痴漢の現場から逃げ切っても、後日警察が来て逮捕されるケースがあります。現行犯逮捕を免れ一度は帰宅できても、その後も捜査が続き、結果として逮捕に至るケースは珍しくありません。
痴漢の多くは現場で取り押さえられ、駅員から警察に引き渡される「現行犯逮捕」となりますが、「後日逮捕」のケースもあります。後日逮捕だと、防犯カメラの映像やICカードの乗車履歴などから個人情報が特定され、被害者や目撃者の証言をもとに痴漢行為の十分な証拠を確保されるのが一般的です。そのため、被疑者側が無実を主張して争うのは容易ではありません。
「いつ警察が来るのか」と不安を抱え、眠れない日々を過ごす方もいるでしょう。痴漢での後日逮捕を避けるには、早期に適切な弁護活動を行わなければなりません。
今回は、痴漢で後日逮捕されるケースの具体例と、後日逮捕を回避するための弁護活動について、弁護士が解説します。
- 痴漢では現行犯逮捕が多いが、後日逮捕されるケースもある
- 後日逮捕では、防犯カメラ映像や乗車履歴、目撃者証言が犯人特定に繋がる
- 痴漢して逃げてしまったら、後日逮捕されないよう示談交渉を早急に進める
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痴漢で後日逮捕される確率は?

はじめに、痴漢で後日逮捕されるケースの基本を解説します。
痴漢事件においては、事件発生直後に「現行犯逮捕」されるケースと、捜査の進展や新たな証拠の発見によって「後日逮捕」されるケースがあります。
事件直後と後日逮捕の違い
痴漢行為が発生すると、被害者の訴えや目撃者の証言によって、直ちに犯人が判明し、逮捕されるケースがあります。その場で取り押さえられて駅員に引き渡されるなど、警察の初動捜査が迅速に進めば、すぐに逮捕されてしまう可能性は大いにあります。
一方で、初期の捜査では決定的な証拠が不足していたり、被害者証言の信用性に疑問があったり、犯人が現場から逃走したりする場合、逮捕が後日となるケースもあります。この場合、痴漢の直後は「逃げ切れた」と思っても、最終的には逮捕に至るリスクは否めません。
「痴漢で在宅事件となった場合」の解説

捜査の進展と新たな証拠発見のリスク
痴漢行為の直後に逮捕されなくても、後から新たな事実や証拠が明らかになると、捜査が進展して逮捕されることがあります。
最初は犯人が明白でなかったり、犯人と名指しされた人がその場から逃げ去ったりしても、警察は捜査をあきらめるわけではありません。捜査が進行し、追加の情報が明らかになれば、「逮捕するかどうか」の判断にも影響を与えます。
次章の通り、新たな証拠の発見、別の目撃者からの証言、監視カメラ映像、微物や繊維、DNAといった解析や検査が必要となる証拠などから、当初は不十分だった証拠が補完されれば、結果として後日逮捕に結びつくことがあるのです。
「起訴前弁護」の解説

痴漢で後日逮捕されるケースの具体例

次に、痴漢の事案で後日逮捕される具体例について解説します。
痴漢は、行為の悪質性の高いケースは不同意わいせつ罪(刑法176条)、軽度のケースでも迷惑防止条例違反となる犯罪行為です。犯行現場で取り押さえられれば現行犯逮捕となりますが、逃げ切れたとしても後日逮捕される理由を知っておいてください。
被害者証言を得られた場合
痴漢をされても、被害者が恐怖や不安からすぐには被害を申告しないケースは少なくありません。しかし、加害者が立ち去った後、駅員や警察に相談する可能性は十分あります。この場合、被害者の証言をもとに捜査が進み、過去の痴漢行為で後日逮捕されるおそれがあります。
監視カメラ映像から特定された場合
事件発生時の映像は、証拠として非常に強力です。
痴漢事件では、現行犯逮捕されなかった場合、加害者の特定が課題となります。監視カメラ映像が残っていて、映像にはっきりと顔が映っていれば、そこから犯人を特定して後日逮捕となるケースも多くあります。
また、同じ駅を頻繁に利用している場合、警察や駅員による張り込み捜査が行われ、過去の痴漢行為を理由に逮捕されてしまうこともあります。
目撃者証言が得られた場合
目撃者の証言から犯人が特定されて後日逮捕される流れもあり得ます。
被害者や周囲の人の証言は、痴漢事件を裏付ける重要な証拠です。特に、通勤や通学によく使う電車だった場合、あなたの顔に見覚えがあると申し出る目撃者がいることもあります。証言の信頼性や一貫性が高いと、後日の逮捕リスクは上昇します。
乗車記録から個人が特定された場合
犯人となった人の個人情報が分からなくても、交通系ICカード(SUICAやPASMOなど)の乗車記録から個人の割り出しが進み、後日逮捕となるケースがあります。
防犯カメラ映像や目撃者の証言など、他の証拠と組み合わせて、乗車履歴や定期券の使用履歴は、「あなたがその日、その場にいた証拠」として重要な意味を持ちます。個人情報が登録されているため、追跡のために捜査活動でよく利用されます。
証拠品から痴漢が証明された場合
通常、痴漢事件では現行犯逮捕でないと目撃者の証言が得られず、犯行の態様を証明することが難しくなる傾向にあります。
しかし、痴漢に物的証拠が存在する場合、その証拠が後日の捜査で再評価された結果、逮捕状を取られるおそれもあります。例えば、あなたのDNAが被害者の衣服や下着から検出されたケース、微物検査の結果、被害者の着衣の繊維があなたの手指に付着していたケースなどが典型例です。
「痴漢の証拠」の解説

