不当解雇を争うときに、労働者側にとって最も大きな金額となるのが「解決金」です。不当解雇を争った結果、解決金を払ってもらい、退職を前提として金銭解決となるケースはよくあります。
不当解雇されたとき、「こんな会社にはもう戻りたくない」と思う方も多いでしょう。しかし、日本の労働法には解雇の金銭解決制度がまだなく、かつ、解雇の慰謝料もそれほど高額にはなりません。そのため「会社に戻りたい」と主張しておかなければ、不当解雇されてしまったにもかかわらず十分な救済を受けられないおそれがあります。
このとき、不当解雇の撤回を求めて争った上で、解決金を払ってもらえるよう交渉するという方法が有効です。解雇無効の可能性が高いとき、「解決金」として月給の6ヶ月〜1年分ほどの金銭を得られることもあります。ただし、解雇の解決金は、法的にかならず請求できる権利があるわけではないため、うまく交渉をしなければ、解決金がもらえる流れにはなりません。
今回は、不当解雇の解決金を請求する方法と、不当解雇の解決金の相場について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。
- 不当解雇を争いたいが、本音では会社に戻りたくないとき、解決金を得ることを目的にする
- 不当解雇の解決金の相場は、賃金の3ヶ月〜1年分
- できるだけ解決金を増額したいときには、不当解雇であることの証拠を準備しておく
なお、不当解雇された労働者が知っておきたい知識について、次のまとめ解説を参考にしてください。
まとめ 不当解雇されてしまった労働者が知っておきたい全知識【弁護士解説】
不当解雇の解決金とは
はじめに、不当解雇の解決金を、どのような場合に請求できるのかを知るため、「不当解雇」、「解決金」の基本的な知識について解説します。
突然に解雇を言い渡されてしまい、その理由に正当性がないときには、「不当解雇」の可能性があります。
不当解雇とは
不当解雇とは、「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)のルールに照らして、正当性のない解雇のことをいいます。このルールによれば、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」のない解雇は、「不当解雇」として違法、無効です。
解雇権濫用法理については、労働契約法16条に次のように定められています。
労働契約法16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法(e-Gov法令検索)
不当解雇にあたるということを、労働審判や訴訟において認めてもらうためには、証拠が重要です。解雇が不当であるということについて、証拠が十分にあればあるほど、解決金を増額することができます。
労働者の立場で戦うときには、会社が主張する解雇の正当性について、適切なディフェンスをしていくのが大切です。そのため、大前提として、会社側が主張する解雇理由をあらかじめ確認しておく必要があります。
会社は、労働者を解雇するときには、その理由を書面で伝えなければならないと法律に定められている(労働基準法22条1項、2項)ため、解雇をされたらすぐに、会社に対し、書面で解雇理由を明示するよう請求してください。
解雇の解決金がもらえる理由
次に、とても重要なポイントとして、不当解雇にあたると、解雇の解決金をもらえる理由について説明します。
冒頭で解説したとおり、解雇の解決金は、労働者に法的な請求権があるわけではありません。この点は、賃金や残業代、解雇予告手当などのように、法律上もらえることが明確に定められている金銭とは性質が違います。
解雇の解決金は、不当解雇をめぐるトラブルの中で、労働者が「解雇が無効だから会社に戻りたい」と主張して争うものの、本音では、労働者としてもそんな会社に戻りたくない。そして、会社としても、もはや解雇の撤回はできないと考える。その妥協点として、「退職はするが、解決金をもらう」という解決に落ちつくために生じるものなのです。
したがって、この「本音と建前」をうまくコントロールしながら、会社のメリット・デメリットを意識して交渉をうまく進めていかなければ、解雇の解決金がもらえるような交渉の流れにはなりません。
不当解雇の解決金の金額について
次に、不当解雇の解決金がどれくらいの金額もらえるのか、という点について解説します。
この点は、前章で解決した、解雇の解決金がもらえる理由にも影響しています。つまり、解雇の解決金は、交渉の妥協点としてもらえるものですから、一定の相場があるものの、あくまでも労使間の合意が調整できなければ、もらうことはできません。そのため、「労働審判や訴訟で、解雇が無効だとして争ったら勝てるかどうか」という点が、強く影響してきます。
不当解雇の解決金の相場
解雇の解決金の相場は、おおむね、月給の3ヶ月分〜1年分程度とされています(事案の内容によって、増減します)。
解雇の解決金が、労使間の話し合いの結果として合意によりもらえるものであることから、不当解雇の解決金の金額は合意によって決まります。
