利用していることや、その利用態様を理由に内定を取り消すと「不当解雇」となる可能性が高いです。現在は、SNSが広く一般に普及しているため、「SNSを利用している」というだけの理由では、内定は取り消せません。
不当な内定取り消しを受けてしまったときは、内定取り消しの撤回を求めて争うとともに、慰謝料請求を行いましょう。内定取り消しについてはくわしくは次の解説も参考にしてください。
SNSの種類、利用態様によって判断は異なる
「SNS」は「Social Networking Service(ソーシャルネットワーキングサービス)」の略であり、Facebook、Twitter、インスタグラムなどが有名です。Youtube、ニコニコ動画などの動画配信サービスや、LINEやメッセンジャーなどのコミュニケーションツールのSNSに含むことがあります。SNSを広い意味でとらえると「SNSをやっている人は採用しない」とすると、若年層のほとんどが採用されないことになってしまいます。
一方で、援助交際を助長しかねない違法なアダルトSNS、出会い系アプリなど、企業秩序維持のために禁止が正当化されるようなSNSであれば、利用していることだけを理由に不採用にできるケースもあります。
要は、一律に「SNSを利用しているから不採用」というのではなく、そのSNSがどのようなものか、その人の利用態様などにしたがって採否を判断するという採用態度が適切だということです。
企業側は、SNSを調査・監視している
就職活動は「特別なタイミング」と心得て、特に注意深く行動するのがおすすめです。
会社側として、不適切なSNS利用をする社員がいると経済的リスクを負うのは、数々のニュース報道からも明らかです。そのため、企業の人事担当者はSNSをすべてチェックし、求職者のアカウントを見つければ監視をしていると理解すべきです。特に、新卒採用では、対象者がまだ学生なので、中途採用にも増して、社会常識に欠ける社員が入社するリスクがあります。そのため、会社はSNSに厳しく目を光らせています。
次のような点は、調査、監視されているものと考えてSNSを利用すべきです。
- Facebookなどの実名で検索可能なSNSを利用するとき
- 「XX年卒」など、就職する年度を明らかにしてSNSを利用するとき
- 応募した社名、内定した社名を記載してSNSを利用するとき
企業側の「SNSを監視したい」というニーズから、SNSをはじめとしたインターネット上の情報を代わりに調査してくれる「インターネット探偵」のサービスも登場しているほどです。
採用拒否されてもしかたない不適切なSNS利用とは
次に、採用面接で問題視されうる、採用拒否されてもしかたないような不適切なSNS利用について解説します。
採用面接のとき、SNSを理由に不採用とすることは、適切でない場合もありますがかならずしも違法とは言いきれません。そのため、採用面接にのぞむ求職者としては、企業が「SNSの利用態様」までをも採用の判断材料としているという事実を理解し、問題視されるようなSNS利用をストップしなければなりません。
実名投稿
はじめに、実名で投稿しているSNS(例えばFacebook)について、真っ先にチェックしておきましょう。
実名で投稿するということは、「その人の意見・考えを表明したものと受けとられる」という意味です。そのため、「自分ではそのようなつもりで書いたわけではないのに」という投稿が、読む人によっては思いもよらないとらえ方をされてしまうことがあります。
自分が客観的に読めているか自信がないときは、投稿内容に問題がないか、第三者の意見を聞いくのがおすすめです。
愚痴・悪口・不平不満
愚痴・悪口・不平不満といったネガティブな感情を他人にぶつけることは、社会的には非難されるべき行為ととらえられることがあります。例えば、次のようなものです。
- 「今日も明日も実験でまじでダルい」
- 「鬼教授の授業うざい」
- 「就職説明会いったらダサいやつらばっかりだった」
愚痴・悪口・不平不満は、かならずしも法違反ではありませんが、採用側の目線でいえば、ネガティブな感情をSNSに投稿して拡散しまうような人よりも、ポジティブで会社に良い影響をもたらす人材のほうを採用したいのが当然です。
さらに、愚痴・悪口・不平不満が行きすぎると誹謗中傷となるケースがあり、この場合には法的責任が生じます。他人に対する攻撃は、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)などの犯罪行為にあたる可能性があります。
価値判断を押し付ける投稿
自分の価値判断を押し付けるような投稿も、問題ある投稿とみられるおそれがあります。例えば、次のようなものです。
- 「今度の選挙はXX党の勝ちに決まってる」
- 「家事な女がやるべき」
自分の価値判断を押しつけるタイプの人は、仕事上でも上司や同僚とトラブルを起こしがちです。特にパワハラ、セクハラなどを起こす人に多いです。
