解雇は、会社側の一方的な意思表示による労働契約の解消のことです。解雇には、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3種類があり、それぞれ解雇をする「理由」に応じて分類できます。
解雇は、弱い立場にある労働者に大きなダメージを与えるため「解雇権濫用法理」により制限されています。つまり、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」(労働契約法16条)とされ、この法理に違反すると「不当解雇」となります。
そして、「解雇が有効か、それとも、不当解雇か」の判断についても、解雇の種類ごとに異なります。
今回は、3種類の解雇それぞれの基本的な考え方と、解雇手続きの流れについて、労働問題に詳しい弁護士が解説します。
- 解雇には、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3種類がある
- 整理解雇は、会社の一方的な都合で行われるため、整理解雇の4要件による厳しい制限あり
- 懲戒解雇は、労働者に与えるダメージが他の解雇に比べても大きいため、手続きが厳しくみられる
なお、不当解雇された労働者側の対応について深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。
まとめ 不当解雇されてしまった労働者が知っておきたい全知識【弁護士解説】
解雇とは
解雇とは、会社の一方的な意思表示により、労働契約(雇用契約)を解約することです。
そのため、解雇は、労働者側に「同意するかどうか」という余地はありません。会社が労働者を解雇するときには、解雇通知書、解雇予告通知書などの書面を交付するのが通常の流れですが、口頭であっても労働者の意思に反して会社をやめざるを得ないとき、それは「解雇」にあたります。
次章以降で、解雇の種類について解説しますが、重要なことは、どの種類の解雇でも、解雇であれば「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)による厳しい制約を受けるということです。
したがって、解雇に「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ違法は「不当解雇」となり、無効です。
解雇は、労働者の意思に反して一方的に行われるため、解雇されたら、争うために弁護士に相談するのが有効です。
解雇の種類
解雇には、大きく分けて①普通解雇、②整理解雇、③懲戒解雇の3つの種類があります(整理解雇は、普通解雇の1類型と説明されることもあるため、より大まかに分ければ2種類)。
普通解雇と懲戒解雇が、労働者側の事情を理由とするのに対して、整理解雇は会社側の事情を理由としています。
そこで、3つの解雇の種類ごとに、その基本的な考え方を解説します。また、3つの解雇以外にも、会社から一方的にやめさせられるケースである諭旨解雇(諭旨退職)、雇止め、本採用拒否というその他の用語についても合わせて解説します。
普通解雇
普通解雇とは、労働者が労働契約(雇用契約)で約束した内容に違反したこと(債務不履行)を理由とする契約の解消です。つまり、労働契約(雇用契約)で約束したとおりの労働義務を果たさなかったことによる解雇です。
会社と労働者との間で結ばれた労働契約(雇用契約)は、長期間続く契約であり、その基礎には労使の信頼関係があります。労働者の約束違反によってその信頼関係が破壊されたときには、「普通解雇」されることとなります。
普通解雇の理由となるのは、例えば次の事由です。
- 雇用契約に定めた能力・資格や適格性を有していないことを理由とする解雇
- 労働者の勤務態度が悪いことを理由とする解雇
- 職務怠慢であり、勤怠が悪いこと(無断欠勤、遅刻・早退が多いなど)を理由とする解雇
- 職場規律違反、業務命令違反を理由とする解雇
- 体調不良、病気、けがによる就業不能を理由とする解雇
これらの事情は、通常は会社の就業規則に定められ、労働者に周知されています。ただし、かならずしも就業規則に定められていなくても普通解雇は可能です。労働契約(雇用契約)は、労働者が労務を提供し、使用者が賃金を支払うという内容の約束です。そのため、労働者がその義務を果たさなかったとき、会社は契約を解消(つまり解雇)できます。
ただし、労使の力関係には差があることから、会社側が解雇をするときには解雇権濫用法理(労働契約法16条)の制限があり、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がないと、「不当解雇」として無効になります。
普通解雇の場合には、たとえ労働者側に約束違反があったとしても、その約束違反の程度が、信頼関係を破壊するほどに達していなければならないことを意味しています。