そのため、法律で必ず決まるような相場があるわけではありません。ただし、不当解雇をめぐる労働問題の多くが解決金の支払いによって終了していることから、上記のような一定の相場が形成されているのです。
不当解雇の解決金の判断基準
解雇の解決金が、労働者と会社の話し合いによる双方の譲歩から払われるものですから、その金額は「解雇が有効になりそうかどうか」という事情によって大きく影響されます。
会社側としては、「解雇が有効になりそう」なのであれば譲歩して解決金を払う必要はなく、「解雇が無効になりそう」なのであれば解決金を多く払ってでも労働者に会社をやめてほしいと考えるからです。
つまり、解雇の解決金について適正な金額を知るためには、「不当解雇の有効性」について「労働審判や訴訟ならどのような結論になりそうか」という、労働問題の最終解決を見通すことができなければなりません。
【ケース別】認められる解決金額の例
以上のように、不当解雇の解決金の相場が、月給の3ヶ月分〜1年分程度とされ、「解雇が有効になりそうか」という解決の見通しによって増減するということは、ケースごとに適正な解決金は異なるということです。
ここでは、解雇の有効性に関する見通しごとに、認められる解決金額について解説します。
なお、解雇の解決金は、労働審判などの例では「月給のXヶ月分」という形で提案されることが実務です。
解雇トラブルが解決金により終了するとき、労使の合意により「守秘義務条項」を結ぶため、下記の説明は、弁護士として取り扱った過去のケースにもとづく説明であり、公開された裁判例などはありません。
【月給1、2ヶ月分】解雇が有効の可能性が高いケース
解雇が有効と判断される可能性が高いとき、会社側としては解決金を払うという譲歩をする理由があまりありません。解雇が有効とされる可能性の高いケースには、労働者側の問題行為を理由とした懲戒解雇のケースなどがあります。
- 業務上横領をして、懲戒解雇された
- 重度のセクハラをして、懲戒解雇された
一方で、それでもなお、労働者が争いを起こしたということは、完全に有効とまでは言い切れない事情があるか、(解雇が無効とまではいえなくとも)解雇手続きに不適切な点があった可能性があります。そのため、上記のような懲戒解雇のケースは、労働者に問題があるのはたしかであるものの、会社側でも、弁明の機会を与えてないなど、手続きが十分ではないケースもあります。
そして、労働問題のトラブルが拡大すれば、会社としてはそれに対応するためのコストがかかります。
そのため、起こってしまった労使対立について円満に解決するため、解雇が有効と判断される可能性の高いケースでも、月給1,2ヶ月分などの一定の解決金が提案されるケースはよくあります。
【月給3〜6ヶ月分】解雇の有効性が微妙なケース
解雇の有効性が微妙なケースについては、労働者側、会社側のいずれにもリスクがあります。
最終的に、解雇の有効性について労働審判、判決などの結論が下されれば、一方が勝ち、他方が負けることとなります。そのような両極端の解決ではなく、話し合いにより和解できるとき、月給3〜6ヶ月分程度の解決金となるケースが多いです。
このとき、会社からの第一次提案が3ヶ月分程度の提案となり、そこから増額の交渉をして、6ヶ月分までの間で合意に至るという流れになりがちです。
【月給6〜10ヶ月分】解雇が無効の可能性が高いケース
解雇が無効と判断される可能性が高いときには、いざ解雇無効となると、労働者は会社に復職することとなります。そのため、復職はどうしても避けたい会社側としては、ある程度の解決金を払って終わりにしようという動機が生まれます。
一方で、労働者としても、解雇の無効を確認して復職すれば、少なくとも解雇期間中の賃金(バックペイ)をもらうことができるため、その金額を下回るような解決金では納得いかないでしょう。しかし、勝ちきってしまえば、戻りたくもない会社に復職しなければなりません。
このようなケースでは、解決までにかかる期間にもよりますが、おおむね月給6〜10ヶ月分ほどの解決金により合意する事例が多いです。
【月給12ヶ月分〜】不当解雇で、悪質なケース
不当解雇にあたり、解雇が無効となる可能性が高いことはもちろんとして、会社のやり方に相当な悪質性があるようなケースでは、解決金額が月給の1年分を超えるような事例もあります。
例えば、解決金が高額となりやすい事情には次のようなものがあります。
- 不当解雇が明らかであるのに、会社があえて解雇とした
- 解雇が、特定の労働者に対する嫌がらせを目的としていた
- 解雇に至る過程で、悪質なセクハラ・パワハラがあった
- 労働者の生活が困窮し、解雇によるダメージが大きい
ただし、どれほど悪質なケースであっても、解決金をもらうためには労使間の合意が必要となります。そのため、労働者側としても攻撃一辺倒では解決が難しく、柔軟な交渉姿勢が大切です。
なお、このような会社側に明らかな悪質性のあるケースでは、解決金とあわせて、不当解雇の慰謝料を請求すべきです。
不当解雇の解決金を請求する方法
最後に、不当解雇の解決金を請求するときの具体的な方法について、弁護士が順に解説していきます。
