刑事事件

痴漢における示談をうまく進める方法と、示談金の相場

2021年9月7日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

痴漢をしてしまって被害届を出され、捜査を開始されたとき、そのまま放置しておくと逮捕されたり、起訴されて前科がついてしまったりといった不利益を受けることとなります。

痴漢をしてしまったことについて認め、反省しているとき、最優先で行うべき弁護活動が、被害者との示談交渉です。示談に成功すれば、有利な情状として考慮され、逮捕・勾留などの身柄拘束されているときには早期釈放となり、また、不起訴処分となって前科がつくことを回避できるといったメリットがあります。

一方、示談するためには、犯人とされるあなたが直接交渉することはできず、弁護士に依頼する必要があります。また、被害者の処罰感情が強いと、相当高額な示談金を要求されることもあり、示談をめぐる交渉は長期化するおそれもあります。

なお、触っていないケース、すなわち痴漢の疑いが冤罪のときは、示談してしまうと痴漢したことを認めたとみられるおそれがあるため慎重になる必要があります。

今回の解説では、

  • 痴漢の示談交渉の流れ
  • 痴漢の示談金の相場
  • 痴漢の示談交渉をうまく進めるためのポイント

といった痴漢と示談に関する法律知識について、弁護士が解説します。

痴漢の示談とは

示談とは、罪を犯した加害者が、被害者に対して謝罪し、一定の示談金を支払うことによって罪を許してもらうという方法です。示談は、民事事件でも刑事事件でも行われますが、刑事事件では、示談することが今後の処罰の軽重に影響するため、特に重要です。

痴漢は、被害者のいる犯罪であるため、被疑者(ないし被告人)にとって示談することがとても重要です。被害者との示談に成功すれば、逮捕・勾留されているときには早期釈放される可能性が上がります。また、検察官が起訴についての処分を決定する前に示談ができれば、不起訴処分を勝ちとり、前科がつくことを免れられる可能性が上がります。

痴漢は、その程度によって、重度のケースでは強制わいせつ罪(刑法176条)、軽度のケースでは迷惑防止条例違反にあたります(参考解説:「痴漢で成立する犯罪の種類」)。いずれの罪でも、示談が成立すれば不起訴となる可能性が高いです。

悪質な痴漢や過去に前科がある者の場合には、示談が成立しても起訴されて処罰を受けるおそれがありますが、示談したことで軽い刑罰で済み、罰金や執行猶予付き判決とすることができるメリットがあります。

痴漢の示談交渉の流れ

次に、痴漢で示談交渉をするときの実際の流れについて解説します。

示談は、早期の身柄釈放につながることから、痴漢をしてしまったときはできるだけ早く進めることが重要です。痴漢被害から長らく放っておくと、被害者側でも処罰感情が高まり、示談交渉に応じてもらえなくなってしまうおそれもあります。

なお、痴漢の現場で現行犯逮捕されなかったときでも、後日逮捕されてしまうケースもありますから、逮捕されなくても示談を急いだほうがよいでしょう。

弁護士への依頼

痴漢のケースでは、被疑者(ないし被告人)が直接被害者と会って示談交渉をすることはできません。逮捕・勾留により身柄拘束されているとき物理的に交渉ができないことはもちろん、身柄拘束を受けない在宅事件でも、直接会ってしまうと再犯の危険を疑われてしまうからです。

そのため、痴漢事件で示談交渉をするときは、弁護士に依頼して進めることとなります。弁護士は、はじめに、捜査機関(警察・検察)に被害者の連絡先を聞き、被害者に連絡をとって示談交渉を開始してくれます。

示談の申し入れ

示談交渉を担当する弁護士は、まず、捜査機関(警察・検察)を通じて、被害者に対して、示談をする意向があることを伝えます。被害者が示談交渉に応じるときには、弁護士に対して、被疑者(ないし被告人)には伝えないという約束のものに被害者の連絡先を教えてもらえます。

