
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
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痴漢事件の多くは現場で取り押さえられて現行犯逮捕され、刑事裁判で処罰が決まります。
しかし、現場から逃げてしまった場合、「いつまで逃げ切れば罪に問われなくなるのか」と不安に思うのではないでしょうか。現場から逃げ去り、犯人の割り出しがなかなか進まないケースで問題となるのが、「痴漢の時効」です。
痴漢の時効では、刑事事件に適用される「公訴時効」と、民事上の損害賠償請求に関わる「消滅時効」の2種類があることを理解しておく必要があります。なお、民事の時効を考えるにあたっては、2020年4月施行された民法改正による変更も考慮しなければなりません。
今回は、刑事の時効(公訴時効)と民事の時効(消滅時効)の違いと、それぞれの時効期間について、弁護士が詳しく解説します。
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はじめに、痴漢の時効とはどのようなものか、基本的な考え方を解説します。
時効とは、法的な責任を追及できる期間のことを指します。時効期間が経過すると、それ以降は法的責任を追及することができなくなることを意味します。痴漢の時効を考えるとき、主に「刑事の時効」と「民事の時効」の2種類があるため、それぞれの違いを理解することが重要です。
刑事の時効は「公訴時効」と呼ばれ、検察官が起訴することができる期限を定めるものです。公訴時効の期間を過ぎると、検察官が起訴できなくなる結果、警察に逮捕される可能性もなくなり、処罰されて前科が付くこともありません。
詳細は「痴漢の公訴時効(刑事の時効)」参照。
民事の時効は「消滅時効」と呼ばれ、損害賠償請求などの民事上の権利について、裁判で認めてもらえる期限を定めるものです。民事の請求の多くは金銭の支払いによって解決されますが、消滅時効の期間が経過すると、民事裁判を通じた責任追及ができなくなります。
詳細は「痴漢の消滅時効(民事の時効)」参照。
その他に、判決で下された刑罰の執行に関する期限である「刑の時効」があります。刑の時効は、言い渡された刑罰の重さに応じて決まりますが、痴漢事件では通常、刑罰が速やかに執行されるため、問題になることはほとんどありません。

次に、痴漢の時効のうち刑事の時効である「公訴時効」について解説します。
刑事事件において、検察官が起訴し、刑事裁判を通じて刑罰を確定させるには、法律の定める一定の期間内に手続きを進める必要があります。
検察には犯罪を起訴する権限(公訴権)がありますが、公訴時効はこの公訴権の期限です。公訴時効が成立すると、犯罪を立証する証拠があっても検察官は起訴をすることができません。過去の痴漢を疑われる行為も、公訴時効を経過すれば、逮捕や起訴に至る可能性がなくなります。
公訴時効の期間は、法律で定められた刑罰の重さ(法定刑)によって異なります。痴漢の場合には、その行為態様の悪質さによって、次のように決められています。
公訴時効は、犯罪行為の終了時(結果の発生時)から起算します。したがって、捜査開始が遅れても、痴漢行為の時点から3年または12年が経過すれば、公訴時効が完成します。
ただし、国外にいる期間や、逃亡して起訴状謄本の送達ができない期間などは、公訴時効の進行が停止します(刑事訴訟法255条)。
なお、不同意わいせつ罪の公訴時効期間は、2023年6月23日施行の改正刑事訴訟法で、従来の7年から12年に延長されました(施行日時点で既に公訴時効が完成している罪には適用されない一方、施行日時点で時効が完成していない罪には、改正後の延長された時効期間が適用されます)。この延長は、被害申告の困難さから性犯罪被害が潜在化しやすい特性を踏まえて、訴追の可能性を適切に確保することを目的としています。
公訴時効の期間は、適用される罪の種類によって異なります。
例えば、迷惑防止条例違反だと思い込んで3年経過して安心していたところ、実際は不同意わいせつ罪に該当してしまう場合、12年経過するまでは逮捕・起訴されるおそれがあります。公訴時効の違いの点からも、痴漢がどのような犯罪に該当するか、行為の態様による区別が重要です。
2つの犯罪の違いは、一般的には上記の通りですが、個別具体的な痴漢行為の態様によって判断する必要があります。この際、不同意わいせつ罪の要件である「暴行」や「脅迫」によって被害者の意思を抑え込んだかどうかも重要なポイントとなります。
「痴漢は何罪?」の解説

不同意わいせつ罪などの性犯罪で、被害者が18歳未満の特例が設けられています。
被害者が犯罪行為の終了時に18歳未満だった場合、不同意わいせつ罪の公訴時効期間に「犯罪行為の終了時から被害者が18歳に達する日までの期間」が加算されることとなっています。
例えば、12歳で不同意わいせつ罪の被害に遭った場合、時効期間12年に、18歳に達するまでの6年が加算され、公訴時効は30歳までの18年間となります。若年者は心身が未熟であり、被害申告が困難であるため、自立した判断が期待される18歳を基準とした特例が設けられました。
そのため、被害者が幼いケースでは時効が成立するまでの期間が大幅に延びることになり、長期間にわたって逮捕や起訴のリスクが継続することに注意が必要です。