ここまで解説してきたとおり、不当解雇のトラブルを、解決金をもらう方法によって解決しようとするときは、交渉の進め方が特に重要となります。
不当解雇の証拠を集める
不当解雇で解決金がもらえるのは、会社が「これ以上解雇についての争いを続けると、解雇が有効であると認められて、労働者が復職してしまうかもしれない」という将来のリスクを感じて譲歩してくれるからです。
会社にこのようにリスクを感じてもらうためには、不当解雇であることを証明するための証拠が必要です。
不当解雇を示す証拠がまったく存在しないとすれば、そもそも会社がリスクを感じてくれることはなく、「解決金を払う」という譲歩を提案してくれることも期待できません。
弁護士に依頼する
次に、不当解雇の交渉をうまく進めていくために、交渉を多く経験している弁護士に相談するのが有効です。
特に、不当解雇の交渉は、法律に定められた要件を満たせば必ず結果が決まっているようなものではなく、「交渉の腕」に大きく左右されるため、労働問題についての経験が豊富にある弁護士に頼むのがおすすめです。
弁護士に依頼せず自分で交渉するとき、「解雇の有効性について、労働審判・訴訟になってしまうリスクは少ない」と甘くみられてしまうと、会社の対応が悪くなり、多くの譲歩は得られず、提案される解決金が低額となってしまうおそれがあります。
労働審判で解雇の解決金を請求する
不当解雇の争いを、解決金をもらって解決するためには、労働審判を申し立てる方法がとても向いています。
というのも、労働審判は、労働者保護のために用意された制度であり、簡易・迅速に問題を解決するために、かならずしも法律のみによらない柔軟な解決を提案してもらえるからです。
解雇が有効であれば会社をやめることとなり、解雇が無効であれば会社に復職することとなるのが、法的な解決です。そして、この中間的な解決を意味する「解決金をもらって、合意退職する」という方法は、まさに労働審判でこそ最もよく実現されているものなのです。
訴訟で解雇の解決金を請求する
労働審判で解雇の解決金について合意に至らなかったときには、訴訟で引き続き争うこととなります。労働審判にいずれかの当事者が異議申立てをしたときには、自動的に訴訟手続に移行します。
ただし、労働審判は話し合いを重視した制度であるため、解決金による解決を積極的に進める傾向にありますが、訴訟手続きでは、「白黒はっきりつける」ことを重視する傾向にあります。
そのため、訴訟の判決まで進んでしまうほど激しい労使対立のある事例では、解決金による解決がかなりハードルの高いことも少なくありません。そのため、解決金をもらって解決しようと考えるとき、労働審判までの間で、ある程度の譲歩をすることを検討しなければなりません。
まとめ
不当解雇の争いで、満足のいく解決金をもらうためには、労働法のしくみについての知識と、交渉ノウハウが必要です。
不当解雇トラブルで、退職を前提として解決金を払ってもらうという解決となるケースは多くあり、このとき、解雇の不当性の程度に応じて、月額賃金の3ヶ月〜12ヶ月分程度が相場の目安です。
しかし、この金額は労働者に請求権があるのではなく、交渉をうまく進め、会社が「解決金を払ってでも円満に解決したい」という気持ちをもつように仕向けなければなりません。そして、より高額の解決金を獲得するためには、解雇の不当性について法的に相手方ないし裁判所に理解させ、交渉を優位に進める必要があります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題について豊富な知識と経験を有しており、多数のサポート実績があります。
不当解雇の問題についてお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
不当解雇のよくある質問
- 不当解雇をされたとき、解決金がもらえるのはどんなケースですか?
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不当解雇をされたとき、労働者側の争い方は、不当解雇を撤回し、復職させるよう求める方法です。しかし、解雇されたような会社にこれ以上戻りたくないとき、不当解雇であることを説得的に示して交渉をすれば、解決金をもらうことによる金銭解決を提案してもらえるケースが多いです。会社もまた、不当解雇をしてしまったケースでも解雇の撤回まではしたくないのが本音だからです。詳しくは「不当解雇の解決金とは」をご覧ください。
- 不当解雇の解決金は、いくらくらいが相場の目安ですか?
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不当解雇の解決金の相場は、月額賃金3ヶ月分〜1年分程度が目安です。そして、どの程度の金額になるかは、労使の交渉によって決まるため、「不当解雇の可能性がある」とどの程度いえるかどうか、つまり、解雇をした会社の違法性がどれほど高いかによって、もらえる解決金の額が増減します。もっと詳しく知りたい方は「【ケース別】認められる解決金額の例」をご覧ください。