痴漢で後日逮捕されないためにすべき弁護活動

次に、痴漢で後日逮捕されないために、今のうちにすべき弁護活動を解説します。
逮捕リスクを低減するには、事件発生直後の初動から弁護士に相談して、戦略的に進めなければなりません。逃げ続けたとしても逮捕されるリスクがなくなるわけではなく、一方で精神的ストレスは増大してしまうでしょう。
後日逮捕されないためには、出頭要請には誠実に応じ、自首や示談といった弁護活動も積極的に検討してください。
事件発生直後に冷静な対応をする
痴漢だと疑われた場合は、まずは冷静に状況を把握することが重要です。
焦って不適切な行動をしたり、逃げたりすれば、逮捕されるリスクは高まってしまいます。痴漢をしたことを否定して立ち去るとしても、現場の状況を写真や動画に記録したり、周囲の目撃者の連絡先を控えておいたりといった努力により、証拠収集をしておきましょう。
任意同行や出頭要請に応じる
警察から連絡が来たとき、逃亡のおそれがあると判断されると後日逮捕の可能性が高まります。任意同行や出頭要請を受けた場合、しっかりと応じて、取調べを受けるのがお勧めです。怖いからといって無視したり逃げたりしてはいけません。
取調べを受けるとき、安易な供述は後で不利に働くおそれがあるので、正確に事実を確認した上で伝えなければなりません。しっかりと記憶を喚起して、覚えていない部分については無理に詳細を語らず、弁護士のアドバイスを受けながら進めるべきです。
自首をする
逮捕されるのではないかと不安なまま過ごすのではなく、こちらから自首することで逮捕を回避し、刑を軽くしてもらうことができます。
自首とは、自ら犯罪を告白し、処分に服する意思を捜査機関に示す行為です。痴漢で後日逮捕されるのは、逃亡や証拠隠滅のおそれが強いと判断されるからです。自首によってそのおそれが無いことを示せば、逮捕の可能性を低くすることができます。
また、刑法42条1項は「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と定めており、自首すれば、起訴されても刑罰が軽くなることが期待できます。
ただし、自首したとしても必ず不起訴になるとは限りません。
犯行の悪質性が高い場合や、被害者の処罰感情が強い場合、そして、過去に痴漢の前科がある場合などは、自首しても起訴され、刑事処分を受ける可能性があります。
なお、自首の際にすぐに逮捕されるリスクを避けるため、弁護士を同行する方法が有効です。弁護士が同席することで、適切な対応をとりつつ、逮捕の可能性をできる限り低く抑えることができます。
示談交渉をする
痴漢のように被害者がいる事件では、示談の成立が、被疑者にとって最も有利な情状となります。示談が成立すれば、被害者の処罰を求める感情はなくなったと判断できるため、刑事処分が軽減される可能性が高まります。
そのため、痴漢で後日逮捕を防ぐには、示談交渉を進めるのが有効です。ただし、身柄拘束されていないからといって被害者に直接会いに行くことは絶対に避けるべきです。加害者本人が接触を試みると「危険人物」と見なされ、かえって逮捕を早めてしまいます。
また、痴漢事件では通常、被害者の連絡先は分からないので、弁護士を通じて捜査機関に照会し、示談交渉を進めることになります。この際、犯人と犯行が特定されるため、示談の提案と並行して自首も行うのがお勧めです。
痴漢事件で逃げてしまい、後日逮捕のおそれのあるケースは、被害者の処罰感情も強く、高額な示談金を要求される例もあります。しかし、弁護士に依頼することで、適正な示談金額で交渉を進めることが可能になります。
早期の対応が後日逮捕のリスクを軽減し、より有利な結果につながるため、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが重要です。
「痴漢の示談金の相場」の解説

