利用規約は、ウェブサービスやアプリなどをローンチするとき必要不可欠な文書です。利用規約は、ユーザーに向けてサービス利用のルールを示すとともに、事業者側の責任を定め、リスクを限定するなど重要な効果があります。
スタートアップ企業、中小・ベンチャー企業がサービスを開始するとき、必要不可欠かつ重要な利用規約については、弁護士に作成を依頼するのがおすすめですが、弁護士に依頼する資金的余裕のないこともあります。
ごく簡易なウェブサービス、アプリでは、類似サービスの利用規約をコピーして使うことがあります。しかし、類似サービスの利用規約をコピーして使用すると、違法となるおそれがあります。必ずしも違法とはいえない場合でも、異なるサービスの利用規約をコピーして使うことにはリスクも存在します。
今回は、他のサービスの利用規約をコピーして使うことのリスクについて、企業法務にくわしい弁護士が解説します。
- 利用規約であっても、創作性のある部分をコピーすると著作権法違反となる
- 利用規約のコピーには、法律上のリスク以外に、炎上リスクなど事実上のリスクあり
- 弁護士に利用規約の作成を依頼する方法がおすすめ(弁護士費用は20万円〜30万円程度が目安)
利用規約とは
利用規約とは、ユーザーとサービス提供者との間の契約の内容になる文書であり、サービス提供時、サービス利用時の統一的なルールを定めておく文書です。利用規約は、契約の一種なので「契約自由の原則」があてはまり、誰と、どのような内容で契約するかは、ユーザーとサービス提供者との合意によって自由に決めることができます。
そのため、利用規約は、サービスの実態にあわせて柔軟に定めることができるわけですが、定めておくべき条項にはある程度一般的な型があります。
利用規約によく定められる条項は、次のようなものです(利用規約の具体的な条項についてはそのウェブサービスやアプリの種類に合わせて変更する必要があるため、弁護士への相談をおすすめします)。
- 利用規約への同意条項
- 利用規約の改定・変更への同意条項
- サービス内で利用されるポイントや仮想通貨の取扱いに関するルール
- ユーザー情報の登録手続と、提供された個人情報の取扱いに関するルール
- アカウントの管理、利用停止に関する条項
- ユーザー投稿型サービスにおけるユーザーコンテンツの権利帰属(著作権など)
- サービス利用時の禁止行為と、違反に対する制裁(違約金、損害賠償金、退会措置など)
- サービス利用の中断、中止、終了時のルール
「契約自由の原則」があるので利用規約の条項はある程度自由に定められますが、ただし、公序良俗に反する内容の利用規約は無効となります(民法90条)。また、ユーザーは消費者契約法で保護される「消費者」にあたることが多いため、あまりにユーザー側に不利だったり、事業者側の責任を限定しすぎていたり、過大な損害賠償義務を課したりする内容の利用規約は、消費者契約法違反として無効となるおそれがあります。
利用規約を作成するときには、適法性だけでなく、「炎上を回避できるか」という観点でも検討が必要となります。
特に、ウェブサービスやアプリが一般化し、ユーザーの権利意識が強くなった現在では、不適切な利用規約を作成してしまうことが、誹謗中傷、企業の信用低下につながるおそれが十分にあります。
他社の利用規約をコピーすることが、著作権法違反となるか
利用規約は、ウェブサービス上やアプリ内に記載されることが通常で、ユーザーであれば誰でも見られる状態になっています。むしろ、ユーザーがいつでも見られる状態にないような利用規約は、ユーザーに意に反する契約を結ばせてしまう危険があるため、契約の内容とはなりません。
他社の利用規約を、類似サービス、競合サービスを提供する事業者もまた当然見ることができるため、他社の利用規約を参考にして自社の利用規約を作成することはよく行われています。
しかし、他社の利用規約を「参考にする」程度はともかく、丸々コピーして利用する行為は、著作権侵害の問題が生じるおそれがあるなど、多くのリスクがあります。
著作権侵害とは
著作権とは、著作権法という法律に定められた、著作物に関する財産的権利です。著作物には財産的な価値があり、法的な保護の対象となりますから、著作権侵害をすると損害賠償請求や差止請求を受けることとなります。また、悪質な著作権侵害は犯罪行為となり、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処せられます(複製権侵害のケース)。
著作権法では、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定められています。重要なポイントは、「創作性」がなければ、著作物として法的な保護の対象とならないということです。
