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委任契約書は、民法改正でどう変わる?【民法改正と契約書 第13回】

委任契約とは、他人に仕事や事務を頼むときの契約のことです。事業を経営していると、他人や企業にものを頼むことが多いかと思いますが、それらは皆、広い意味で「委任契約」となります。

2020年4月1日より、改正民法が施行されました。この改正は、民法制定以来120年ぶりともいわれる大改正であり、「債権法」という、契約について定めたルールが大きく変更されました。

これまで、委任契約を多数締結していた会社では、書式、ひな形を多く有しており、過去のものを流用すれば、委任契約書にはさほど困らなかったことでしょう。しかし、民法改正後、契約書をあらためてチェックし、見直さなければ、思わぬリスクが隠れているおそれがあります。

今回は、委任契約書のリーガルチェックのポイントについて、改正民法を踏まえ、企業法務にくわしい弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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そもそも「委任契約」とは?

握手

委任契約とは、当事者の一方が、他方に法律行為を委託する契約です。簡単にいうと、誰かに何かを頼むときに交わす契約が「委任契約」です。民法には、委任契約について、次のような定めがあります。

民法643条

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法(e-Gov法令検索)

頼む内容が法律行為の場合を「委任契約」、事実行為の場合を「準委任契約」といって区別されますが、いずれも、改正民法における委任契約に関する定めの適用を受けます。

委任契約とは
委任契約とは

委任契約の例としては、コンサルティングファームにコンサルティング業務を委託する場合の契約や、病院と患者の診療契約などが典型例です。このように、委任契約は、とても身近な契約類型です。弁護士に、弁護活動や顧問弁護士業務を依頼することも、委任契約の一種です。

【ポイント1】受任者の自己執行義務

ポイント

改正前の民法における委任のルールでは、委任契約の受任者が、みずから委任事務を履行しなければならないとの定めはありませんでした。

しかし、法律に明文の根拠はないものの、「委任契約」というものがそもそも、当事者間の信頼関係を基礎とした契約であることや、代理についてのルールが別に定められていることなどを理由にして、委任契約では原則として、委任者がみずから委任事務の処理をおこなわなければならないと解釈されてきました。

このような従来の民法のルールによれば、さらに、復委任(委任を受けた人が、別の人に再び委任すること)は、復代理のルールを参考にして、例外的に認められるものと考えられてきました。解釈に頼るような曖昧な状況だと、「誰が委任事務を処理しなければならないのか」、「誰が委任事務の責任を負うか」が不明確になるおそれがありました。

そのため、今回の民法改正で、委任契約について「受任者の自己執行義務」が定められることとなりました。

自己執行義務と、復委任できる要件

改正民法では、委任契約における受任者は、委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることから、みずから自ら委任事務を処理すべき義務(自己執行義務)を負うものと定められました。

そして、例外的には、自己執行義務を負わなくてもよい、つまり、復委任をすることができるケースがあることを定めた上で、復委任することができる要件について、次の2つのケースが明文化されました。

  • 委任者の許諾を得たとき
  • やむを得ない事由があるとき
自己執行義務と、副委任できる要件
自己執行義務と、副委任できる要件

復受任者の権利義務

改正前の従来の民法では、先ほど解説した通り、そもそも「どんなときに復委任できるか」のルールがなく、裁判例などの解釈でルールづくりがされていました。しかし、裁判例などの実務では、復委任が認められた場合であっても、復委任を受けた人(「復受任者」といいます)は、最初の委任者との間に直接の権利義務関係を生じるものと考えられてきました。

この点についても、曖昧なまま委任契約や復委任を進めていくと、「誰が、委任契約の事務について責任を負うのか」が不明確となり、委任者の権利が侵害されたり、委任事務が適切に処理されなくなってしまったりするおそれがありました。

改正民法では、委任者と復受任者の関係について、復受任者が委任者に対して、その権限の範囲内で、受任者と同一の権利義務を有することが明記されました。

【ポイント2】中途終了のときの報酬請求権(割合的請求)

お金

改正前の民法では、受任者に「帰責事由がないとき」に、委任契約が中途で終了した場合には、すでに行っていた委任事務の割合に応じて報酬を請求できるというルールが定められていました。

しかしこれは、「帰責事由(落ち度)」が、受任者にないケースにかぎったルールであり、その他の場合に、中途解約時の報酬をどう処理してよいのかについてのルールがなく、個別のケースごとに判断するしかありませんでした。改正前の民法におけるルールは、次のように整理できます。

  • 中途終了の責任が委任者にあるとき
    報酬を全額請求できる
  • 中途終了の責任が受任者にあるとき
    法律の定めなし(個別のケースに応じた判断)
  • 中途終了の責任がいずれにもないとき
    すでに行った履行割合に応じて請求できる

改正民法では、委任契約は、「履行割合型」と「成果報酬型」に区別されることとなり、この類型ごとに、中途終了時の報酬に関するルールは、違ったものが定められました。

「履行割合型」と「成果報酬型」

2020年4月1日より施行された改正民法では、委任契約は「履行割合型」と「成果報酬型」に区別され、どちらに分類されるかによって、中途終了の場合の報酬請求のルールが違ったものとなっています。したがって、この2つの区別が、とても重要です。

