体調を崩したり、精神に不調をきたしたときは、休職命令を受けることがあります。ストレス社会の現代では、うつ病、適応障害、パニック障害などの精神疾患(メンタルヘルス)にかかる人も多くいます。私生活は元気だが会社にいくと不調になってしまう「新型うつ」も増えています。
休職命令を受けると、休職期間中は出社できず、働くことができません。そして、休職期間が満了したとき、復職できる状態に回復していないと、就業規則にしたがって退職を命じられたり解雇になってしまったりします。
「早く働きたい」、「会社を辞めたくない」とあせる気持ちもありますが、うつ病治療には期間を要します。まずはストレスを減らし、日常を取り戻すのが大切で、そのためには、休職についての正確な法律知識を理解しておかなければなりません。
今回は、うつ病で休職を命じられ、「復職できるのだろうか」と不安を抱く方に向けて、復職の基準や、退職を命じられたときの対応について、労働問題にくわしい弁護士が解説します。
- 休職制度は、労働者の貢献に配慮した、解雇の留保を意味している
- うつ病で休職したとき、復職できるかどうかは、医学的判断・法的判断の両面から検討される
- うつ病休職後、退職させられたときは、労災だと主張するか、地位確認を請求する
うつ病による休職と復職
はじめに、うつ病による「休職」と「復職」についての基本的な考え方について、弁護士が解説します。
私傷病(プライベートな病気)で働けなくなったとき、有給休暇を消化し、一定の欠勤期間を経た後、休職命令が下されて休職期間に入ります。そして、休職期間が満了したときには、働ける状態に回復していたときには復職、そうでなくときには就業規則にしたがって自然退職、もしくは、解雇となります。
うつ病とその症状
うつ病にかかってしまうリスクは誰にもあります。業務が合わなかったり、人間関係が悪化していたりして過度なストレスを感じてしまうと、精神疾患(メンタルヘルス)にかかってしまいます。
次のような兆候が出てきたとき、うつ病を疑ったほうがよいでしょう。
- 寝つけない、熟睡できない
- 夜中に何度も起きる
- 小さなことでもイライラする
- 気分が落ち込み、常に不安を感じる
- 胃の不快感、吐き気、腹痛、下痢、便秘などがつづく
- めまい、頭痛、耳鳴り、立ちくらみがする
- 食欲の減退
- 食欲の過度な増進
- 自殺願望がある
- 突然死にたくなる(希死念慮)
- 生きる気力がなくなる
精神疾患(メンタルヘルス)は自覚するのが難しく、むしろ「仕事をもっと頑張りたいのに」とあせってしまう人も多いです。責任感の強い真面目な人ほど、うつ病にかかりやすい傾向にあります。心配なときは、同居の家族など、周囲の人にも相談し、様子を見てもらうなどの工夫が必要です。
うつ病からの復職は誰しも不安
うつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)で休職したとき、労働者は大きな精神的ダメージを負っています。そのため、休職期間によって十分回復したように見えても、復職は誰しもが不安を感じるものです。
- 「長い間、うつ病で休んでいて、復職をしてなじめるだろうか」
- 「うつ病で休んでいたということで、はれもの扱いされてしまわないだろうか」
- 「休んでいる間に居場所がなくなっていないだろうか」
- 「せっかく回復してきたのに、また同じ環境に戻ったら再発してしまうのではないだろうか」
悪いイメージばかり浮かび、せっかく回復した心身の調子が、また悪くなってしまうこともあります。人は誰しも、良い思い出より悪い思い出のほうが記憶に残りやすく、マイナスイメージに支配されがちです。うつが悪化して自殺する人もいます。
精神的な健康にとって重要なことは、生活のリズムを整えることです。しかし、休職によって会社にいかなくなり、乱れてしまったリズムを正常化するのは並大抵の努力ではありません。
休職制度は解雇の留保
休職とは、私生活で負ったケガや病気で働けなくなったときに、すぐ解雇するのではなく、一定期間、解雇を留保しておくための制度です。
本来、労働者は、健康に働けることを雇用契約で約束しています。そのため、ケガや病気で働けなくなったとき契約解消(解雇)されてもしかたありません。しかし、会社に貢献してきた人を、少し働けなかったからといってすぐ解雇するのは酷であり、そのための配慮として設けられたのが休職制度です。
うつ病や適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)は、原因の特定が難しく、長時間労働やひどいハラスメントなど業務上の原因が明らかでない限り、私傷病とされてしまうケースが少なくありません。
