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債権譲渡とは?手続きの流れや注意点、対抗要件の備え方を解説

債権譲渡は、債権の同一性を保ったまま第三者に譲渡することであり、企業の資金繰りやリスク管理、売掛金を譲渡して現金化するファクタリングなど、実務でも幅広く用いられます。

しかし、債権譲渡は「当事者間で合意すれば完了」という単純なものではありません。債権者と債務者、譲渡人の三者間の関係を調整するため、譲渡したことを債務者や第三者に主張するには、法律の定める「対抗要件」を備える必要があります。対抗要件の具備を怠ると、二重譲渡や債権の差し押さえといった思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。

今回は、債権譲渡の基本的な仕組み、対抗要件の備え方や手続きについて弁護士が解説します。また、2020年施行の民法改正における債権譲渡に関する変更点も紹介します。

この解説のポイント
  • 債権譲渡は、債務者の承諾がなくても原則として自由に行える
  • 譲受人が権利を保護するには、通知や承諾、登記による対抗要件が必要
  • 譲渡禁止特約があっても債権譲渡そのものは有効に成立する

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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債権譲渡とは

債権譲渡とは、ある者(譲渡人・債権者)が保有する債権を、その同一性を保ったまま、第三者(譲受人)に移転する法律行為です。譲渡の対象となった債権の内容はそのまま維持され、債務者は譲渡後、譲受人に対して履行義務を負います。

特に、企業実務の場面では、資金繰りの改善や債権回収の効率化といった様々な目的のために、債権譲渡が活用されています。

債権譲渡について定める民法の条文は、次の通りです。

★ 債権譲渡に関する民法の条文

民法466条(債権の譲渡性)

1. 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2. 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。

3. 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。

4. 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

民法466条の2(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)

1. 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。

2. 前項の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。

3. 第一項の規定により供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。

民法466条の3

前条第一項に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては、同条第二項及び第三項の規定を準用する。

民法466条の4(譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え)

1. 第四百六十六条第三項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。

2. 前項の規定にかかわらず、譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。

民法466条の5(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)

1. 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第四百六十六条第二項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。

2. 前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。

民法466条の6(将来債権の譲渡性)

1. 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。

2. 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。

3. 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。

民法467条(債権の譲渡の対抗要件)

1. 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

2. 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

民法468条(債権の譲渡における債務者の抗弁)

1. 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

2. 第四百六十六条第四項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条第四項の相当の期間を経過した時」とし、第四百六十六条の三の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条の三の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。

民法469条(債権の譲渡における相殺権)

1. 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。

2. 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
一 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
二 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権

3. 第四百六十六条第四項の場合における前二項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条第四項の相当の期間を経過した時」とし、第四百六十六条の三の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条の三の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。

民法(e-Gov法令検索)

債権譲渡の定義と仕組み

債権譲渡について、民法466条1項は「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない」と定めます。債権譲渡は、原則として自由にすることができます(債権譲渡自由の原則)。つまり、債権者は債務者の同意なく自らの債権を譲渡することが法律上可能となっています。

ただし、以下のいずれかに該当する場合、譲渡は制限されるので注意を要します。

  • 一身専属的性質を持つ債権
    扶養請求権や慰謝料請求権など、性質上譲渡が許されない債権の譲渡は禁止されます(民法466条1項但書)。
  • 契約上の譲渡禁止特約がある場合
    債権者と債務者の間に譲渡を禁止する特約があっても、債権譲渡は原則として有効ですが、譲受人が悪意重過失の場合のみ無効になります(民法466条3項)。

したがって、以上のような制限がない限り、債権者は一方的に債権を譲渡でき、譲渡契約により債権は譲受人に移転します。

債権譲渡は、譲渡人(旧債権者)、譲受人(新債権者)、債務者の三者間の関係で成立します。債権譲渡によっても、債権の「帰属主体」が変わるだけで、債務者が履行すべき「義務の内容」は変更されません。例えば、譲渡前に「翌月末に100万円返済する」という義務があったなら、その履行期日や金額は譲渡後も変わらず、支払先が旧債権者から新債権者に移るだけです。

