企業法務

eスポーツ選手契約の法的性質と、契約時の注意点

2021年4月20日

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eスポーツをプレイし、大会に参加して賞金を得たり、スポンサーからの出資を受けたり、広告・プロモーション活動の依頼を受けたりする人のことを、eスポーツ選手といいます。

eスポーツ自体が新しい事業分野であるためプロとアマの境界は曖昧になっていますが、eスポーツから得られた収入だけで生活をすることができる人をプロeスポーツ選手と呼びます。プロ選手は、ゲームメーカー会社から広告収入を得たり、プロチームに所属したりしますが、その際には契約が必要となります。

eスポーツビジネス自体が新規性の高い事業分野であり、契約関係がきちんと整備されていないことが多い反面、特に、タレント性を有する有名選手の場合、権利関係に十分な配慮が必要となることが多くあります。

そこで今回は、プロeスポーツ選手と、これに出資するゲームメーカーやプロチームなどとの間で締結される契約について、法律面からの注意点を弁護士が解説します。

浅野総合法律事務所のアドバイス

eスポーツは近年盛り上がりを見せる新しい事業分野です。

新しい事業分野であるがゆえに、法整備が必ずしも十分とはいえず、他の類似の法律問題などから類推し、法的リスクを検討していかなければなりません。また、既存の法規制に違反するおそれがないかどうかの検討も必須となります。

「eスポーツと法律」弁護士解説まとめ

eスポーツ選手契約の法的性質

契約により、ある人に一定の業務を依頼する場合に、考えられる契約の法的性質には「雇用契約」と「委任契約(準委任契約)・請負契約」があります。

雇用契約の場合には、労働者は使用者の指揮命令に従って、賃金の対価として労務を提供することとなります。労働者のほうが使用者よりも弱い立場にあるものと考えられ、不当解雇の規制など、労働者保護のための法制度が適用されます。

これに対して、委任契約(準委任契約)・請負契約の場合には、使用者の細かい指示ではなく、自分の判断で行動して契約の目的を達成することとなり、契約当事者は対等の関係です。

プロeスポーツ選手の場合、業務について逐一の指揮命令を受けるのではなく、プロフェッショナルとしてその能力を提供することを内容とする契約と考えられます。そのため、プロeスポーツ選手に関する契約は「委任契約(準委任契約)」と解するのが相当です。

eスポーツ選手契約の契約上の注意点

プロeスポーツ選手との契約を締結する際には、契約書を作成することが必要です。契約書を作成することにより、契約の存在とその契約条件を、客観的に明らかにしておくことができるからです。

プロスポーツの場合、野球のように統一契約書(「統一契約書様式」日本プロ野球選手会)が作成されているものもありますが、統一契約書についてもメリット・デメリットがあります。統一契約書が存在していると、選手保護が画一的に図れる反面、統一契約書において保護されていない権利については選手の意思にかかわらず一方的に奪われてしまうからです。

そもそも、eスポーツ自体が新しい分野であることから、選手契約書が存在していないことも多く、存在していても不十分かつ簡易な契約書でしかないことも多いため、契約内容の明確化やトラブル回避という契約書の目的が果たせていないことも多くあります。

そこで、eスポーツ選手のプロ契約の契約書について、書式・文例を示しながら、その注意点やポイントについて弁護士が解説します。

契約書の前文について

契約書の前文とは、その契約の趣旨や目的を定めるものです。契約書の前文自体には権利義務を定めるような機能はないものの、契約書全体の解釈の指針となる機能を果たすため、とても重要な役割をもっています。

eスポーツ選手のプロ契約の場合には、その契約の趣旨が、プロeスポーツ選手として活動するにあたり、チームに所属する際の条件などを契約内容とするものであることを明文化しておくことが重要です。

プロeスポーツ選手契約書

株式会社XXXX(以下「甲」という。)と、YYYY(以下「乙」という。)とは、甲が乙に対し、プロeスポーツ選手として活動する業務を委託することにあたり、以下の通り契約を締結した。

委託業務に関する条項

前章で解説したとおり、プロeスポーツ選手と所属チームないし所属企業との間の関係が「委任契約(準委任契約)」であることを考えるとチームが選手に対してどのような業務を委託するのか、その委託業務の内容を定めておく必要があります。

委託業務の内容を具体的に定めておかないと、所属チーム側としてはやってもらいたかった業務を依頼することができないといったデメリットが生ずるおそれがあり、プロ選手側としては行うはずではなかった業務までその報酬の範囲内で依頼されてしまうといったデメリットが生ずるおそれがあります。

第1条(委託業務の範囲)

甲は乙に対し、以下の業務(以下「本件委託業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
① 甲の指定するeスポーツ大会へ出場すること
② 甲に所属するプロeスポーツ選手としてメディアへ出演すること
③ 甲の広告、宣伝活動
④ その他、上記各号に付随する業務