なお、休職制度はあくまでも、ケガや病気の原因が私生活(プライベート)にあるケースに適用されます。ケガや病気の原因が業務にあるときは労災(業務災害)となり、休職制度は適用されず、より大きな保護を受けることができます。
労災(業務災害)の場合は、療養期間中の解雇は制限されています。会社の業務によってケガや病気になってしまったのですから、それによって退職する必要がないのは当然です。
復職できなければ自然退職もしくは解雇
休職期間満了時には、主治医や産業医の診断、人事担当者との面談などを踏まえ、「復職できるかどうか」を会社が判断します。判断が難しいときは、休職期間中にリハビリ出勤(試し出勤)を行い、その実績を考慮することもあります。
復職できると判断されたときは、原則として元の職場に復職することとなりますが、復職が不可能だと判断された場合には、自然退職もしくは解雇となります。また、微妙な場合でも、退職勧奨を受けてしまうおそれもあります。
そのため、休職期間満了時の判断がとても重要です。特に、うつ病、適応障害といった精神疾患(メンタルヘルス)の場合には、症状が目に見えないため、復職の可否の判断はとても難しいものとなり、労使間でも激しい対立となることがあります。
うつ病休職から復職できるかの判断基準
次に、うつ病休職から復職することができるかどうかの判断基準について、弁護士が解説します。
休職期間が満了したときに、休職事由が消滅しているかどうか、言いかえると、復職が可能かどうかの判断がとても重要となります。労働者側にとって、「復職できない」という判断を下されてしまうと、会社を辞めなければならないことを意味し、将来の生活の糧を失ってしまうおそれがあります。
【判断基準1】「復職可能」の診断書
うつ病休職から復職できるかの判断基準の1つ目は、「復職可能」であると記載した医師による診断書があることです。診断書だけでは医学的判断が説明しきれないときは、意見書も書いてもらうようにします。
「復職したい」という労働者自身の意思が強いのは当然でしょうが、うつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)では、本人が無理をしていても、実際はその意思に反して精神的健康が回復しきれていないことも多いです。その上、うつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)が寛解したかは、目に見えません。
そのため、うつ病休職からの復職時には、主治医の診断書を提出するようかならず求められます。
主治医の意見を聞くために、会社の労務担当者が主治医に面談してヒアリングするよう求められることもあります。プライバシーに関することですから、基本的には労働者の同意もしくは同行が必要です。また、診断書の提出とともに、会社で面談を行い、体調を見られたり生活状況を聞かれたりして、判断材料とされることもあります。
【判断基準2】業務に耐えうる体力
うつ病休職から復職できるかの判断基準の2つ目は、復職して業務に耐えうる体力が回復していることです。
主治医から、「復職可能」と記載した診断書をもらうことができても、それだけで安心するのは時期尚早です。うつ病休職から復職できるか、医学的判断はあくまでも参考で、最終的には会社が判断することだからです。そのため、休職期間中からリハビリ出勤(試し出勤)によって回復状況を調査されたり、産業医の面談を指示されたりして、判断材料とされます。
うつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)にかかっている人は、朝同じ時間に起きたり、公共交通機関で通勤したりするのが難しいことがあります。そのため、休職期間中で仕事はしないにしても、始業時刻に通勤できるかを試しに訓練させるのが、リハビリ出勤(試し出勤)です。
【判断基準3】ストレスへの対処
うつ病休職から復職できるかの判断基準の3つ目は、ストレスへの対処ができていることです。
仕事には、楽しいことばかりではなく、辛いこともあります。仕事するにあたり必然的に発生するストレスへの耐性がなければ、復職しても、また再発して休職してしまう危険があります。
労働者がストレス要因をきちんと分析してきちんと対処したり、ストレス解消法を身に着けていたりすることは、復職の判断基準において重要です。休職理由がきちんと消滅していなければ安心して復職を進められません。
なお、うつ病になってしまって休職に追い込まれてしまった要因が、長時間労働やパワハラ、セクハラなどの業務によるストレスにあるとき、これらの要因を取りのぞく責任は会社にあります。この場合に問題となるのは労働者のストレス耐性ではなく、会社の安全配慮義務が適切に尽くされているかどうかという点です。