対象となる債権の種類には、売掛金や貸金返還請求権、賃料債権や請負報酬債権など、様々な金銭債権があります。また、2020年4月施行の民法改正によって、将来債権の譲渡が可能であることも明文化されました(民法466条の6

債権譲渡が活用されるケースの具体例

債権譲渡は、特に企業の資金繰りや債権の整理のために用いられます。活用される主な目的には、次のようなケースがあります。

資金繰りの改善(ファクタリング)

支払い期日よりも前に債権を第三者に譲渡し、代金を受け取ることで早期に現金化することができます。このように債権を資金に変換することを「ファクタリング」と呼びます。売掛金のファクタリングは、中小企業の資金調達手段としてよく利用されます。

不良債権の処分

支払いが遅延していたり、滞納されたりした債権を、サービサー(債権回収専門会社)に譲渡するケースです。貸し倒れリスクを回避できる一方で、債権の額面より大幅に低い価格でしか譲渡できないのが通例です。

子会社が親会社に債権を譲渡することで、債権を集約し、親会社が一元的に管理、回収を行うことで業務効率化を図るケースでも、債権譲渡が活用されます。

担保とする目的(債権譲渡担保)

借入や融資を受ける際に、保有する債権を担保として提供する方法が「債権譲渡担保」です。この場合、万が一借り入れた金銭を返済できない場合には、譲渡先である金融機関が、その債権から優先的に弁済を得ることができます。

債権譲渡の効果と当事者間の関係

握手

債権譲渡がなされると、三者間の法律関係が変化します。

【譲渡人(旧債権者)】

譲渡人(旧債権者)は、債権譲渡によって債権を失い、譲受人に引き渡す義務を負います。譲渡人と譲受人との間では債権譲渡契約を締結するので、場合によっては契約不適合責任が生じます。

【譲受人(新債権者)】

譲受人(新債権者)は、債権譲渡によって債権を取得し、債務者に対して請求する権利を有します。

【債務者】

債務者が、債務を履行する義務を負うことは、債権譲渡の前後を通じて変わりません。ただし、債務者が誰に対して債務を履行すべきかは、債務者対抗要件(債務者に対する通知)を具備する前後で異なります(対抗要件を備えた後は、通知を受けた者、または承諾をした相手に対して履行する義務を負います)。

以上の基本をもとに、それぞれ詳しく解説していきます。

譲渡人と譲受人の契約関係

譲渡人(旧債権者)と譲受人(新債権者)は、債権譲渡契約を締結することで契約関係に立ちます。この契約により、譲渡人は債権を譲渡し、譲受人は対価を支払う義務を負います。重要な債権譲渡契約の場合、必ず契約書を締結すべきです。契約書には通常、以下の条項が記載されます。

  • 譲渡対象債権の特定(債務者・金額・支払い期日など)
  • 譲渡日・効力発生日
  • 譲渡の対価と支払い条件
  • 表明保証条項(債権の存在や譲渡禁止でないことなどの保証)
  • 損害賠償責任、契約不適合責任などの責任追及に関すること

譲渡人は、譲渡対象となった債権について、債権の存在や範囲、譲渡が可能かどうかといった点に虚偽があれば、譲受人に対して契約不適合責任を追及できる可能性があります。

契約不適合責任」の解説

債務者の地位と義務(債務者対抗要件)

債務者の義務は、債権譲渡の通知を受け、または承諾をした時点で転換します。

通知または承諾の前は、譲渡人(旧債権者)に支払うことで債務が有効に消滅します。これに対し、通知または承諾の後は、譲受人(新債権者)への支払い義務が生じます。民法467条1項は、債権譲渡を債務者に対抗するには、債務者に対する通知または承諾が必要と定めています(債務者対抗要件)。そのため、通知を受けるまでは旧債権者に弁済すれば、債務を消滅させることができます。

一方で、通知または承諾の後に、債務者が誤って旧債権者に支払うと、再度、譲受人から請求されるリスクがあります。二重払いの危険を防ぐため、債務者は次の対応をすべきです。

  • 通知または承諾の時点から支払先を変更する。
  • 譲渡人(旧債権者)に譲渡の有無について支払い前に必ず確認する。
  • 不明な場合は供託する(民法494条2項)。