連絡先を入手したら、弁護士はただちに被害者に連絡し、あらためて示談の意向があること、謝罪、反省の気持ちを示したいことを伝えます。「お金で解決しよう」という気持ちが前面に出ると被害者から不快に思われるおそれがあるため、この時点ではまだ示談金の提案などは行いません。

謝罪文・反省文の作成

痴漢の示談は、被害者と直接会うことはできないことから、謝罪と反省を示すためには、謝罪文・反省文を作成し、弁護士を通じてお渡しすることで気持ちを伝えます。

謝罪文・反省文を作成するときに重要なのは、自分の言葉で、気持ちが伝わるような文章を書くことです。この点で、ネット上には多くの例文がありますが、ありきたりで形式的な内容だと反省が十分に伝わらず、被害者が示談を躊躇してしまうおそれがあります。そのため、多少文章が下手でも一から自分で作成するのがおすすめです。

被害者との面談

示談交渉は、被害者の都合にあわせて面談の約束をし、対面で進めるという流れが基本です。ただし、被害者が幼少のときや、精神の状態が悪くすぐに会うことが難しいときなどには、電話で示談交渉を進めることもあります。

被害者との面談では、まずあらためて被疑者(ないし被告人)の反省の意思を伝え、あらかじめ作成した謝罪文・反省文をお渡しします。

あわせて、示談には被害者側にも次のようなメリットがあることを伝え、あくまでも被害者のためにも示談すべきであることを伝え、説得をします。

  • 早期に被害回復を実現することができる
  • 接近禁止、再発防止などの被害者の要望を守らせることができる
  • 守秘義務を交わすことができる

示談交渉をする際、「捕まりたくない」、「処罰されたくない」という被疑者・被告人側のメリットが前面に出過ぎてしまったり、金銭解決を急いでしまったりすると、示談が成立しづらくなってしまうため、弁護士は丁寧に、かつ、誠意をもって説明することとなります。

示談書の作成

示談金をはじめとした示談に関する条件について被害者と合意ができたら、示談書を作成します。加害者側に弁護士がついているときには、弁護士が示談書を作成し、被害者の署名押印をもらうという流れが通常です。

示談書には、主に次の条項が定められます。

  • 謝罪文言
    痴漢の被疑事実について、加害者が謝罪し、被害者がこれを受け入れるという条項
  • 示談金
    示談金の金額、支払方法、支払時期が定められる
  • 宥恕文言
    被害者が加害者を許し、厳しく処罰することを望まない旨の条項。処分を軽くするための有利な情状として特に考慮される。
  • 接近禁止
    被害者に近づかず、見かけた場合にはただちに立ち去る旨の条項
  • 通勤ルートの変更・路線の使用禁止
    電車内の痴漢のケースでは、特定の路線の使用を禁止することを定めることがある。
  • 守秘義務条項
    痴漢の被疑事実について第三者に口外しないという守秘義務を定めた条項
  • 清算条項
    当事者間に、示談書に定める以外の債権債務関係がない旨の条項。刑事事件だけでなく、民事事件(損害賠償請求)も一括して解決するために必要となる。

示談書を作成せずに示談金を支払ってしまうと、捜査機関に有利な情状を証明することができなくなってしまう上、将来、被害者からの追加請求を受けてしまうおそれもあるため、必ず作成しておきましょう。

被疑者・被告人が身柄拘束を受けているときは、加害者側は弁護士が代わりに署名押印をします。最終的に、示談書の原本は被疑者・被告人にお返しされますが、被害者のプライバシーを守るために名前や住所についてマスキングをして返還します。

示談金の支払い

示談金の支払いは、示談書作成後に口座振込するか、示談書作成時に現金を手渡しするかのいずれかの方法が基本です。

どちらの方法をとるかは被害者の意見を聞いて決めることとなりますが、重要なことは、いずれの方法であっても、示談書に支払方法を記載し、支払ったことを証拠に残しておくことです。口座振込のときは振込明細、現金手渡しのときは領収書が証拠となります。

約束にもとづいて示談金が支払われるまでは、捜査機関(警察・検察)においても有利な情状として考慮されないのが基本ですから、示談金の支払いは速やかに行う必要があります。被疑者・被告人が身柄拘束を受けているとき、弁護士は、加害者の代わりに示談金を立て替えてくれる人(家族など)を探すこととなります。