うつ病休職で、退職を命じられた場合の対処法
次に、うつ病で休職となり、休職期間満了で退職するよう命じられたときに、労働者がとるべき適切な対処法を解説します。
うつ病、適応障害、パニック障害などの精神疾患(メンタルヘルス)は、症状が目に見えにくく、復職が可能かどうかの判断が難しいため、労使の対立が起きやすいタイミングです。退職を命じられてしまっても、あきらめず、自身に有利な法的主張を理解し、方針を決めるのが大切です。
労災(業務災害)の主張をする
会社には、労働者の安全と健康を守る義務があります。これを「安全配慮義務」といいます。そして、業務によって労働者がケガを負ったり病気になってしまったりしたとき、それは労災(業務災害)となります。
労災(業務災害)となる場合には、休職とすべきではなく、むしろ、労災による療養期間の間は、原則として解雇をすることが制限されます。
したがって、うつ病休職で退職を命じられたとき、その原因として長時間労働、セクハラ、パワハラなどの事情が存在する場合には、労災(業務災害)の主張をすることにより、退職を回避することができます。
地位確認請求(労働審判・訴訟)をする
労災(業務災害)の主張をするために労働基準監督署への労災申請を行うこととなりますが、一般的に、労災の認定手続きには一定の期間を要します。労災認定を受けることができるのを待っていると、休職期間が満了し、退職となってしまうことを甘んじて受けなければならないことともなりかねません。
そのため、労災申請と並行して、会社に対して労働者としての地位が存在すること(つまり、休職期間満了による退職扱いが不当であること)を請求する方法をとります。
このような請求を「地位確認請求」といい、交渉をしても会社が受け入れてくれないときには、労働審判、訴訟といった法的手続きによって権利主張を行います。
うつ病休職から復職するためのプロセス
次に、うつ病休職から復職するためのプロセスについて解説します。
うつ病の治療には時間がかかりますが、適切なプロセスを踏むことで、円満に復職できる可能性を高められます。ただし、職場に早く戻ることだけを目的とするのではなく、再発や再休職を防止することも重要です。そのためには労働者側でも、復職に向けた適切なプロセスを知っておかなければなりません。
以下にまとめたうつ病休職から復職までのプロセスを理解し、早めに準備を進めていくのが重要なポイントです。
うつ病休職から復職するためには、労働者自身の意思表示が大切です。休職の対象者である本人に、「仕事に復帰したい」という意欲がなければ復職は遠いでしょう。
復職できるかどうかの判断は、休職期間の満了時に下されますから、復職の意思があることは、休職期間満了時よりも早くに示さなければなりません。あわせて、「復職可能」の診断書を出してもらえるよう、主治医と相談しておいてください。
労働者の意思を受けて、会社は、復職できるかどうか判断します。
復職可否の基準は、主治医の診断書のほか、主治医と会社担当者の面談、産業医の診断、リハビリ出勤(試し出勤)の実績などが考慮事情となります。
精神疾患(メンタルヘルス)では、体調が上向きとなっていても再発の危険が常にあります。休職でしばらくの間通勤できていなかったため、通勤の訓練をすることがあります。
休職期間が満了する前に、リハビリ出勤(試し出勤)をすることで、始業時刻に遅刻しないなど、問題なく通勤できることを示す必要があります。
ここまでのプロセスで復職可能だと判断できると、休職期間満了の翌日から復職することとなります。なお、復職直後は、すぐにうつ病が再発してしまわないよう、軽度な業務を担当したり、残業制限、出張制限、短時間勤務などの配慮をしてもらうことがあります。
もう少しで復職できそうだが、あと一歩足りないというような場合に、休職期間を延長して再度判断をすることがあります。
うつ病になった労働者が、弁護士に依頼するメリット
最後に、うつ病になってしまった労働者が、弁護士に依頼するメリットについて解説します。
労使関係においては、雇われている労働者側のほうが、雇用をする使用者側よりも相対的に弱い立場に置かれています。うつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)にかかっていると、精神が弱り、気持ちが落ち込みがちで、一人で会社と戦っていくのは、どうしても限界があるケースが多いです。
【メリット1】退職に追い込まれない
会社側は、うつ病や適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)になってしまった社員に、「会社を辞めてほしい」という気持ちをもちがちです。精神疾患(メンタルヘルス)は治りづらく、回復したようにみえて再発も多いためです。
