★ ご相談予約をお待ちしております。

退職の撤回はできる?いつまで撤回できるかと、退職届と退職願の違い

退職してしまった後になってから、「やはり辞めたくない」と考えを変えるケースがあります。

会社からの退職勧奨によってプレッシャーを受け、泣く泣く退職せざるをえなくなったときは特に、後から考えれば「本意でない退職を強要された」という思いが強く、「どうしても退職を撤回したい」とご相談に来られる方もいます。会社にかけあっても、「一度退職すると言った以上、もう変えられない」と突っぱねられてしまうでしょう。

しかし、退職の意思表示は、会社に受理されてはじめて成立するため、会社が受理する前であれば退職を撤回できます。また、違法な退職強要によって退職してしまったケースでは、錯誤、詐欺や強迫といった理由によって退職の意思表示を取り消すこともできます。

今回は、退職の撤回ができるケース、取消ができるケースとその方法について、労働問題に詳しい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 労働者の意思で退職する方法は、辞職(自主退職)と合意退職に分けられる
  • 辞職(自主退職)が会社に受理される前なら撤回できる
  • 合意退職が会社に承諾される前なら撤回できる

まとめ 退職強要に関するトラブルを弁護士に相談するときの全知識

目次(クリックで移動)
解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

豊富な知識・経験に基づき、戦略的なリーガルサービスを提供するため、専門分野の異なる弁護士がチームを組んで対応できるのが当事務所の強みです。

\相談ご予約受付中です/

法律トラブルの相談は、弁護士が詳しくお聞きします。

ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

退職の撤回とは

握手

労働者が、「会社を辞めたい」と伝えることを退職の意思表示といいます。

今回解説する退職の撤回の問題というのは、すでにしてしまった退職の意思表示を、とりやめにしたいというケースのことです。冒頭の相談例のように、退職の意思表示をしてしまったが、撤回したいと考えるとき、まずは、退職の意思表示の法的な意味について理解しておく必要があります。

退職の撤回には2つの意味がある

退職の撤回には、法的にいうと、労働者どんな退職の意思表示のしかたをしているかによって、2つの異なる意味があります。

まず、労働者の意思で会社を辞める方法には、次の2つがあります。

  • 辞職(自主退職)
    労働者が、一方的に雇用契約(労働契約)を解約すること
  • 合意退職
    労働者と会社の合意によって雇用契約(労働契約)を解約すること

「退職届」を出し、「会社が合意しなくても、一方的に会社を辞める」という意思を示したときは、「辞職(自主退職)の意思表示」があったと評価され、その結果、労働者による一方的な解約となります。辞職(自主退職)したいときは、2週間前に予告すればいつでも自由に会社を辞められます(民法627条1項)。

これに対し、「退職願」を出し、「会社の同意を得てから辞めよう」という意思を示したときには、「合意退職の申込み」であったと評価され、会社がこれを承諾するまでの間は合意退職になりません。つまり、この場合には、会社が承諾するまでの間は退職を撤回することができます。

労働者の意思で会社を辞める方法と、撤回
労働者の意思で会社を辞める方法と、撤回

したがって、退職を撤回したいと考えるときは、まず、自分がした退職の意思表示が「辞職(自主退職)の意思表示」なのか、「合意退職の申込み」なのか、どちらであるかを検討する必要があります。2つの違いは、会社の引き止めがあっても一方的に辞めると示していたか、それとも、会社の承諾を得ることを予定していたのかという点がポイントです。

退職届と退職願の違い

「辞職(自主退職)の意思表示」と「合意退職の申込み」の違いは、退職届と退職願の違いと同じだと説明されることがあります。つまり、退職届というと「届出であり、会社の承諾を要しない」という点で辞職(自主退職)の意思表示とされやすく、退職願というと「願い出て、会社の承諾が必要である」という点で合意退職の申込みだとされやすいという説明です。

しかし、実際には、退職のときに出す書類は、会社の定めた書式によることも多く、労働者が自由に決められるとは限りません。また、法的な性質まできちんと意識して退職の意思表示をするケースばかりではありません。

そのため、辞職(自主退職)か、合意退職かの法的性質の違いは、出した書類の題名が「退職届」か「退職願」かの違いだけに影響されず、その書類の内容や労働者の行動などを総合的に考慮して判断されます。

