ウェブサービスやアプリなどをローンチする際に必要不可欠といえる書類が「利用規約」です。利用規約は、ユーザーに向けてサービス利用の際のルールを示すとともに、事業者側の責任を定め、リスクを限定する効果がある重要な文書です。
スタートアップ企業、中小・ベンチャー企業がサービスを開始するとき、必要不可欠かつ重要な利用規約については、弁護士に作成してもらうことがお勧めです。
とはいえ、弁護士に依頼する資金的余裕がない場合や、ごく簡易なウェブサービス、アプリの場合、類似サービスの利用規約をコピーして使うことがあります。しかし、類似サービスの利用規約をコピーして使用することは、違法となる可能性があります。また、必ずしも違法とはいえない場合でも、異なるサービスの利用規約をコピーして使うことにはリスクも存在します。
そこで今回は、類似サービスの利用規約をコピーして使うことの違法性とリスクについて、利用規約のコピーを著作権違反であると判断した裁判例も踏まえて解説します。
目次
そもそも利用規約とは
利用規約とは、ユーザーとサービス提供者との間の契約の内容になる文書であり、サービス提供時、サービス利用時の統一的なルールを定めておく文書です。利用規約は、契約の一種であることから、「契約自由の原則」があてはまり、誰と、どのような内容で契約を締結するかは、ユーザーとサービス提供者との合意によって自由に決めることができます。
利用規約によく定められる条項には、次のようなものがあります。なお、利用規約の具体的な条項についてはそのウェブサービスやアプリの種類に合わせて変更する必要がありますので、弁護士への相談をお勧めします。
- 利用規約への同意条項、利用規約の改定・変更への同意条項
- サービス内で利用されるポイントや仮想通貨の取扱いに関するルール
- ユーザー情報の登録手続と、提供された個人情報の取扱いに関するルール
- アカウントの管理、利用停止に関する条項
- ユーザー投稿型サービスにおけるユーザーコンテンツの権利帰属(著作権など)
- サービス利用時の禁止行為と、違反に対する制裁(違約金、損害賠償金、退会措置など)
- サービス利用の中断、中止、終了時のルール
ただし、公序良俗に反する内容の利用規約は無効となります。ユーザーは消費者契約法で保護される「消費者」にあたることが多いため、あまりにユーザーに不利であったり、事業者側の責任を限定しすぎていたり、過大な損害賠償義務を課したりする内容の利用規約は、無効となるおそれがあります。
また、利用規約を作成する際には、法律面だけでなく、「炎上を回避することができるか」という観点でも検討することが必要となります。特に、ウェブサービスやアプリが一般化し、ユーザーの権利意識が強くなった現在では、不適切な利用規約を作成してしまうことが、誹謗中傷、企業の信用低下につながるおそれが十分にあります。
利用規約をコピーすることの違法性
利用規約は、ウェブサービス上に記載されたり、アプリ内に記載されたりして、ユーザーであれば誰でも見られる状態になっています。むしろ、そうでなければ、契約の内容ともなる利用規約を見られない状態では、ユーザーが意に反する契約を結ばされてしまう可能性があるからです。
そのため、利用規約は、類似サービス、競合サービスを提供しようとする事業者にも当然見ることができる状態にありますから、他社の利用規約を参考にして自社の利用規約を作ることは、よく行われています。
しかし、利用規約を「参考」程度にすることはともかく、丸々コピーして利用するようなことは、著作権を侵害するという問題が生じるおそれがあります。実際に、利用規約のコピーについて著作権侵害を認める判決(東京地裁平成26年7月30日判決)も登場しています。
著作権侵害とは
著作権とは、著作権法という法律に定められた、著作物に関する財産的権利のことです。著作物は、権利売買の対象となることからも明らかなとおり財産的価値があり、法的権利によって守る必要があります。
著作権法によれば「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。重要なポイントは、「創作性」がなければ、著作物として法的な保護の対象とならないということです。
例えば、著作物の典型例としては、小説や論文、脚本、楽曲やその歌詞、ダンスの振付、絵画、版画、彫刻、漫画、書道、写真からコンピュータープログラムに至るまで、幅広いものがあげられます。
ただし、この中でも「創作性」のないものは著作物とならないため、ごく短い標語やキャッチフレーズ、ありふれた一般的な表現や、アイディアそれ自体は、著作物には当たらないとされています。
利用規約は「著作物」にあたる?
