試用期間とは、採用選考の過程では知ることのできない社員としての適格性を判断するために、試しに雇用する期間のことです。適格性を見極めるため、3ヶ月〜6ヶ月の試用期間を設定するのが通常です。
会社にとって、採用面接ですべてを見抜くことは難しく、一定期間だけ働いてもらって適性を見極めようというのが、試用期間の意味です。試用期間を無事に過ぎれば正式に本採用してもらえますが、試用期間でトラブルがあると、会社から解雇されてしまったり、本採用拒否されたりしてしまうおそれがあります。
入社したにもかかわらず、突然に解雇・本採用拒否されることは労働者の不利益が大きすぎるため、試用期間中の解雇・本採用拒否には、本採用後の解雇と同じく「解雇権濫用法理」による制限があります。そのため、一方的な解雇・本採用拒否は、不当解雇として無効となることがあります。
今回は、試用期間のトラブルを回避する方法と、試用期間中の解雇・本採用拒否への対応について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。
- 試用期間は、採用選考の期間では把握できなかった適性を図るための期間
- 会社が、試用期間中の社員を軽視すると、不当な延長や、解雇・本採用拒否のトラブルが起こる
- 試用期間中の解雇・本採用拒否は、労働者保護の観点から制限される
なお、不当解雇をされてしまったときの対応について深く知りたい方は、次のまとめ解説もご覧ください。
まとめ 不当解雇されてしまった労働者が知っておきたい全知識【弁護士解説】
試用期間とは
はじめに、試用期間の基本的な知識について解説します。
試用期間とは、採用選考の過程では見極めることの難しい、社員としての適格性、能力といった点を判断するために設けられるお試しの期間です。
長期雇用の慣行のあった日本では、試用期間を設けることがごく一般化していますが、一方でトラブルも多く起こっています。会社側にとって「お試し」という意識が強いことから、試用期間中の労働者を軽く見る傾向にある点が、試用期間中に労働トラブルが多く起こる原因です。
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試用期間の目的・理由
試用期間には、会社側にとって、採用面接などでは見抜けない、実際に仕事をさせてみないとわからない適性や能力を判断するという目的・理由があります。そのため、長期雇用を予定している正社員などに適用するのが通常です。正社員であれば、新卒に限らず、中途採用にも試用期間が設けられることが多いです。
しかし、「採用されても、試用期間が経過しなければ本採用してもらえるかわからない」のでは労働者の地位が不安定になってしまいます。そのため、試用期間は、本採用とは別の「仮契約」ではなく、本採用と同じく労働契約(雇用契約)の一部とされています。ただし、本採用後よりは、解雇・本採用拒否についてある程度ゆるやかに判断されます。
試用期間は、法律用語で「解約権留保付雇用契約」と呼ぶことがありますが、これは、試用期間が本採用後の雇用契約と同等だけれども、その期間満了時に解約をする権利が会社側に留保されているということを意味しています。
試用期間の長さ
試用期間の長さには法律上のルールはなく、会社が自由に決めることができます。多くの会社では3ヶ月〜6ヶ月程度の試用期間を設定するのが通常です。
試用期間を設けるときには、雇用契約書、就業規則に記載しますので、自分の試用期間の長さはこれらの資料を見せてもらえば知ることができます。
なお、試用期間があまりに長すぎると労働者の地位が不安定になるため適切ではなく、1年を超えるなど不当に長期の試用期間は、公序良俗(民法90条)に違反して無効です。
試用期間の延長
試用期間は、採用過程では見極められない能力・適性を判断する期間のため、その判断が十分にできなかったときには延長されることがあります。これは、すぐに本採用すると判断できるほどではないものの、一方で、すぐに解雇するほどでもないことを意味します。
ただし、試用期間を延長するためには、就業規則、雇用契約書などで延長に関するルールが定められており、それに従わなければなりません。そのため、会社が勝手に試用期間を延長して良いわけではありません。
試用期間を延長するとき、労働者側の不利益が大きいため、しばしば延長をめぐるトラブルが発生します。
試用期間中の給与
試用期間中の給与が、本採用後の給与よりも低いことは違法ではありませんが、最低賃金を上回る給与である必要があります。「研修中」、「訓練中」を理由に低額の給与としたり、無給としたりすることは違法です。