SNSでの情報発信が容易になったことにより、個人の意見をインターネット上で気軽に発表できるようになりましたが、発表する意見の内容は選別しなければなりません。政治や宗教など、人によって考え方が異なるものについては、他者への理解が必要となります。
独自の価値判断を押しつけたり、強硬に主張しているSNS投稿が企業に見つかれば、不採用の理由となるおそれがあります。
犯罪、社会常識に欠ける行動
SNSに、犯罪行為をしたことを自慢げに投稿している人がいます。例えば、次のようなものです。
- 「昨日じゃまなおっさんがいたから蹴っ飛ばしたった」
- 「高速で空いてたからXXkmで走ったら爽快だった」
犯罪行為は、当然やってはいけないことですし、ましてや、SNSで自慢していては採用上不利益となるのは当然です。
酔った勢いや、その場のノリで、社会常識に欠ける行動を行ってしまい、その様子を動画や写真にとってSNSに投稿してしまう例もよく見られます。
ハメを外した悪ふざけは、仲間内では評価されるかもしれませんし、ノリについていけないと「空気の読めない人」と思われるかもしれません。しかし、場の雰囲気や一時的な感情に流されて行ったあやまちがインターネット上に残り続けると、デジタルタトゥーとなり、採用面接で不利な事情として考慮されるおそれがあります。
企業側のSNSルールを理解する
企業の立場で考えれば、SNSの不適切利用によって大きな被害を受けるおそれがある以上、そのような兆候のある人が不採用となるのは当然だと理解いただけるでしょう。採用される側でも、「不適切なSNS利用をするのではないか」という誤解を与えてしまわないよう、企業側の立場をよく理解し、企業の求めるSNSルールについて理解を示すのが重要なポイントです。
企業側が設けているSNS利用のルールには、次のような例があります。
- 出会い系・アダルトSNSなどの不適切なコンテンツを含むSNSの利用を禁止する。
- 業務時間中のSNS利用を禁止する。
- 会社の公式見解の発表ととられかねないSNS投稿を行わない(個人の意見・感想だと明記する)。
- 違法性のあるSNS書込みを行わない。
- 違法ではなくても、社会的批判の対象となったり炎上の原因となったりするSNS書込みを行わない。
会社の定めるSNS利用のルールが、企業秩序を守るための合理的範囲内にとどまるときは、これを守れない社員を懲戒処分、懲戒解雇とすることができます。したがって、採用段階でも、不採用にすることが許されると考えるべきです。
危機管理の意識が高い会社では、SNS利用のルールを、就業規則やSNS規程、内規、マニュアルなどの形式で作っていることもあります。入社時には、社員であれば就業規則は周知してもらえますから、選考が先に進んでいくときには、そのようなSNSについてのルールが社内にあるか、面接時に質問しておいてもよいでしょう。
まとめ
採用のタイミングにおけるSNS利用の問題について、労働法の観点から弁護士が解説しました。
SNSが広く普及した現在、「SNSを利用している」というだけで採用・不採用を決めるのは不適切です。しかし、バイトテロ、バカッター問題のように、不適切なSNS利用が企業に損害を与えるケースもあり、SNS利用について採用時に敏感になっている現状も理解しなければなりません。
求職者の立場では、どんなSNS利用が問題となるのかを理解し、企業が問題としがちなSNS利用を行わないよう、就職活動中は特に慎重な行動が望まれます。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題を注力分野として扱い、数多くのサポート実績があります。
理不尽な理由で不採用とされてしまった方はもちろん、労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
労働問題のよくある質問
- SNSの利用を理由に不採用となることがありますか?
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SNSを利用しているというだけで不採用にするのは不適切ですが、利用しているSNSの種類や利用のしかたによっては、不採用の理由となることがあります。会社には「採用の自由」があるため、SNSの利用について不採用理由としてもかならずしも違法ではありません。詳しくは「『SNS利用を理由に不採用』は違法?」をご覧ください。
- 就職活動時のSNS利用で、法的に気をつけておきたい点はありますか?
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就職活動時は、企業は、SNSの不適切利用がないかどうかチェックしていますから、特に慎重に行動しなければなりません。実名投稿のSNSで、愚痴や不満などマイナスイメージをたれ流したり、犯罪行為となるような過激な投稿をしないように注意してください。詳しくは「採用拒否されてもしかたない不適切なSNS利用とは」をご覧ください。