例えば、著作物の典型例としては、小説や論文、脚本、楽曲やその歌詞、ダンスの振付、絵画、版画、彫刻、漫画、書道、写真からコンピュータープログラムに至るまで、幅広いものがあげられます。
しかし、この中でも「創作性」のないものは著作物とはならないため、ごく短い標語やキャッチフレーズ、ありふれた一般的な表現や、アイディアそれ自体は、著作物にはあたらないとするのが実務です。
利用規約は「著作物」にあたるか
他社の利用規約をコピーして自社の利用規約を作成するとき、利用規約のコピーが著作権侵害とならないかどうかを検討しなければなりません。
利用規約が、前章で解説した「著作物」(著作権法2条1項1号)にあたるときには、他社の利用規約をコピーして利用する行為は、「複製権」の侵害として著作権侵害にあたります。この点で、「利用規約に『創作性』があるかどうか」が問題となります。
利用規約には、サービス提供者とユーザーとの間の契約内容となるという性質があることから、その記載の多くは「ありふれた表現」となることが多いです。そのため、利用規約のなかでも、ありふれた表現や法律にしたがった形式的な表現については著作物にならず、コピーしても著作権侵害にはなりません。
これに対して、他社の利用規約に、創作的な表現にあたる部分があるときには、その部分については著作物性が認められ、コピーする行為が著作権侵害となります。
著作権法違反を認めた裁判例
著作権法違反を認めた裁判例として、東京地裁平成26年7月30日判決があります。
事案 | 時計修理サービス業者が、ウェブサイト上の修理規約などを無断でコピーした競合他社の行為について、著作権侵害であるとして1000万円の損害賠償請求と差止請求を行った事案 |
裁判所の判断 | 裁判所は、利用規約であっても、その内容について創作的な表現があるときには著作物として保護されるとし、著作権侵害を認め、5万円の支払と利用の差止を命じた。 |
上記裁判例で、裁判所は「通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる」とする一方、「規約であることから、当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく、その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、当該規約全体について、これを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当というべき」と判断し、著作権侵害を認めました。
つまり、利用規約の著作物性について、著作物となるかどうかはケースバイケースの判断が必要だということであり、創作的な表現があるかどうかを個別に検討しなければなりません。
特にスタートアップ企業、中小・ベンチャー企業などがしのぎを削る新規性の高いサービスの場合、創業者の思いが反映された利用規約には、創作的な表現があり著作物性が認められる場合も多いと考えられます。
他社の利用規約をコピーして利用することのリスク
他社の利用規約をコピーして利用することで、著作権法違反になるおそれについて解説しましたが、必ずしも違法ではなかったとしても、事実上のリスクが生じることもあります。
そこで次に、他社の利用規約をコピーして利用することの、著作権法違反という法律面以外のリスクについて解説します。
サービス自体の価値が低下する
利用規約は、サービス利用に関する重要な取り決めを定める文書です。そのため、利用規約がコピーやパクリだと、そのウェブサービスやアプリなど、サービス自体の新規性が失われ、価値が落ちてしまうおそれがあります。
スタートアップ企業、中小・ベンチャー企業が、新サービスを開始して利用規約を作成しようという段階では、「他の類似サービスとは一味違う、全く新しいサービス」であると確信しているのではないでしょうか。
一生懸命作り上げてきたサービスを、「既存のサービスとどこか似ている、ありふれたサービス」にしてしまわないためにも、独自の規約を作成することをお勧めします。
サービスに合わない利用規約となる
利用規約は、前章で解説したとおり、事業者がある程度柔軟に作成することができます。
弁護士が利用規約を一から作成するときには、サービス内容を丁寧に聴取した上で、そのサービスのメリットを最大限生かし、サービスのデメリットやリスクを軽減するために必要な権利の帰属などのルールを定めるようにします。そのため、オーダーメイドのほうが、よりサービスに適した利用規約を作成できます。
他社の利用規約をコピーして利用したとき、自社のサービスには必要ない部分が存在したり、自社のサービスにあてはめると不利益となってしまう条項が存在するおそれがあります。
