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未払賃金立替払制度とは?会社が倒産しても賃金の8割を回収する方法

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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勤務先が倒産してしまった場合、労働者は生活の基盤を突然失うことになります。

当然ながら、その会社で働き続けることは不可能である上に、法人自体が倒産した場合、不当解雇を主張して争っても、実際に賃金の支払いを受けることは困難です。

未払賃金立替払制度とは、勤務先の会社が倒産し、賃金が支払われない労働者を救済するため、賃金の支払の確保等に関する法律(賃金支払確保法)に基づいて設けられた制度です。この制度では、会社の倒産によって支払われなくなった賃金の一部を、国が立て替えて支給してくれます。

今回は、勤務先の会社が倒産した、または倒産のおそれがある方に向け、未払賃金立替払制度の要件、支給額と上限、利用方法や手続きの流れについて、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 未払賃金立替払制度は、企業の突然の倒産で苦しむ労働者を保護する制度
  • 1年以上の事業継続、倒産(事実上の倒産を含む)といった要件がある
  • 対象となる労働者は、立替払請求書を機構に提出して申請を行うことができる

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未払賃金立替払制度とは

説明する男性

はじめに、未払賃金立替払制度とはどのような制度か、基本的な知識を解説します。

未払賃金立替払制度とは、企業の倒産などにより賃金を受け取ることができず、退職せざるを得なくなった労働者に対し、その未払賃金の一部を、国が立替払いする制度です。賃金の支払の確保等に関する法律(賃金支払確保法)に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構が運営しています。

同制度について定める賃金支払確保法の規定は、次の通りです。

賃金支払確保法7条(未払賃金の立替払)

政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(…(略)…)の事業主(厚生労働省令で定める期間以上の期間にわたつて当該事業を行つていたものに限る。)が破産手続開始の決定を受け、その他政令で定める事由に該当することとなつた場合において、当該事業に従事する労働者で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金(支払期日の経過後まだ支払われていない賃金をいう。以下この条及び次条において同じ。)があるときは、民法第474条第2項から第4項までの規定にかかわらず、当該労働者(厚生労働省令で定める者にあつては、厚生労働省令で定めるところにより、未払賃金の額その他の事項について労働基準監督署長の確認を受けた者に限る。)の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わつて弁済するものとする。

賃金支払確保法(e-Gov法令検索)

企業倒産は、労働者に予測や回避は難しく、突然降りかかってきます。全く責任のない出来事によって生活を脅かされないよう、労働者保護の観点から設けられた制度なのです。2008年頃のリーマンショック、2020年頃のコロナ禍など、不況時には、企業の倒産が増加します。この制度は国のセーフティネットであり、労働者の正当な権利であるため、不況時で会社が倒産した、または倒産しそうな場合、迷わず積極的に活用すべきです。

「未払い残業代請求の方法」の解説

未払賃金立替払制度を利用するための要件

次に、未払賃金立替払制度を利用するための要件について解説します。

具体的には、1年以上の事業活動を行っていた会社に勤務し(要件1)、その会社が法律上の倒産もしくは事実上の倒産をしたとき(要件2)、倒産した日の6ヶ月前から2年の間に退職した労働者(要件3)であれば、未払賃金立替払制度を利用可能です。

以下では、各要件について詳しく説明します。

【要件1】1年以上の事業活動

第一に、勤務している会社が、1年以上、事業活動を継続していなければなりません。

具体的には、労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業で、1年以上事業活動を行っている事業主であることが要件とされています。これは、本制度が労災保険によって賄われているためです。労災保険は、労働者を1人以上雇用している会社であれば、原則として適用されます。

【要件2】倒産したこと

第二に、勤務先の会社が倒産したことが要件となります。

未払賃金立替払制度は、倒産により賃金が支払われない労働者の保護を目的とします。同制度の要件である「倒産」には、「法律上の倒産」と「事実上の倒産」の2つがあります。

  • 法律上の倒産
    裁判所の手続きを利用して行う倒産のことを指します。具体的には、破産手続、特別清算手続、再生手続、更生手続の開始決定です。
  • 事実上の倒産
    裁判所の手続きを利用した倒産でなくても、事業活動を停止して再開の見込みがなく、かつ、賃金の支払能力がない状態となったことについて労働基準監督署長の認定を受けた場合、「事実上の倒産」として本制度の対象となります。

「法律上の倒産」は、裁判所の手続きが開始されたかどうかで容易に判断できますが、「事実上の倒産」に該当するかは、法的な検討が必要です。事業活動を停止している場合が典型例である一方で、縮小したものの、まだ事業活動を継続しているときは「事実上の倒産」になりません。また、経営が悪化しているだけでなく、労働基準監督署長の認定が必要となる点にも注意が必要です。

