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将来介護費は、交通事故の損害賠償請求が認められる?

将来介護費とは、交通事故の被害にあってしまった方に、将来かかる可能性のある介護費用のことです。

交通事故により後遺症など重い被害を負ってしまったとき、将来も介護費用の支出を余儀なくされてしまうと容易に予想できることがあります。このようなとき、将来かかる介護費用について、「将来費用がかかったときに請求するのではなく、現在まとめて損害賠償請求できるか」というのが、将来介護費についての重要な法律問題です。

そして、将来介護費の請求を裁判で認めてもらうためには、将来の介護の必要性と、将来介護費を支出する相当程度の可能性が必要です。

今回は、将来介護費の問題について、将来介護費の目安と計算方法、裁判で認めてもらうための要件といった点について、交通事故被害にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 交通事故被害で、将来介護の必要性が認められれば、将来介護費を請求できる
  • 将来介護費は、将来介護を要すると考えられる年数に応じて計算される
  • 将来介護費は、一括払い、定期金賠償の2つの支払い方法があり、いずれもメリット・デメリットあり

なお、交通事故によって負った後遺障害の慰謝料について、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ 交通事故の後遺症で、後遺障害慰謝料を請求するための全知識

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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将来介護費を請求できるケースとは

将来介護費とは

将来介護費とは、交通事故の被害者が将来に、介護を必要とするときにかかる費用です。

交通事故被害のなかでも、重度の後遺症が残ってしまったケースでは、将来も介護費用がかかる可能性が高いです。このとき、将来介護費用についても、損害として相手に請求できます。

将来介護費を請求できる典型例には、次のような重度の症状が残るケースがあります。

  • 遷延性意識障害(いわゆる「植物状態」)
  • 失調麻痺
  • 高次脳機能障害
  • 脊髄損傷

将来介護費の問題は、「将来に支出を要する可能性がどれほどあるか」について判断しなければならないという難しいハードルがあるため、裁判例でも認められたケース、認められなかったケースと結論が分かれています。

将来介護の必要性が認められれば、将来介護費を請求できる

将来介護費を損害として裁判所に認めてもらうためには、「将来の介護の必要性が高い」と判断してもらう必要があります。実際に払った介護費用であれば、問題なく加害者に請求できますが、将来介護費用の問題は、実際にはまだ払っていない、症状固定後にかかると予想される介護費用の請求だからです。

自賠責保険の後遺障害等級認定の第1級、第2級のケースは、明文で「介護を要する」と定められていますから、これらの等級認定を受けられたケースでは将来介護費の請求は認められやすい傾向にあります(なお、「介護」には日常生活動作における身体介護だけでなく、患者の動静の見守りや声掛けも含まれます)。

自賠法施行令 別表第一

第1級
1. 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

第2級
1. 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

自賠法施行令(e-Gov法令検索)

ただし、実務では、自賠責保険の第1級、第2級のケースにかぎらず、第3級以下の等級認定であっても、具体的な状況に応じて介護の必要があると判断できれば、将来介護費の請求を認めることがあります。このとき、介護の必要性は、被害者の身体の状況や残存した後遺症、それにより被害者が受ける日常生活動作の制限の程度などを考慮して判断されます。

将来介護費が認められるケース
将来介護費が認められるケース

たとえ、後遺障害等級が第3級以下でも、高次脳機能障害など介護の必要性が高い症状があるときには、その症状が生活に大きな支障を及ぼすこと、介護者の身体的、精神的負担が大きいことを主張して、将来介護費を請求すべきです。

将来介護費の金額の計算方法

計算

次に、将来介護費として認められる金額の計算方法について解説します。

交通事故被害において請求すべき将来介護費の計算方法は、次のとおりです。

将来介護費=請求額(年額)×介護を要する年数(平均余命に対応したライプニッツ係数)

