交通事故

自賠責保険の支払基準の改正を弁護士が解説!【2020年4月1日施行】

2021年4月6日

交通事故の被害者が請求できる保険金には、任意保険、自賠責保険の2種類があります。そのうち、被害者保護の観点から法律で加入が義務付けられるている保険が「自賠責保険」です。

この自賠責保険へ被害者請求をすると、支払基準に基づく保険金を得ることができるのですが、その支払基準が改正され増額されることとなりました。自賠責保険の新しい支払基準は、2020年(令和2年)4月1日以降に発生した交通事故から適用されます。

自賠責保険は、任意保険に加入していない加害者からの交通事故被害に遭ってしまった場合に、最低限の補償としてとても重要です。

そこで今回は、2020年(令和2年)4月1日以降に発生した交通事故に適用される、自賠責保険の新しい支払基準がどのようなものか、また、どのような点が変更・増額されたのかについて、弁護士が解説します。

「交通事故」弁護士解説まとめ

自賠責保険とは

自賠責保険とは、交通事故に関する損害保険のうち、「自動車損害賠償保障法(自賠法)」によって加入が義務付けられた、被害者救済のための最低限度となる保険のことです。

車を運転する人の中には、資力の問題などから任意保険に加入していない人もいますが、法律で加入が義務付けられた自賠責保険には必ず加入することとなります。そして、交通事故の被害者は、加害者の加入する自賠責保険から、その人的損害(人損)について、死亡、傷害や後遺症の程度に応じて、治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料などの支払を受けることができます。

自賠責保険の支払基準とは

自賠責保険から支払われる保険金は、自賠法16条の3により、金融庁・国土交通省の告示である支払基準によって定められることとなっています。

支払基準が変更された理由

令和元年12月12日金融庁告示・国土交通省告示第3号によって、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」が改正されることとなりました。

なお、新しい自賠責保険の支払基準は、2020年(令和2年)4月1日以降に発生した交通事故に適用されます。交通事故の発生日を基準としますので、損害賠償請求が施行日以降であったとしても、2020年(令和2年)3月31日以前に発生した交通事故に対しては、改正前の支払基準が適用されることとなります。

自賠責保険の支払基準が変更された理由は、主に次の2点です。

① 民法改正(2020年4月1日施行)により法定利息が5%から3%に変更された

自賠責保険の支払基準が変更された1つ目の理由は、民法改正(2020年4月1日施行)により法定利息が変更されたことです。

交通事故における後遺障害の逸失利益などの計算をするときには、将来の収入を現在価値に評価しなおす必要があるため、「中間利息の控除」という処理が行われます。この際に用いられるのが「ライプニッツ係数」です。

つまり、交通事故によって負った後遺症により、将来の稼働能力が減ってしまった場合、これによって収入が減ってしまった分について逸失利益を請求することができるわけですが、将来得られたであろう収入を現在において請求できることから、利息を考慮した一定の減額を受けることになるというわけです。

2020年(令和2年)4月1日に施行された民法改正によって法定利息が従来の5%から3%に変更されたため、これに伴って、ライプニッツ係数も変更されることとなりました。

② 平均余命、物価・賃金水準、保険金の支払実態の変化を反映させる必要がある

自賠責保険の支払基準が変更された2つ目の理由は、平均余命、物価・賃金水準、保険金の支払実態の変化を、支払基準に反映させる必要があることです。

自賠責保険の支払基準は、経済情勢の変化にあわせて定期的に見直されており、過去にも改正がなされています。しかし、この度の改正以前に直近で変更されたのが、2010年4月1日施行のものであり、既に10年間の月日が経過しています。

このような期間の経過により、従来の支払基準が実態にそぐわないものとなったため、修正が必要となったということです。

自賠責保険の支払基準の変更点【2020年4月1日施行】

2020年(令和2年)4月1日以降に発生した交通事故に適用される、自賠責保険の新しい支払基準について、従来のものとの変更点は次の通りです。

傷害による損害の保険金額の増額

傷害による損害とは、交通事故によってケガをしてしまったときに損害賠償請求をすべき、積極損害(治療関係費、文書料、その他の費用)、休業損害、慰謝料のことをいいます。自賠責保険の新しい支払基準では、この障害による損害の保険金額が増額されています。

