
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
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定期金賠償とは、定期的な金銭の支払いを義務付ける損害賠償の形式のことです。
交通事故の人身損害において、将来の介護費用や逸失利益など、時間の経過によって具体化する損害の支払いに活用されることが多いです。不法行為による損害賠償の支払方法に法律上のルールはなく、一時金方式と定期金方式の双方が可能です。
定期金賠償とすることにはメリットとデメリットがあるため、適切に活用することが、公平で妥当な被害回復を受けるのに重要となります。
なお、最高裁令和2年7月9日判決は、損害賠償制度の目的や公平な分担の理念に照らして相当と認められる場合、後遺障害逸失利益についても定期金賠償を命じることができると判断しました。また、判決確定後に事情の著しい変更が生じた場合、民事訴訟法117条に基づく「確定判決の変更」によって賠償額の是正を図ることが可能です。
今回は、定期金賠償の基本的な仕組みや、そのメリット・デメリット、逸失利益の定期金賠償を認めた最高裁判例の意義について、弁護士が解説します。

はじめに、定期金賠償とはどのようなものかについて解説します。
定期金賠償とは、将来継続的に発生する損害について、その時点ごとに給付を行う方法です。
一定額を支払い続けるという点で「分割払い」と混同されますが、区別しなければなりません。あらかじめ確定した総額を分割して支払う「分割払い」と異なり、定期金賠償では、変更判決による額の変更や被害者の死亡といった不確定な終期が到来するまで支払いが続く点が特徴です。
交通事故の損害賠償は「一時金賠償」が基本となりますが、支払方法について法律上のルールはないため、事案によっては「定期金賠償」の合意をすることも可能です。支払方法は、まずは当事者の合意で決まり、決裂する場合には裁判所の判断に委ねられるため、双方のメリット・デメリットを考慮して慎重に検討する必要があります。
定期金賠償の方式は、交通事故の損害賠償において活用されることがあります。
特に、時間の経過に応じて徐々に具体化する損害について、実態に即した被害回復を図るために、定期金賠償が適しています。最初に一定額と決めるのではなく、時間の経過に合わせて支払いをすることで、事故後の生活を安定させ、被害の状況に応じた賠償をすることが可能となります。例えば、将来の介護費、後遺障害の逸失利益といった損害は、時間の経過に応じて発生し続けるため、賠償金の支払いについても定期金賠償とするのが、被害者と加害者の公平に適うと考えられます。
一時金賠償と定期金賠償は、支払方法の違いであると考えられています。
この点で、いずれの場合も過去の事故時(不法行為時)に全損害が発生していると評価される点で、継続的不法行為によって損害が発生し続けるケースとは区別されます。
定期金賠償は、長期にわたる支払いを前提と、被害者が事故後も安定した生活を維持できるように支援する意味合いがあります。一方で、金額が分割されるため、一度に大きな資金は受け取れません。これに対し、交通事故の賠償の多くは一時金賠償の方式で行われ、交渉や裁判によってまとまった金額が受け取れる利点があります。
定期金賠償か一時金賠償かは、まずは当事者間の示談交渉において話し合いで決めますが、合意に至らない場合には裁判所の判断を仰ぐこととなります。「後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めた最高裁判例の解説」で解説の通り、裁判所が「定期金賠償に適する」と判断した場合、定期金賠償を内容とする判決が下るケースもあります。
定期金賠償には、以下のメリットとデメリットがあります。適しているケースと適しないケースがあるため、事案に応じて慎重に検討しなければなりません。
定期金賠償には、次のようなメリットがあります。
一時金賠償では、将来にわたって発生し続ける損害も、不法行為時点で全て予測して損害額を決めなければなりません。しかし、その時点で仮定した余命や将来の収入、社会情勢や物価などに変化が生じたとき、損害の公平な分担にならないおそれがあります。これに対し、定期金賠償なら、損害の実態に合わせて発生するごとに賠償されます。
一方で、定期金賠償には次のようなデメリットがあります。
前述の通り、定期金賠償として定めた金額が実態に合わなくなった場合(例:急速なインフレなど)に、民事訴訟法117条で定められた「確定判決の変更」によって是正を図ることとなります。
定期金賠償となるのは、当事者の合意による場合と裁判所の判決による場合があります。
裁判所が定期金賠償を命じる判決(定期金判決)を下すためには、対象となる損害が、「不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質の」損害(将来損害)であること、および定期金による賠償が相当であることが必要とされています(後述の令和2年最高裁判決)。
相当性の判断では、損害賠償制度の目的である「被害者が被った不利益を填補して不法行為がなかったときの状態に回復させること」および「損害の公平な分担」という理念に適うかが基準とされ、具体的には、次のような事情が考慮されています。

