刑事事件

痴漢行為で成立する犯罪丨迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の違い

2021年9月8日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

痴漢行為は、その行為の態様によって、各都道府県の迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪とのいずれかに該当します。いずれの犯罪に該当するかは、痴漢行為の態様によって判断されています。

衣服などの上からからだにさわる行為が、迷惑防止条例違反となる典型例であり、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(常習の痴漢の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」)に処せられます。

これに対し、強制わいせつ罪は、暴行または脅迫をともなう程度に執拗にさわりつづけたり、衣服の中に手を入れたりといった行為態様の重大性が高いときに成立し、「6月以上10年以下の懲役」というより重い刑事罰が科せられます。

なお、「衣服の上からなら迷惑防止条例違反、着衣に手を入れたら強制わいせつ罪」というのが基本ではありますが、実際には、個別の行為態様の悪質性にあわせて、必ずしもこの原則があてはまらないこともあります。

今回の解説では、

  • 迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の違い
  • 迷惑防止条例違反となる痴漢
  • 強制わいせつ罪となる痴漢

といった痴漢で成立する犯罪について、わかりやすく弁護士が解説します。

迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の違い

痴漢が、迷惑防止条例違反となるか、強制わいせつ罪となるかは、その行為の悪質さの程度によって決まります。ただ、程度によってどちらにもなりうるわけではなく、犯罪の処罰に向けた流れの中で、検察官と裁判官とがいずれの罪にあたるかを判断することとなります。

具体的には、まず、検察官が起訴する際に「どちらの罪で起訴するか」を決め、これに対して裁判官が、判決にてその犯罪にあたるかどうかを判断します。このとき、あくまでも、個別の痴漢行為ごとに、迷惑防止条例違反、強制わいせつ罪のどちらの構成要件を満たすか(もしくはいずれも満たす場合は重い方になる可能性が高い)という判断がなされます。

犯罪を構成する行動についての定義を、法律用語で「構成要件」といいます。犯罪として処罰されるためには、犯罪ごとに法律に定められた構成要件を満たす行為を行っている必要があります。この点で、迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の構成要件を知り、どちらに該当するかを検討することが弁護側としては大切です。

また、強制わいせつ罪のほうが、迷惑防止条例違反よりも重大な犯罪であることから、刑罰以外の扱いについても次のような差が生じます。

  • 強制わいせつ罪のほうが、迷惑防止条例違反より逮捕されやすい
    より重い犯罪のほうが、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれが高く逮捕の必要性が高いと判断されるため
  • 強制わいせつ罪のほうが、迷惑防止条例違反より身柄拘束が長引きやすい
  • 強制わいせつ罪のほうが、迷惑防止条例違反より示談金が高額化する傾向にある
    より重い犯罪のほうが、被害者の処罰感情が高く、損害も大きいと考えられるため

迷惑防止条例違反となる痴漢とは

構成要件

迷惑防止条例違反の構成要件は、各都道府県の条例に定められています。迷惑防止条例は、各地方公共団体が定めるものであるため、都道府県によってその定め方に若干の差が、ここでは、1都3県の迷惑防止条例について、該当条項を抜粋して紹介します。

東京都迷惑防止条例5条1項

1. 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(・・・以下略・・・)

埼玉県迷惑行為防止条例2条の2第2項

2. 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞
恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはなら
ない。
(1) 衣服等の上から又は直接人の身体に触れること。
(2) 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること(前項に該当するものを除く。)。

神奈川県迷惑行為防止条例3条1項

1. 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接に人の身体に触れること。

千葉県迷惑防止条例3条の2

何人も、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次の各号に掲げるものをしてはならない。
一 (略)
二 公共の場所又は公共の乗物において、人の胸部、臀部、陰部、大腿部その他の身体の一部に直接又は衣服その他の身に着ける物の上から触れること。
三 前各号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

いずれの条例も、「羞恥」させ、「不安を覚えさせる」行為であることを要件としており、そのような衣服の上から身体をさわる行為や、卑猥な行為を禁止しています。

刑事罰

多くの都道府県の条例では、迷惑防止条例違反の刑事罰は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。ただし、例外的に、神奈川県迷惑防止条例が「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と定めるように、痴漢の厳罰化に向けて改正される傾向が進んでいます。

上記の神奈川県の例のように、厳罰化されている県もあることから、移動する電車のなかで痴漢行為をしたときは「どの都道府県の迷惑防止条例が適用されるのか」が問題となることがあります。

移動する電車内での痴漢では、痴漢行為が行われた場所の条例が適用されます。

痴漢行為の例

着衣の上からさわったケースの多くは、迷惑防止条例違反となります。

ただし、執拗にさわりつづけたとか路上で突然さわったというように、被害者の抵抗が難しく「暴行又は脅迫」があったといえるときは、たとえ着衣の上からであっても強制わいせつ罪にあたることがあります。

強制わいせつ罪となる痴漢とは

構成要件

強制わいせつ罪の構成要件は「暴行又は脅迫」を用いた「わいせつな行為」です。刑法176条に次のとおり定められています。

刑法176条(強制わいせつ)

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

強制わいせつ罪となる痴漢行為は、13歳以上の被害者に対して行われるときには暴行、脅迫をともなうものである必要があります。ただし、痴漢における暴行、脅迫はとても広く考えられています。そのため、殴る、蹴る、怒鳴るといった乱暴なものでなくても、痴漢行為を受けた恐怖感で、被害者の意思に反してわいせつな行為が行われたといえる状態になっていれば足ります。

