労働問題

歩合給制でも残業代請求できる!正しい計算方法は?【弁護士解説】

2021年7月3日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野英之(第一東京弁護士会所属)です。当事務所は「労働問題」に注力し、豊富な実績を有しています。労働は人の生活に密接に関わる重要な法律問題です。

一人で会社と戦うのが難しいとき、法律の専門知識を活用することで速やかに解決できることがあります。ぜひ一度当事務所へご相談ください。

歩合給制高額残業代請求

歩合給制で働く労働者でも、残業代請求をすることができます。

歩合給制とは、労働時間ではなく、売上や利益などの成果に応じて給与が支払われる制度のことで、営業職やタクシードライバーなど、成果評価を重視する職種でよく導入される給与体系です。

歩合給制で働いていると、成果主義的な発想から、たとえ長時間がんばって働いても、成果を出さないと評価が上がらないかもしれません。しかし、歩合給制といえども、あくまでも会社に雇用される労働者である以上、労働基準法で定められた労働時間の規制が適用されます。

そもそも、業務委託の個人事業主(フリーランス)でもない限り、「完全に成果だけで評価する」という方法(完全歩合)は違法であり、「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えて働けば残業代が請求できます。健康を害するほどの長時間労働を抑制するという点でも、残業代請求は重要です。

今回の解説では、

  • 歩合給制の労働者が残業代請求できる理由
  • 歩合給制のとき、残業代の正確な計算方法
  • 出来高払制の最低保障給

といった残業代請求の知識について、労働問題を多く取り扱う弁護士が解説します。

まとめ解説
未払い残業代を請求する労働者側が理解すべき全知識【弁護士解説】

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歩合給制でも残業代請求できる

歩合給制高額残業代請求

歩合給制でも残業代請求することができます。

ここでは、歩合給制とはどのようなものかについて解説した上で、歩合給制でも残業代請求できる理由について弁護士が解説します。

歩合給制とは

歩合給制とは、売上高や利益など、労働の成果に応じた金額を給与とする賃金体系です。得られた売上、利益に対して、あらかじめ定められた一定の割合を乗じた金額を給与として支給するものが典型例です。

略して「歩合制」、「歩合」といったり、インセンティブ制と呼ばれたりします。

労働基準法に、労働時間と残業代の定めがあるとおり、伝統的な労働者の給与は「労働時間の長さ」で決められてきました。これに対して、歩合給制の労働者は、成果主義的な発想から、その稼いだ金額に応じて給与が決められます。

例えば、歩合給の例には次のようなものがあります。

  • 営業職:新規に獲得した契約金額に一定の割合をかけた営業手当が支給される例
  • タクシードライバー:走行距離で算出された運賃から経費を控除した分を賃金とする例
  • トラックドライバー:積荷の数と走行距離に連動した運行手当が支給される例

歩合給制は、労働基準法では「出来高払制」と呼ばれています。

歩合給制は、労働者の評価を「成果」によって行うべきと考える「成果主義」の考え方と親和的です。成果主義で評価をされる労働者は、その給与の一部が歩合給となっていることが多いです。

そのため、上記の例のように、労働者の働きが会社の売上や利益に直結しやすい職種によく採用されています。

残業代請求できる理由

労働基準法では、「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えて労働したときには残業代請求することができると定められています。そして、これは給与体系がどのようなものであっても変わりません。そのため、歩合給制でも残業代請求できるのは、しごく当然のことです。

むしろ、「歩合給制では残業代請求はできない」という誤解が生まれてしまったのは、歩合給制が成果主義的であるがゆえ、労働時間を気にせず努力をしなければならないという発想が根底にあったからです。

しかし、確かに成果をあげることは大切であり、そのためには労働時間ばかり気にすべきでないときもありますが、これはあくまでも「意識」の問題で、法規制とは別問題です。歩合給制で働く営業職が、「成果を出して会社に貢献しなければ」と高い意識を持つのはよいことですが、だからといって「長時間労働しても残業代請求できない」というわけではありません。

歩合給制をとることによる「どれほど長時間働いても、成果を出さなければ評価は低い」、「短時間で、最高の結果を出す人ほど優秀」という根性論の押し付けにだまされ、残業代請求をしない人もいるため、注意が必要です。

完全歩合は違法

歩合給制について定める労働基準法27条では、次のとおり、「出来高払制の保障給」が必要と定めていることから、「成果がでなければ給与を全く支払わない」という、いわゆる「完全歩合」、「フルコミッション」の制度は違法です。

これは、行き過ぎた成果主義を抑制して、歩合給制で働く労働者の賃金が下がりすぎないように保護することが目的です。

労働基準法27条(出来高払制の保障給)