一方で、痴漢の時効のうち、慰謝料その他の損害賠償請求があるかどうかについては、民事の時効である「消滅時効」に注意しなければなりません。
刑事事件が犯罪に対する処罰を目的とするのに対し、民事事件は私人間の責任の問題です。民事事件は、金銭の支払いによって解決されるのが通常です。
痴漢は、犯罪であるとともに民法上の不法行為(民法709条)にも該当するため、被害者は慰謝料をはじめとした損害賠償を請求することができます。しかし、消滅時効が成立すると、損害賠償請求はできなくなります。
民法724条は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効について、次のように定めます。
以上の消滅時効の期間が経過した後は、慰謝料その他の損害賠償請求はできなくなります。不同意わいせつ罪となる重度の痴漢は、暴行や脅迫を伴う例が多いため、「身体を害する不法行為」として5年の時効が適用される可能性が高いです。
民事の時効は、「損害及び加害者を知った時」から起算されるため、刑事の時効が痴漢行為の時点から進行するのとは異なる点に注意してください。「損害及び加害者を知った時」と言えるためには、加害者について、賠償請求が可能な程度の情報を知っている必要があります。「痴漢の被害届を出したが、犯人は分からない」という状態では、民事の時効は進行しません。
民事の消滅時効は、特定の事由がある場合に期間の進行が停止することがあります。
例えば、被害者から裁判上の請求や財産の仮差押えを受けた場合、時効の「完成猶予」に該当するため期間の進行が停止します。催告(裁判外の請求)を受けた場合は6ヶ月間、時効が完成しません。また、加害者が示談交渉などで自らの責任を認めて支払いを約束した場合、「承認」に該当し、それまでの期間がゼロに戻り、新たに計算され直す「更新」が行われます。
消滅時効が成立し、損害賠償請求が法的に認められなくなった後でも、加害者が自発的に被害弁償することは可能です。特に、刑事の時効期間は経過しておらず、逮捕や起訴のリスクがある場合、民事の時効が成立した後でも、示談金を払って早期釈放や不起訴を目指すのが有益です。
例えば、不同意わいせつ罪に該当する痴漢の場合、刑事の時効は12年間なので、民事の時効である3年または5年の方が先に来る可能性は大いにあります。それでもなお、刑事処分の回避を目的として示談交渉を進め、一定の金銭を支払うことは有効な弁護活動だといえます。
「起訴前弁護」の解説


最後に、痴漢事件において時効完成を待つことのリスクについて解説します。
前述の通り、刑事の時効である「公訴時効」が成立すれば検察が公訴権を失い、逮捕・起訴のおそれはなく、民事の時効である「消滅時効」が成立すれば損害賠償請求も受けません。
しかし、だからといって、「時効待ち」で逃げ切ろうとする方針はおすすめできません。弁護活動をせず、時間の経過を待つだけでは、被害者が被害届を提出したり、告訴したりする可能性は否定できず、そのときには大きなリスクを負うからです。
痴漢事件の中には、被害者が強い処罰感情を抱いているケースも少なくありません。
時間が経過するのを漫然と待っても、捜査が開始されないことや、被害者が告訴をあきらめてくれることは期待しにくいのが実情です。早急に示談交渉に着手する、または自首を検討するといった積極的な弁護活動を行うことが、逮捕や起訴のリスクを減らすのに有効です。
2017年に法改正があり、現在では、不同意わいせつ罪を含む性犯罪は非親告罪となっています。そのため、被害者の告訴がなくても、逮捕や起訴がされ、処罰が可能です。これにより、かつて存在した「犯人を知った日から6ヶ月」という告訴期間は撤廃されており、公訴時効が完成しない限り、被害者の告訴がなかったとしても処罰されるおそれがあります。
現場から逃げ切れたとしても、逮捕のリスクが消えるわけではありません。
近年は駅構内や街中の防犯カメラが広く普及し、映像解析技術も飛躍的に向上したため、後から身元が特定されて逮捕される事例が増えています。また、改札を通過した際の交通系ICカードの利用履歴、被害者や周囲の目撃者がスマートフォンで撮影した写真や動画も証拠となります。このように、その場で現行犯逮捕されなくても、後日逮捕される可能性は十分にあります。
「痴漢の後日逮捕」の解説

時効の完成までに期間があるとき、その間に検討すべき弁護活動が、示談と自首です。
いずれの方法がよいか、もしくは両方同時に進めるべきかは状況によって異なるため、刑事事件に精通した弁護士のアドバイスを聞くのがよいでしょう。一般には、次のような考慮要素を比較して決めることができます。
「時効まで逃げ切る」という考え方は、大きなリスクを伴います。
時効成立前に逮捕・起訴される可能性があるだけでなく、長期間にわたり精神的な不安を抱え続けることになります。そして、いざ逮捕されたり起訴されたりしたときには、十分な準備をしていなかったことがマイナスに影響してしまいます。
適切な弁護活動を行い、被害者との示談や自首といった対策を講じておくことが、結果的には最も負担を軽減する方法となります。
「痴漢の示談金の相場」の解説


今回は、痴漢事件における時効について、刑事・民事の両面から解説しました。
たとえ痴漢行為をしてしまったとしても、いつまでも逮捕や起訴の恐怖におびえ続ける必要はなく、一定の期間が経過すれば処罰されず、刑事責任を問われることはなくなります。
ただし、単に時効期間の経過を待つだけではなく、その間にできる対策を講じることが重要です。具体的には、示談交渉を進めたり自首したりするなど、適切な弁護活動を行うことで、万が一逮捕や起訴に至った場合のリスクを軽減できる可能性があります。
自分が犯した痴漢について不安を抱いている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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