交通事故の被害にあって後遺症を負ってしまったとき、後遺障害等級認定を受けると、加害者(またはその保険会社)に対し、慰謝料を請求できます。
このときの等級認定の申請方法には、事前認定と被害者請求という2種類があります。いずれの方法も一長一短で、メリットとデメリットがあるため、ケースに応じた適切な方法を選ばなければなりません。
弁護士に依頼されない多くの交通事故ケースでは、事前認定の方法で行われていますが、事故態様について争いがあるなど、後遺障害認定が争いになるような難しいケースでは、慰謝料増額のためにも、被害者請求を活用すべきです。
今回は、被害者請求と事前認定の違い、被害者請求を活用して後遺障害慰謝料を請求するメリットについて、交通事故被害にくわしい弁護士が解説します。
- 被害者請求とは、交通事故の賠償金を、保険会社を通さず、被害者自身が請求する方法
- 被害者請求のメリットは、後遺障害等級の認定について有利な判断を受けられる可能性が高まること
交通事故の被害者が、後遺障害慰謝料を請求するときに理解しておきたい知識は、次のまとめ解説をご覧ください。
まとめ 交通事故の後遺症で、後遺障害慰謝料を請求するための全知識
後遺障害慰謝料の被害者請求とは
被害者請求とは
被害者請求とは、自賠責保険から支払われるべき保険金について、被害者自身で直接(加害者もしくはその任意保険会社を通さずに)自賠責保険会社に請求する方法のことをいいます。
これとは異なる方法に、加害者請求があります。これは、被害者がすべての損害について加害者(もしくはその任意保険会社)に請求し、加害者(もしくはその任意保険会社)が、自賠責分も一括して被害者に払う方法です。
加害者請求のときには、加害者(もしくはその任意保険会社)が、自賠責分も立て替えてすべて払うこととなるので、「一括払い」ともいわれます。加害者請求に対して一括払いをした任意保険会社は、その賠償金のうち自賠責保険が負担すべき金額について、自賠責保険会社に求償請求します。
被害者請求と事前認定の違い
後遺障害慰謝料について被害者請求を行うときには、被害者自身が事故記録、医療記録その他の必要資料を収集し、後遺障害等級認定の申請手続きを行います。
これに対して、加害者請求(任意保険会社による一括払い)で、後遺障害慰謝料の請求をするときには、「事前認定」といって、任意保険会社が、自賠責保険会社に対して、後遺障害等級認定の申請手続きを代わりに行ってくれます。
後遺障害慰謝料の請求を考えるとき、被害者請求と事前認定の違いは、「等級認定申請を被害者が行うのか、それとも加害者側の任意保険会社が行うのか」という点にありますが、被害者自身の手で行うことによって、有利な資料を添付するなど、より良い等級認定を受けられるよう努力することができます。
そのため、多くの交通事故ケースでは、被害者側に手間のかかる被害者請求ではなく加害者請求(任意保険会社による一括払い)が行われますが、資料提出の有無などによって等級が変わり、後遺障害慰謝料の増額が見込めるケースでは、被害者請求を積極的に利用すべきです。
被害者請求を行うメリット
被害者請求では、加害者請求(任意保険会社による一括払い)であれば保険会社が代わりにしてくれる資料の収集、自賠責保険への請求手続きを、被害者自身で行わなければなりません。このような手間をかけてもなお、被害者請求をすべき理由は、被害者側にとって多くのメリットがあるからです。
特に、後遺障害の認定などに争いが生じやすい次のケースは、被害者請求を活用することで慰謝料の増額が見込めます。
- 事故状況・事故態様に争いのあるケース
- 傷害の程度や治療の必要性について争いのあるケース
- 後遺障害の等級が変わりうるケース
(例えば、むちうちの場合、その重度や他覚所見の有無によって、12級13号か14級9号のいずれかに該当する)
そこで次に、被害者請求を行うメリットについて弁護士が解説します。
等級認定で、有利な判断を受けられる
事故の後遺症を負い、後遺障害等級認定を申請するケースにおいては、被害者請求による方法と、任意保険会社の一括払いによる方法とでは、受けとれる賠償額に大きな違いが出るケースがあります。