なお、譲受人(新債権者)を称する人から通知があったとしても、不審な点がある場合、無理に支払わず、譲渡人(旧債権者)に確認すべきです。

債権譲渡と第三者の関係(第三者対抗要件)

債権譲渡は、譲渡人と譲受人の間で合意すれば成立しますが、それだけでは債務者や第三者に主張することはできません。債権譲渡の効果を主張することを「対抗」と呼び、これを可能とするための民法に定められた要件を「対抗要件」といいます。

対抗要件の目的は、次の点にあります。

  • 債務者の過誤払いの予防
    債務者が、誤って旧債権者に支払うのを防止するため。
  • 二重譲渡の防止
    同一の債権の二重譲渡を防止するため。二重譲渡が同時に行われると、譲受人同士の優先順位は、先に対抗要件を具備した方を保護することとなっています。
  • 差押えとの優劣関係
    債務者の他の債権者による差押えとの優劣関係を明確にするため。

これらの場面での優劣関係は、「誰が先に対抗要件を具備したか」で決まります。対抗要件は以下の通り、通知や承諾、登記によりますが、その「確定日付」が重要な基準となります。

対抗要件となるのは、以下の3つの方法です。

債務者への通知(民法467条)

譲渡人(旧債権者)から債務者に対し、債権譲渡の通知をすることは、債務者に対する対抗要件となります。つまり、通知の後は、債務者は譲受人(新債権者)に支払いを行わなければ、債務を消滅させることができなくなります。譲渡人(旧債権者)による通知が必要であり、譲受人(新債権者)が単独でする通知では対抗要件になりません。

通知日を明らかにするため、実務では内容証明で通知するのが一般的です。確定日付のある通知であれば、第三者(他の譲受人・差押債権者)にも対抗することが可能です。

債務者の承諾(民法467条)

債務者が債権譲渡を承諾すれば、通知と同様の効力があり、債務者に対する対抗要件となります。また、確定日付のある承諾は、第三者に対する対抗要件となります。承諾の形式に制限はありませんが、トラブル防止のため、承諾書などの書面を作成し、確定日付を残す方法(公証人の確定日付など)とすべきです。

なお、2020年施行の民法改正により、「異議なき承諾をすると抗弁権が喪失する」という規定が削除されたため、改正後は抗弁の放棄には明示の同意を要します。債務者の立場では、承諾書の記載が「抗弁権を放棄している」と評価されないよう注意が必要です。

債権譲渡登記制度

法人が行う金銭債権の譲渡については、登記によって第三者に対する対抗要件を備えることができます。具体的には、法務局で債権譲渡登記の手続きを行います。

債権譲渡登記は、債務者に通知をしなくても第三者対抗要件を備えられるメリットがあるので、企業間でのファクタリングや資産流動化で活用されます。登記された事項は、登記事項証明書によって誰でも確認することができます。

なお、債務者に対する対抗要件を具備するには、登記事項証明書を添えて別途通知または承諾を得る必要があります。

債権譲渡の流れと具体的な手続き

債権譲渡は、譲渡人と譲受人が債権譲渡契約を締結し、譲渡後に債務者対抗要件、第三者対抗要件を備えるという流れになります。思わぬトラブルに発展してしまわないよう、適切な手順に沿って進めるようにしてください。

STEP

債権譲渡契約を締結する

債権譲渡は契約に基づいて成立するので、譲渡人(旧債権者)と譲受人(新債権者)の間で債権譲渡契約を締結します。契約内容が不明確だと争いが生じるおそれがあるので、債権の特定や譲渡日などを具体的に契約書に明記するよう心掛けてください。

なお、未だ発生していない将来債権を譲渡する場合は、将来債権の範囲や発生時点で自動的に移転することなどを契約書に明記する必要があります。

STEP

対抗要件を具備する

債権譲渡契約が成立しても、それだけでは債務者や第三者に対して効力は生じません。民法467条に基づいて、債務者への通知または承諾を得ることで、初めて対抗要件が具備され、外的な効力が及びます。