この点は、強制性交等罪(旧強姦罪)の暴行、脅迫が、反抗を著しく困難とする程度のものでなければならないとされるのに対して、より軽いものでも足りるということになります。

なお、電車内で酔っ払って倒れていたり、眠っていたりといった、拒否することが困難な状態を利用して行われた痴漢行為の場合には、準強制わいせつ罪にあたります。

刑法178条(準強制わいせつ及び準強制性交等)

1. 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2. (略)

準強制わいせつ罪は、加害者の行為によって抵抗不能な状態にしたわけではないものの、拒否することが困難な状態を利用したことから、強制わいせつ罪に準じて取り扱われます。

刑事罰

強制わいせつ罪の刑事罰は「6月以上10年以内の懲役」です。刑法の強制わいせつ罪にあたる痴漢は、迷惑防止条例が適用される事例に比べて、より重く罰せられます。

強制わいせつ罪の刑事罰には罰金がないため、罰金のみを対象とする略式命令という簡易な手続きを利用することができません。略式命令になると、無罪を争えない代わりに懲役刑にはならず必ず罰金となり、起訴後すぐに身柄拘束から解放されるといったメリットがありますが、強制わいせつ罪となる痴漢では罰金がなく略式命令にはならないため、起訴されると必ず正式起訴となり、公判が開かれます。

正式起訴されると、公判までの間は(保釈が認められない限り)引き続き起訴後勾留という身柄拘束を受け続けます。

痴漢行為の例

強制わいせつ罪にあたる痴漢行為は、その行為態様が悪質であるケースです。例えば、下着の中に手を差し入れて性器をさわるとか、被害者が気づいた後も逃げられないように場所をふさいで執拗にさわりつづける、長時間さわりつづけるといった行為がこれにあたります。

また、電車内ではなく路上で行われる痴漢行為では、突然抱きつくといった行為は被害者の抵抗が難しいため、着衣に手を入れていなくても強制わいせつ罪として立件されることが多いです。

痴漢事件の弁護活動

最後に、痴漢事件で行うべき弁護活動について解説します(詳細は参考解説もご覧ください)。

痴漢行為は、迷惑防止条例違反となるものも強制わいせつ罪となるものも、犯罪が成立することに違いはありません。そして、痴漢行為は、これまで全く見知らぬ人が加害者・被害者となり、逮捕されたり起訴されたりします。

犯罪に無縁の世界に生きる人も、突然痴漢に勘違いされて逮捕される危険性がある一方で、逮捕・勾留が長引くと社会的な影響の大きい人が対象となりやすい犯罪のため、冤罪のときでも嘘の自白を強要され、処罰されてしまうおそれがあります。

以上のような痴漢事件の特徴からして、痴漢の犯罪では速やかに弁護活動を行わなければ取り返しのつかない不利益を負うおそれがあります。家族が痴漢を疑われて悩んでいる方も、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

痴漢を自白するケースの弁護活動

痴漢行為について自白しているケースでは、被害者と示談を成立させ、不起訴を勝ち取るという弁護方針となります。日本では起訴されると99.9%が有罪となるといわれていますが、不起訴であれば処罰されることはなく、前科はつきません。

痴漢の示談では、被疑者(ないし被告人)が被害者と直接あって謝罪をすることは、被害者の精神的ストレスを悪化させたり再犯の危険があるため、許されません。そのため、弁護士に依頼し、示談活動を行ってもらうようにします。

被疑者(ないし被告人)にできることは、誠心誠意の気持ちが伝わるような謝罪文・反省文を書いて弁護士に託すこと、通勤ルートを変更して被害者の不安を解消することといった努力です。

参考解説

痴漢を否認するケースの弁護活動

痴漢を疑われたけれども触っていないというケースでは、痴漢行為を否認することとなります。被害者の証言などを重視されてそのまま処罰されてしまえば、痴漢冤罪となってしまうため、弁護活動の必要性が特に大きい事案です。

刑事事件の裁判では証拠が重視されるため、痴漢を疑われた直後であれば証拠収集の準備、痴漢として起訴されてしまった後であれば検察官から開示された証拠の分析が、重要な弁護活動となります。

特に、痴漢事件では証拠が被害者の証言しかないこともあるため、被害者の証拠が自然なものか、具体性・迫真性があるかといった観点から、信用できる証言かどうかを慎重に分析します。

なお、自白の強要には従わず、否認を継続することが重要です。「早く釈放されたい」という思いに負けて嘘の自白をしてしまうと、公判段階で後からひっくり返すことは困難です。

参考解説

刑事弁護は浅野総合法律事務所にお任せください!

今回は、痴漢行為があてはまる犯罪について、迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の2つがあること、その構成要件や刑事罰の違いについて解説しました。

痴漢してしまい、処罰されるおそれがある状況に陥ると、「何罪にあたるのか」、「どのような刑事罰が科されることとなるのか」と不安になることでしょう。痴漢に適用される法律・条例を正しく理解することで、ケースにあわせた適切な対応をとることができます。

なお、いずれの罪にあたるときでも、痴漢のように被害者のいる犯罪では、被害者との示談が重要な情状となります。示談に成功すれば、逮捕などの身柄拘束を回避し、早期釈放してもらうことができたり、不起訴となり前科がつかなかったりといったメリットがあります。

刑事事件を起こしてお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

解説の執筆者

弁護士 浅野英之
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院終了。

豊富な知識・経験に基づいた戦略的リーガルサービスを提供します。
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