請求額(年額)の算出

将来介護費の計算方法
将来介護費の計算方法

将来介護費の計算では、まず請求額(日額)を算出し、これに365日をかけて年額を算出します。請求額(日額)は、介護の主体が、家族・親族などが行う近親者介護なのか、介護職などの職業付添人がする職業介護なのかによって区別されており、次のように計算します。

  • 近親者介護の場合
    1日8000円程度を目安とする。ただし、後遺症の程度、介護の必要性のほか、1日のうち介護に費やす時間の割合なども考慮し、具体的な看護状況によって増額・減額する。
  • 職業介護の場合
    請求額(日額)は実費全額が基本。ただし、将来の介護費は変動する可能性があるため、現在払っている介護費、後遺症の程度、回復の可能性などを考慮して少なめに認定される裁判例が多い。

近親者の負担を考えると長期間の介護は難しいため、実務では、当初は近親者介護を前提として計算しておき、一定の年齢(近親者が67歳に達した程度など)以降は施設介護に移行するという前提で、将来介護費を算出することが多いです。

近親者介護と職業介護、在宅介護と施設介護のいずれを選択するかは、将来介護費と関わる問題ではあるものの、費用面だけでなく、被害実態に即した介護プランを策定するのが大切なポイントです。

将来介護費の決定にあたり、裁判で考慮された事情

近親者の介護では、1日8000円程度を目安としながら、介護の具体的状況を踏まえ金額が変動するため、しばしば裁判でその金額が争いになります。

近親者による介護は、家族であるために当然に行われる部分も多く、家事の時間と混ざりあうなど常に介護しているわけでもないといった事情から、相当低額だと見積もられてしまうことがあります。将来介護費は、将来の可能性にすぎないため、予想に基づいて算出しなければならず、ますます金額の決定が困難になります。

近親者による将来介護費が低額となる理由
近親者による将来介護費が低額となる理由

裁判例では、将来介護費の金額の決定にあたって、次の事情が考慮されています。

  • 後遺症の内容、程度
  • 被害者が介護を要する程度
  • 日常生活の自立の程度
  • 必要とされる介護の内容、程度
  • 介護のために必要となる時間
  • 介護者の属性(性別、年齢、健康状態など)
  • 家屋が介護仕様であるかどうか
  • 介護用具の使用の有無

なお、常時介護に比べて、随時介護の場合には、その介護の程度、回数を考慮しながら、認める将来介護費を2分の1程度としている例が多いです。

将来介護費が問題となる裁判では、重度の後遺症が残ることから、請求額が相当高額となり、争いが長期化します。できるだけ多くの将来介護費を認めてもらうためにも、後遺症がどれほど重度で、介護の必要性が高いかを立証するため、証拠の準備が欠かせません。

介護用品代・自宅改装費も請求できる

在宅介護では、介護用ベッドなどの介護用品代や、バリアフリー仕様とするための自宅改装費などがかかることがあります。この点、将来介護費だけでなく、介護用品代や自宅改装費など、介護に必要となる諸費用についても必要なかぎり、加害者に請求できます。

介護費以外の実費請求
介護費以外の実費請求

裁判所に認めてもらうためには、介護の必要性と、請求額の妥当性を証明する必要があります。すでに介護を開始しているときは、介護実績を証明するための介護日誌、日記や、介護用品の領収書、自宅改装の業者見積りなどの資料が証拠となります。

公的扶助は控除されない

介護保険給付などの公的扶助を利用して介護をしたとき、公的扶助から実際に給付を受けた額は、損害として請求できません。このように、利益を受けた分を損害から控除する考え方を「損益相殺」といいます。

これに対して、将来介護費の場合には、将来に給付される可能性のある介護保険給付は、損益相殺の対象としないのが実務です。つまり、「将来」の介護費であれば、公的扶助を控除せずに請求できるということです。

裁判例は「公的扶助の制度が設けられているとしても、公的扶助を受ける義務を負うものではないし、同制度が将来にわたって存続する保障もない」(仙台地裁平成9年10月7日判決)という理由を示しています。つまり、現在、公的扶助から給付を受けているのでないのであれば、将来介護費がかかるとき、公的扶助を受けられない可能性もあるため、控除の必要はないということです。