「事実上の倒産」による本制度の適用が認められるのは、以下の資本金額と従業員数のいずれか一方の要件を満たす中小事業主に限られます。

スクロールできます
業種資本金額又は出資総額常時使用する従業員数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
上記以外3億円以下300人以下

なお、「業績が悪化している」と言いながら倒産せず、業績を理由に整理解雇された場合、偽装倒産による不当解雇を疑うべき場合もあります(「会社の倒産と解雇」の解説をご参照ください)。

【要件3】対象となる労働者の要件

第三に、倒産した日の6ヶ月前の日から2年の間に退職した労働者であることが必要です。

この期間の起算点は、法律上の破産の場合は破産手続開始等の申立日、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長への認定申請日となります。

立替払いの対象労働者
引用元:独立行政法人労働者健康安全機構

この期間内の退職でない場合、倒産に起因する未払いとはいえないため、たとえ未払賃金があっても立替え払いによる救済を受けることができません。対象となる労働者の要件は厳格に判断され、退職日が1日でも外れると制度利用はできません。

立替払いの対象となる未払賃金と上限額

計算

次に、未払賃金立替払制度の対象となる未払賃金と上限額について解説します。

制度利用を検討する労働者が気になるのが「結局いくらもらえるか」という点でしょう。労働者保護の制度であるものの、未払いの全額が補償されるわけではないため、賃金の支払いが長期間滞り、未払いが多額にある方は注意が必要です。

立替払いの対象となる未払賃金

未払賃金立替払制度の対象となる未払賃金は、退職日の6ヶ月前の日から、立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している定期賃金と退職手当です。定期賃金と退職手当とは、次のものを指します(なお、未払額が2万円未満のときは対象外とされます)。

  • 定期賃金
    基本給、通勤手当、役職手当、精勤手当、家族手当や残業代のように、毎月1回以上定期的に支払われる賃金のことを指します。基本給や手当などの固定的に支払われる給与のほか、残業代や歩合給など、労働時間や成果に応じて変動する給与も含まれます。
  • 退職手当
    退職金規程に基づき、退職時に支給されるべき賃金のことを指します。中小企業退職金共済(中退共)などで社外積み立てを行っているときは、その金額を差し引いた残額が立替払いの対象となります。

一方で、上記のいずれにも含まれない、賞与(ボーナス)、解雇予告手当、賃金の遅延損害金・遅延利息、福利厚生、実費立替金などは、立替払いの対象とはなりません。

なお、上記の期限については、賃金の支払日を基準に判断されます。

立替払いの上限額

未払賃金立替払制度によって立替払いされる金額は、未払賃金総額の8割です。ただし、退職時点における労働者の年齢ごとに、次のように88万円〜296万円の上限金額が定められています。

スクロールできます
退職日の年齢未払賃金総額の限度額立替払いの上限額
45歳以上370万円296万円
30歳以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円

未払賃金立替払制度を利用する方法と受け取るまでの流れ

ステップ

次に、未払賃金立替払制度を利用する方法と、具体的な流れについて解説します。

立替払請求の手続き

未払賃金立替払制度を利用するときは、独立行政法人労働者健康安全機構に対し、必要書類を添付して「未払賃金の立替払請求書」を送付することで、立替払請求を行います。請求書の書式は、機構のホームページからダウンロードすることができます。

請求書には、請求者の氏名・性別・生年月日、住所、電話番号、立替払請求金額、指定の振込先などを記載します。以下の記入例を参考にしてください。

また、立替払いを要する未払賃金が存在することを証明する資料を添付します。提出する資料には、例えば次のようなものがあります。

【基本給】

  • 労働条件通知書、労働契約書、就業規則(支払いの根拠)
  • タイムカード、出勤簿、業務日報など(労務提供をした証拠)
  • 給与明細、源泉徴収票など(過去の支払いの証拠)

【残業代】

  • タイムカード、出勤簿、日報、パソコンのログ履歴など(残業をしたことの証拠)

【退職金】

  • 退職金規程(支払いの根拠)

さらに、以下のような必要書類を添付することで、「法律上の倒産」もしくは「事実上の倒産」があったことを証明する必要があります。

「法律上の倒産」の場合

「法律上の倒産」は、裁判所が関与する法的手続きを行った場合に認められるため、裁判所、または、倒産の区分に応じた証明者に証明を依頼することができます。

倒産の種類証明者
破産破産管財人
特別清算清算人
民事再生再生債務者(管財人が選任された場合は管財人)
会社更生管財人

証明書の交付を受けたら、未払賃金の立替払請求書とともに機構に提出し、制度利用を申請します。証明書の交付を受けられなかったときは、労働基準監督署長に対して、証明が得られなかった事項についての確認申請を行います。

