交通事故の被害にあってしまって、懸命に治療に通ったけれども完全には治りきらなかったとき、その後に残る障害について補償するのが「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」です。
しかし、後遺障害慰謝料と逸失利益はいずれも、後遺障害の認定手続きにおいて等級認定を受けることができなかったり、低い等級しか認定されなかったりした場合には、満足のいく金額を認めてもらうことは困難です。
そして、被害者の方の感覚としては「まだ痛みが残っている」「後遺症によって生活に支障が出てしまっている」「元通りの生活ができていない」というお気持ちであっても、後遺障害非該当という判断が下されてしまうことがあります。特に、他覚症状の残りづらいむちうち症などで、実際に痛みが残っていても後遺障害非該当の判断が下ることが多くあります。
このような納得のいかない認定結果となったとき、まず初めに行うべき対応が「自賠責保険異議申立手続」です。加えて、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理調停の申請、訴訟提起によっても、等級認定の結果を覆すよう求めることができます。
そこで今回は、交通事故被害者が、後遺障害の等級認定に不満があるときに行うべき異議申立ての3つの方法とポイントについて、弁護士が解説します。
「交通事故」弁護士解説まとめ
目次
後遺障害の等級認定への異議申立てをする3つの方法
痛みがまだ残っているのに、後遺障害非該当という判断を受けたとき、納得できないという気持ちが強いことでしょう。
一般的な交通事故の被害ケースでは、症状固定に至った後、後遺障害の認定手続きをします。後遺障害は、その部位や障害の程度に応じて等級が定められており、等級該当の認定を受けることができれば、それに応じた後遺障害慰謝料、逸失利益を加害者側(もしくはその保険会社)に請求することができます。
非該当という結果になったけれども、まだひどい痛みが残っていて納得ができないというとき、認定結果を買えるための方法には、次の3つがあります。
- 自賠責保険異議申立手続
- 紛争処理機構への紛争処理申請
- 損害賠償請求訴訟
そこで、各方法について、その内容とメリット・デメリット、注意すべきポイントなどを解説していきます。
自賠責保険異議申立手続
1つ目の方法は、自賠責保険異議申立手続です。
交通事故の被害にあい、長期間にわたって治療を続けてきたにもかかわらず症状が残存してしまい事故前の状態には回復しなかったとき、低い等級認定しか受けられなかったり、後遺障害非該当の判断を受けてしまったりしたときに行うのが、自賠責保険異議申立手続です。
自賠責保険異議申立手続は、後遺障害認定結果を争い、不服申立てをする方法の中で最もよく利用される方法です。
後遺障害の認定申請の方法には事前認定の方法と被害者請求の方法がありますが、異議申立は、事前認定の場合には任意保険会社に対して、被害者請求の場合には自賠責保険会社に対して異議申立書を提出する方法によって行います。合わせて、異議申立ての理由となる、当方にとって有利な判断を示した資料などを証拠提出します。
被害者から異議申立てがなされると、自賠責損害調査事務所という調査期間が、あらためて後遺障害等級認定の審査を行います。
なお、この自賠責保険異議申立手続には費用はかからず、回数の制限もないというメリットがありますから、まずは試してみることがお勧めです。一方で、申立ての判断を第一次的判断をしたのと同様に自賠責損害調査事務所が行いますから、第三者的な判断が下るわけではなく、判断が見直され覆る可能性がそれほど高くないというデメリットがあります。
紛争処理申請
後遺障害の認定結果に対して不服を申し立てる方法の2つ目は、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に対して紛争処理申請をするという方法です。
一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構は裁判所ではありませんが、上記の自賠責損害調査事務所とは異なり、公平中立な第三者的立場からの判断を下す機関です。そのため、自賠責保険異議申立手続よりも第三者的な視点から判断を下してもらうことができ、後遺障害等級認定の結果が覆る可能性が高まるというメリットがあります。
一方で、紛争処理申請は1度しかできないという回数の制限があり、紛争処理調停の結果に対して不服申立てをすることはできませんから、行うときには十分な準備をして臨む必要があります。