実務上よく行われるのは、譲渡人から債務者に対して、内容証明で通知する方法です。通知文の例は、次の通りです。

通知書

平素より大変お世話になっております。この度、貴社が当社に対して有する下記債務について、下記の譲受人に債権譲渡を行いましたので、通知申し上げます。

【譲渡対象債権】
契約日:20XX年XX月XX日
契約名:売買契約
債務者:◯◯株式会社
債務額:金1,000万円
支払い期日:20XX年XX月XX日

【譲受人】
〒◯◯◯ー◯◯◯◯ 東京都◯◯区……
◯◯株式会社 代表取締役◯◯◯◯

したがって、今後の支払いは譲受人へお願いいたします。

【日付・署名】

通知によって債務者に対する対抗要件、確定日付があれば第三者への対抗要件が備わります。

また、通知に代えて、債務者が譲渡を承諾した場合にも、対抗要件が成立します。この承諾についても書面で行うのが望ましく、確定日付の証拠(公証人の確定日付、受領印付きのファックスなど)を残すことが重要です。

承諾書

私は、20XX年XX月XX日付の債権譲渡により、◯◯株式会社が◯◯株式会社に対して譲渡した下記債権について、これを承諾いたします。

【譲渡対象債権】
契約日:20XX年XX月XX日
契約名:売買契約
債務者:◯◯株式会社
債務額:金1,000万円
支払い期日:20XX年XX月XX日

【日付・署名】

なお、前述の通り、2020年改正により、「異議なき承諾をすると抗弁権が喪失する」という定めはなくなったので、抗弁を放棄させたい場合には、債務者に明示の合意を取る必要があります。

また、債権譲渡登記による対抗要件を備える場合には、法務局にて手続きを行います。

債権譲渡に関する注意点とトラブル事例

次に、債権譲渡でよく問題となる事例と、対処法や注意点を解説します。

債権譲渡は、個人間、企業間で広く利用される方法ですが、法律知識の理解が不足していたり、手続きに不備があったりするとトラブルを招いてしまいます。慎重に進めるためにも、事前に弁護士に相談し、アドバイスを受けるのが有効です。

二重譲渡や債権差押えとの関係

譲渡人(旧債権者)が、同一の債権を複数の譲受人(新債権者)に譲渡してしまう「二重譲渡」は、しばしばトラブルとなります。この場合、対抗要件を先に備えた譲受人が、優先的に債権を取得します。つまり、債務者に対して先に通知が行われた譲受人が債権を取得します。

重要なポイントは、譲渡契約の先後ではなく、対抗要件を備えた日時によって優劣が決まる点です。第三債権者(例:譲渡人の他の債権者など)が、債権譲渡前に債権を差し押さえた場合にも、対抗要件の具備が遅れると、譲受人は債権を失うおそれがあります。

なお、法人間の金銭債権の譲渡では、債権譲渡登記を用いて第三者への対抗要件を確保できますが、債務者に対抗するには、別途通知または承諾が必要となります。

債権譲渡を債務者が拒否する場合

債務者が債権譲渡に対して反発するケースも、紛争化しやすく注意を要します。特に、譲渡人(旧債権者)との取引の継続を希望する債務者から、「知らない相手に支払いたくない」「契約違反ではないか」と反論されて混乱を招くことがあります。

しかし、債権譲渡は、債務者の同意なく行うことができるものなので、債務者が拒否することは法的に許されません。トラブルを避けるには、譲渡通知の際、「支払先変更に伴うご案内」などと柔らかい表現で伝え、不安を取り除くことが重要なポイントとなります。

債務者が不履行を続ける場合、譲受人としては履行を催告し、最終的には訴訟提起をすることで法的に債権の履行を求めることとなります。

2020年の民法改正による債権譲渡に関する変更点

最後に、2020年の民法改正による債権譲渡に関する変更点を解説しておきます。

民法改正では、債権譲渡に関連する複数の条文に変更があり、企業実務に与える影響も大きくなっています。大きな特徴は、債権譲渡の自由を維持しつつ、債務者の保護を強化している点です。