試用期間だからというだけの理由で給与を下げることは不当な処遇となる可能性があります。
また、同一労働同一賃金の考え方から、同じ価値の労働を提供できるのであれば同じ金額の賃金が支払われるべきです。残業代についても、試用期間であっても問題なく請求可能です。
なお、最低賃金には減額特例があり、試用期間中は、最大で最低賃金が2割減額されますが、都道府県労働局長の許可が必要なためあまり利用されません。
試用期間中に起こりがちなトラブルと、対処法
次に、試用期間中に起こりがちなトラブルと、その対処法について解説します。
「お試し」という考えが会社にあるために、「試用期間であれば、解雇・本採用拒否は簡単にできる」と甘い考えを持つ会社が少なくありません。そのため、試用期間中の解雇、本採用拒否はしばしば大きな問題となります。
試用期間をトラブルなく乗り切り、解雇や本採用拒否とされてしまわないために、よく理解しておいてください。
試用期間を不当に延長される
試用期間中に、会社が十分に能力・適性を判断できなかったとき、延長されることがあります。しかし、試用期間を不当に延長されると、労働者にとって不利益が大きいため、トラブルとなりがちです。
試用期間の延長が許されるためには、労働者の合意があるか、もしくは、就業規則に定めた試用期間の延長についてのルールにしたがう場合でなければならず、会社が自由に延長できるわけではありません。そのため、一方的に試用期間の延長を告げられて納得のいかないときは、次のような対応をする必要があります。
- 就業規則を見せてもらい、試用期間の延長に関するルールを確認する
- 試用期間を延長する理由を確認する
- どのような改善をすれば本採用されるのかを確認する
試用期間を延長されるという意味は、本採用するほどの能力・適性がまだ確認できていないということであり、しかし一方で、今すぐ解雇・本採用拒否するほどに能力不足、適性不足ではないということです。そのため、改善が見られれば本採用してもらえる可能性があります。
また、延長が許される場合にも限度があり、延長して1年以上の試用期間となるようなケースでは、公序良俗違反(民法90条)として無効となる可能性が高いです。
したがって、トラブルなく本採用を目指すためには、本採用されるための改善点を、延長のタイミングでしっかり確認しておくことが重要です。延長後、解雇・本採用拒否されてしまったとき、きちんと問題点を改善していたことを示して争うためにも、上記のような会社からの指摘は、書面でしてもらうのがおすすめです。
試用期間中の解雇・本採用拒否
試用期間は、能力・適性の見極めのための期間のため、その結果、残念ながら本採用には至らないことがあります。試用期間の結果、本採用されないことを、法律用語で「本採用拒否」といいます。
本採用拒否は、会社側から一方的に労働契約(雇用契約)を解約することを意味するため、「解雇」と同じ性質をもちます。そのため、「解雇権濫用法理」が適用され、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利を濫用した「不当解雇」として違法、無効となります(労働契約法16条)。
試用期間中の本採用拒否に、客観的に合理的な理由があるといえるためには、能力や適性がないというだけで足りず、試用期間中に十分に注意指導したが、改善の余地がないという状況でなければなりません。
少なくとも次のような理由での解雇は、違法といえるでしょう。
- 注意指導や教育を全くおこなわず、能力不足を理由に解雇する
- 「働いてもらったら、なんとなく合わなかった」という理由で解雇する
- 「期待していたのと少し違った」という理由で解雇する
試用期間は、採用選考では見極められない能力や適性の判断のための期間であるため、採用選考段階で労働者から伝えられていた情報などを理由に解雇・本採用拒否することもできません。
なお、試用期間で14日以内の解雇であれば、解雇予告は不要ですが、14日を超えると、30日前に解雇予告を行うか、もしくは、不足する日数分の平均賃金を、解雇予告手当として支払う必要があります(労働基準法20条)。
試用期間中に退職するときのトラブル
労働者の側から逆に、試用期間中に「想像していた会社ではなかった」、「ブラック企業なので辞めたい」と思うこともあります。このようなとき、労働者には「退職の自由」があるため、試用期間中に辞めるのは自由です。
具体的には、期間の定めのない雇用契約であれば、民法627条1項にしたがい2週間前に申入れれば退職できます。
