交通事故でケガをすると後遺障害が残る場合があります。法律の専門用語では「後遺障害」と言いますが、一般的には「後遺症」ということもあります。
交通事故で負ったケガが、十分な治療をおこなったにもかかわらず治らず、変形したままであったり、痛みが残ってしまったりするとき、後遺障害となる可能性があります。このようなとき、自賠責保険で定められた第1級から第14級の等級に認定されると、「後遺障害」となり、慰謝料を請求できるようになります。
後遺障害について請求できる慰謝料額は、一定の相場が定められており、弁護士もこれに基づいて計算し、請求をします。重度の後遺障害に対しては、相当高額な慰謝料を請求できます。しかし、慰謝料額は一律の「正解」があるわけではありません。
今回は、交通事故で後遺障害が残ってしまったとき、より高額な慰謝料の獲得を目指すための方法について、弁護士が解説します。
「交通事故」弁護士解説まとめ
目次
後遺障害慰謝料とは?
まず、交通事故で後遺障害(後遺症)が残ってしまったとき、より高額の慰謝料を勝ち取るためには、後遺障害慰謝料に関する正しい知識を理解しなければなりません。一般的には「後遺症」という用語のほうが慣れ親しまれていますが、法律の専門用語では「後遺障害」といいます。
たとえ怪我の痛みがしつこく残ったとしても「後遺障害等級」の認定を受けなければ、後遺障害慰謝料をもらうことはできません。
交通事故被害者がより高額な後遺障害慰謝料を得るためにも、はじめに、有利な等級認定を受ける方法を理解してください。
後遺障害等級の認定を受けるには?
交通事故の被害者が、後遺障害等級の認定を受けるためには、次の5つの条件を満たす必要があります。
まず、「症状固定」が必要です。症状固定とは「これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態」のことです。つまり、「これ以上良くも悪くもならない」という意味です。
「症状固定」は、「治った」、「完治した」ということではないので、注意が必要です。
その上で、交通事故とケガの症状との間に因果関係がある必要があります。つまり「交通事故を原因として、怪我を負ってしまった」ということです。そして、労働能力が低下していることが必要です。
後遺障害等級の各等級に認定されるためには、のちほど説明する表に定められた具体的な症状に該当する必要があります。等級は第1級から第14級まであり、第1級が最も重度で、第14級が最も軽度です。
これらの症状については、医師による医学的な証明が重要です。「なんとなく、まだ痛い気がする」というだけでは後遺障害とはいえません。医学的な証明として重要なのが「後遺障害診断書」です。
例えば、交通事故でよく発生する「むち打ち」症状の場合、第12級の認定基準である「局部に頑固な神経症状を残すもの」、もしくは、第14級の認定基準である「局部に神経症状を残すもの」にあたります。
後遺障害等級認定の流れ
先ほど解説したとおり、後遺障害等級は、症状が固定しなければ認定を受けられません。そのため、事故発生直後は、まずは治療に専念することとなります。治療は、入院・通院をふくめ、医師の医学的な判断にしっかり従って行うようにしてください。
主治医から「これ以上治療を続けても症状は変わらない」という判断を受けた時点が「症状固定」のタイミングです。
症状固定時に、後遺障害が残っていると考えられる場合には、医師に「後遺障害診断書」の作成を依頼してください。後遺障害診断書を自賠責保険会社に提出すると、「損害保険料率算出機構」で等級認定を判断してもらうことができます。
このとき、等級認定を求める方法には、次の2つがあります。
事前認定のほうが手間が少なくて済みますが、相手方保険会社は、被害者にとって本当に有利な主張をすべてしてくれるかはわかりません。被害者請求だと、手間がかかりますが、十分な証拠を添付し、有利な主張ができるため、納得のいく申請ができます。
被害者請求に要する手間や専門知識は、弁護士に依頼して補うことができます。
認定方法の最後に、納得のいかない認定に対して異議申立をします。後遺障害の認定結果に不満を感じた場合には、異議申立てをすることができます。異議申立てには、次の3つの方法があります。
以上の等級認定のながれを理解し、できる限り有利な認定を得ることが、慰謝料増額の近道です。
後遺障害慰謝料の3つの支払基準
ここまで解説した方法により、有利な等級認定を得ることができたとしても、それだけで後遺障害慰謝料が一律の金額に決まるわけではありません。というのも、後遺障害慰謝料の支払い基準には、次の3つの基準があるためです。
この支払基準のうち、自賠責保険基準は最低限の保障であり、もっとも低額です。これに対し、弁護士基準(裁判基準)がもっとも高額となります。より高額な慰謝料を獲得するためにも、弁護士基準(裁判基準)での慰謝料獲得を目指します。
