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ポイントサービスの導入時の資金決済法の法的規制と、規制回避の方法

Webサービスやアプリを運営するとき、サービス内で利用できる独自のポイントを付与したいというご相談が増えています。ポイントサービスの導入は、現金やクレジットカード等でやりとりする手間を省いてユーザーの利便性を向上させ、ユーザーを囲い込み、サービスの継続利用をうながす効果があります。

しかし、サービス提供者側に大きなメリットがある反面、ユーザーにとってはポイント導入により課金が過熱してしまったり、不要なサービスを購入してしまったりといった被害を受けるおそれがあるため、ポイントサービスにはユーザー保護のための法的規制があります。

サービス提供をする事業者側では、ポイントサービスの法的規制を理解して導入、運営しなければなりません。

ポイントサービスを規制する法律には資金決済法、景品表示法(景表法)がありますが、今回は、資金決済法の観点から「前払式支払手段」にあたるときの法的規制と、規制を回避する対策について解説します。

この解説でわかること
  • ポイントサービスが資金決済法の「前払式支払手段」にあたるおそれあり
  • 資金決済法の「前払式支払手段」にあたると、供託義務を含めた厳しい規制あり
  • 資金決済法の規制を回避するためには、ポイントに6ヶ月以内の期限をつける

なお、ポイントサービスに適用される法的規制について深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ ポイントサービスの運営者が注意すべき法律問題(資金決済法・景品表示法・終了時の注意など)

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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資金決済法の前払式支払手段とは

はてな

Webサービス、アプリ内にポイントサービスを導入するとき、資金決済法の「前払式支払手段」にあたると法的規制の対象となります。そのため、まずは「前払式支払手段」とはどのようなものかを解説します。

「前払式支払手段」について、資金決済法3条1項では次のように定められています。

資金決済法3条1項

この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

資金決済法(e-Gov法令検索)

わかりやすくまとめると、「前払式支払手段」の要件は、次の3つです。

資金決済法の「前払式支払手段」にあたるポイントサービスを導入、運営するとき、様々な法的規制を検討せざるを得ません。まずは、自社で開始するポイントサービスが「前払式支払手段」にあたるかどうかを知るため、3要件についてわかりやすく解説していきます。

なお、資金決済法の前払式支払手段は、さらに「自家型前払式支払手段」と「第三者型前払式支払手段」の2つに分類されます。

「自家型前払式支払手段」は、ポイント発行者のサービス内でのみ使用できるポイントサービスです。例えば自社のWebサービスやアプリでしか利用できないポイントは「自家型」です。「第三者型前払式支払手段」は、発行者以外の第三者に対しても利用できるポイントサービスです。例えばSuicaやPASMOなど幅広く流通するポイントは「第三者型」です。

「第三者型」は、発行前に内閣総理大臣の登録を要するなど、ユーザー保護のため厳しい制約が課されますが、今回は、Webサービスやアプリでよく導入される自家型のポイントサービスの法的規制について解説します。

【要件1】財産的価値が記録されている

1つ目の要件「財産的価値が記録されていること」とは、例えば「1000ポイント」というように一定の数値で財産的価値があらわされるポイントサービスのことです。実際に紙に印刷される場合だけでなく、Webサービスやアプリ内の電磁的記録であらわされているときもこの要件を満たします。

Webサービスやアプリに導入されるポイントサービスは、「ポイント」、「ゴールド」などの独自の単位が設定され、数値によって算出されていますから、この要件を満たすのが通常です。

【要件2】対価を得て発行されている

2つ目の要件「対価を得て発行されていること」とは、ポイントを獲得するために現金やクレジットカードなどでポイントの購入を行っていることをいいます。つまり、有料のポイントであればこの要件を満たします。

これに対して、「おまけ」として対価を払わずに無償でポイントを付与しているときには、そのポイントが現金の代わりに試用できたり、割引の対象となったり、商品や景品があたるとしても、前払式決済手段にはあたりません。そのため、無償で付与されるポイントは資金決済法の法的規制を受けません。