任意保険会社の一括払いによる方法の場合には、事前認定という手続きで、保険会社が被害者に変わって等級認定の申請をします。このとき、被害者の同意をとってカルテ・診断書など重要な資料は提出されます。しかし、任意保険会社が、後遺障害認定に消極的な鑑定証拠などを提出したり、より専門的な検査結果を提出しなかったりすることで、後遺障害等級認定を受けられなかったり、より低い等級となってしまうリスクがあります。
加害者側の任意保険会社は、事前認定の際、かならずしも被害者の利益にかなう対策をすべてしてくれるとはかぎりません。他覚症状のないむちうちなど、後遺障害の有無や等級が大きな争点となるとき、被害者請求を活用するのが大切です。
後遺障害慰謝料、後遺傷害の逸失利益を増額できる
被害者請求の手続きを利用したときには、後遺障害等級認定の申請も、被害者自身ですることとなります。必要資料の収集や選定もまた、被害者が判断して行います。
そのため、等級認定にとって消極的な証拠を添付されるおそれがないのはもちろん、より高い等級の認定を受けられるよう、被害者側に有利な証拠を添付できます。
後遺症を負ってしまった被害者が請求できる金銭には、後遺障害慰謝料と後遺障害の逸失利益の2つがありますが、いずれも、高い等級認定を受ければ受けるほど、高額の請求が可能となっています。
損害賠償を早めに受けとることができる
被害者と加害者に争いがある事故被害のケースでは、合意ができて示談が成立するまでは、示談金や慰謝料を受けとれません。そのため、加害者が事故態様などを争っていると、すぐには被害回復することができず、入院費や治療費など当面の支払いにも困ってしまう被害者もいます。
このようなケースでは、加害者側の任意保険会社から、治療費の立替払いを受けられなかったり、打ち切りを予告されてしまったりすることもあります。
被害者請求の方法を利用することで、少なくとも自賠責保険が負担してくれる分については早めに受けとることができ、被害回復を早めることができます。また、自賠責保険では、被害者保護のための仮渡金制度があり、将来受けとれる賠償額の一部を前払いしてもらうこともできます。
仮渡金として受けとれる金額は次のとおりです。
損害の内容 | 仮渡金 |
---|---|
死亡による損害 | 290万円 |
傷害による損害 | 傷害の程度に応じて、5万円・20万円・40万円 |
なお、最終的な損害額が支払われるときには、仮渡金として支払われた金額が控除されます。また、損害が仮渡金の金額を下回るときには、差額を返還する必要があります。
被害者請求により後遺障害慰謝料を請求する手続きの流れ
交通事故の被害にあってから、被害者請求をして後遺障害慰謝料を勝ちとるまでの手続きの流れについて解説します。
被害者請求の手続きは煩雑であり、準備しておく証拠も多くあります。交通事故に精通した弁護士に手続きを依頼いただくことで、被害者側に有利かつ重要な証拠をもらさず添付し、有利な等級認定を得ることができます。
症状固定の診断を受け、後遺障害診断書を作成してもらう
後遺障害等級の認定を申請するためには、交通事故によって負ったケガが症状固定の状態になっていることが必要です。症状固定とは「治療を続けても、これ以上の改善は見込めない」という状態のことです。
医師に「症状固定」といわれるまでは、たとえ保険会社から治療費を打ち切られたとしても治療を継続することが、後の後遺障害慰謝料、入通院慰謝料の増額につながります。
症状固定したら、医師に後遺障害診断書を作成してもらうようにしてください。後遺障害診断書は、後遺症の状況を示す医療記録であり、被害者請求のとき準備すべき最重要の資料です。
必要書類を自賠責保険会社に提出する
次に、被害者請求に必要な書類を準備し、自賠責保険会社に提出します。
【共通で必要となる書類】
- 自賠責保険支払請求書
自賠責保険の被害者請求をするための請求書。自賠責保険会社より入手する。 - 交通事故証明書
交通事故に関する基本情報(事故日時、場所、被害者、加害者、保険会社など)が記載された証明書。自動車安全運転センターより入手する。 - 事故発生状況報告書
交通事故の当事者が作成する事故状況を記載した書面。書式を保険会社より入手し、自身で作成する。
【傷害に関する請求をするとき必要となる書類】
- 診療報酬明細
診療を受けたこと、治療費を証明するため必要となる資料。医療機関から入手する。 - 診断書・カルテなどの医療記録
症状などを証明し、治療の必要性を示す資料。医療機関から入手する。 - 通院交通費明細書