委任契約の種類
委任契約の種類

「履行割合型」の委任契約とは、事務処理の労務に対して報酬を支払う場合のことです。例えば、月々一定の作業をお願いし、業務の処理量に応じて委任報酬を支払うようなケースがこれにあたります。

「成果報酬型」は、事務処理の成果に応じて報酬を支払う委任契約のことです。例えば、一定の作業を依頼し、その結果として一定の成功を獲得できた場合には報酬を支払うことを約束したケースがこれにあたります。

成果報酬型の委任契約は、仕事の完成を約束し、「仕事が完成したら報酬を支払ってもらえる」という性質を持つ「請負契約」にとても似ています。

なお、委任契約は、報酬の支払が必須ではありません。そのため、報酬が払われない委任(無償の委任)もあります。報酬が払われない委任は、報酬請求のルールを考える必要はないため、このいずれの区分にもあてはまりません。

「履行割合型」の報酬請求のルール

履行割合型の委任は、「委任者の責めに帰することができない事由」によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、委任の履行の中途で終了したときには、受任者は、「既にした履行の割合に応じて」委任者に対して報酬を請求することができるとされています。

この「委任者の責めに帰することができない事由」とは、委任者、受任者のいずれにも責任がないケースと、受任者のみに責任があるケースとの2つを指す言葉です。

履行割合型の委任について、中途終了時の報酬請求のルールについて、表にまとめると次のようになります。

  • 中途終了の責任が委任者にあるとき
    報酬を全額請求できる
  • 中途終了の責任が受任者にあるとき
    すでに行った履行割合に応じて請求できる
  • 中途終了の責任がいずれにもないとき
    すでに行った履行割合に応じて請求できる

「成果報酬型」の報酬請求のルール

次に、「成果報酬型」の委任契約の場合には、仕事の完成によってはじめて報酬を得られる請負契約と類似します。

成果報酬型における報酬ルールは、報酬の支払時期についても改正がされることとなりました(民法648条の2)。成果報酬側の委任契約について、報酬の支払時期は次のように定められています。

  • 成果の引渡しが必要な場合には、成果の引渡しと同時に報酬を請求できる
  • 成果の引渡しを必要としない場合には、成果が完成後に、委任者に対して報酬の支払を請求できる

そして、仕事が完成不能になった場合や、成果を得る前に委任契約が解除された場合には、すでに行った委任事務の履行の結果が可分で、かつ、その給付によって委任者が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて委任者に報酬を請求できます。

このことは、仕事の一部が履行された後に請負契約が解除され、その請負契約によって履行された成果物が可分であったときの、請負報酬請求に関する裁判例(最高裁昭和56年2月17日判決)と同じ結論です。

成果報酬型の委任について、中途終了時の報酬請求のルールについて、表にまとめると次のようになります。

  • 中途終了の責任が委任者にあるとき
    報酬を全額請求できる
  • 中途終了の責任が受任者にあるとき
    利益の割合に応じて請求できる
  • 中途終了の責任がいずれにもないとき
    利益の割合に応じて請求できる

※ただし、利益の割合に応じた請求を行うためには、成果が可分で、かつ、その成果が、委任者にとって利益があることが要件となります。

【重要】「委任契約書」の契約書チェックの修正点

本

では、ここまで解説した「委任契約書」に影響する改正民法のポイントを理解した上で、実際に、改正民法に適合した契約書を参考にしながら、リーガルチェックのポイントについて弁護士が解説します。

委任契約書、特に「業務委託契約書」は、起業、会社設立当初から発生するケースが多く、書式、ひな形を保管している会社も多いでしょう。今回の解説を参考に、改正民法に適した内容に修正するようにしてください。

なお、今回は、委任契約書、業務委託契約書の典型例の1つとして、「コンサルティング契約書」を参考にして解説します。

コンサルティング契約書(例)

第1条(コンサルタント業務の委任)
甲は、乙に対し、以下に定めるコンサルティング業務(以下「本委任業務」という。)の提供を委任し、乙はこれを受任する。

本委任業務の内容
:甲の経営戦略及びその実行プランニングの策定に関するコンサルティング業務

第2条(業務の遂行)
1 乙は、本委任業務を、善良なる管理者の注意をもって遂行する。
2 乙は、本委任業務を以下のスケジュールのとおり遂行する。
⑴ 乙による予備調査の着手
本契約締結日から1週間以内
⑵ 乙による予備調査報告書及び本調査計画書の提出
XXXX年XX月XX日限り
⑶ ⑵についての甲の検収
⑵から2週間以内
⑷ 乙による本調査の着手
⑶から1週間以内
⑸ 乙による本調査報告書の提出
XXXX年XX月XX日限り
⑹ ⑸についての甲の検収
⑸から2週間以内

