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ポイントサービスの廃止・終了時の法的規制と、ポイントの有効期限

ポイントサービスを導入し、購買意欲の促進、ユーザー囲い込みなどの効果を狙ったが、期待したほど効果が出なかったり、一時的なプレゼントキャンペーンの目標を達成し終えたりといったとき、ポイントサービスを廃止・終了することがあります。

ポイントを利用できるWebサービスやアプリ自体を、採算の悪化や新規サービスの予定などで終了することがありますが、この場合も、そのサービス内でのみ利用できるポイントサービスであれば廃止、終了せざるをえません。ポイントを有効期限つきとするサービス設計もあり得ます。

いずれの場合も、サービスの廃止・終了やポイントの有効期限は、サービスを提供する事業者側の都合です。そのため、廃止・終了によってユーザーに不利益を与えると、法律トラブルとなったり、炎上して企業の信用を損なったりするおそれがあります。

今回は、ポイントに有効期限をつけるときの注意点と、ポイントサービスを廃止・終了するときの法律問題を解説します。

この解説でわかること
  • ポイントの有効期限は原則自由だが、消費者保護のための規制あり
  • ポイントの有効期限を6ヶ月以内にすると、資金決済法の規制を回避できる
  • ポイントサービスを廃止・終了するときユーザーに不利益を与えないよう注意

なお、ポイントサービスに関する法律問題について深く知りたい方は、次のまとめ解説をご覧ください。

まとめ ポイントサービスの運営者が注意すべき法律問題(資金決済法・景品表示法・終了時の注意など)

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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ポイントの有効期限、廃止・終了のサービス設計

はじめに、ポイントの有効期限、廃止・終了についてどのようなサービス設計にすべきかについて、法的な側面から解説します。

契約自由の原則

まず、ポイントサービスの有効期限や廃止・終了について、決まったルールを定める法律はありません。

そのため「ポイントサービスの有効期限をどの程度の期間とするか」、「サービス自体を廃止・終了するかどうか」といった点は、そのサービスを提供する事業者側が自由に定めることができます。つまり、ポイントの有効期限を何か月にしても法的な問題はありませんし、ポイントサービスをやめることも自由です。もちろん、ポイントの有効期限をつけない(無期限)ことも可能です。

これは、ポイントサービスを定める契約書や利用規約は、ユーザーと事業者間の契約内容を定めているところ、「契約自由の原則」があるため、「誰と、どのような内容の契約を締結するのか」を自由に決めることができるからです。

消費者契約法による法的規制

しかし、「契約の自由」が例外的に制限されるケースがあります。それは、「ユーザーを不当に害してはならない」というユーザー保護の観点からの法的規制です。

契約自由の原則と例外
契約自由の原則と例外

あまりに短い有効期限や、突然のサービス終了・廃止によって、顧客のポイント利用を不当に阻害してしまうと、消費者契約法によって無効とされるおそれがあります。

このような事業者側の経済的メリットしか考慮せず、一方的な都合でユーザーに不利益を与えるようなサービスから、消費者を保護する必要があるからです。

消費者契約法10条は、次のとおり、消費者の利益を一方的に害する契約内容は無効となることを定めています。

消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者契約法(e-Gov法令検索)

また、利用規約で「サービス内容や有効期限は、事業者側が変更することできる」と定めることが多いですが、事前にユーザーに予告なくポイントサービスを廃止したり、ポイントを失効させてしまったりすることもまた、ユーザーの不利益が大きすぎ、無効となるおそれがあります。

ポイントに有効期限をつける時の注意点

ポイント

ポイントの有効期限について法的な規制はありません。「有効期限を何か月とするか」、「期限をつけるか、無期限とするか」は、契約自由の原則のもと、サービス提供者が自由に決められると解説しました。

しかし、ユーザー側が過大な不利益を負わないよう消費者契約法違反となるリスクがあるため、あまりにも非常識であったり不当であったりする有効期限の定めをしないよう、事業者側の企業努力が必要です。

そこで次に、ポイントに有効期限をつける場合に、サービス提供をする事業者側が注意しておくべきポイントについて弁護士が解説します。

有効期限を短くしすぎない

注意点の1つ目は、ポイントの有効期限を短くしすぎないことです。

Webサービスやアプリ内の自社独自のポイントについて、サービスの利用実態に比して短すぎる有効期限を設定すると、実際にはユーザーに「ポイントは利用するな」と言っているのと同じことです。そのため、少なくとも、平均的なユーザーが次に利用するときポイントを使えないほど有効期限を短くするのは避けなければなりません。

短すぎる有効期限をつけると、消費者契約法違反で無効となるリスクがありますし、法違反とならなかったとしても「悪質なポイントサービスを運営する企業だ」というイメージがついて炎上し、企業の信用低下を招くおそれがあります。

なお、「どの程度の有効期限がちょうどよいか」について、一律の相場はなく、サービスの内容やユーザーのポイント利用の状況、利用の頻度などを比較してケースバイケースで検討する必要があります。

資金決済法の法的規制を回避できる(有効期限を6か月以内とする方法)

注意点の2つ目は、ポイントの有効期限によって資金決済法上の法的規制を回避できることです。

具体的には、有効期限を6か月以内とすると、資金決済法の前払式支払手段にあたるポイントサービスでも、資金決済法の適用除外となります。

資金決済法の法的規制を受けると、ポイント発行者の財政的基盤を確実なものとするため、未使用残高の2分の1以上を供託する義務が生じ、事業者の財源を大きく圧迫します(供託義務は、ポイントの未使用残高が1000万円を超えると発生するため、結果として500万円以上の供託を行うことが必要)。