紛争処理申請がなされると、被害者側から提出された申請書と、添付された証拠を審理し、弁護士、医師、学識経験者らによる調停手続きによって判断が下ります。審理は書面審理となるため、重要な証拠はすべて書面化して提出しておくようにしてください。
損害賠償請求訴訟
後遺障害等級認定の結果に不服があるとき、その争いに対する最終的な判断をするのは裁判所です。そのため、後遺障害非該当などの結果を争うにあたって、3つ目の方法であり、かつ、最終手段となるのが、加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起することです。
裁判所は、自賠責保険の認定した後遺障害等級認定の結果や、紛争処理機構での調停結果に拘束されず、これとは異なった判断をすることができます。したがって、自賠責保険が後遺障害非該当と判断したとしても、紛争処理機構がより低い等級の認定をしたとしても、損害賠償請求訴訟においては交通事故被害者側の主張を認め、より高い等級認定を前提とした後遺障害慰謝料、逸失利益の請求を認めてもらうことができます。
ただし、このようなメリットがある一方で、損害賠償請求訴訟では、逆に、自賠責保険の認定したよりも低い等級の認定となってしまうおそれもあります。また、自賠責保険や紛争処理機構の認定した等級に合理性があれば、裁判をしても結果は変わらないこととなるおそれが強いでしょう。
そして、損害賠償請求訴訟を提起すると、交通事故加害者側との感情的対立が激しくなり、示談が難しくなってしまうなど、紛争が長期化し、費用と手間もより多くかかるおそれがあるというデメリットがあります。
後遺障害等級の異議申立手続の流れ
次に、自賠責保険会社に対して行う後遺障害等級の異議申立手続の方法や流れについて、弁護士が解説します。
後遺障害等級結果の別紙を確認する
後遺障害等級結果について異議申立を行う際には、まず初めに準備として、「どのような理由で後遺障害非該当という判断が下されてしまったのか」を知っておく必要があります。
そのため、まずは、後遺障害等級結果の別紙に記載されている理由を確認しておくことが必要です。
症状がいまだ残存しているにもかかわらず後遺障害非該当となってしまったり、低い等級の認定しか受けられなかった場合でも、「不服がある」というだけで異議申立をしても、認められる可能性は低いと言わざるを得ません。
自賠責調査事務所は、医学的資料にしたがって判断を下しているため、どのような理由で納得のいかない判断となってしまったのかを理解し、結果を変えるために必要な主張、立証を的確に行わなければなりません。そのため、異議申立てが認められる可能性があるかどうかや、認められるためにどのような資料の準備をすべきかを知るためには、後遺障害等級結果の別紙の分析が重要です。
医療記録を再確認する
後遺障害等級の認定申請を行う際に、しっかりと準備をしていれば、経過診断書、後遺障害診断書、事故当初から症状固定段階までの画像などの医療記録を提出しているものと思います。
後遺障害認定申請の方法には、加害者側の任意保険会社に行ってもらう「事前認定」の方法と、被害者自らが自身に有利な証拠を添付して行う「被害者請求」の方法がありますが、この点で事前認定ではなく被害者請求の方法を活用している場合には、交通事故の被害者側にとって有利になる資料を添付して申請を行っていることでしょう。
これに加えて、カルテを提出したり、主治医の意見を確認し、残存する症状について詳しい資料を添付することが、後遺障害等級の異議申立に成功するためには必要となります。
交通事故事案について経験の少ない医師の中には、後遺障害等級の認定申請の際に提出した後遺障害診断書の記載漏れがあったり、有利な事項が書かれていなかったりすることがあります。
後遺障害等級認定の手続は、提出された書面を審理するのみで進み、口頭で意見を述べたり、診察をやり直したりする機会はありません。そのため、このような不十分であったり不備があったりする後遺障害診断書では、症状を適切に反映してもらうことができず、納得のいかない等級認定となってしまうおそれが大いにあります。
なお、被害者請求の方法を活用して、より高額な後遺障害慰謝料の獲得を目指す方法については、次の解説も参考にしてください。
-
-
被害者請求だと、交通事故の慰謝料は増額可能?一括請求との違いは?
交通事故の被害にあってしまったとき、はじめに考えることは、自賠責保険への損害賠償請求の手続きです。自賠責保険は、すべての車両保有者が加入すべき義務のある保険で、被害者保護のための最低限の補償です。 交 ...