そのため、退職のはたらきかけをしてくる会社に対して、退職を拒否し、スムーズに復職できるよう交渉しなければなりません。復職できるかの判断は、医学的な判断を参考としますが、最終的には法的な判断が必要であり、労働問題に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士が、休職期間満了時の体調、回復状況を分析し、復職できると会社に通知し、代理人として交渉します。ケースによっては、休職の原因が私傷病にあるのではなく、労災(業務災害)だと主張して争う方針も検討すべきです。
【メリット2】損害賠償請求のサポート
うつ病になり、休職命令を受け、復職や退職へと向かう流れのなかには、労働者が不当な扱いを受けるリスクがあります。例えば、会社の業務によってうつ病になったにもかかわらず私傷病休職扱いとされたり、復職可能なほど回復しているのに退職に追い込まれてしまったり、復職したものの不当な扱いやハラスメントで退職せざるをえなくなったりなどのケースです。
これらのうつ病と休職にともなう不当な取扱いによって、精神的苦痛を負ったとき、会社に対して慰謝料請求、損害賠償請求をすることができます。
慰謝料請求、損害賠償請求について、会社側が非を認めて任意に支払ってくれることは少ないため、労働審判、訴訟を提起して争うにあたり、弁護士によるサポートを受けておくのが有益です。
【メリット3】有利に退職できる
うつ病になったとき、弁護士に依頼しておけば、万が一退職をすることとなっても、有利な退職条件を交渉できます。うつ病だからといって退職しなければならないわけではありませんが、復職が可能な程度に回復したとしても、会社から嫌がらせを受けたり、はれもの扱いされたりして、これ以上いづらくなってしまうことがあります。
それ以上復職を求めるのではなく、妥協して退職する方針となったとき、せめて有利な退職条件となるよう交渉すべきです。例えば、退職上積み金や解決金を払ってもらうこと、退職理由を会社都合にしてもらうこと、年次有給休暇の買取をしてもらうことといった有利な退職条件を提案できます。
弁護士に依頼して、復職を求める地位確認の労働審判や訴訟などの可能性を示して会社と交渉し、より有利な退職条件を引き出すことができる場合があります。
まとめ
うつ病や適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)にり患して休職となってしまった方に向けて、復職できるかどうかの判断基準と、退職となってしまったときの対処法などについて解説しました。
うつ病休職となった場合でも、復職するためのプロセスをよく理解して、あせらず療養に専念することがとても大切です。結果的に、回復への近道となります。
精神に不調のある社員を敵視し、休職を利用して追い出そうとするブラック企業もあります。うつ病で休職してしまうと、退職勧奨、退職強要や嫌がらせ(ハラスメント)の被害を受けてしまうおそれがあります。休職と復職について正しい法律知識を備え、適切な対応を心がけなければなりません。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題を得意分野としており、うつ病など精神疾患を理由としたトラブルについても多くの解決実績があります。
うつ病休職に追い込まれ、会社を辞めるかどうかの瀬戸際に立たされた方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。
休職についてよくある質問
- うつ病休職から復職できるかどうか、どのように判断されますか?
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うつ病休職から復職できるかどうかは、医学的に回復できるかどうかについて、医師の診断書などを参考に判断します。その他に、会社担当者との面談、産業医の診断、リハビリ出勤の経過なども踏まえ、最終的には会社がおこなう法的判断にしたがいます。詳しくは「うつ病から復職できるかの判断基準」をご覧ください。
- うつ病休職後、退職を命じられたら、どう対応すべきですか?
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うつ病休職後、退職を命じられたとき、まず、そのうつ病の原因が業務にあり、労災なのではないかを検討してください。うつ病となったことについて会社に責任があるとき、退職せざるをえない処遇は不当な扱いの可能性があり、地位確認請求で争います。詳しくは「うつ病休職で、退職を命じられた場合の対処法」をご覧ください。