自賠責基準の慰謝料計算
「自賠責保険」とは、法律上すべての車両に加入が義務付けられる、交通事故被害者を救済することを目的とした強制保険です。被害者救済のための最低限の保障しか与えられていないため、これだけで得られる慰謝料額はかなり低額です。
自賠責保険の支払基準は、次のとおり、自動車賠償保障法(自賠法)にある表によって決められています。このように賠償額には上限があり、その上限は「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を合計したものです。つまり、慰謝料と逸失利益がこの上限を上回る場合、差額は自賠責保険からは支払われません。
<別表Ⅰ>
後遺障害等級 | 慰謝料額 |
---|---|
第1級 | 1650万円(4000万円) |
第2級 | 1203万円(3000万円) |
※()内は保険金総額
<別表Ⅱ>
後遺障害等級 | 第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
慰謝料額 | 1150万円 (3000万円) |
998万円 (2590万円) |
861万円 (2219万円) |
737万円 (1889万円) |
618万円 (1574万円) |
512万円 (1296万円) |
419万円 (1051万円) |
後遺障害等級 | 第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
慰謝料額 | 331万円 (819万円) |
249万円 (616万円) |
190万円 (461万円) |
136万円 (331万円) |
94万円 (224万円) |
57万円 (139万円) |
32万円 (75万円) |
※()内は保険金総額
後遺障害等級表は、別表Ⅰと別表Ⅱがあります。
どちらの表が適用されるかについて、別表Ⅰは後遺障害によって日常的な介護が必要になってしまった場合の慰謝料額と労働能力喪失率、別表Ⅱは日常的な介護までは不要な場合の後遺障害の慰謝料額と労働能力喪失率をあらわしています。
任意保険基準の慰謝料計算
任意保険基準は、交通事故の加害者が加入する保険から支払われる慰謝料の基準のことです。自賠責保険は強制加入ですが、任意保険はその名のとおり「加入は任意」です。とはいえ、自賠責保険基準と弁護士基準(裁判基準)には大きな開きがあるため、加害者が任意保険に加入していることは多いです。
交通事故のときに、その被害額を填補し、慰謝料の支払いを行うための「任意保険」ですが、しかしながらその支払基準は、一般的に、弁護士基準(裁判基準)よりかなり低額です。
そのため、重い後遺症を負った被害者としては、後遺障害慰謝料をできる限り増額するためにも、保険会社の提案する示談金額をそのまま鵜呑みにするのではなく、弁護士基準(裁判基準)を踏まえた適正額の支払交渉を行わなければなりません。
例えば、「裁判で弁護士が請求されると100もらえるとしても、保険会社は60しか提案しない」ということです。保険会社もビジネスですから、支払う慰謝料額を争い、低額で済ませられるに越したことはありません。
なぜ保険会社は、裁判(訴訟)で争われたら増額されることをわかっているのに低額の提案をするのでしょうか。
それは、交通事故被害者の大多数が、「3つの基準がある」という知識を知らないからです。「交通事故の専門家」である保険会社が言うのであれば・・・と応じてしまう方が少なくありません。しかし、専門的な知識があるかどうかと、被害者の利益になる提案をするかどうかは異なります。
弁護士基準(裁判基準)の慰謝料計算
最後に、弁護士基準(裁判基準)の交通事故慰謝料とは、裁判で弁護士が請求する際に、一般的に認容される金額のことです。交通事故の裁判は数多く起こされているため、この弁護士基準(裁判基準)においては、等級ごとの相場(目安)が明らかになっています。
いわゆる「赤い本」、正式名称「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(出版元:公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部算定基準部会)により、次の表のとおり弁護士基準(裁判基準)が定められています。
後遺障害等級 | 第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
慰謝料額 | 2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
後遺障害等級 | 第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
慰謝料額 | 830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