事故被害によって通院した際にかかった交通費を証明する書類。書式を保険会社より入手し、自身で作成する。 - 休業損害証明書
交通事故被害によって休業し、損害を被ったことを証明する書面。書式を保険会社から入手し、会社に記載してもらう。 - 収入証明書
休業時の損害を請求するために必要となる、平常時の収入を証明する書面。源泉徴収票・課税証明書・給与明細・確定申告書など。 - 付添看護自認書または看護料領収書
事故によって付添監護を要したときの費用を請求するための書類。付添監護をした人が作成する。
【死亡事故に関する請求をするとき必要となる資料】
- 死体検案書・死亡診断書
交通事故被害者が死亡したことを証明する書面。医療機関より入手する。
【後遺障害に関する請求をするとき必要となる資料
- 後遺障害診断書
後遺障害として残存した症状を証明する診断書。書式を保険会社より入手し、医師に作成してもらう。
なお、提出すべき資料は、交通事故のケースによって異なります。自賠責保険支払請求書や交通事故証明書のようにすべての事故に必須の書類に加えて、事故状況や被害の状況を証明するために有利な資料を添付するようにしてください。
例えば、症状を具体的に証明するため、後遺障害診断書に加えてカルテやレントゲン写真、MRI検査結果などの医療記録を添付することが、より有利な等級認定を得るために役立ちます。
損害保険料率算出機構による調査・認定
被害者請求の手続きが行われると、提出した資料をもとに、損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所において後遺障害に関する調査が行われ、等級の認定がなされます。
なお、等級認定の結果に納得のいかないときは、自賠責保険会社に対する異議申立て(再請求)ができます。また、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構へ調停を申し立てる方法により、第三者機関の中立的な判断を求めることもできます。
保険金の支払い
後遺障害等級の認定がなされると、その等級や損害の状況に応じた自賠責保険金を受けとることができます。
被害者請求を行うときの注意点
被害者請求によって後遺障害慰謝料を請求するときの注意点は、自賠責保険はあくまでも最低限の保障であり、損害のすべてをカバーするものではないという点です。
自賠責保険から支払われる人身損害には、次のように上限額が設けられています(この上限額は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益とをあわせた金額です)。なお、物損被害は自賠責保険の対象とはなっていません。
損害の内容 | 自賠責保険の上限額 |
---|---|
傷害による損害 | 120万円 |
介護を要する後遺障害による損害 | 3000万円〜4000万円 |
その他の後遺障害による損害 | 等級に応じて、75万円〜3000万円 |
死亡による損害 | 3000万円 |
なお、死亡事故や、後遺障害の認定を受けた事故でも、それまでの傷害による損害について120万円を上限として支払いを受けることができます。
自賠責の賠償額に上限があることから、交通事故被害のすべてを自賠責保険で回復することはできません。そのため、自賠責の上限額を超える損害については、加害者(ないしその任意保険会社)に請求する必要があります。
まとめ
今回は、交通事故の被害にあってしまったとき知っておくべき、被害者請求を活用することで後遺障害慰謝料を増額する方法について、弁護士が解説しました。
特に、後遺障害の有無について、被害者と加害者とで争いのある交通事故のケースでは、被害者請求をすることで、被害者側に有利な解決となる可能性が高まります。
後遺障害等級認定の手続きのうち、被害者請求を利用するときには、任意保険会社に任せていた煩雑な手続きをすべて被害者自身が行わなければなりません。これらの手間を回避し、できるだけ有利な解決を得るためには、被害者請求を弁護士に依頼することが有効です。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、後遺障害慰謝料の発生するような重大な交通事故被害について、経験豊富な弁護士が在籍しています。
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