痴漢で後日逮捕されるまでの期間

痴漢事件で現場から逃げ去り、後日逮捕される可能性のあるとき、気になるのは「逮捕までにどれくらいの期間を要するのか」という点でしょう。「逮捕されるかもしれない」という状況で待ち続けるのが不安な気持ちは理解できます。
事案にもよりますが、警察から連絡が来るケースは、痴漢をしてしまってから2、3日〜1週間程度で逮捕されるケースが多いです。ただし、捜査機関の都合や証拠の状況、痴漢行為の態様などによってもかかる期間は異なります。「必ずいつまでには警察が来るはず」とか、逆に「これだけ長期間警察が来なければ後日逮捕はない」など、断定的なアドバイスはできません。
防犯カメラや目撃証言などを精査して犯人を特定したり、証拠物を鑑定したり、被害者の証言を聞いたりといった捜査には時間を要するので、数ヶ月後に逮捕される例もあります。
犯罪で起訴することができる期限のことを公訴時効といいます。
痴漢事件の公訴時効は、痴漢行為の時点から起算して、不同意わいせつ罪となる痴漢は12年間、迷惑防止条例違反となる痴漢なら3年間となります。この公訴時効の期間が経過すれば、起訴して刑事裁判を起こすことができなくなるので、逮捕もされません。
「痴漢の時効」の解説

痴漢の後日逮捕でよくある質問
最後に、痴漢の後日逮捕についてのよくある質問に回答しておきます。
痴漢の後日逮捕が難しいケースは?
痴漢行為について録音や映像などの証拠が十分でない場合、後日逮捕することが難しいケースもあります。
法律上、「疑わしきは被告人の利益に」(無罪推定の原則)というルールがあるので、証拠によって犯罪を立証する責任は捜査機関側にあるのであって、犯人が無罪を証明する必要はありません。
ただし、捜査機関の力を甘く見るべきではありません。
痴漢で後日逮捕された後の流れは?
後日逮捕されたら、まずは早期釈放を目指しましょう。
痴漢が刑事事件として立件され、後日逮捕されると、被疑者は警察署に連行されます。逮捕の期間は72時間、その後に勾留が請求が認められると10日間(延長されると更に最大10日間)の身柄拘束が行われます。
逮捕中は家族が面会することはできず、弁護士の接見のみ許されます。痴漢事件の後に弁護士を依頼するタイミングは早い方がよいですが、逮捕後は、在宅のケースにもまして依頼するメリットが大きいです。
逮捕、勾留の間に、検察官が起訴することを決定すると、裁判が開かれ、懲役や罰金刑などの刑罰が決まります。被害者と示談したことといった有利な情状を主張することで、執行猶予の獲得を目指す弁護活動が必要となります。
痴漢を否認するケースで後日逮捕されたら?
実際は触っていない痴漢冤罪のケースも、残念ながら後日逮捕されるケースがあります。
痴漢の事実を否定するなら、示談や自首といった弁護活動を選択することは不適切です。したがって、後日逮捕されるおそれのあるケースでは、逮捕までの期間に、自身にとって有利な証拠を集める努力をしておくこととなります。
冤罪だとしても、逃げるのはお勧めできません。逃げると、現場で微物検査をしたり目撃者証言を集めたりといった努力で、冤罪を晴らせる機会を失ってしまいます。
「痴漢を疑われた場合」の解説

まとめ

今回は、痴漢で後日逮捕されるケースの具体例や対処法を解説しました。
駅構内には防犯カメラが設置されており、たとえ現場から逃げ切れても、映像や証言などをもとに犯人が特定され、後日逮捕されるおそれは十分にあります。「何日逃げ切れば安心できるか」という明確な基準はなく、確実な保証もありません。
その不安を解消し、万が一の後日逮捕や起訴に備えるためにも、早めに自首を検討し、刑の減軽を求めるなどの弁護活動を検討してください。痴漢などの性犯罪についてお悩みの方は、適切な対処を誤らないために、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 痴漢では現行犯逮捕が多いが、後日逮捕されるケースもある
- 後日逮捕では、防犯カメラ映像や乗車履歴、目撃者証言が犯人特定に繋がる
- 痴漢して逃げてしまったら、後日逮捕されないよう示談交渉を早急に進める
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性犯罪の事件では、その重大性や社会的な影響を理解し、適切な対応をする必要があります。被疑者・被告人側、被害者側のいずれであっても、決して軽んじることなく慎重に対応しなければなりません。
性犯罪に関する以下の解説を参考に、正しい対処法を理解してください。