介護を要する年数(平均余命に対応したライプニッツ係数)の算出

将来介護費の計算では、介護を要する年数については、被害者の平均余命までを基準とします。ただし、被害者の状態が悪化し、平均余命まで生きる可能性が低いなどの特別な事情があるときは、より短い期間しか認められないこともあります。

将来分を現在に一括して受けとることから、中間利息を控除して現在価値に直すために、ライプニッツ係数が利用されます。

就労可能年数とライプニッツ係数表(厚生労働省)

平均余命より長生きしても将来介護費が増額されることはなく、平均余命より早く亡くなっても将来介護費を返還する必要はありません(この点で長生きするほど介護費がかかる「延命リスク」があり、将来介護費の定期金賠償の必要性が議論されていることは後述)。

なお、2020年4月1日に施行された改正民法で法定利息の利率(法定利率)が年5%から年3%に変更されたのを受け、ライプニッツ係数も変更されているため注意が必要です。

将来介護費の支払方法は、一括払いか、定期金賠償か

医療

定期金賠償とは、将来介護費をはじめとした将来受けとるべき損害賠償額を、現在に一括で払ってもらうのではなく、毎月低額で払ってもらう方法のことです。

時間の経過によって随時発生するような性質の損害では、実態に即した賠償とするために定期金賠償の方法が選ばれることがあります。将来介護費は、まさに、定期金賠償に向いた性質の損害であり、認めた裁判例も多くあります。

ただし、将来介護費を一括払いとするか、定期金賠償とするかによって、被害者側では次のようなメリット・デメリットがあり一長一短です。そのため、支払方法は慎重に選ばなければなりません。

  • 一括払いのメリット
    支払いが確実に行われる。
  • 一括払いのデメリット
    被害者が平均余命より長生きしたとき、定期金賠償より受取総額が少なくなる
  • 定期金賠償のメリット
    中間利息が控除されないため、一括払いより受取総額が増える。また、被害者が平均余命より長生きしたときにも、一括払いより受取総額が増える。
  • 定期金賠償のデメリット
    保険会社の倒産、加害者の無資力など、将来の支払いが滞るリスクあり。また、被害者が平均余命より早く死亡したとき、一括払いより受取総額が少なくなる。

まとめ

今回は、交通事故被害のうち、将来介護費が問題となる重大なケースにおける法律知識について解説しました。

将来介護費は、交通事故で重度の後遺障害が残存するケースで、重要な争点となります。そして、後遺障害が重大であり、余命が長いほど、将来介護費の請求額は高額となり、加害者(とその保険会社)との間で激しい対立をまねくと予想されます。

そのため、将来介護費の争いは裁判になることが多く、裁判例に照らしてどのようなケースで将来介護費が認められやすいのかを知っておく必要があります。裁判例では、介護の必要性、後遺症の症状など、多くの要素を総合考慮し、ケースに応じた判断がなされています。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、交通事故について注力し、多くの解決事例を有しています。

将来介護費の請求をはじめ、交通事故被害にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

交通事故被害のよくある相談

将来介護費の請求とは、どのようなものですか?

交通事故被害で、将来介護費の請求とは、現在はまだかかっていなくても、将来かかる可能性の高い介護費について、損害として前もって請求しておくことです。将来の介護の必要性が高いときには、損害として加害者に請求することが認められています。もっと詳しく知りたい方は「将来介護費を請求できるケースとは」をご覧ください。

将来介護費は、一括払いと定期金賠償のどちらが得ですか?

将来介護費を一括払いで請求する方法、定期金賠償とする方法のいずれもメリット・デメリットがあるため、状況に応じて適切な選択をする必要があります。一括払いのほうが確実に払ってもらえますが、平均余命より長生きした場合などに受取総額が少なくなります。詳しくは「将来介護費の支払方法は、一括払いか、定期金賠償か」をご覧ください。

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