次に、定期金賠償が活用される具体的なケースについて解説します。
交通事故の実務では、将来介護費や後遺障害の逸失利益が典型例です。特に、将来の損害の発生や額が事故時点で正確に予測できないケースでは、一時金賠償よりも適しています。なお、長期間にわたって継続した支払いが行われるため、加害者側の履行が確実に見込まれるケースで採用されることが多いです。
将来介護費は、定期金賠償が活用される損害項目の一つです。
交通事故によって遷延性意識障害(いわゆる植物状態)や重度の高次脳機能障害、頸髄損傷などの重い後遺障害が残った場合、被害者には長期間にわたり介護が必要となります。しかし、この場合も平均余命の正確な予測は難しく、事故時点で将来の介護費を一括して算定すると、実際の介護期間との間に大きな差が生じる可能性があります。
その結果、一時金賠償では、平均余命より長く生存した場合に介護費が不足し、逆に早期に亡くなった場合には過大な賠償となってしまいます。
定期金賠償なら、介護費を月額など一定期間ごとに継続的に支払うため、実際に発生した額に応じた補償が可能です。また、介護保険制度や介護費用の水準、後遺障害の状態など将来の事情に変化が生じた場合、民事訴訟法117条の「確定判決の変更」を求めることで対応できます。
逸失利益とは、交通事故によって労働能力が低下または喪失した結果、本来得られるはずだった将来の収入が失われることによる損害です。後遺障害が生じると、将来的に働くことが困難になったり労働能力が低下したりするため、失われた収入分を補填するのが、逸失利益の役割です。
後遺障害の逸失利益は、長期間にわたって継続的に発生する損害であるため、定期金賠償が適するケースがあります。特に、事故時の被害者の年齢が低い場合、就労可能期間が数十年に及ぶこともあり、将来の賃金水準や昇進・転職などのキャリア、後遺障害の程度がどのように変化するかを事故時点で正確に予測することは困難です。
こうした事情から、最高裁令和2年7月9日判決では、後遺障害逸失利益が定期金賠償の対象となり得ることを明示しました(後述「後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めた最高裁判例の解説」)。
なお、逸失利益の定期金賠償では、事故時点で近い将来の死亡が客観的に予測されていたなどの「特段の事情」がない限り、被害者が就労可能期間の途中で死亡した場合でも、その死亡時点をもって当然に支払いを終了する必要はないとされています(これに対し、被害者の生存を前提とする将来の介護費の定期金賠償は、死亡をもって終了すると考えられます)。
定期金賠償は、将来継続して支払いを行うため、加害者に十分な支払能力が必要となります。そのため、実務では、履行が確実に見込まれるケースで採用される傾向があります。
代表例としては、任意保険会社が支払いを行う交通事故のケースです。保険会社による支払いであれば、会社が倒産するなどの例外的なケースでない限り、支払不能となるリスクは比較的小さく、定期金賠償に適すると考えられます。また、国家賠償請求など、国が賠償義務を負う事案でも、将来にわたる履行の確実性が高いことから、定期金賠償が採用されることがあります。
一方で、加害者が個人で、十分な資力を有していない場合には、将来にわたる支払いが滞るおそれがあるため、定期金賠償は活用しにくい場面も少なくありません。
このように、定期金賠償が認められるかどうかは、損害の性質だけでなく、将来にわたる支払いの確実性も重要な判断要素となります。
最後に、交通事故の後遺障害逸失利益についての定期金賠償を認めた裁判例(最高裁令和2年7月9日判決)について、重要なポイントを解説します。
本件は、交通事故で高次脳機能障害(後遺障害等級第3級3号)を負った当時4歳の被害者が、加害者に対し、民法709条、自賠法3条に基づく損害賠償を請求した事案です。
本件の争点は「後遺障害逸失利益が定期金賠償の対象となるか」という点です。被害者が定期金賠償を求めたのに対し、加害者とその保険会社は「一時金賠償が適当」と主張しました。第一審・控訴審ともに定期金賠償を認める判断を示し、最高裁もこれを支持しました。
最高裁は次のように判示し、後遺障害逸失利益の定期金賠償方式による支払いを命じました。
「交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる」
「交通事故に起因する後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しない」
最高裁令和2年7月9日判決
したがって、交通事故の後遺障害逸失利益の賠償についても、被害者の状況に応じて定期金による支払いが適切とされる場合があることが示されました。
従来、交通事故の損害賠償は一時金賠償が基本とされていました。
重度の後遺障害が残った際の介護費用について終身の定期金賠償を認める裁判例はありましたが、逸失利益は、67歳もしくは平均余命の半分までの一括賠償しか認められていませんでした。
しかし、将来の逸失利益について一括賠償の方式を利用すると、被害者が長く生きた場合に補償が不足してしまう「延命リスク」が生じる可能性が指摘されていました。定期金賠償なら、長く生きた分だけ支給額も増えるため、このリスクを解消することができます。
最高裁が定期金賠償を認めた理由としては、以下の点が挙げられます。
これらの要素を踏まえ、本件では定期金賠償が適切であると判断されました。本判決は、後遺障害逸失利益について定期金賠償を認めた初の最高裁判例として重要な意義を持ちます。しかし、逸失利益が全て定期金賠償の対象となるとは限らず、個別の事案ごとの判断が必要です。特に、後遺障害の程度や態様、逸失利益が発生する期間の長さなどが、考慮要素となるものと考えられます。

今回は、交通事故の賠償方式のうち、定期金賠償について解説しました。
定期金賠償は、特に重度の後遺障害が残る事案など、将来長きにわたって金銭の支払いを受けるケースで、将来の事情変更に伴うリスクを当事者間で公平に分担するために有用な制度です。基本とされる「一時金賠償」だけでなく、「定期金賠償」という選択肢も検討することは、交通事故の被害者にとって適正な賠償を受け、より納得感のある被害回復のために役立ちます。
最高裁令和2年7月9日判決は、後遺障害の逸失利益にも定期金賠償が適用され得ることを明示することで、民事訴訟法117条の「確定判決の変更」による是正と相まって、より柔軟で、実態に即した損害填補の手段を認めた意義があります。
ただし、定期金賠償にはデメリットもあります。交通事故の被害に遭い、重い後遺障害を負ってしまった方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。