発行保証金の供託義務
発行保証金の供託義務

そのため、資金決済法の法的規制を回避するために、有効期限を6ヶ月以内におさえても、ユーザー囲い込みなどポイントサービスを導入するメリットがあるかどうかを検討する必要があります。

有効期限内に利用するようユーザーに伝える

注意点の3つ目は、有効期限内にポイントを利用するようユーザーに注意喚起することです。

ポイントに有効期限をつける場合は、その有効期限がユーザーにわかりやすいように、すぐに見ることのできるところに明記しなければなりません。また、ユーザーがわかりやすい簡潔な説明書きを心掛けてください。

そして、有効期限内にポイントを利用するよう、ユーザーに伝えるようにしてください。有効期限の1か月前など、余裕をもって事前告知することがおすすめです。

有効期限があることを知らせないまま、「気付いたらポイントが使えなくなっていた」というのでは、不当なユーザーいじめを行う悪質な企業だと批判されてしまっても仕方ありません。有料のポイントであるのにユーザーへのサービス提供を不当に怠ると、課金分の損害賠償請求を受けてしまうおそれもあります。

ポイントサービスを廃止・終了するときの注意点

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

ポイントサービスの廃止・終了についても法的な制限はなく、サービス提供を行う事業者側の判断で、自由に決められます。

Webサービスやアプリをリリースしたが、採算性が悪かったり、新規サービスに移行したりといった理由により、サービス自体を終了する場合があります。特に、スタートアップ企業、中小・ベンチャー企業では、新規性の高いサービスを実験的に提供し、期待した成果が出ない場合にはピボットする、ということはよくあります。

一方で、ユーザーを軽視して、事業者の判断で勝手にサービスを終了すると、ユーザーから訴えられて法的紛争に発展するリスクがあります。

開始当初からサービス終了を見据えた設計する

注意点の1つ目は、開始当初からサービス終了を見据えたサービス設計をすることです。

開始当初から、終了することを考えるのは、失敗を予想するようで気が進まないかもしれません。しかし、採算が合わない、売上があがらないといった消極的な理由でのサービス終了はもちろんですが、新規サービスへの移行など積極的な理由で終了することもよくあります。

そのため、Webサービスやアプリをリリースし、その中で利用できるポイントサービスを開始するときには、開始当初から、終了することを見据え、その際にも顧客が不利益を被らないよう「ユーザーファースト」なサービス設計をする必要があります。

具体的には、Webサービスやアプリの利用規約には、「事業者の判断により、サービスを終了することがあります」という記載が多いです。その際にはあわせて、

  • 終了時の予告期間
  • 解約告知の方法
  • 終了時のポイントの払戻方法

といったルールを定めておくことが有効です。

資金決済法の払戻義務

注意点の2つ目は、資金決済法の払戻義務を遵守することです。

ポイントサービスが、資金決済法の前払式支払手段となるとき、サービス継続中は原則として払戻をしてはならず、かつ、サービス終了時には未使用残高について払戻をしなければなりません。無償のポイント、有効期間が6か月以内のポイントは資金決済法の適用を受けないため、この払戻義務は有料のポイントの場合に知っておくべき注意点です。

予告期間を設けて解約告知をする

注意点の3つ目は、予告期間を設けて解約告知をすることです。

Webサービスやアプリサービスは継続して利用することが予定されている「継続的契約」のため、事業者側の都合で終了させるためには、相当の予告期間を設けて事前に解約告知を行うことが重要です。

特に配慮が必要なのは、有償のポイントを発行するケースです。有償のポイントを購入すると、無償のポイントをプレゼントしてもらっているのとは違い、当然に商品やサービスの購入に利用することを予定しているはずです。

そのため、有償ポイントを発行したにもかかわらず、ユーザーにとって不利な時期にサービスを終了してしまうと、ユーザーから課金額について返金請求、損害賠償請求を起こされるおそれもあり、慎重な判断が必要です。

まとめ

今回は、Webサービスやアプリ内で利用できる自社ポイントサービスを正しく運用するにあたって理解しておきたい、有効期限のつけ方と、終了・廃止時の注意点について、弁護士が解説しました。

ポイントサービスを導入することは、顧客離れの防止、囲い込みなどの販促効果を生む、有用な方法です。「契約自由の原則」がはたらきますから、事業目的を達成できるよう有効なサービス設計のために知恵を絞り、企業努力をすることはとてもよいことです。

しかし、事業者側のメリットを優先するあまり、ユーザーに対しての不利益の大きい有効期限の設定や、事業者の一方的都合によるサービス終了、廃止をすることは、結果的に大きな法的リスクとなります。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務を得意として扱い、ウェブサービス、IT企業の顧問先を多くサポートしています。

ポイントサービスの開始、運用はもちろん、企業法務についてお悩みの会社は、ぜひ一度当事務所へ法律相談をご依頼ください。

ポイントサービスのよくある質問

ポイントの有効期限をどのように定めたらよいですか?

ポイントの有効期限は、原則として自由ですが、消費者保護のためユーザーの不利益が大きすぎると無効となるおそれがあります。もっと詳しく知りたい方は「ポイントに有効期限をつけるときの注意点」をご覧ください。

ポイントサービスを廃止・終了するとき注意する点はありますか?

ポイントサービスを廃止・終了することは事業者の自由ですが、ユーザーを害しすぎないよう、事前に告知し、払戻しするなどの対応が必要です。誠実に対応しないと、課金分の損害賠償請求を受けるおそれもあります。詳しく知りたい方は「ポイントサービスを廃止・終了するときの注意点」をご覧ください。

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