(参考)後遺障害の逸失利益
最後に、後遺障害の逸失利益についても解説しておきます。後遺障害の逸失利益とは、後遺障害によって手足の痛み、腕の可動域制限などの障害が残ってしまって、労働能力が減少、喪失してしまったときに得られる金額です。
このような後遺障害によって労働能力が減少してしまうと、会社からの評価が下がったり、就労できる業種が制限されてしまったりといった結果、収入が減少したり、まったく失われてしまったりすることが予想されます。この収入減少を補うのが、後遺障害の逸失利益です。
後遺障害の逸失利益は、次の計算式で計算されます。
後遺障害の逸失利益 | = | 基礎収入 | × | 労働能力喪失率 | × | 中間利息控除 |
---|
自賠責保険基準の場合、後遺障害の慰謝料と逸失利益をあわせた上限が定められていますが、弁護士基準(裁判基準)であれば、それぞれ裁判例に基づいて計算した金額を請求できます。
基礎収入
後遺障害逸失利益の計算式における「基礎収入」とは、交通事故前に得ていた収入のことをいいます。「事故前に得ていた収入が減ってしまった」ことが、逸失利益の請求の理由となるからです。
被害者が給与所得者の場合には会社から得ていた給与の金額、自営業者の場合には申告所得額を基準として算定します。
ただし、主婦(家事従事者)、学生、年金生活者など、所得を考えることが難しい類型の場合には、「賃金センサス」という統計データを参考にして算出します。
労働能力喪失率
後遺障害の逸失利益の計算式にいう「労働能力喪失率」とは、すなわち、「後遺障害によって、どの程度労働能力が失われたか」を示す割合のことをいいます。
そして、後遺障害の場合には、その等級に応じた労働能力喪失率が、次のとおり通達で表に定められています(労働省労働基準局長通牒・昭和32年7月2日基発第551号)。
後遺障害等級 | 第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
喪失率 | 100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
後遺障害等級 | 第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
喪失率 | 45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
中間利息控除(ライプニッツ係数)
最後に、「基礎収入」に「労働能力喪失率」をかけ、「中間利息控除(ライプニッツ係数)」を乗じます。
その意味は、将来にわたって生じる損失(労働能力喪失によって減る収入)を、現在一括でもらうことから、その時間的価値(利息)を割り戻して計算する必要があるということです。
ライプニッツ係数もまた、次のとおり表で定められています(なお、2020年4月1日に施行された民法改正によりライプニッツ係数が変更されました。下記は、変更後のものとなります。)。
年数 | ライプニッツ係数 | 年数 | ライプニッツ係数 |
---|---|---|---|
1 | 0.971 | 6 | 5.417 |
2 | 1.913 | 7 | 6.230 |
3 | 2.829 | 8 | 7.020 |
4 | 3.717 | 9 | 7.786 |
5 | 4.580 | 10 | 8.530 |
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今回は、交通事故で適正な後遺障害慰謝料を獲得する方法を解説しました。より高額な慰謝料を獲得するためにも、「保険会社からの提案が適正額」と信じることなく、今回の解説を参考にして弁護士基準(裁判基準)にしたがって計算してください。
合わせて、後遺障害慰謝料をより多く獲得するために、有利な等級認定を得ることも重要です。そのためにも、交通事故直後から、交通事故を得意とする弁護士にアドバイスを求め、入通院治療の段階から正しい方法を選択してください。
保険会社がどれほど優しく、交通事故被害に理解を示したとしても、しょせん慰謝料を支払わなければならないという意味では、保険会社としては「高ければ高いほど損」ということになります。保険会社はできる限り低額の示談金で済ませたいのが当然ですから、しっかり交渉して戦わなければなりません。
弁護士は、後遺障害慰謝料、逸失利益を弁護士基準に基づいて請求をし、これを拒否される場合には、裁判で満額の獲得を目指し、あなたをサポートします。不幸なことに交通事故の被害者となってしまい、後遺障害が残ってしまう可能性のある被害者の方は、お早めに弁護士にご相談ください。
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