就職活動を経てようやく「内定」を手にしても、突然取り消されてしまうことがあります。
内定取り消しは、企業が一方的に行うことができるわけではなく、違法となるケースもあります。内定を得ると、他社の選考を辞退したり研修を受けたりしなければならず、突然取り消されると人生設計が狂ってしまいます。特に、新卒の場合、人生で一度しかない新卒入社の機会を、企業の不当な判断で奪われる事態は深刻です。
正当な理由のない内定取り消しは違法であり、撤回を求める地位確認請求と共に、企業に対して慰謝料を請求することができます。
今回は、内定取り消しに対する損害賠償請求と慰謝料の相場、増額するためのポイントについて、弁護士が解説します。
- 正当な理由のない内定取り消しは、解雇権濫用法理によって違法、無効となる
- 内定取り消しが悪質で「不法行為」に該当するとき、損害賠償請求が可能
- 内定取り消しの慰謝料の相場は50万円〜100万円が目安となる
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内定取り消しの損害賠償請求とは

まず、内定取り消しに対する損害賠償が、どのような場合に請求可能かについて解説します。
企業の都合だけで一方的に内定を取り消した場合、違法とされる可能性が高く、慰謝料その他の損害の賠償を請求することができます。
内定取り消しとは
企業が「内定通知」を出すと、形式的には入社前でも、法的には「始期付解約権留保付労働契約」が成立しているとみなされます。これは、就労開始日(通常は入社日)を始期とし、特定の条件(例えば卒業できなかったなど)による解約権を企業側が留保している労働契約という意味です。
しかし、会社から内定取り消しをされたり、労働者から内定辞退があったりして、結果的に内定先で就労しないケースもあります。このうち、内定取り消しは「既に締結した労働契約の解約」を意味する点で「解雇」の性質があるので、労働者保護のための一定の制約を受けます。
企業が内定を取り消す理由には、例えば以下のものがあります。
- 経営悪化
会社の経営状況が悪化したことを理由に内定を取り消すケース。ただし、企業の経営判断や人件費カットの必要性があるといって程度では足りず、整理解雇と同じく、合理性と相当性が求められます。 - 健康状態の悪化
健康診断の結果などを理由に、就労できる健康状態にないとして取り消すケース。ただし、業務遂行に支障を及ぼすほど重大な内容である必要があります。 - 経歴詐称
履歴書の虚偽記載など、重大な経歴詐称は、内定取り消しの理由となります。ただし、採用に影響するほど重大な虚偽である必要があります。 - 企業側の都合
採用計画の変更やプロジェクトの見直しなど、企業側の都合で取り消されることがありますが、特に違法と評価されやすいです。
会社から一方的に内定取り消しをされ、違法ではないかと疑われるとき、内定取り消しの撤回を求めたり慰謝料を請求したりといった方法で、会社の責任を追及すべきです。
「不当解雇」の解説

違法な内定取り消しに対して損害賠償請求が可能
採用内定の取り消しは、実質的に「解雇」の性質があると解説しました。そのため、解雇権濫用法理のルールに準じ、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用として違法、無効となります(労働契約法16条)。

したがって、内定取り消しの理由や経緯、事情を考慮して、違法となる可能性があります。そして、内定取り消しが、民法の不法行為(民法709条)に該当する場合には、これによって被った精神的苦痛について慰謝料を請求することができます。
例えば、業績不振を理由に内定を取り消したのに、実際は採用活動を継続しており、説明が嘘であったケース、入社前の健康診断で異常が発見されたことを理由に内定取り消しをしたが、実際に社長の好き嫌いで決めていたケースなどでは、悪質さの度合いに応じて慰謝料請求を検討できます。
内定取り消しの慰謝料の金額

次に、内定取り消しの慰謝料の相場と、金額が増額される事情を解説します。
内定取り消しが不法行為(民法709条)に該当し、慰謝料請求できるとき、その請求額は、違法性の程度や悪質さ、労働者の負った損害の程度などによって増減します。
慰謝料の相場
違法な内定取り消しの慰謝料の相場は、50万円〜100万円程度が目安です。
内定取り消しの慰謝料を認めた大日本印刷事件(最高裁昭和54年7月20日判決)では、内定者が「グルーミーな印象だ」という理由で内定取り消しされた事案で、新卒であり、他社にすぐ就職することが難しいといった事情を考慮して、100万円の慰謝料が認められました。
一方で、転職活動において、既に前職を辞めており、内定取り消しによって当面の間仕事がなくなるといった不利益の大きいケースでは、より高額の慰謝料を認めた事例があります。
- プロトコーポレーション事件(東京地裁平成15年6月30日判決)
内定取り消しにより7ヶ月半の間失業状態となってしまったことにより、前職の賃金を参考に165万円の慰謝料が認められました。 - インターネット総合研究所事件(東京地裁平成20年6月27日判決)
内定取り消し後、前職の退職を撤回して復職できたものの、経歴に傷が付きその回復には相当の年月を要するといった理由で、300万円の慰謝料が認められました。
慰謝料を増額する事情
慰謝料の金額は、内定取り消しの違法性が強く、労働者に与えた精神的苦痛が深刻なほど高額になる傾向があります。以下の事情があると、慰謝料の増額が認められる可能性が高まります。
- 内定取り消しが企業側の一方的な都合によるものだった。
- 事前に説明がなく、誠意ある対応がなかった。
- 内定を信頼して他社の選考を辞退していた。
- 内定取り消し後、長期間再就職できなかった。
- 違法な選考手段(圧迫面接・セクハラなど)があった。
特に、新卒採用での内定取り消しや、就職活動の機会を大きく損なうため、被害は深刻です。新卒は人生で一度きりのチャンスなので、その機会を失った損害は、第二新卒や中途採用の就活では取り戻せず、その分が慰謝料額に反映されます。
なお、慰謝料は内定取り消しによって負った精神的苦痛に対するものですが、取り消しによって生じた交通費や引越し費用などの実損についても、別途損害賠償請求が可能です。
内定取り消しの慰謝料を増額するためのポイント