なお、無償のポイントが不当な顧客誘引とならないため、景品表示法の規制を受けるおそれがあります。詳しくは「ポイントサービスと景品表示法の法的規制」についての解説をご覧ください。

【要件3】代価の弁済に使用できる

3つ目の要件「代価の弁済に使用できること」とは、サービス内での支払いが必要となるとき、ポイントを消費することで支払いに代替できることをいいます。

例えば、Webサービス、アプリ内でポイントを利用することによって、本来は現金やクレジットカードでの決済が必要となるアイテム購入、商品購入、サービス内容の拡充といった課金と同等の効果を得られるときには、この要件を満たします。

前払式支払手段となるポイントサービスに対する法的規制

案内する女性

次に、Webサービス、アプリ内で導入するポイントサービスが、資金決済法の「前払式支払手段」にあたるときに守るべき法的規制について解説します。

情報提供義務

資金決済法の前払式支払手段となるポイントサービスを挿入するときは、ポイントの発行時に、資金決済法に定められた次の事項をサイト内に表示する義務が生じます(資金決済法13条)。

  • ポイント発行者の氏名、商号または名称
  • 前払式支払手段の支払可能金額
  • (期間・期限が設けられている場合には)使用期間、使用期限
  • 利用者からの苦情、相談に応じる問い合わせ窓口

この法的規制の趣旨は、資金決済法の前払式支払手段にあたるポイントを発行するときに、一定の情報を利用者に対して開示することによって、責任の所在を明らかにさせ、利用者を保護することにあります。

利用者保護の措置義務

2021年5月1日施行の改正資金決済法により、前払式支払手段について利用者保護のため、前章の情報提供義務に加えて、「前払式支払手段の発行の業務の健全かつ適切な運営を確保するために必要な措置」(資金決済法13条3項)を講じなければならない義務が定められました。

これによりポイント発行者が負う措置義務には、次のものがあります。

  • 未使用残高の譲渡に上限を設定すること
  • 損失補償などの対応

第1に、未使用残高を他人に譲渡することが可能なときには、譲渡できる金額について、1回もしくは1日あたりの合理的な上限額を設定しなければなりません。また、繰り返し譲渡を受けているなど不自然な取引があるときは、これを検知して利用停止などの対応をしたり、取引内容を確認したりする義務があります。

第2に、資金決済法の前払式支払手段の利用者以外の人に損失が発生したときには、その損失補償などの対応方針を周知するなどといったことが必要となります。

供託義務

資金決済法の前払式支払手段となるポイントサービスでは、ポイントの未使用残高が1000万円を超えるとき、未使用残高の2分の1以上の金額を供託する義務が生じます(資金決済法14条)。これを「発行保証金の供託」といいます。

発行保証金の供託義務
発行保証金の供託義務

ポイントの未使用残高とは、ポイントの総発行額から総回収額を引いた額です。供託期限は、未使用残高が1000万円を超えた日から2か月以内とされています。

未使用残高が1000万円を超えるとその2分の1以上の供託義務が生じるため、つまり、少なくとも500万円以上の金額を一度に供託しなければならなくなります。手元のキャッシュに余裕のないベンチャー企業、中小・スタートアップ企業にとっては、ポイントサービスを導入する大きな障壁となりかねません。

発行保証金の供託は、LINEのような有名企業でも行われていなかったことが報道されたように、非常に難しい法律問題です。まして、小規模な事業者にとっては前払式支払手段となることを避けたい第一の理由とされるのがこの供託義務です。

なお、資金決済法上、信託会社などの金融機関と発行保証金信託契約を締結し、財務局長の承認を受けることで、発行保証金信託契約に基づいて信託された財産額について発行保証金の実際の供託を免れることが可能です。

払戻の原則禁止と、サービス終了時の払戻義務

資金決済法の前払式支払手段となるポイントは、払戻しが原則禁止されており(資金決済法20条2項)、ユーザー保護の観点から、以下の要件を満たす払戻だけが例外的に許されています。