そのため、注意指導をおこない、改善の機会を与えてもなお約束違反の状態が続くことが必要です。逆に、注意指導をまったくせず、改善の機会を与えないまました普通解雇は、解雇権を濫用した不当解雇となります。
整理解雇
整理解雇は、会社の業績悪化など、会社側の経営上の理由によって行う雇用契約の解消です。
整理解雇は、普通解雇とは違って、労働者の非はまったく問題とならず、労働者が約束どおりの労務を提供している場合でも、会社側の都合で行うこととなります。
整理解雇の理由となるのは、例えば次の事由です。
- 業績悪化による人件費削減のための解雇
- 部署・店舗・事業所・支店の閉鎖を理由とする所属社員の解雇
- 会社倒産にともなう解雇
整理解雇も、普通解雇と同様に解雇権濫用法理(労働契約法16条)による制限を受けます。つまり、整理解雇も「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を満たす必要があります。
その上、整理解雇では、会社側の都合で行うものであり、労働者にとって不意打ち的に行われるものであるため、裁判例ではより厳しい制限がなされています。具体的には「整理解雇の4要件(4要素)」として①業務上の必要性、②解雇回避の努力義務、③人選の合理性、④手続きの適正性という4つの要件を総合的に考慮して判断されています。
これら4つの要件を総合考慮し、解雇権行使が権利濫用にあたると評価される場合には、その整理解雇は違法、無効です。
企業経営が悪化しつつあるとき、人件費の抑制を重視するあまりに、要件を満たさないのに甘い考えで整理解雇が行われ、労働者を苦しめることがあります。
少なくとも、まだ十分な余力があるのに他にコスト削減の努力をせず、人件費を抑制しようと安易に行った整理解雇は、不当解雇の可能性が高いです。倒産する気もないのに、将来の倒産をちらつかせて解雇する「偽装倒産」のケースも違法です。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、労働者が企業秩序に違反する重大な行為を行ったとき、会社が制裁としてする雇用契約の解消です。
企業秩序に違反する行為に対する制裁を「懲戒処分」といいます。懲戒処分はその程度に応じて、けん責・戒告、降格、減給、出勤停止、諭旨解雇(諭旨退職)、懲戒解雇などの種類がありますが、このうちで最も重度のペナルティを与えるのが、懲戒解雇です。
懲戒解雇の理由となるのは、例えば次の事由です。
- 重度のセクハラ、パワハラなどのハラスメントを理由とする解雇
- 会社のお金を横領したことを理由とする解雇
- 会社の名誉、信用を大きく毀損する刑事事件を起こしたことを理由とする解雇
懲戒解雇は、労働者に与える不利益の程度がとても大きく、会社が取り得る手段の中でも最終手段に位置づけられます。懲戒処分は、労働者に対する「刑罰」にたとえられますが、なかでも懲戒解雇は「死刑」を意味するきわめて重い処分です。
懲戒解雇の場合、退職金を不支給とするという不利益のほか、再就職活動に大きな支障ともなります。
懲戒解雇は、労働者に与える不利益がとても大きいものであるため、3種類の解雇のなかでも、特に厳しい制限を課されており、解雇権濫用法理を満たすかどうかも厳格に判断されます。
あわせて、懲戒解雇は「解雇」と「懲戒処分」の性質をあわせもっているため、「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)の要件とともに、懲戒処分の有効性の要件(労働契約法15条)を満たすことが必要です。
その他の解雇
その他に、解雇と似た用語ですが、区別して考えるべきものとして、諭旨解雇(諭旨退職)、雇止め、本採用拒否という考え方について説明しておきます。
諭旨解雇(諭旨退職)
諭旨解雇(諭旨退職)は懲戒処分の一種であり、本来であれば懲戒解雇になる重大な企業秩序違反について、その情状や貢献を考慮して、退職を勧奨し、拒否されたときにのみ懲戒解雇をおこなう手続きです。
諭旨解雇(諭旨退職)では、懲戒解雇とは異なり、解雇予告手当が支払われたり、退職金が支払われたりといった配慮があることがあります。
雇止め
雇止めは、労働契約(雇用契約)の期間に定めのある社員を、期間満了後に更新せず退職させることをいいます。
本来、有期の社員は期間満了により退職するのが原則です。しかし、何度も更新を継続していたり、更新手続きがきちんと行われていなかったりなど、更新継続を期待させる状況があるときには、解雇と同様に「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がないと違法、無効とされます。
本採用拒否
本採用拒否は、試用期間の社員について、試用期間終了時(もしくは試用期間中)に、社員としての適格性に欠けることを理由として本採用しないことです。
試用期間といえども、十分に注意指導を行い、改善の機会を与えなければならないことは当然であり、これらの対応を怠って本採用拒否をすることは、違法、無効と判断されます。