第3条(報酬)
1 甲は乙に対して、本委任業務の対価として、本委任業務の進捗に応じて以下のとおり報酬を支払うものとする。
⑴ 予備調査着手
予備調査に着手後〇営業日以内に金〇万円(消費税別途)
⑵ 予備調査報告書・本調査計画書の提出
予備調査報告書および本調査報告書についての甲の検収終了後〇営業日以内に金〇万円(消費税別途)
⑶ 本調査着手
本調査に着手後〇営業日以内に金〇万円(消費税別途)
⑷ 本調査報告書の提出
本調査報告書についての甲の検収終了後〇営業日以内に金〇万円(消費税別途)
2 (省略)

第4条(再委託)
1 乙は、本委任業務の一部または全部について、事前に甲の書面による承諾を得た場合に限り、第三者(以下「再委託先」という。)に再委託することができる。なお、税務知識に関する調査について再委託する場合、再委託先は税理士有資格者に限定するものとする。
2 乙は、再委託先に対して本契約において乙が負う義務と同等の義務を負わせるものとする。
3 乙は、再委託先の行為について、再委託先と連帯してその責任を負うものとする。

(以下、省略)

「自己執行義務」について契約書文言の変更

改正民法により、委任契約では、受任者に自己執行義務(みずから委任事務を処理する義務)があること、例外的に、委任者の許諾があるとき、やむを得ない理由があるときは、再委託ができるといったルールが明記されました。

この点は、改正前の実務上の解釈と、それほど変わるところはありません。ただ、委任契約書のリーガルチェックの際には、あらためて再委託についての規定を見直しておくのがおすすめです。

加えて、委任契約や準委任契約(法律行為以外の事務の委託契約)において、委任事務の執行のために第三者を使用するケースは少なくありません。今まで以上に、第三者を使用する際のルールをあらかじめ契約書に盛り込んでおく必要があります。

委任契約書を修正するにあたり、「再委託」の条項に関する特に注意しておいていただきたいのは、次の点です。

再委任の方法に関する条項の追加

委任者が、再委託されることにより予想外の損失を被らないよう、再委託できる方法を制限する条項を加える場合があります。

例えば、「事前の」「書面による」承諾を要件とする、といった修正が考えられます。

再委託できる範囲に関する条項の追加

同様に、委任者の権利を保護する目的で、再委託できる範囲に関する条項を書き加えるケースがあります。

例えば、再委託できる第三者を、特定の資格者に限定したり、既に再委託が予定されている場合には再委託者の名称を記載するといった例です。

再委託した受任者の責任の追加

委任契約における受任者が、任された事務の一部を第三者に再委託する場合であっても、その後に無責任な態度をとられてしまっては、委任者が思わぬ損害を被るおそれがあります。

そこで、再委託後においても、再委託した者の業務執行について、同様の責任を負い続けることを定める例があります。

「報酬の割合的請求」について契約書文言の変更

委任契約書をチェックし、その契約が「履行割合型」にあたるのか、それとも「成果完成型」にあたるのかを区別することが重要です。そして、各類型の区別をきちんとした上で、具体的な報酬の発生時期について、契約書に明記します。

改正民法における中途終了時の報酬の取り決めは、受任者の責任の有無にかかわらないものとされています。そのため、受任者としても、委任者との将来的な紛争を防止するためにも、中途解約の場合、どのような報酬を請求することとなるのか、具体的に明記しておくことが大切です。

委任契約の報酬の支払時期、委任契約を中途解約した場合の報酬に関するルールはいずれも、「任意規定」とされています。

法律の規定には「任意規定」と「強行規定」があり、「任意規定」は、契約当事者の合意によって法律とは異なる取り決めをすることができますが、「強行規定」は当事者の合意によっても違反することができない重要な規定です。

この点で、「任意規定」である委任契約の報酬に関するルールは、契約書によって修正しておくことができますので、当事者同士の十分な協議が必要となります。

特に、今回の民法の改正において、「履行割合型」と「成果報酬型」の委任契約の2分類がはっきり示されたのにともない、報酬の支払時期が不明確であったり、中途解約の場合にいくら請求されるのかが不明確な契約書を提示されたりしたときは、交渉が必須です。

まとめ

今回は、他人に何かを頼むときによく使われる「委任契約書」について、2020年4月1日施行の改正民法を踏まえて、契約書チェックのポイントを弁護士が解説しました。

委任契約書、準委任契約書、外注契約書、業務委託契約書など、その名称はさまざまですが、業務の一部を外部に委託することは、会社の規模や業種、段階をとわず、とてもよく発生する状況です。そのため、その際に締結すべき「委任契約書」はとても重要です。

特に、相手方から委任契約書を一方的に示されたり、その際に交付された委任契約書を社内の書式、ひな形として活用していたりする場合、民法改正に対応していないことにより、報酬未払いなどのデメリットを受けてしまうおそれもあります。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務に精通しており、多数の契約書のリーガルチェックを行ってきました。

民法改正に未対応の委任契約書を使用している方は、ぜひ一度、弁護士に法律相談くださいませ。

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