続きを見る
再検査・追加検査をする
後遺障害非該当の決定を下されてしまい、現時点で手元にある医療記録や資料によっては、異議申立てをして戦うのに十分ではないと考えられるときには、病院で追加の検査を行い、その結果を提出することが有効なケースもあります。
異議申立に協力をしてくれる医師がいる場合には、医師が作成した意見書、被害者本人の陳述書なども、合わせて添付するようにします。
症状が残っているにもかかわらず後遺障害非該当の決定を下されてしまう交通事故事案のなかには、必要な検査が十分に実施されていなかったことが原因となっているものもあります。特に、最初の認定申請の際、「被害者請求」の方法ではなく「事前認定」の方法で申請していたとき、資料収集を被害者が行わなくてもよいため手間は少ないですが、後遺障害の認定のために十分な資料の提出がなされていないおそれがあります。
特に、他覚所見のないむちうち症の場合など、後遺障害等級に該当するかどうかの判断が微妙なケースほど、このような細かい資料の不足が、結果に悪い影響を与えてしまうことがあります。
異議申立書の記載方法
後遺障害に関する異議申立ては、異議申立書を提出して行うこととなりますが、異議申立書について、決まった書式はありません。
保険会社から異議申立書の書式が送られてきている場合には、そちらを活用することで足ります。大切なご事情をしっかりと伝えたい場合には十分な記載ができるよう独自の書式で作成しても差し支えありません。
異議申立書は、加害者の加入している任意保険会社に「一括請求」の方法により請求をしている場合には、その任意保険会社に対して提出をすることが一般的です。なお、加害者の加入している自賠責保険会社に提出することもできます(交通事故証明書の記載を見れば、保険会社を確認することができます。)。
異議申立書に記載すべきポイントは、次の通りようなものです。
- 後遺障害等級の結果に対する不服のある点
- 後遺障害等級の判断内容についての問題点
- 主張する等級認定の内容
- 主張する等級認定を基礎づける客観的な事情
- 上記を証明するための重要な証拠
- 交通事故被害者の現在の状況(残存する症状、生活への影響など)
- 後遺障害等級に関する認定基準の評価へのあてはめ
以上の申請書に記載すべき内容は、従前の判断内容に対して不服のポイントを特定し、事実を証拠によって証明し、これを評価し、本来あるべきと主張する後遺障害等級の認定基準にあてはめる、という判断過程をすべて指摘するということを意味しています。
客観的な証拠として、医師の作成した医学的な資料はもちろんのこと、実生活に多大な支障が出ていることを示すため、同居する家族の陳述書、報告書などが重要な意味を持つこともあります。
異議申立書を提出すると、審査が始まります。異議申立書を提出した後、結果が出るまでにかかる時間は、おおむね2,3か月程度ですが、ケースによっては半年以上かかることもあります。
紛争処理申請について
自賠責保険異議申立手続のほかに、後遺障害等級認定について不服を申し述べる方法には、紛争処理(調停)の申請があります。
紛争処理の申請に必要となる書式は、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構のホームページからダウンロードすることができます。
一般財団法人自賠責保険・共催紛争処理機構の行う紛争処理調停では、弁護士、医師などの専門的な知識を有する者が構成する紛争処理委員会が審査をし、調停結果を出す手続です。公正中立な立場からの審査を受けることができるというメリットがあります。
判断をする機関が異なるため、同じ内容の申請書を提出しても、自賠責異議申立手続とは異なる結果が出る可能性があります。ただ、自賠責異議申立手続と同様、新しい医証(医学的な証拠)や有利な証拠があれば、添付して申請を行ったほうが、より有利な判断を受けることが期待できます。
任意保険会社や自賠責保険会社に対する異議申立には回数制限がないのに対して、紛争処理機構への紛争処理申請は、1回に限られています。また、紛争処理申請には、損害賠償請求権の消滅時効を中断する効力はないことに注意が必要です。そのため、損害賠償請求権の消滅時効が完成してしまいそうなときには、次に解説する損害賠償請求訴訟を行うことにより、時効中断を行っておかなければなりません。
損害賠償請求訴訟について
後遺障害非該当の判断に納得がいかないとき、加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起することによって解決する方法があります。
特に、異議申立を行っている間も消滅時効が進行することから、時効期間が残り僅かなときには、訴訟提起をする方法によって、時効の完成猶予の手続をとっておくことが必要となります。