最後に、内定取り消しの慰謝料を増額する方法と、ポイントについて解説します。
会社の一方的な都合で内定取り消しに遭い、納得のいかないとき、少しでも多くの慰謝料を受けとりたいと考えるでしょう。一人で戦うのが難しいときは、ぜひ弁護士に相談してください。
内定取り消しの撤回を求める
内定取り消しを受けたら、すぐに撤回を求め、働く意思があることを明示しましょう。内定取り消しを撤回し、社員として入社できるよう求めることを、法律用語で「地位確認請求」と言います。内定取り消しが撤回され、社員の地位を確認できれば、入社以降の賃金を請求できます。
明示的な内定取り消しだけでなく、退職強要と同じく、労働者側から自主的に内定を辞退するようプレッシャーをかけてくる例もありますが、圧力に屈せず拒否することが重要です。
証拠を収集する
違法な内定取り消しを受けても、証拠が手元になければ慰謝料を請求することはできません。そのため、できる限り高額の慰謝料を請求するために、証拠収集の準備は欠かせません。
内定取り消しの証拠で最も重要なのが、「内定通知書」「内定取り消し通知書」の2つです。内定取り消しの理由を知り、その違法性を追及する必要があるからです。内定が成立していることを証明するために、内定通知書以外に、内定を示すメールやメモなども保存しておきましょう。
内定取り消しの理由を会社が明らかにしないときは、書面で理由を開示するよう強く求めてください。内定取り消しは「解雇」の性質があるため、労働者の求めに応じて理由を書面で明らかにする義務があります(労働基準法22条)。
あわせて、内定取り消しによって負った損害の大きさを立証するため、うつ病や適応障害にり患したことを示す意思の診断書、他社の選考を辞退した際の内定辞退の書面やメール、他社の選考状況をまとめたメモなども重要な証拠となります。
内定取り消しの解決金を求める
内定取り消しは、「不当解雇」の紛争と同じく、争った結果、解決金(和解金)を受け取ることで金銭解決となるケースもあります。慰謝料が得られない、もしくは少額に留まり納得いかないときは、あわせて解決金が払われるよう交渉するのも有効な方法です。
解決金による解決とは、不当な内定取り消しをされてしまった会社には入社したくないが、今後の補償を得たいと考えるときに最適な方針で、内定取り消しの撤回を求めない代わりに一定の金銭を解決金として払ってもらう方法です。
内定取り消しの解決金の相場は、入社後の賃金の3ヶ月分〜6ヶ月分程度が目安ですが、不当解雇の解決金と比べると、まだ働いておらず会社に長年貢献していたわけでもない点で、低額となる傾向にあるのが実務です。とはいえ、内定取り消しが無効となれば入社して働き続けられるわけで、その後当面は賃金を受け取れるわけなので、会社からの低額な解決金の提案に応じてあきらめなければならないわけではありません。
弁護士に相談する
内定取り消しの慰謝料請求について、弁護士に依頼メリットは多くあります。
まず、内定取り消しの違法性の有無、慰謝料請求の可否などを、法的に判断してもらうことができます。内定取り消しが違法だとしても、慰謝料請求のためには不法行為(民法709条)に該当するほどの悪質さが必要となり、その証拠を準備しておかなければなりません。
また、企業が慰謝料の支払いを拒否した場合、労働審判や訴訟といった裁判手続きに進むことになりますが、この際には法律知識と、過去の裁判例に基づいた対応が必要となります。労働問題の経験が豊富な弁護士なら、法的手続きの経験を踏まえて進めることができ、精神的な負担を軽減できます。企業とも対等に交渉でき、納得のいく解決に繋がりやすくなります。
「内定取り消しが違法ではないか」と疑問のある場合、早めに法律相談することをお勧めします。
まとめ

今回は、違法な内定取り消しに対する損害賠償請求について解説しました。
内定取り消しは「解雇」の性質を有するので、労働者保護のための制限を受けます。悪質な内定取り消しは、権利濫用として無効になるほか、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。
内定取り消しを争う際は、「内定通知書」「内定取り消し通知書」などの証拠を入手して取り消しの理由を明らかにして、弁護士に速やかに相談することが大切です。会社と交渉しても撤回されない場合は、労働審判や訴訟などの裁判手続きで争うべきです。内定取り消しするような会社で今後活躍することは希望しない人が多いですが、慰謝料を請求することで被害回復を図るべきです。
人生で一度しかない新卒採用の機会を台無しにされるケースは特に被害が深刻です。不誠実な対応をする会社の責任を追及し、今後の補償を勝ち取る必要があります。
- 正当な理由のない内定取り消しは、解雇権濫用法理によって違法、無効となる
- 内定取り消しが悪質で「不法行為」に該当するとき、損害賠償請求が可能
- 内定取り消しの慰謝料の相場は50万円〜100万円が目安となる
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