他社の利用規約を、いわばパクって自社の利用規約としてしまうことは、少なくないことですが、このとき、弁護士に依頼しているような会社でない限り、著作権のことを深く考えずに行うことが多いのではないでしょうか。
しかし、利用規約が、上記に解説した「著作物」にあたるのであれば、他社の利用規約をコピーして利用する行為は著作権侵害となります。この点で、利用規約に「創作性」があるのかどうか、が問題となります。
利用規約には、サービス提供者とユーザーとの間の契約内容となるという側面があることから、その多くの記述は、ありふれた表現となることが多くあります。そのため、利用規約の中でも、ありふれた表現や、法律にしたがった形式的な表現については、著作物となることはありません。
一方で、利用規約に創作的な表現となる部分がある場合、その著作物性が認められることとなり、実際、次に解説する通り、著作権侵害であることを認めた裁判例が登場しています。
裁判例(東京地裁平成26年7月30日判決)の判断
東京地裁平成26年7月30日判決の事案は、時計修理サービス業者が、競合他社が行ったウェブサイト上の修理規約などの無断コピーについて、1000万円の損害賠償請求と差止請求を行ったものです。
裁判所は、「通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる」とする一方で、「規約であることから、当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく、その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、当該規約全体について、これを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当というべき」と判断し、著作権侵害を認めました。
つまり、利用規約の著作物性について、著作物となる場合もあれば、ならない場合もある、というケースバイケースの判断というわけです。この裁判例から直ちに、利用規約をコピーすると全て著作権侵害となるとはいえません。
しかし一方で、特にスタートアップ企業、中小・ベンチャー企業などがしのぎを削る新規性の高いサービスの場合、創業者の思いが反映された利用規約には、創作的な表現があり著作物性が認められる場合も多いと考えられます。
類似サービスの利用規約をコピーして利用するリスク
類似サービスの利用規約をコピーして利用することには、ここまで解説したような違法性の問題には必ずしもならなかったとしても、更にリスクが残る場合があります。
それは、利用規約をパクリで済ませてしまうことによって、ウェブサービスやアプリなどのサービス自体の新規性が失われ、価値が落ちてしまうおそれがある点です。
利用規約を一からきちんと作成する場合には、開始するサービス内容を聴取した上で、そのサービス独自のメリットを生かし、そのサービス独自のデメリットやリスクを軽減するために、必要な権利の帰属などのルールを定めるようにします。そのため、オーダーメイドであるほうが、よりサービスに適したものが作成できるのです。
スタートアップ企業、中小・ベンチャー企業が、新しいサービスを開始して利用規約を作成しようという段階では、「他の類似サービスとは一味違う、全く新しいサービス」であると確信して、ユーザーに遡及しようと考えているのではないでしょうか。
そのように一生懸命作り上げてきたサービスを、「既存のサービスとどこか似ている、ありふれたサービス」にしてしまわないためにも、独自の規約を作成することをお勧めします。
利用規約作成時に違法とならないための注意点
他社の運営する類似サービス、競合サービスの利用規約をコピーして利用することはよく行われているものの、著作権侵害として違法になったり、サービスが陳腐化するリスクがあったりすることを解説しました。
そこで最後に、そのような違法性やリスクを避け、独自の利用規約をきちんと作成するために注意すべきポイントを弁護士が解説します。
「丸パクリ」は避ける
まず、どれほどサービスが似通っていたとしても、利用規約の「丸パクリ」は避けるべきです。
利用規約を「丸パクリ」することは、著作権侵害の問題はもちろんのこと、サービスを陳腐化させる上に、有名なサービスの「丸パクリ」であることがユーザーに知られることとなると、誹謗中傷、炎上により企業の信用が低下するおそれもあります。
注意せずに「丸パクリ」して、利用規約内に記載された固有名詞をも記載したままにして公開してしまっては、大変恥ずかしい思いをすることとなってしまいます。
創作的な表現をコピーしない
次に、「丸パクリ」でなかったとしても、少なくとも、創作的な表現をコピーしないよう注意しなければなりません。創作的な表現のコピーは、著作権侵害として違法となるためです。
先ほど解説した裁判例(東京地裁平成26年7月30日判決)は、利用規約が著作物となることがあり得るという判断をしていましたが、結局は、著作物になるかどうかはケースバイケースの判断が必要となります。
少なくとも、「利用規約であれば、著作権侵害にはならないからパクってもよい」という安易な判断は禁物だということです。
利用規約の作成を弁護士に依頼する
利用規約について、違法性の問題が生じず、かつ、将来のリスクも少ないものとするためには、弁護士に一から作成を依頼することがお勧めです。
確かに、新規のウェブサービスやアプリを立上げるとき、特にスタートアップ企業、中小・ベンチャー企業などの場合には、既に他に売上があるとか十分な出資を受けているといった場合でない限り経済的余裕がそれほどないことが多いです。
しかし、起業する人が増加する中、ウェブサービスやアプリの利用規約、プライバシーポリシー、特商法の記載事項など、必須となる重要な書面を作成する機会が弁護士にとっても増え、ノウハウの蓄積が進んでいます。そのため、利用規約についても、相当複雑かつ難解なものでない限り、低額な費用感で提案できることもよくあります。
実際、上記のような新規のウェブサービス、アプリの立上げ時に必要となる書面の作成にかかる弁護士費用は、20万円~30万円程度が相場感であるように思います。
「企業法務」は浅野総合法律事務所にお任せください!
今回は、利用規約のコピーが違法となるかどうか、利用規約を作成する際に違法とならないよう注意すべき点などについて、弁護士が解説しました。
他社が類似サービス、競合サービスを既に展開しているとき、その利用規約を「参考」にすることは、実際にはよくあることです。しかし、「参考」の域を超えてパクってしまうと、最悪の場合、著作権侵害となり、損害賠償請求や差止請求の対象となるおそれがあります。
これまでサービス開発に真剣に取り組んできた思いそのままに、利用規約についても、真摯に、独自のものを作成することがお勧めです。
新規サービスの開始時に発生する、適法性チェック、利用規約やプライバシーポリシーの作成をはじめ、企業法務にお困りの会社は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。