捜査機関への報告

最後に、示談が成立したことを捜査機関(警察・検察)へ報告し、情状として考慮してもらえるよう求めます。示談書とともに、示談金を支払った証拠(振込のときは振込明細、現金手渡しのときは領収書)を捜査機関に送付します。あわせて、早期釈放や不起訴処分を求める弁護士の意見書を提出することも効果的です。

検察は、示談が成立したことやその内容、示談金の支払い状況などを踏まえ、不起訴処分とするかどうかを決定します。

痴漢の示談金の相場について

示談交渉を進めるときに、特に重要となるのが「示談金の金額をいくらとするか」という点です。

示談金については一律の相場があるわけではなく、痴漢の態様や悪質性、被害の程度によってケースバイケースで検討しなければなりません。弁護士は、示談交渉の際、過去の経験や支払能力を踏まえて、被疑者・被告人と相談しながら提案額を決めていきます。

強制わいせつ罪の示談金の相場

痴漢には、その程度に応じて、着衣に手を入れ性器を触るなどの悪質な強制わいせつ罪(刑法176条)となるものと、それより軽度で着衣の上から触るなどの迷惑防止条例違反となるものとがあります。

より悪質性の高い、強制わいせつ罪にあたる痴漢事件のほうが示談金が高額化する傾向にあります。強制わいせつ罪となる痴漢の示談金は、50万円〜100万円程度が相場の目安となります。

ただし、被害者の処罰感情が強いケースや、加害者に経済力があるケースなどでは、100万円を超える額で示談が成立することもあります。

迷惑防止条例違反の示談金の相場

これに対して、より軽微な、迷惑防止条例違反となるような痴漢では、示談金は10万円から50万円程度までに収まっているケースが多いです。ただし、後述するとおり、相場だからといってその金額を被害者に押し付けるようにして減額交渉できるわけではありません。

示談金を決めるときの考慮要素

痴漢の示談金について、明確な相場があるわけではありませんが、上記で説明したような犯罪の種類に加え、次のような事情により示談金が増減額される傾向にあります。

  • 痴漢行為の悪質性の程度
    強制わいせつ罪か、迷惑防止条例違反か。より悪質な強制わいせつ罪のほうが高額化する傾向にある。
  • 被害の程度
    被害者に与えた被害の程度(ケガの程度や精神的苦痛の程度)が大きいほど高額化する傾向にある。
  • 被害者の年齢
    特に被害者が未成年のとき、被害者の精神面に与える被害が大きいため示談金が増額される傾向にある。
  • 前科の有無
    前科があるほうが厳罰になりやすいため示談金も高額化する傾向にある。
  • 民事事件の損害賠償額
    痴漢について不法行為(民法709条)の損害賠償請求をしたときに認められる見込額が、示談金を判断する際の参考として考慮される。
  • 刑事事件の罰金額
    痴漢について罰金の処罰となる場合の見込額が、示談金を判断する際の参考として考慮される。
  • 被疑者・被告人の資力
    支払能力を有するほうが、示談金が高額化する傾向にある。また、社会的地位があることは身柄拘束により失うものが多いことを意味し、被疑者・被告人が高額の示談金でも応じる可能性がある。

示談金を減額するためには

示談金について被害者との合意ができないときには、示談を成立させることはできません。

刑事事件を多く取り扱う弁護士であれば、被害者に対して、過去の経験や裁判例などから今後の見通しをお伝えしたり、一般的な示談金の考え方を説明したりすることによって、ある程度相場に近い妥当な金額とするよう交渉することができます。

なお、示談金は、身柄釈放や不起訴などの処分が決定する前に一括で支払うことが基本ですが、資力に乏しいときには、分割払いとしてもらえるよう交渉することもあります。

痴漢の示談交渉をうまく進めるためのポイント

最後に、示談交渉をうまく進めるために知っておいてほしいポイントについて解説しておきます。

ここまで解説してきたことを踏まえても、被害者の対応によっては示談交渉が円滑に進むケースばかりではありませんから、被害者のお気持ちに寄り添って、適切な対応をしていくことが大切です。