実際は、一方的に辞職を強行するケースは少なく、退職届であれ退職願であれ、合意退職の申入れと評価されるケースが多いと考えられます。

書式の指定がないときは、後に退職の撤回を思い立ったときに備え、合意退職の申入れ、つまり、会社に対するお願いだと評価されやすい文面とするのが大切です

退職の撤回ができるケースとは

はてな

退職の意思表示には、辞職(自主退職)の意思表示と、合意退職の申入れの2つの意味があり、その違いは「会社の承諾を予定しているかどうか」がポイントだと解説しました。

そして、退職の撤回ができるケースとは、この2つの意味によって考え方が異なります。つまり、辞職(自主退職)の意思表示の場合は、その意思表示の受理前であれば退職を撤回でき、合意退職の申入れの場合は、会社による承諾前であれば退職を撤回できます。

辞職(自主退職)の受理前の撤回

辞職(自主退職)は、労働者の一方的な意思表示によって雇用契約(労働契約)が解約されるため、会社の承諾は予定されておらず、会社が受理したら退職となります。そのため、辞職(自主退職)の意思表示を会社が受理した後は撤回できません。

したがって、辞職(自主退職)のケースであれば、会社に受理される前に撤回したときには、退職の撤回が可能です。

合意退職の承諾前の撤回

労働者が、合意退職の申入れをしたときは、会社がこれを承諾してはじめて合意退職となります。そして、合意は、合意の一方当事者の合意なしには撤回できませんから、合意退職の成立後は、労働者側が一方的に退職を撤回することはできません。

したがって、合意退職のケースであれば、会社が承諾する前であれば、退職を撤回することが可能です。

退職の撤回はいつまで可能なのか

時間

退職の撤回ができるのは、辞職なら受理前まで、合意退職なら会社の承諾前までです。そのため、「いつまで退職の撤回ができるのか」、退職撤回の期限を知るためには、「受理」、「承諾」が、いつの時点であったといえるかがポイントです。

この点については、労働基準法などの法律には明確なルールがないため、以下の考慮要素を参考にしながら、個別のケースごとに判断しなければなりません。

受理ないし承諾する権限

退職までのどの段階で「受理」「承諾」となるか
退職までのどの段階で「受理」「承諾」となるか

まず「退職の撤回がいつまで可能か」を判断するためには、辞職の意思表示を受理する権限(もしくは、合意退職の申入れを承諾する権限)を社内の誰が持っているのかが重要なポイントです。

一般的な退職の流れとしては、まずは口頭で伝えて内諾をもらい、退職届、退職願を直属の上長に渡し、これが人事部長から社長に渡るなどの流れが考えられます。会社の規模が大きくなるほど社員の退職には多くの人が関わります。

この流れのうち、どの段階で受理や承諾が行われるのかは、会社の規模や、各役職者の権限などによって違ってきます。中小企業か大企業か、ベンチャーか上場企業かなどによっても異なります。会社が職掌規程などで各役職者の権限を定めていたときはこれが参考とされますが、「実際に誰が判断しているか」といった過去の例も踏まえた実質的な判断がなされます。

退職の意思表示からの期間

労働者が退職の意思表示をすると、会社側では退職をしてもらうために、受理ないし承諾に向けて手続きを進めていくわけですが、退職の意思表示をしてから実際に退職するまでには、一定の期間を要することとなります。

そのため、退職の撤回がいつまで可能かを知るために、退職の意思表示をしてしまってからどれほどの期間が経過したかが重要なポイントとなります。つまり、退職の撤回をしたいならできるだけ速やかに撤回を伝えることが重要です。

退職を前提とした会社の手続き

退職までのどの段階で「受理」「承諾」となるか
退職までのどの段階で「受理」「承諾」となるか

退職の意思表示を受けて、会社側で後任者への引継ぎ、異動、新たな人材の採用といった活動を開始してしまっているときには、会社の受理ないし承諾があったと考えられ、退職の撤回が認められない可能性が高まってしまいます。

退職を前提とした会社の手続きが進んでいるとき、退職が撤回されてしまうと、いわゆる「玉突き人事」が起こるおそれもあり、会社が退職の受理ないし承諾なしにこのような手続きを進めるとは考えられないからです。