懲戒解雇理由があっても普通解雇となるケース
解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類あると説明しました。そして、雇用契約上の約束違反によって行う普通解雇と、企業秩序違反の行為に対する制裁として行う懲戒解雇では、同じ解雇でも考え方が大きく異なります。
しかし一方で、実務では、懲戒解雇が労働者に与える不利益がとても大きいことから、懲戒解雇事由があるときでも、普通解雇とするケースがあります。懲戒解雇は、懲戒処分のなかでも最も重い処分で、「死刑」に例えられることもあります。
懲戒解雇による労働者への不利益は、次のようなものです。
- 解雇予告手当が支払われない(労働基準法20条1項但書)
解雇は、30日以上前に予告をするか、不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として払う必要がある。しかし「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」には、労基署の「解雇予告手当除外認定」を受ければ解雇予告手当は不要。 - 退職金が不支給もしくは減額される
退職金規程で、懲戒解雇のときには退職金を不支給または減額するとされる。すでに払われた退職金も没収・返還が命じられることとなる。なお、裁判例では、退職金を不支給とするためには過去の勤続の功労を抹消するほどの非違行為が必要とされており、懲戒解雇だからといってかならず退職金を不支給にできるわけではない。 - 雇用保険の給付制限期間がある
自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を受けて退職したときは「特定受給資格者」(雇用保険法23条)にあたらず、7日間の待機期間、3か月の給付制限期間を経過しなければ受給できない。 - 懲戒解雇を受けたという汚名
懲戒解雇を受けたという事実は、たとえ不当解雇でも、「重大な企業秩序違反を行った」という社会的な汚名を負い、経歴に傷がつき、再就職、転職に著しく不利。
不利益が大きいことから、労働者側の立場では、懲戒解雇をされたら、自身の将来を守るために全力で争います。会社側としても、争われるリスクが高く、かつ、労基署への解雇予告手当除外認定などの手間のかかる懲戒解雇よりも、「会社を退職させる」という目的を確実に果たすために、争われるリスクの少ない普通解雇を選択することがあります。
通常は、就業規則の「普通解雇」についての定めには、「その他、当社の社員としての適格性を欠くとき」などの包括的な一般条項が用意されていることが多いため、このように懲戒解雇とすべき事案について普通解雇を選択したとしても、就業規則上の根拠を欠くことはありません。
このようなとき、本来であれば懲戒解雇とすべきであるケースで、普通解雇されるという例外的な取扱いがされます。この場合、労働者側としては、普通解雇の要件に照らして「不当解雇かどうか」を検討することになります。
解雇手続きの流れ
解雇手続きの一般的な流れは、次のとおりです。労働者側で、解雇の対象となってしまうとき、自分がいまどの段階にいるかを知ることによって、適切に対応をすることができます。
解雇権濫用法理による厳しい制限を回避するため、会社は労働者に対して退職勧奨を行って自主退職を迫るなどの方法を駆使してきます。
しかし、その解雇が不当解雇であると考える場合には、将来的に会社と争う余地を残しておくためにも、退職勧奨に同意して自主退職してしまってはなりません。不当解雇ではないかと考えるときは、解雇を言い渡されたらすぐに、解雇をした事実とその解雇理由を明らかにするよう会社に求めることが、会社との争いを労働者側有利に進めるための第一歩となります。
いずれの種類の解雇であっても、解雇権濫用法理による制限を受けることから、安易な解雇は不当解雇となるおそれがあります。そのため、会社側は、解雇をしようとする対象者に対して、まずは退職勧奨をすることが一般的です。
退職勧奨とは、会社が労働者を一方的に辞めさせるのではなく、まずは、労働者が自主的に退職をする意思がないかどうかを確認することです。労働者が退職勧奨に応じる場合には、自主退職となりますが、労働者側はこれに応じなければならないわけではありません。
むしろ、労働者が拒否しているにもかかわらず退職を迫ることは、違法な退職強要となりますし、解雇の要件を満たさないにもかかわらず「退職しないなら解雇となる」と告げることは強迫にあたる行為です。
いずれの種類の解雇でも、解雇の有効要件を欠くときは不当解雇となり、違法、無効となります。そのため、解雇することが決まったら、会社は内部的に、解雇要件を満たすかどうかの確認を行います。