委託業務の遂行に伴う義務

プロeスポーツ選手として活動するにあたり、一定の守るべき義務を選手側に課すことが必要となる場合があります。

業務委託契約で通常定められる善管注意義務(善良なる管理者の注意をもって業務を遂行する義務)や報告義務は一般的ですが、これに加えて、eスポーツ選手契約に特有の問題として、自社のロゴをユニフォームに入れて活動することを求めたり、自社メーカーの製品を使用して活動することを求めたりする場合があります。

特に、ゲームメーカーなどの企業がプロeスポーツ選手と契約をする目的として、企業のイメージアップや製品の認知度の向上などがある場合には、このような義務を選手に課すことを契約書に定めておく必要があります。

第2条(受託者の責務)

1. 乙は、本件委託業務を、善良なる管理者の注意をもって遂行するものとする。
2. 乙は、甲からの求めがある場合には、本件委託業務の進行状況について、書面にて遅滞なく甲に報告するものとする。
3. 乙は、本件委託業務を遂行するにあたり、甲の製品である「XXXX」「XXXX」を他社製品に優先して使用しなければならない。

報酬などの収入に関する条項

プロeスポーツ選手といっても、プロ野球選手のように高額の年俸が得られるケースは少ないです。多くの場合は、チームから定額の報酬がもらえるとしてもごく少額にとどまるか、もしくは、報酬はなく場所や環境を整えてもらうといった内容であることも多くあります。

報酬を定める際には、その金額とともに、支払時期、支払方法を定める必要があります。

また、報酬以外に、eスポーツ選手の収入としては次のようなものがあり、いずれも、所属チームと選手との間で配分を取り決めておく必要があります。

  • eスポーツ大会の賞金
  • スポンサーからの協賛金
  • 配信における収入
  • Youtuberとしての広告収入
  • ファンからの投げ銭

金銭面に関することは、契約内容の中で最も揉めやすい部分ですので、きちんと条項に定めておく必要があります。

第3条(業務委託報酬)

1. 本件委託業務の対価(以下「業務委託報酬」という。)は、月額○○○円(税込)とする。
2. 甲は乙に対して、前項に定める業務委託報酬を、毎月○○○日までに、乙が別途指定する金融機関口座に振込送金する方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。
3. 甲は、乙のプロeスポーツ選手としての活動についてスポンサー契約を取得した場合には、そのスポンサー契約に基づいて甲が得る報酬のうち○%を乙に支払うものとする。支払方法等は前項と同様とする。

賞金の分配に関する条項

プロeスポーツの所属契約の中で定めておくべき金銭面の取り決めのうち、特に重要となるのが賞金の分配に関する条項です。

特に、近年ではeスポーツ大会における賞金の増額化が見られ、活躍している選手ほど、チームと選手とで獲得した賞金をどのように分配するかが重要な問題となるからです。

第3条(賞金の分配)

甲が、本件委託業務の遂行としてeスポーツ大会に出場し、賞金を得た場合には、そのn分の1を甲が、そのn分の1を乙が取得するものとする。

経費に関する条項

プロeスポーツ選手として活動するためには、様々な経費がかかります。

まず、必ずかかる経費が、ゲーム機器やゲームソフトの購入費用、ゲーム内での課金費用ですが、これに限らず、大会の際の交通費、遠征費、海外渡航費なども経費となります。

プロeスポーツ選手と所属チームとの契約の法的性質が「委任契約(準委任契約)」である場合には、選手は個人事業主であり、経費は自身で負担することが基本となります。ただし、選手として活躍するための経費が多くかかる一方で、海外大会などに参加すれば十分な活躍が見込めるような場合に、その一定割合について所属チームの負担とすることを契約書に定める場合があります。

第4条(経費)

乙が、本件委託業務を遂行するにあたってかかる経費は、原則として乙の負担とする。ただし、甲製品に限り、ゲーム機器やゲームソフトの購入費用は甲の負担とする。

肖像権・パブリシティ権に関する条項

eスポーツでは、選手のプレイそのものだけでなく、選手が有名になればなるほど、その肖像を利用することに経済的価値が生まれます。

そのため、肖像権、パブリシティ権について、契約書に定めておくことが必要です。

所属チーム側としては、広報活動の必要性などからしても、所属するプロeスポーツ選手の肖像権を一括管理することを求めることが多いです。

一方で、プロ野球選手が登場するゲームやカードにおける選手の肖像権を球団が一括管理することの不当性を争った訴訟(最高裁平成22年6月15日判決)では、統一契約書による肖像権の一括管理を認める判断が下されましたが、その前提として、球団が選手に対して適切な配分を行っている点が考慮されました。

したがって、全く利益の配分なく、チームが選手の肖像権を一括管理するような内容の契約書を作成した場合には、無効となる可能性もあります。

第5条(肖像権及びパブリシティ権)