  1. 基準期間(4月1日から9月30日まで、10月1日から3月31日までの期間)の払戻金額の総額が、直前の基準期間の発行額の20%を超えないこと
  2. 基準期間の払戻金額の総額が、直前の基準日未使用残高の5%を超えないこと
  3. 保有者のやむを得ない事情により前払式支払手段の利用が著しく困難となったこと

払戻が例外的に許される「やむを得ない事情」の例は、地域限定のポイントサービスを利用していたが、転居により利用が困難となったといったケースがあります。

一方で、前払式支払手段にあたるポイントサービスを、事業者の都合で廃止するときには、払戻が義務付けられています(資金決済法20条1項)。そのため、Webサービスやアプリを終了するときは、未使用のポイントを払い戻す必要があります。この払戻義務は、一度でも未使用残高が1000万円を超えて届出を行ったときは、直近の未使用残高が1000万円を下回っても負います。

加えて、サービス終了の際には、ユーザーがポイントを消費する機会を確保するため、周知期間をしっかり置いてからサービス終了することが望ましく、期限までにポイントを使い切るようユーザーに働きかけておくことが重要です。そして、サービス終了によりポイントが利用できなくなった時点で、遅滞なく廃止の届出を行わなければなりません(資金決済法33条1項1号)。

ポイントサービスの廃止・終了時の注意事項に関する次の解説もご参照ください。

行政への報告義務

資金決済法の前払式支払手段となるポイントサービスでは、ポイントの未使用残高が3月末もしくは9月末時点で1000万円を超えたとき、内閣総理大臣への届出が必要です。

行政への報告
行政への報告

届出の際は、以下の事項について、根拠資料を添付しなければならず、届出事項に変更が生じたときにも同様に届出が必要となります。

  • ポイント発行者の氏名、商号又は名称及び住所
  • 前払式支払手段の支払可能金額
  • (期間・期限が設けられている場合には)使用期間、使用期限
  • (ポイント発行者が法人の場合)資本金又は出資の額
  • ポイント発行業務を行う営業所、事務所の名称及び所在地
  • (ポイント発行者が法人の場合)代表者又は管理人の氏名
  • 基準日における基準日未使用残高
  • 前払式支払手段の種類、名称及び支払可能金額等
  • 前払式支払手段の発行の業務の内容及び方法
  • 利用者からの苦情、相談に応じる問い合わせ窓口

あわせて、行政へ定期的に報告書を提出し、監督を受けなければなりません(資金決済法23条)。報告書に記載する内容は次のとおりです。

  • 基準日を含む基準期間において発行したポイントの発行額
  • ポイントの基準日未使用残高
  • 基準日未使用残高に係る発行保証金の額

以上の報告義務があるのは、ポイント発行者が安定した財産的基盤を有し、健全な経営を行うよう監督し、ポイントを購入したユーザーを保護するためです。

ポイントサービスが資金決済法の法的規制を受けないための対策

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

Webサービス、アプリ内にポイントサービスを導入するとき、資金決済法の前払式支払手段にあたると様々な法的規制を受けることを解説しました。なかでも、供託義務を果たすためには相応の資金力が必要であり、ベンチャー企業、中小・スタートアップなど小規模な事業者であるほど深刻な問題となります。

そのため、サービス提供者となる企業側では、資金決済法の前払式支払手段に該当しないようなサービス設計とすることが重要です。

無償のポイントとする

資金決済法の前払式支払手段にあたるのは、そのポイントが有償の場合であることが要件となっています。そのため、無償で付与されるポイントであれば、資金決済法の法的規制を受けません。

ただし、有償のポイントと無償のポイントの双方を発行しているとき、この2つを区別して管理しなければ、有償のポイントだけでなく、無償のポイントもあわせて資金決済法の法的規制を受けてしまいます(この場合、供託義務について、無償ポイント分もあわせた未使用残高の2分の1以上にあたる金額の供託が必要です)。