退職の撤回に関する裁判例

以上の考慮要素をもとに、どんなケースで実際に退職の撤回が認められるのかを知っていただくため、退職の撤回について判断した裁判例を紹介します。

裁判例では、退職の撤回を認めた裁判例、認めなかった裁判例のそれぞれが存在します。

退職の撤回を認めなかった裁判例

人事部長が退職届を受領した後は撤回できないとした裁判例

大隈鉄工所事件判決(最高裁昭和62年9月18日判決)では、人事部長が退職願を受けとった時点で、会社が退職を承諾したと判断し、その後にされた退職の撤回を認めませんでした。この事案では、人事部長が単独で退職を承諾できると定めた規定があり、これにしたがってすぐに退職願を承諾していたことが評価されました。

裁判所は、新規採用とは異なり、採用後であれば能力や性格、実績などを十分把握できるから、人事部長が単独で退職の承諾を行う権限があると考えるのは不合理ではないと判断しました。

工場長が退職届を受領した後は撤回できないとした裁判例

ネスレ日本事件判決(東京高裁平成13年9月12日判決)では、所属する工場の工場長が退職届を受理した後は、退職の撤回ができないと判断しました。

裁判所は、会社における権限配分の実態から考えて、所属する工場の工場長であれば、その労働者に関係性の深い上長なので、退職届を受理する権限を有していると判断しました。

退職の撤回を認めた裁判例

役員が退職届を受領した後も撤回できるとした裁判例

岡山電気軌道事件判決(岡山地裁平成3年11月19日判決)では、役員が退職届を受けとった後でも、退職を撤回できると判断しました。この事案では、会社の規定では人事権は労務部にあると定められていたところ、労務部とは関係ない常務取締役兼観光部長に対して退職届が提出されました。

裁判所は、労務部の統括役員ではない常務には、退職届を単独で承認する権限がなかったとして、常務による退職届の受領後も退職の撤回ができると判断しました。

合意書作成前であれば撤回可能とした裁判例

ビーア・ベジー明石工場事件決定(大阪高裁平成16年3月30日決定)では、特別優遇措置による退職者募集に応じて退職を申出たが、申出書提出から2ヶ月半後に行われた退職の撤回を認めました。

裁判所は、特別優遇措置による退職者募集では、申出後に退職条件を定めた合意書を作ることになっており、合意書の作成を拒否して、弁護士を通じて退職の撤回を求めていることから、まだ退職の合意は成立していないと判断しました。

退職の意思表示が取り消せるケース

ポイント

違法な退職強要を受けてしまったなど、退職の意思表示が労働者の自由な意思によるものではなかったときには、退職を取り消すことができます。

退職を取り消せる理由には、錯誤、詐欺、強迫の3つがあります。以下でそれぞれのケースについて解説していきます。

  • 錯誤による退職の取消
  • 詐欺による退職の取消
  • 強迫による退職の取消

「退職の取消」は、労働者が自由な意思で退職したわけではないときに行うもので、一旦は自由な意思で退職したけど後から考え直したという「退職の撤回」とは区別されます。

退職の撤回と、退職の取消
退職の撤回と、退職の取消

錯誤による退職の取消

錯誤による取消
錯誤による取消

錯誤とは、退職の意思が、あやまった判断に基づいて行われた、つまり、勘違いしてしまったというケースです。重要な要素に錯誤があるとき、その意思表示は取消可能です(民法95条)。意思表示をした動機に錯誤があるときも、その動機が表示されていたときは取消可能です。

例えば、「一旦退職するのは、関連会社に転籍するためだ」と誤解して退職してしまったとき、錯誤により退職を取り消すことができます。

詐欺による退職の取消

詐欺による取消
詐欺による取消

詐欺とは、他人をだまして意思表示されるケースです。詐欺による意思表示は取消可能です(民法96条)。

例えば、実際には懲戒解雇事由がないにもかかわらず、「退職届を出さなければ懲戒解雇にする」と伝えて誤信させ、退職届を提出させるケースでは、詐欺を理由に退職を取り消すことができます。

強迫による退職の意思表示

強迫による取消
強迫による取消

強迫は、害悪を告知し、恐怖を感じさせて意思表示を強要するケースです。強迫による意思表示は取消可能です(民法96条)