これは、改正前直近10年間の平均余命、経済情勢などを反映したためです。

傷害による損害の保険金額について、従来の支払基準と、改正後の支払基準との違いは、次の通りです。

従来の支払基準改正後の支払基準
入通院慰謝料4200円/日4300円/日
休業損害5700円/日6100円/日
入院中の看護料4100円/日4200円/日
自宅看護料・通院看護料2050円/日2100円/日

治療費については治療に要した必要かつ妥当な実費、通院交通費については通院に要した必要かつ妥当な実費が支払われることとなっており、これについては変更されていません。

また、損害保険において保険者が支払うべき最高限度額のことを「保険金額」といいますが、傷害による損害の場合の保険金額は、被害者1名あたり120万円を上限としており、この点も変更されていません。

死亡慰謝料の増額

死亡慰謝料とは、交通事故により死亡したことによる精神的苦痛についての、被害者本人の慰謝料のことです。死亡慰謝料の請求権は相続人に相続されるため、実際には相続人が請求することとなります。

死亡慰謝料について、従来の支払基準と、改正後の支払基準との違いは、次の通りです。

従来の支払基準改正後の支払基準
被害者本人の死亡慰謝料350万円400万円
葬儀費用60万円100万円

なお、死亡による損害についても、傷害による損害と同様、保険金額の上限が設定されていますが、これについては被害者1名あたり3000万円であり、従来の支払基準から変更はありません。この金額は、逸失利益、被害者及び遺族の慰謝料など全てを合計した、死亡による損害額全体の限度額です。

後遺障害慰謝料の増額

後遺障害慰謝料とは、交通事故によって後遺症が残った場合に、残存した症状に応じて請求することができる慰謝料のことです。後遺症の程度に応じて、1級から14級までの等級の認定を受け、認定を受けた等級に応じて定められた慰謝料額を受け取ることができます。

今回の改正では、後遺障害慰謝料のうち1級から12級までの金額が増額されました。

なお、後遺障害慰謝料、逸失利益を合計した金額には、限度額が定められていますが、これについては、従来の支払基準から変更はないため、実際には逸失利益相当分が減少することを意味しています。

<別表Ⅰ>

後遺障害等級従来の支払基準改正後の支払基準限度額(変更なし)
第1級1600万円
(1800万円)
1650万円
(1850万円)
4000万円
第2級1163万円
(1333万円)
1203万円
(1373万円)
3000万円

<別表Ⅱ>

後遺障害等級従来の支払基準改正後の支払基準限度額(変更なし)
第1級1100万円
(1300万円)
1150万円
(1350万円)
3000万円
第2級958万円
(1128万円)
998万円
(1168万円)
2590万円
第3級829万円
(973万円)
861万円
(1105万円)
2219万円
第4級712万円737万円1889万円
第5級599万円618万円1574万円
第6級498万円512万円1296万円
第7級409万円419万円1051万円
第8級324万円331万円819万円
第9級245万円249万円616万円
第10級187万円190万円461万円
第11級135万円136万円331万円
第12級93万円94万円224万円
第13級57万円57万円139万円
第14級32万円32万円75万円

※()内は、被扶養者が存在する場合の金額です。

※後遺障害等級表には、別表Ⅰと別表Ⅱがあります。別表Ⅰは後遺障害によって日常的な介護を要する場合、別表Ⅱは日常的な介護までは不要な場合に適用されます。

ライプニッツ係数の変更

2020年4月1日、改正された新しい民法が施行されました。新しい民法では、法定利息の利率が、これまでの「5%」から「3%」に引き下げとなっています。この改正は、法定利息の利率が、市場金利と大きく乖離しているため、実態に合わせる趣旨のものです。

この法定利息の引き下げは、交通事故ケースについても大きな影響をもたらします。それが、中間利息控除の際に用いられる「ライプニッツ係数」の変更です。

変更後のライプニッツ係数は、次のとおりです。

期間(年)法定利息5%の場合法定利息3%の場合
10.9520.971
21.8591.913
32.7232.829
43.5463.717
54.3294.580
65.0765.417
75.7866.230
86.4637.020
97.1087.786
107.7228.530