つまり、Webサービス、アプリ内で表示するときには、有償のポイントと無償のポイントを分けて表示する必要があります。

なお、無償ポイントはいわゆる「おまけ」ですが、おまけだからといって無条件に許されるわけではなく、ユーザーの判断を不当にゆがめないよう、景品表示法の法的規制を受けるおそれがあります。

有効期限を6ヶ月以内とする

資金決済法では、ユーザー保護の必要性が薄いなどの一定のものについて、次のとおり適用除外を定めています。

資金決済法4条

次に掲げる前払式支払手段については、この章の規定は、適用しない。
一 乗車券、入場券その他これらに準ずるものであって、政令で定めるもの
二 発行の日から政令で定める一定の期間内に限り使用できる前払式支払手段
三 国又は地方公共団体(次号において「国等」という。)が発行する前払式支払手段
四 法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人又は特別の法律により地方公共団体が設立者となって設立された法人であって、その資本金又は出資の額の全部が国等からの出資によるものその他の国等に準ずるものとして政令で定める法人が発行する前払式支払手段
五 専ら発行する者(密接関係者を含む。)の従業員に対して発行される自家型前払式支払手段(専ら当該従業員が使用することとされているものに限る。)その他これに類するものとして政令で定める前払式支払手段
六 割賦販売法(昭和三十六年法律第百五十九号)その他の法律の規定に基づき前受金の保全のための措置が講じられている取引に係る前払式支払手段として政令で定めるもの
七 その利用者のために商行為となる取引においてのみ使用することとされている前払式支払手段

資金決済法(e-Gov法令検索)

Webサービスやアプリに導入するポイントサービスについて、資金決済法の適用を回避しようとするとき、最も重要なのが「発行の日から政令で定める一定の期間内に限り使用できる前払式支払手段」(同条2号)という規定であり、この「一定の期間」とは「6ヶ月」と定められています。

つまり、前払式支払手段の要件を満たすポイントサービスでも、ポイントの有効期限を6ヶ月以内に設定すれば資金決済法の適用を受けません。

サービス提供者側にとってポイントサービスを導入すると多くのメリットがありますが、これらのメリットが、有効期限を6ヶ月に設定しても顧客満足などの効果を期待できるものかどうか、自社のサービスにあわせて検討することが重要です。

有効期限を6ヶ月にしても十分なメリットがあると考えるときは、資金決済法の適用を受けないよう、6ヶ月以内の有効期限を定めたポイントサービスとすることがおすすめです。

まとめ

今回は、Webサービスやアプリ内でポイントサービスを導入したいとき、サービス提供者が注意すべき法律上の問題のうち、資金決済法の法的規制について解説しました。

ベンチャー企業、中小・スタートアップ企業がWebサービスやアプリをローンチするとき、ポイントの導入によりユーザーの囲い込みを図ることがあります。しかし、そのポイントが資金決済法の前払式支払手段にあたるとき、厳しい法的規制を受けてしまいます。

ベンチャーなどには新規性の高いビジネスモデルが多いですが、先行例のないビジネスには法的リスクがつきものです。法的リスクの事前検討なくサービスを開始し、後に違法性が発覚すると、事業継続できず投下資本の回収が困難となるおそれがあります。

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ポイントサービスのよくある質問

ポイントサービスが資金決済法の規制を受けるのはどんなときですか?

ポイントサービスが対価を得て有償で発行されるとき、資金決済法の「前払式支払手段」にあたり、法的規制を受けるおそれがあります。もっと詳しく知りたい方は「資金決済法の前払式支払手段とは」をご覧ください。

ポイントサービスが前払式支払手段になるとき、どのような義務がありますか?

ポイントサービスが、資金決済法の「前払式支払手段」となると、利用者保護のため発行保証金を供託する義務を負います。もっと詳しく知りたい方は「前払式支払手段となるポイントサービスに対する法的規制」をご覧ください。

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