企業イメージが低下する
他社の利用規約を丸写ししていることがユーザーに発覚したとき、炎上をまねくおそれがあり、ひいては、企業イメージの低下につながるおそれがあります。
利用規約作成時に違法とならないための注意点
他社の運営する類似サービス、競合サービスの利用規約をコピーして利用することはよく行われているものの、著作権侵害として違法になったり、サービスが陳腐化するリスクがあったりすることを解説しました。
最後に、違法性やリスクを避け、独自の利用規約をきちんと作成するために注意すべきポイントを弁護士が解説します。
「丸パクリ」は避ける
まず、どれほどサービスが似通っていたとしても、利用規約の「丸パクリ」は避けるべきです。
利用規約を「丸パクリ」すると、著作権侵害の問題はもちろんのこと、サービスを陳腐化させる上に、有名なサービスの「丸パクリ」であることがユーザーに知られることとなると、誹謗中傷、炎上により企業の信用が低下するおそれもあります。
注意せずに「丸パクリ」して、利用規約内に記載された固有名詞をも記載したままにして公開してしまっては、大変恥ずかしい思いをすることとなってしまいます。
創作的な表現をコピーしない
次に、「丸パクリ」でなかったとしても、少なくとも、創作的な表現をコピーしないよう注意しなければなりません。前章で解説したとおり、創作的な表現のコピーは、著作権侵害として違法となるためです。
先ほど解説した裁判例(東京地裁平成26年7月30日判決)は、利用規約が著作物となることがあり得るという判断をしていましたが、結局は、著作物になるかどうかはケースバイケースの判断が必要となります。
少なくとも、「利用規約であれば、著作権侵害にはならないからパクってもよい」という安易な判断は禁物です。
利用規約の作成を弁護士に依頼する
利用規約について、違法性の問題が生じず、かつ、将来のリスクも少ないものとするためには、弁護士に一から作成を依頼する方法が有効です。
新規のウェブサービスやアプリを立上げるとき、特にスタートアップ企業、中小・ベンチャー企業などでは、他に売上があるとか十分な出資を受けているといった事情がない限り、経済的余裕はそれほどないことが多いです。
しかし、起業が増加し、ウェブサービスやアプリの利用規約、プライバシーポリシー、特商法の記載事項(いわゆる「3点セット」)などの書面を作成する機会が増え、ノウハウの蓄積が進んでいます。そのため、利用規約についても、相当複雑かつ難解なものでない限り、リーズナブルな費用で提案することができます。
実際、新規のウェブサービス、アプリの立上げ時に必要となる書面の作成にかかる弁護士費用は、20万円~30万円程度が相場の目安です。
まとめ
今回は、利用規約をコピーすることの違法性と、利用規約を作成するときに著作権法違反とならないよう注意すべき点など、適切な利用規約を作成するポイントについて弁護士が解説しました。
他社が類似サービス、競合サービスを既に展開しているとき、その利用規約を「参考にする」ということは、実際よくあります。しかし、「参考」の域を超えて「丸写し」、「パクリ」になってしまうと、最悪の場合、著作権侵害となり、損害賠償請求や差止請求の対象となるおそれがあります。
サービス開発に真剣に取り組んできた思いそのままに、利用規約にも真摯に、独自性を出すのがおすすめです。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務を得意としており、スタートアップ企業、ベンチャー・中小企業などの顧問先を多く有しています。
新規サービスの開始時に発生する、適法性チェック、利用規約やプライバシーポリシーの作成をはじめ、企業法務にお困りの会社は、ぜひ一度ご相談ください。
利用規約についてよくある質問
- 他社の利用規約をコピーすると著作権法違反になりますか?
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利用規約といえど、創作性のある部分が存在するときには、そのまま丸パクリしてしまうと著作権法違反となってしまいます。もっと詳しく知りたい方は「他社の利用規約をコピーすることが、著作権法違反となるか」をご覧ください。
- 利用規約をコピーすることにはどんなリスクがありますか?
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利用規約をコピーする行為には、著作権法違反という法律上のリスクだけでなく、サービスがありふれた陳腐なものになってしまい価値が落ちたり、コピーがバレて炎上してしまったりといった事実上のリスクもあります。詳しくは「他社の利用規約をコピーして利用することのリスク」をご覧ください。