乙は、甲が本件契約期間中に取得した乙の写真、動画その他の制作物について、甲が無償で使用することを許諾し、肖像権、パブリシティ権等の行使をしないものとする。

配信に関する条項

eスポーツでは、大会におけるプレイ動画がネットを通じて全世界に配信されることがあります。また、eスポーツ選手の中には、Youtuberとして活動し、そのプレイ動画を公開することで収入を得ている人もいます。

このような点から、配信による収入を誰が得るのかについて、契約書上も明らかにしておく必要があります。

eスポーツ大会の映像は、大会映像として配信されることが多く、参加の際の大会規約や出演契約書などによって、その権利配分が決められていることが多いです。

これに対して、Youtuberとして活動した際の収益など、それ以外の配信についての収益については、そのような活動を認めるのかどうかも含めて、次のような様々な定め方が考えられます。

  • 個人としての配信活動を一切認めず、チームを通じての配信活動のみとし、一定の利益を配分する方法
  • 個人としての配信活動を認めるが、チームに一定の収益分配をすることとする方法
  • 個人としての配信活動は自由とし、その収益も個人に帰属することとする方法

特に、知名度がある人気選手の場合には、この点の収益分配をどのように定めるかによって金銭面の条件が大きく異なることとなるため、契約書に必ず定めておかなければなりません。

専属・移籍に関する条項

eスポーツでは、プロ野球のように移籍に関するルールが定められているわけではなく、新しい事業分野であるため、より優れたプレイヤーを求めて、選手の移籍は頻繁に行われています。選手側も、より良い条件を求めてチームを移籍します。

しかし、所属チームとしては、これまで費用と手間をかけて育ててきた選手が、大会で結果を残したり知名度が上がったりしたところで他のチームに移籍してしまうと、投下資本の回収が困難となってしまいます。

そのため、移籍については一定の制限をかける必要性が出てきます。移籍を一切許さない契約を「専属契約」と呼ぶことがあります。

ただし、スポーツの分野における移籍制限については、「(令和元年6月17日)スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方について」(公正取引委員会)において、移籍制限が独占禁止法に違反する可能性を示唆し、移籍制限により達成しようとする目的の合理性と、達成のための手段の相当性の確保が求められることが示されています。

そのため、移籍制限を課すとしても、移籍金や移籍の条件を設定しておくなど、あらかじめ移籍の際のルールをチームと選手の間で合意し、契約書に定めておくことが重要です。

アカウント所有権に関する条項

eスポーツ特有の問題として、ゲームアカウントの所有権の問題があります。

家庭用ゲーム機、PCゲームやスマホゲームなど、最近のゲームではアカウント制となっており、そのアカウントごとにゲーム内のキャラクターと紐づけられ、課金をしてアイテムを買ったり経験値を貯めたりして、そのアカウントのキャラクターを育てていく仕組みとなっていることが多くあります。

このような場合、「経費」の項目で解説した通り、大会に勝つためのゲームプレイに必要となる費用をチーム側が負担していたとき、課金によって育ったゲームアカウントが誰のものかについて、争いが生じる可能性が高いです。例えば、お金をかけてアカウントを育てても、選手の移籍とともに失われてしまうというリスクがチーム側にはあります。

そのため、ゲームアカウントの所有権の問題について、将来の紛争を回避するため、契約書で明記しておくことがお勧めです。

具体的な対応策としては、プロeスポーツ選手契約において、チームを移籍する際にはアカウントに関する一切の権限を譲渡することを定めたり、アカウントにかかった費用を求償したりといった条項が考えられます。

未成年者と契約する場合の注意点

eスポーツでは、反射神経や動体視力といった能力が求められることから、プロeスポーツ選手は若年層が中心となることが通常です。その中には、未成年者の選手も多く存在します。

民法では、未成年者が法律行為を行うには法定代理人の同意が必要とされ(民法5条1項本文)、法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は取り消すことができるものとされています(民法5条2項)。なお、「未成年」とは、2022年(令和4年)3月31日までは満20歳未満を指し、2022年(令和4年)4月1日以降は満18歳未満のことを指します。

したがって、プロeスポーツ選手契約において、契約の当事者が未成年である場合には、親の同意を得ていることを契約書上に明記しておく必要があります。

「企業法務」は浅野総合法律事務所にお任せください!

今回は、プロeスポーツ選手と所属チームとの契約時に作成すべき契約書について、その内容や注意点を弁護士が解説しました。

eスポーツはまだまだ未開の分野であり、契約書についても、参考となる例が十分にあるわけではなく、また、その契約書について争われた裁判例は更に少ない状況です。しかし、ビジネスとして、その他の経済活動と密接にかかわる以上、eスポーツといえども十分に法的論点を詰めておかなければなりません。

野球やサッカーなど他のプロスポーツで議論されている論点を応用して検討することができるものもあります。

プロeスポーツ選手契約の作成においては、チーム側の投下資本を守るとともに、選手側の権利を不当に侵害しないよう、弁護士による適切なサポートが必要となります。

「eスポーツと法律」弁護士解説まとめ

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