法律上の倒産の場合、次の手順で進めます。

  1. 裁判所・管財人などへ証明申請をする。
  2. 証明書の交付を受ける。
  3. 機構へ立替払いの請求をする。
  4. 機構から証明者へ照会が行われる。
  5. 立替払いの決定と支払いが行われる。

「事実上の倒産」の場合

「事実上の倒産」では裁判所の関与がないため、制度利用に際して労働基準監督署に申請し、認定を受ける必要があります(認定の申請に会社の許可は不要です)。

労働基準監督署は、未払賃金の額、会社の状況などを調査し、①事業活動を停止しており、②再開する見込みがなく、③賃金の支払能力がないという3つの要件に照らして認定するかどうかを決定します。労働基準監督署長から認定通知書が交付されたら、さらに労働基準監督署長に対して立替払請求の必要事項の確認申請を行い、確認通知書の交付を受けたら、機構に対して立替払制度の利用を申請します。

事実上の倒産の場合、次の手順で進めます。

  1. 労働基準監督署長へ認定申請をする。
  2. 認定通知書の交付を受ける。
  3. 労働基準監督署長へ確認申請をする。
  4. 確認通知書の交付を受ける。
  5. 機構へ立替払いの請求をする。
  6. 立替払いの決定と支払いが行われる。

立替払金の受け取り

「未払賃金の立替払請求書」の審査が行われ、支払いが決定されると、労働者の指定した本人名義の金融機関口座に、立替払金が振り込まれます。支払いが決定した際には、「未払賃金立替払決定・支払通知書」が送られてくるため、これにより確認することができます。

未払賃金立替払制度を利用する際の注意点

注意点

最後に、未払賃金立替払制度を利用するときに注意すべきポイントを解説します。

立替払いの請求期限は2年以内

立替払いの請求には期限があり、2年以内に請求しなければ立替払いを受けられません。この請求期限は、「法律上の倒産」のときは裁判所の倒産手続きの開始決定の翌日から、「事実上の倒産」のときは労働基準監督署長が倒産を認定した日の翌日から起算されます。

立替払金に税金がかかる

立替払金は、定期賃金と退職手当のいずれも、税法上は退職手当として扱われ、課税対象となります。ただし、退職所得には退職所得控除があり、以下の金額までは非課税とされます。

  • 勤続20年以下の場合
    40万円×勤続年数(ただし、最低80万円)
  • 勤続20年を超える場合
    800万円+70万円×(勤続年数-20年)

不正受給には罰則がある

立替払制度を悪用して不正受給をしたときには、受給額の返還に加え、同額の納付を命じられることがあります。つまり、「倍返し」が命じられることがあるわけです。

賃金支払確保法8条(返還等)

1. 偽りその他不正の行為により前条の規定による未払賃金に係る債務の弁済を受けた者がある場合には、政府は、その者に対し、弁済を受けた金額の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、当該偽りその他不正の行為により弁済を受けた金額に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。
2. 前項の場合において、事業主が偽りの報告又は証明をしたため当該未払賃金に係る債務が弁済されたものであるときは、政府は、その事業主に対し、当該未払賃金に係る債務の弁済を受けた者と連帯して、同項の規定による返還又は納付を命ぜられた金額の納付を命ずることができる。
3. (略)
4. (略)

賃金支払確保法(e-Gov法令検索)

さらに、悪質な不正受給があると詐欺罪(刑法246条)に該当し、「10年以下の拘禁刑」という刑事罰の対象となるおそれがあります。

立替払い後の求償

労働者が未払賃金立替払制度を利用しても、会社の賃金支払義務はなくなりません。この制度はあくまでも労働者の保護が目的であり、会社を救済する制度ではないからです。独立行政法人労働者健康安全機構は、立替払いを行った金額の範囲内で、労働者の賃金請求権を代位取得し、会社に対して求償請求を行います。

【まとめ】未払賃金立替払制度について

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、未払賃金立替払制度について解説しました。

勤務先が倒産してしまった、もしくは、倒産しそうなほど業績が悪化しているとき、労働者として生活の安定を損なわないためにも、制度の内容を理解しておきましょう。

未払賃金立替払制度は、労働者の保護を目的としているため、業績悪化によって危機的な状況に陥っているときは、積極的に利用を検討すべきです。一方で、法律上の要件は複雑であるため、利用できるかどうかを知るためには、法的な知識が必要となります。

会社の倒産による賃金の未払いに悩んでいるとき、同制度が利用できるかどうか判断に悩む場合は、ぜひ弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • 未払賃金立替払制度は、企業の突然の倒産で苦しむ労働者を保護する制度
  • 1年以上の事業継続、倒産(事実上の倒産を含む)といった要件がある
  • 対象となる労働者は、立替払請求書を機構に提出して申請を行うことができる

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