裁判は、交通事故被害を争う手続きの中でも、最終的な解決手段であり、かつ、強制的に解決をする手段です。裁判における判決で勝訴すれば、判決で認められた金銭債権について強制執行を行うことができます。
多くの交通事故事件のケースで、自賠責の後遺障害等級認定は重要な証拠となり、これを参考として同様の判断が下されることがあります。しかし、冒頭でも解説したとおり、裁判所は後遺障害等級認定の結果や、異議申立、紛争処理調停などの結果に左右されることなく、これとは異なった判断をすることもできます。そのため、十分な主張立証を尽くせば、裁判で、自賠責の等級認定とは異なる結果を得ることも可能です。
東京地方裁判所の管轄する交通事故事件は、東京地方裁判所にある「交通事故専門部」(民事27部)で審理されることとなっており、交通事故事件の審理を多く扱う裁判官の専門的な審理を受けることができます。
特に、高次脳機能障害やむちうち症など、自覚症状があっても他覚症状が残りづらく、客観的な証拠を残りにくいケースでの後遺障害等級認定では、裁判での争いが激化しがちです。
異議申立で、後遺障害等級の認定を獲得するためのポイント
最後に、異議申立を行うことによって、後遺障害等級の認定を獲得するためのポイントについて弁護士が解説します。
被害者請求を行う
異議申立で後遺障害等級の認定を獲得するための1つ目のポイントは、被害者請求の方法を利用することです。
さきほど、後遺障害等級認定申請の方法には被害者請求と一括請求の2つがあり、一括請求のほうが加害者側保険会社が手続を行ってくれるため手間はかからないものの、有利な資料を十分に添付してもらえないおそれがあることを解説しました。
被害者請求を行ったか、それとも一括請求としたかはともかくも、従前の後遺障害等級認定申請において、添付した資料が十分であったか、不備のあるものではなかったかについては、再検討するようにしてください。不備や不足のある場合には、これを補完し、修正することにより、等級認定の結果が変わる可能性があります。
新たな証拠を提出する
異議申立で後遺障害等級の認定を獲得するための2つ目のポイントは、新たな証拠を提出することです。
従前の後遺障害等級認定申請において、資料が十分ではなかったり、資料に誤りがあったりした場合には、異議申立においては新たな証拠を提出することが成功のためのポイントとなります。
医師の協力を得る
異議申立で後遺障害等級の認定を獲得するための3つ目のポイントは、医師の協力を得ることです。
後遺障害等級認定の審査や、異議申立の審査は、いずれも医学的知見に基づいた判断が下されます。そのため、異議申立を成功させるためには、提出する書面や証拠について、医師の協力が必要となります。
この点で、自賠責保険異議申立手続では、慰謝料請求訴訟によって争う場合などと比べて、書面審査であることから、提出する書面や証拠の重要性が特に増します。
交通事故に詳しい弁護士に依頼する
最後に、異議申立で後遺障害等級の認定を獲得するための4つ目のポイントは、交通事故に詳しい弁護士に依頼することです。
異議申立の手続きでは、既に交通事故被害者側にとって不利となる判断が下されてしまった後で、その判断の問題点を見つけ出し、的確な反論をしていくこととなります。この際には、「どのような事実認定がなされたか」という点と、「どのような判断過程で結論が導かれたか」という点を意識しなければなりません。
これらの争点はいずれも、訴訟における事実認定、法的評価と共通しており、訴訟になる前の段階から、弁護士に依頼をして、証拠収集、主張書面の作成などを行ってもらうことが非常に有益です。
特に、交通事故を多く取り扱う弁護士であれば、過去の豊富な経験から、争いのポイントを導き出し、有効な反論を探す手助けをしてくれます。
なお、交通事故に詳しい弁護士は、後遺障害の異議申立てをする段階に限らず、交通事故が起こった当初から治療過程においても、交通事故被害者にとって有利な解決となるようアドバイスを行うことができます。
「交通事故被害」は浅野総合法律事務所にお任せください!
今回は、自賠責保険異議申立手続をはじめ、後遺障害等級認定の結果に不服があるときに行うべき方法について、弁護士が解説しました。
「異議申立をしても結果は変わらないのではないか」「無駄な努力なのであれば、もはやあきらめるしかない」と思っていらっしゃる交通事故被害者の方も少なくないのではないでしょうか。
交通事故被害にあってしまったにもかかわらず、納得のいく後遺障害等級の認定がなされず異議申立てをしようと考えている方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。当事務所では、交通事故案件を数多く取り扱い、特に、後遺障害等級の認定を争い、慰謝料を増額した実績が豊富にございます。
「交通事故」弁護士解説まとめ