出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

保障される「一定額の賃金」について、労働基準法には具体的な定めがありませんが、行政通達では「通常の実収賃金と余り隔たらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるべき」としており、実務では、平均賃金の60%は保障すべきと考えられています。

多くの会社では、業績手当、精勤手当などさまざまな名称の手当をつけて、給与の一部を歩合給とする例がよくあります。しかし、この場合も、手当が給与全体に占める割合が大きすぎると「出来高払制の保障給」が支払われていないと評価される可能性があります。

なお、給与全体が歩合によって決まるとしても、実際には労働基準法に定める保障が支払われているような場合には、ただちに違法となるわけではありません。

歩合給制の残業代の計算方法

歩合給制高額残業代請求

歩合給制でも残業代請求できますが、歩合給制のとき、未払い残業代の計算方法には、毎月固定給がもらえる月給制とは異なった注意点があります。

まず、基本の残業代の計算式は、歩合給制であっても変わらず、次のとおり、「残業代=基礎単価×割増率×残業時間」という計算式で算出されます。

残業代=基礎単価×割増率×残業時間

未払い残業代の基本的な計算方法については、次の解説もあわせて参考にしてください。

参考解説

ここでは、上記計算式のうち、「基礎単価」、「割増率」、「残業時間」について、特に歩合給制で気をつけておいてほしいことを解説します。

歩合給制の「基礎単価」の計算

残業代の「基礎単価」とは、わかりやすくいうと「時給」を意味しています。固定給制のとき、基礎単価は、基礎賃金(月給から、法律で定められた「除外賃金」を引いたもの)を、月平均所定労働時間数で割って算出します。

これに対して、歩合給制の残業代の「基礎単価」は、歩合給制によって支払われる賃金総額を、その賃金算定期間における総労働時間数で割って算出します。

この違いは、固定給制で支払われる月給は、1ヶ月の所定労働時間の対価であるのに対して、歩合給制で支払われる賃金は、労働者がその算定期間中にしたすべての労働に対して支払われていると考えられているからです。

歩合給制の「割増率」の計算

残業代の「割増率」とは、残業が追加の労働であることから、通常の賃金よりも多く払われる賃金の割合のことです。割増率は、次のように定められています。

残業代の割増率は、次のとおりです。

残業代労働の種類割増率
時間外労働法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働25%
(月60時間を超える場合50%)
深夜労働午後10時以降、午前5時までの労働25%
休日労働法定休日(1週1日)の労働35%

重要な点は、固定給制のときは、残業をした時間についての割増率は「1.25」をかけるのに対して、歩合給制のときは、「0.25」をかけるようにする点です。

これは、先ほど解説したとおり、歩合給制では、労働者が実際に労働したすべての時間に対する対価が、すでに支払い済みだと考えられているからです。つまり、固定給制のとき、残業時間について125%を払うのは、基本給のなかに100%部分が含まれていないのに対して、歩合給制では100%部分はすでに支払われており、残り25%部分を払えば足りるということです。

裁判例(名鉄運輸事件判決:名古屋地裁平成3年9月6日判決)でも示されています。

名鉄運輸事件判決(名古屋地裁平成3年9月6日判決)

日給制や月給制によって賃金が定められている場合には、通常の労働時間の賃金にかけるべき割増率は1.25であるのに対し、出来高払制その他の請負給制によって賃金が定められている場合には、時間外における労働に対しても通常の労働時間の賃金(右割増率の1に相当する部分)はすでに支払われているのであるから、割増部分に当たる金額、すなわち、時間当たりの賃金の2割5分以上を支給すれば足りる。

歩合給制の「残業時間」の考え方

残業代請求の算出に使う「労働時間」の考え方は、固定給制でも歩合給制でもかわりはありません。そのため、「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えた労働、「1週1日もしくは4週4日」の法定休日の労働、深夜労働(午後10時〜午前5時)について、残業代が発生します。

ただし、成果主義を重視した歩合給制のとき、労働基準法に定められた特殊な労働時間制を導入している会社も少なくないため、注意が必要です。

歩合給制と併用される労働時間制として、例えば、外回りの多い営業職について「事業場外労働のみなし労働時間制」、高度な専門的業務について「裁量労働制」などを適用する例があります。

参考解説

歩合給制の残業代の計算方法について、具体例で解説

歩合給制高額残業代請求

最後に、ここまで解説してきた歩合給制の残業代の計算方法にしたがって、実際の具体例にあてはめて、残業代をどのように計算するかを、わかりやすく説明します。

給与の全部が歩合給のときの残業代の計算方法

例えば、「1ヶ月の個人営業成績を合計して、その10%を給与とする」という労働者の例で、給与の全部が歩合給のときの残業代の計算方法について説明していきます。

このとき、1ヶ月の個人営業成績が800万円だと、月額給与は80万円になります。そして、当月の総労働時間が220時間だったとすると、この80万円が、総労働時間220時間に対して支払われた対価ということになります。