このとき、試用期間を設定するケースとは、会社にとっても長期雇用を予定している場合が多いため、会社の引き止めにあってトラブルになってしまうことがあります。
労働者側で、トラブルになってしまわないためにできることは、退職理由を説得的に説明してから辞めることです。辞める理由について、会社の慣行や社風、上司との人間関係などを理由にするのではなく、「自分が会社に合わなかった」という理由付けをして説明するのがおすすめです。
試用期間中の残業代請求
試用期間であっても、無償で労働するよう求められることはありません。労働契約(雇用契約)が成立していることは本採用後と全く同じであるため、試用期間中であっても残業代を支払ってもらうことができます。
そのため、試用期間中であっても「1日8時間、1週40時間」を超えて労働すれば通常の賃金に25%を乗じた割増賃金を受け取ることができます。また、法定休日に労働した場合は35%、深夜労働(午後10時〜午前5時の労働)をしたときは25%の割増賃金を受け取れます。
「試用期間は能力を上げる訓練をしている期間だ」といった理由で残業代を支払わない会社がありますが、違法であるため、未払い残業代を請求すべきです。試用期間では、このように給与面について不当な処遇を受けることがあるため、求人票と雇用契約書が合致しているか確認してから入社するよう注意が必要です。
なお、試用期間でも、雇用保険、社会保険に加入してもらうことができます。
会社は試用期間中の社員を軽視しがち
以上で説明したような労働トラブルが、試用期間中に起きてしまいやすいのは、会社が使用期間中の社員を軽視しがちだからです。しかし、試用期間は、本採用後の労働契約(雇用契約)とは別物の「お試し期間」ではなく、契約自体は本採用後の契約とつながっています。
この点で、会社が試用期間中の社員を軽視することが、試用期間中のトラブルの大きな原因となっています。試用期間でやめてもらえるようにしたい会社では、「一旦、3ヶ月程度の期間を定めて有期雇用し、その後に正社員として採用する」という方法をとることがあります。
裁判例(神戸弘陵学園事件:最高裁平成2年6月5日判決)では、「試用」の意味をもつときには、有期雇用契約の形式をとっていても、それはその後の雇用の試用期間として評価されると判断し、有期契約だからといって期間満了で解約することが「不当解雇」として違法になることを示しました。
使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
神戸弘陵学園事件(最高裁平成2年6月5日判決)
まとめ
今回は、試用期間の基本的な知識と、試用期間中に起こりがちなトラブルについて弁護士が解説しました。
試用期間だからといって軽視する会社がありますが、試用期間であっても不当な処遇を我慢する必要はありません。解雇・本採用拒否など不利益の大きい会社の処分に対しては、その違法性を主張して争うべきケースもあります。
また、解雇・本採用拒否される前にも、会社が使用期間を軽視しているときはその兆候が労働問題となってあらわれます。不当な延長、残業代未払など、問題点が明らかなときは、大きなトラブルとなる前に適切に対応するのが重要なポイントです。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題を得意分野として、多数の解決実績をつみ重ねています。
試用期間のトラブルをはじめ、労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
試用期間のよくある質問
- 試用期間とはどのようなものですか?
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試用期間は、採用選考では把握できなかった能力や適性を見極めるために、入社後3〜6ヶ月程度の期間に設けられるものです。試用期間は、会社側からは軽視されがちですが、すでに労働契約がスタートしており、解雇権濫用法理による労働者保護がはたらきます。もっと詳しく知りたい方は「試用期間とは」をご覧ください。
- 試用期間中のトラブルの被害にあったらどう対応したらよいですか?
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試用期間は、会社側から軽視されがちなため、トラブルの起こりやすい期間です。試用期間だからといって、不当に延長されたり、解雇・本採用拒否されたり、正当な残業代や給与が払われなかったりしたときは、労働法上の権利を主張し、会社に交渉や労働審判などの争いを起こすのがおすすめです。詳しくは「試用期間中に起こりがちなトラブルと、対処法」をご覧ください。