示談交渉を拒否されたときの対応

被害者が示談交渉自体を拒否してきたときには、強引に進めてもメリットはありません。一旦示談交渉をストップして様子見し、少し時間をおいてから再度示談を申し入れることで、被害者が示談に前向きになってくれることもあります。

タイミングを見て、具体的な示談金の提案をすることが突破口となることもあります。

再度謝罪文を交付することでお気持ちが伝わるケースもあります。一度示談交渉を拒否されてしまったからといってあきらめず、粘り強く交渉していくことが大切です。

相場からかけ離れた高額の示談金を要求されたときの対応

被害者の処罰感情が相当強いケースで、相場からかけ離れた高額の示談金を要求されることがあります。このようなとき、要求額がどれほど法外だとしても、結局は「示談に応じるかどうか」は被害者の気持ち次第であり、相場観を理由として示談金を減額してもらうことには限界があります。

そのため、このようなケースでは示談をあきらめざるを得ないことがあります。なんとか許してもらおうと法外な示談金を支払うことはおすすめできません。痴漢の内容によっては、示談したからといって必ず希望通りの結果になるとは限りません(示談しても罰金となって前科がつくなど)し、逆に、示談しなかったからといって最悪の厳しい処罰をされるとも限りません。

示談成立をあきらめざるを得ないときは、捜査機関に対し

  • 示談ができなかった理由は、被害者が高額の請求にこだわりつづけた点にあること
  • 適正額であれば示談をする意思があること

を報告することで、誠意ある示談交渉をしていたと評価され、一定の情状として考慮してもらうことができます。

示談できなくても被害弁償をするケース

示談金の支払いは、刑事事件についてのものですが、痴漢は民事上も不法行為(民法709条)にあたるため、これによって被った精神的苦痛について被害者は慰謝料請求をすることができます。

被害者が許すとはいえないとか、示談金についての希望に差があるといった場合に、示談が成立しないとしても、被害弁償を行うことによって一定の情状として考慮してもらうことができます。このとき、宥恕文言付きの示談書を取り交わすことはできませんが、被害弁償として一定の金銭支払したことを証拠化し、捜査機関に報告するようにします。

痴漢冤罪のときの示談

痴漢の示談では、罪を認めて謝罪することを意味するため、痴漢冤罪の場合、すなわち痴漢をやっていないという場合には、示談を進めることはできないのが原則です。被害者としても「罪を認めていないのであれば示談はできない」という気持ちの方がほとんどです。

ただし、例外的に、「身体に触れてしまったことは確かだが、不可抗力で故意はなかった」、「下着には手を入れていないが着衣の上からは触ってしまった」というように、故意の有無や痴漢行為の態様について加害者と被害者の認識に違いがあるときでも、「迷惑をかけた」、「嫌な思いをさせた」という点に限って謝罪し、示談を成立させることができるケースがあります。

このような限定的な示談でも、早期釈放や不起訴処分を勝ちとるための有利な情状として一定程度の活用をすることができます。

参考解説

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今回は、痴漢の示談について、示談交渉の具体的な流れと、示談金の相場について解説しました。

痴漢では、示談が成立したことが身柄の早期釈放、不起訴処分の獲得にとって有利な情状としてはたらきますが、事件の性質上、弁護士に依頼しなければ示談交渉を開始することすらできません。

そのため、痴漢の示談交渉をうまく進め、早期釈放を求めたり前科を回避したりといった良い結果を実現するためには、痴漢の示談交渉について経験豊富な弁護士に依頼することが大切です。

痴漢事件をはじめ、刑事事件にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

解説の執筆者

弁護士 浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院終了。

豊富な知識・経験に基づいた戦略的リーガルサービスを提供します。
専門分野の異なる複数の弁護士がタッグを組むことで、お客様にとって最も有利なサービスを、総合的に提供できることが当事務所の強みです。

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