この場合には、「1日8時間」を超える労働時間と、「1週40時間」を超える労働時間を足し合わせると、超過する労働時間はおよそ45時間ほどとなると考えられます。したがって、残業代については次のように計算します。

  • 残業代の基礎単価を算出する
    80万円÷220時間=3636円
  • 割増率をかける
    3636円×0.25=909円(残業1時間あたりの残業代)
  • 残業時間をかける
    909円×45時間=4万0909円

なお、前章で「完全歩合」、「フルコミッション」は違法という説明をしました。ただし、実際には労働基準法27条に定められる「出来高払制の最低保障」(平均賃金の6割程度)が支払われているのであれば、給与の全部が歩合給であるということだけで違法となるわけではありません。

給与の一部が歩合給のときの残業代の計算方法

給与のうち、一部が歩合給で、残部が固定給のとき、残業代計算の際には、歩合給部分と固定給部分とを区分けして計算する必要があります。

このとき、固定給部分について1時間あたりの基礎単価に「125%」の割増率をかけ、歩合給部分について1時間あたりの基礎単価に「25%」の割増率をかけ、それぞれ足し合わせた金額に残業時間をかけるという計算方法です。

例えば、「固定給30万円に加えて、インセンティブとして個人営業成績の5%を歩合として支給する」という労働者の例で、計算方法を説明していきます。上記の例と同様に、付きの個人営業成績が800万円、月の法定時間を超過する残業が45時間と想定すると、残業代の計算は次のようになります。

  • 固定給部分の基礎単価を算出し、125%の割増率をかける
    30万円×170時間(所定労働時間)×1.25=2206円
  • 歩合給部分の基礎単価を算出し、25%の割増率をかける
    (800万円×5%)÷220時間×0.25=455円
  • 残業時間をかける
    (2205円+455円)×45時間=11万9745円

「歩合給で、残業代は支払い済み」という会社側の反論について

「歩合給(の全部または一部)について、あらかじめ残業代として支払う」という定めをする会社があります。特に、運送会社やタクシー会社でよく問題になる定め方です。

予定される残業代についてあらかじめ支払っておくことを「固定残業代」、「固定残業手当」、「みなし残業代」などと呼びますが、この一種といってよいでしょう。

このような制度をとる会社では、歩合給制の残業代請求に対して「残業代は、既に歩合給に含んで支払い済みである」と反論するわけですが、裁判例では、このような支払い方が認められるためには厳しい要件が課されています。

具体的には、次の2つの要件を備えていない限り、歩合給に残業代を含んで支払う方法では、残業代の支払いがあったとは認められません。

  • 歩合給のうち、残業代に充当される部分とそれ以外とを明確に区別することができる。
  • あらかじめ支払われた残業代を超えて労働したとき、差額が支払われる。

そして、歩合給制というのは売上や利益などの成果に連動して給与を決めているのに対して、固定残業代制であれば残業時間に連動して給与を決めなければなりませんから、「歩合給制に残業代が含まれている」とするのであれば、相当緻密に計算されない限り、制度自体が無効と判断される可能性が高いです。

最高裁判例(高知県観光事件:最高裁平成6年6月13日判決)でも、次のように述べ、「歩合給にはあらかじめ残業代が含まれている」という会社側の主張を認めませんでした。

高知県観光事件(最高裁平成6年6月13日判決)

本件請求期間に上告人らに支給された前記の歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、被上告人は、上告人らに対し、本件請求期間における上告人らの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務があることになる。

残業代請求は浅野総合法律事務所にお任せください!

歩合給制高額残業代請求

今回は、歩合給制の労働者でも残業代請求できる理由と、歩合給制の残業代の計算方法について弁護士が解説しました。

年功序列型賃金という慣習が薄れて、成果主義型賃金へと移行していくにつれ、歩合給制を導入する会社は増えています。そして、このような成果主義的な文化の中では、長時間労働をして少しでも成果をあげようという労働者の努力は、ないがしろにされがちです。

しかし、残業代請求には、「努力に対する評価」という側面だけでなく、長時間労働の抑止、安全配慮義務の遵守といった目的があります。完全に成果のみで評価することは、雇用する労働者については許されていません。

歩合給制で働く労働者は、少しでも多くの残業代請求をするためにも、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

まとめ解説
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解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野英之(第一東京弁護士会所属)です。当事務所は「労働問題」に注力し、豊富な実績を有しています。労働は人の生活に密接に関わる重要な法律問題です。

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