例えば、「退職しないと家族に危害を加える」と伝えて退職させるケースや、「退職届を書かないと部屋から出さない」と伝えて会議室に閉じ込めるケースでは、強迫を理由に退職を取り消すことができます。

退職を撤回・取消する具体的な方法

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

最後に、退職を撤回したり、取り消したりするための具体的な方法について、弁護士が解説します。

証拠を収集する

退職を後から撤回したり取消たりしたいと考えるようなとき、退職強要やパワハラなど会社からの不当な圧力があったり、少なくとも労働者側でじっくり退職について考えられなかったりといったケースがよくあります。

このようなケースで会社の問題点を明らかにし、退職の撤回や取消を認めてもらいやすくするためには、客観的な証拠を収集することが重要です。

例えば、退職に関する面談時の録音、上司からのメールなどが重要な証拠となります。

内容証明を送付する

退職を撤回、取消するときには、会社の受理ないし承諾がないうちに、すみやかに行うのが重要なポイントです。そして、撤回、取消したことを証拠化するため、内容証明で通知書を送付し、送付日、送付内容を記録しておくようにしてください。

内容証明であれば、郵便局が、送付日、送付した書面の内容などを記録し、保存しておいてくれます。

内容証明郵便とは
内容証明郵便とは

次の書式・文例を参考にして、ケースにあわせて通知書を作成してみてください。

退職の撤回通知書(例)

株式会社XXXX御中

【労働者名】

私は貴社に対し、20XX年XX月XX日、「退職願」を交付し、退職の申入れをしましたが、その後熟慮の末、貴社にて引き続き貢献したいと考えるに至りました。

つきましては、上記退職の申入れを、本書面にて撤回します。

以上

退職の取消通知書(例)

株式会社XXXX御中

【労働者名】

私は貴社に対し、20XX年XX月XX日、「退職願」により退職の意思表示をしましたが、これは、同日の貴社人事部長による2時間にも及ぶ違法な退職強要の末に行ったものです。この退職強要の面談では、人事部長から罵声を浴びせられ、「退職願を書かなければ帰宅させない」といわれ恐怖を感じました。

つきましては、上記退職の意思表示を、民法96条に基づき、本書面にて取り消します。

以上

弁護士に相談する

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

一度は自分で行った退職を、撤回、取消したいと考えるとき、会社側としては退職届、退職願などの書面があることから強気に出てくることが多いです。そのため、個人で争ってもほとんどの場合は突っぱねられてしまうと容易に想定されます。

労働者が一人で、会社という組織と戦うのが難しいときは、ぜひ弁護士にご相談ください。

労働問題に詳しい弁護士が交渉の窓口となれば、法的なサポートにより、退職を撤回できる可能性を上げることができます。

まとめ

今回は、ひとたびは退職の意思表示をしてしまったものの、後にやはり退職したくないと思い返し、過去の意思表示を撤回したいと考える方に向けて、退職の意思表示の撤回について解説しました。

「退職を撤回したい」、「この会社で働き続けたい」と考えるとき、退職の撤回が認められた裁判例はありますが、少しでも撤回できる可能性を上げたいなら、意思表示後、できるだけ早く撤回の意思を伝える必要があります。時間が経過すればするほど、社内の手続きは進み、かつ、労働者側でも十分に検討する時間が与えられていたことを意味してしまうからです。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、労働問題に精通しており、多くの解決実績を持っています。

退職時は、最も多くの労働トラブルが起こるタイミングです。退職の意思表示の撤回をはじめ、労働問題にお悩みの方は、ぜひお早めに、当事務所へ法律相談をご依頼ください。

退職トラブルのよくある質問

退職を撤回することができますか?

一度してしまった退職の意思表示も、会社の受理や承諾の前であれば撤回できます。自分のした退職の意思表示が、辞職(自主退職)と合意退職のいずれの意味かによって、撤回できるタイミングは違います。もっと詳しく知りたい方は「退職の撤回ができるケースとは」をご覧ください。

退職を撤回する具体的な方法はどんなものですか?

退職を撤回するためには、まず、内容証明で撤回の意思表示をつたえ、交渉をスタートします。退職のタイミングはトラブルが起こりやすいため、かならず証拠を残しながら進めるようにしてください。もっと詳しく知りたい方は「退職を撤回・取消する具体的な方法」をご覧ください。

目次(クリックで移動)