中間利息控除とは、後遺障害逸失利益、死亡逸失利益といった、「将来得られるはずの収入」を加害者に請求するにあたって、将来価値を現在の価値に評価しなおす作業のことをいいます。その計算式は、次のように定められています。

  • 後遺障害逸失利益
    =基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
  • 死亡逸失利益
    =基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

上記の表と計算式からもわかるとおり、ライプニッツ係数は、法定利息の引き下げに伴って上昇することとなるため、逸失利益を請求する側の被害者側からして、この度の改正は若干有利にはたらく(もらえる金額が増額される)ことを意味しています。

交通事故事案に即した「就労可能年数とライプニッツ係数表」、「平均余命年数とライプニッツ係数表」については次の通りです。

なお、新しい民法の中には、消滅時効や遅延損害金など、他にも交通事故ケースに影響を与える改正がなされているため、注意が必要です。

平均給与額の変更

休業損害等の計算に用いられる平均給与額の表も、賃金の支払実態といった社会状況の変化にあわせて変更がなされました。

従来の平均給与額は、平成12年賃金センサスに基づいて作成されていましたが、改正後の新しい平均給与額は平成30年賃金構造基本統計調査に基づいて作成されています。

必ずしも、全ての性別・年齢で増額されているわけではなく、減額されている項目もあります。新しい平均給与額の表は、次の通りです。

より高額の損害賠償請求をするための注意点

自賠責保険は、あくまでも、交通事故の被害者の最低限度の補償を確保する趣旨の保険です。自賠責保険は、基本的な補償を行うために、政令で定められた一定の保険金を、限度額の範囲内で支払うに過ぎません。

その支払基準はこの度の改正で、社会情勢に合わせた一定の増額がなされたものの、やはり自賠責保険だけでは、交通事故被害者の救済は十分とはいえません。

自賠責保険は、人損のみを対象としており、物損に関する支払はなされません。また、最低限度の補償を確保するために設定された限度額を「自賠責基準」と呼ぶことがありますが、これは、任意保険の支払基準である「任意保険基準」や、弁護士をつけて交渉をしたり裁判所で争ったりした場合に支払を受けることができる「弁護士基準(裁判基準)」には遠く及びません。

自賠責保険だけでは十分にカバーされない自動車事故の損害については、加害者の加入する任意保険に請求することとなります。任意保険会社が、被害者の損害を全て認めてくれなかったり、そもそも事故態様について被害者と加害者とで争いがあったりする場合、被害者側が考えていた損害額が得られないおそれもあります。

また、加害者が任意保険に加入している場合、自賠責保険の対応も「一括請求」といって損保会社に委ねることがあります。一括請求の場合には、任意保険会社が自賠責保険の分の支払も立て替えて被害者に支払うこととなります。

そのため、任意保険会社から満足のいく損害賠償額を獲得するためには、交渉や、場合によっては訴訟が必要となります。

この場合に、少しでも迅速に、より多くの損害賠償額、慰謝料額を獲得するためには、交通事故事案を得意とする弁護士に依頼することが有益です。弁護士は、裁判になったら得られるであろう損害賠償額、慰謝料額の基準をもとに、任意保険会社と交渉をすることができ、訴訟になった場合にも安心して任せることができます。

「交通事故」は浅野総合法律事務所にお任せください!

今回は、2020年(令和2年)4月1日に施行された、自賠責保険の支払基準の改正について、弁護士が解説しました。

新しい支払基準は、2020年(令和2年)4月1日以降に発生した事故に適用され、社会状況、経済情勢の変更等を反映して、従来の支払基準より増額傾向にあります。

一方で、不幸にも交通事故の被害に遭ってしまったとき、十分な賠償を得るためには、自賠責保険の基準を知るだけでなく、任意保険会社との交渉を有利にすすめ、慰謝料額、逸失利益額の増額を勝ち取る必要があります。

お一人で解決できない交通事故問題にお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所の弁護士へ法律相談をしてみてください。

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