譲渡禁止特約ルールの変更

改正点の一つ目が、譲渡禁止特約ルールの変更についてです(民法466条2項、3項)。

改正前の民法は、債権譲渡を自由としながら、譲渡禁止特約があるとき、これに違反する債権譲渡は、譲受人が特約の存在について悪意(知っていた)または重過失(知らないことに関して重大な過失がある)の場合に無効となると定めていました。

これに対し、改正後の民法は、譲渡禁止特約に反する債権譲渡も常に有効とし、例外的に、悪意または重過失の譲受人や第三者に対しては、債務者は債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務の消滅事由をもって対抗できるものと改めました。

したがって、譲渡禁止特約があっても譲渡自体は有効なので、譲受人は債権者となります。ただし、債務者は、譲受人が特約を知っていた場合には履行を拒絶できます。

民法改正(2020年4月施行)」の解説

将来債権の譲渡に関する規定の新設

従来の民法には、将来債権(まだ発生していないが、将来的に発生が予定される債権)の譲渡に関する明文の規定はありませんでしたが、裁判例(最高裁平成19年2月15日判決)はその有効性を認めており、2020年改正で新設されました(民法466条の6)。将来債権の譲渡は、例えば、将来の売掛金を包括的に譲渡するなどの場面で活用されます。

改正後、将来債権の譲渡に関するルールは、次のようにまとめられます。

  • 債権譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
  • この場合、譲渡の効力は、その債権が発生したときに生じる。
  • 将来債権の譲渡についても対抗要件の具備が可能。
  • 譲渡の通知または承諾による対抗要件具備までに譲渡制限の合意がされたとき、債務者や第三者は、その譲渡制限について知っていたものとみなされる。

したがって、契約時点では存在しない債権も有効に譲渡することができ、譲渡契約を締結した後、債権が発生した時点で、自動的に譲受人に移転することとなります。

なお、争いを避けるため、譲渡対象の範囲や時期、債権の発生根拠などを契約によって特定しておく必要があります。

異議をとどめない承諾による抗弁の切断制度の廃止

改正前の民法468条は、債務者が債権譲渡について「異議をとどめない承諾」をした場合、譲渡人に対して有する抗弁(契約無効・履行遅滞・相殺など、請求に対する反論のこと)を譲受人に対しても主張できなくなるというルールを定めていました(抗弁の切断)。

しかし、この制度は、債務者の不利益が大きいとの指摘があり、異議をとどめずに承諾したことで不利な状況に追い込まれる債務者に酷ではないかと考えられていました。そのため、2020年改正で、この「異議をとどめない承諾による抗弁の切断」は廃止されました。

改正後は、債務者が譲渡を承諾したとしても抗弁は維持されます。そして、債務者が抗弁を放棄するには、明示の意思表示が必要とされます。したがって、譲受人の立場で、抗弁を放棄させることを期待しているなら、譲渡契約や合意書で「債務者は本件債権について、譲受人に対して一切の抗弁を放棄する」などの明示的な条項を設ける必要があります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、債権譲渡に関する法律知識を解説しました。

債権譲渡は、資金調達やリスク管理の手段として非常に有用ですが、法的な手続きを正確に踏まなければ、大きなトラブルに発展しかねません。特に「対抗要件」を適切に備えなければ、譲渡の効力が第三者に及ばず、二重譲渡や差押えといったリスクに晒されてしまいます。

債権譲渡を安全に進めるには、譲渡契約の内容を明らかにして契約書を締結し、債務者への通知・承諾や登記など、対抗要件を適切に備えることが重要です。2020年4月施行の民法改正のポイントも踏まえて、慎重に進めてください。

債権譲渡について不安な場合は、早めに弁護士などの専門家に相談し、法的なトラブルを未然に防ぐ努力をすることが肝心です。

この解説のポイント
  • 債権譲渡は、債務者の承諾がなくても原則として自由に行える
  • 譲受人が権利を保護するには、通知や承諾、登記による対抗要件が必要
  • 譲渡禁止特約があっても債権譲渡そのものは有効に成立する

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参考解説

民法の改正は、契約や取引、債権債務など、生活や企業経営に密接に関わります。改正の内容を正しく把握しなければ、思わぬトラブルを招くおそれもあります。

適切な権利行使をするためにも、民法改正に関する解説記事を通じて、最新のルールを理解しておいてください。

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