解雇要件を満たすためには、解雇の理由がどんなものか分析しなければならず、このとき、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇という3種類の解雇のいずれにあたるかを検討します。労働者は、解雇を予告されたり、解雇を通知されたりしたときは、解雇理由を書面によって知らせるよう求めることができます(労働基準法22条)。
会社が労働者を解雇するとき渡す文書が、解雇通知書です。解雇通知書には、解雇日、解雇理由、該当する就業規則の条項などが書かれています。解雇通知書を受けとることで、会社を辞めたのが労働者の自主的な意思ではなく、会社の一方的な意思によることを証明できますので、不当解雇を争うときの重要な書類です。
なお、「誰をどのような理由で解雇をするか」ということは、労働者のプライバシーに配慮する必要があることから、全社的に発表されることは違法の疑いがあります。企業秩序の維持、再発防止の観点から社内に共有する場合にも、対象者の氏名や部署を明確にする必要性はありません。
解雇日の30日前に予告をするか、もしくは、これに不足する日数分の平均賃金相当額を「解雇予告手当」として払うことが必要です(労働基準法20条)。解雇予告手当は、解雇日に給与口座へ振込まれるのが一般的です。
解雇予告は、解雇日を特定して行わなければならないので、「解雇する可能性がある」という程度のお知らせでは足りません。解雇予告の際に、文書にサインをするなど、解雇の有効性を認めるような言動をすることは、労働者が不当解雇を争うときに不利な事情の1つとなりかねませんので注意してください。
なお、日雇い労働者(雇用期間が1か月未満)、2か月以内の期間を定めて雇用される労働者、季節的業務に4か月以内の期間を定めて雇用される労働者、試用期間中の労働者(雇用期間が14日未満)の場合には、解雇予告手当は支払われないこととなっています。
解雇されたら、解雇日までに私物を片付けて、会社からの貸与品(ノートPC、スマホ、社員証、名刺、オフィスの鍵、セキュリティカード、制服など)を返還します。
解雇は、会社からの一方的な契約解消なので、労働者側が解雇に同意できないといでも、貸与品の返還などには応じなければなりません。
解雇によって退職するときも、退職にともなう諸手続きが必要です。具体的には、離職票の交付、社会保険、雇用保険の資格喪失手続、源泉徴収票の交付などです。
解雇が「会社都合」の退職にあたるとき、雇用保険(失業保険、失業手当)は、退職後に7日間の待機期間が経過した後、8日目から支給を受けることができます。なお、懲戒解雇など、「自己の責に帰すべき重大な理由で退職した場合」にあたる場合には、7日間の待機期間経過後、3か月の給付制限期間を経過した後でないと、給付を受けることができません。
退職時に未払となっている賃金などは、労働者側から請求をすれば7日以内に支払わなければならないものとされています(ただし、退職金については就業規則の支払期限が優先します。労働基準法23条)。
まとめ
今回は、①普通解雇、②整理解雇、③懲戒解雇の3種類に分けて、それぞれの手続きの流れ、解雇要件、解雇の制限の違いを解説しました。あわせて、諭旨解雇(諭旨退職)、雇止め、本採用拒否という解雇と似た考えについても解説しました。
一言で「解雇」といっても、その解雇理由によって種類があり、それぞれの解雇の種類に応じて「どんな場合に解雇が許されるか」、「どんな場合に不当解雇となるのか」を検討しなければなりません。
解雇されてしまった労働者側の立場では、自分が言い渡された解雇が、いずれの種類のものであるかを理解して、不当解雇に対する適切なディフェンスをしていかなければなりません。
当事務所のサポート
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解雇を争いたい労働者の方をはじめ、労働問題でお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。
不当解雇のよくある質問
- 解雇にはどのような種類がありますか?
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解雇の種類には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇と、大きく分けて3つの種類があります。それぞれ、解雇理由が労働者側の事情か、会社側の事情かによって区別され、手続きの流れや認められる要件が違ってきます。もっと詳しく知りたい方は「解雇の種類」をご覧ください。
- 解雇手続きはどのような流れで進みますか?
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解雇の種類が普通解雇、整理解雇、懲戒解雇のいずれであったとしても、まずは解雇理由を確認し、解雇の予告をし、退職手続きへという流れで進みます。不当解雇ではないかと考え争いたいときは、解雇を認めるような言動をしないよう注意してください。詳しくは「解雇手続きの流れ」をご覧ください。