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財産開示手続と第三者からの情報取得手続【改正民事執行法対応・2020年4月施行】

「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」は、判決などの債務名義の実効性を担保し、権利実現を図るための手続きです。裁判で勝訴しても、相手の財産が不明な場合に調査する手段は限られており、権利を実現するのが困難なケースで活用することができます。

民事執行法は、強制的に権利を実現するためのルールを定める法律であり、2020年4月1日施行(一部は同年5月1日施行)の改正では、権利実現の実効性を高める観点から、財産開示手続が拡充され、第三者からの情報取得手続が新たに設けられました。

相手の財産が不明だと、たとえ勝訴しても、現実的な回収が困難となり、費用や労力が無駄になるおそれがあります。この問題を解消するため、改正法は新たな制度を導入しました。今後は、「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」の活用によって、債務者の財産を特定できないことを理由に強制執行(財産の差押え)できない事態が解消されることが期待されています。

今回は、「財産開示手続」「第三者からの情報取得手続」について、2020年4月施行の改正民事執行法に基づいて解説します。

この解説のポイント
  • 財産が不明で強制執行できない事態を回避するため、民事執行法が改正された
  • 財産開示手続が拡充され、実効性が向上した
  • 第三者からの情報取得手続が新設され、債務者の個人情報が入手可能となった

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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財産開示手続とは

案内する女性

財産開示手続とは、裁判所が、債務名義を持つ債権者の申立てに基づいて、債務者に対して自身の財産を開示するよう命じる制度です。

強制執行のために財産調査が必要

強制執行を行うには、債権者が差押えの対象となる財産を特定する必要があります。

判決や調停調書、公正証書などの「債務名義」を取得すれば、強制執行によって財産の差押えが可能ですが、対象となる財産の所在は、債権者が調査して特定しなければなりません。そのため、債務者の財産が不明な場合、権利の実現が困難になることがありました。

たとえ裁判で勝っても、財産がどこにあるか分からなければ権利の実現ができず、折角の勝訴が「水の泡」です。この弊害を解消するため、平成15年、民事執行法に財産開示手続が導入されました。この制度は、債権者の財産調査を支援し、権利実現の実効性を高める目的で設けられています。

財産開示制度の要件と内容

財産開示手続を利用するには、次のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 強制執行や担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6か月以上前に終了したものを除く)において、金銭債権の全額の弁済を受けられなかったこと
  • 知れている財産に対する強制執行を行っても、金銭債権の全額の弁済を受けられないことの疎明がされたこと

つまり、財産開示手続は、強制執行を試みたものの十分な回収ができなかった場合や、強制執行を行っても回収が困難であることをあらかじめ疎明できる場合に利用可能な制度です。

開示命令に違反した場合には、2020年改正前は「30万円以下の過料」の制裁でしたが、2020年改正後は罰則が強化され、「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されます。

なお、財産開示手続が実施されると、原則として実施日から3年間は、同じ債務者に対して再度この手続きを申し立てることはできません。

債権回収の裁判の流れ」の解説

第三者からの情報取得手続とは

ジャンプ

第三者からの情報取得手続とは、公的機関や民間企業など、債務者の情報を管理する第三者から直接情報を得られる制度であり、2020年の民事執行法改正により、債権回収の実効性を高めるために新たに導入されました。この制度を活用すれば、不動産・給与債権・預貯金など、債務者の財産に関する情報を取得することができます。

第三者からの情報取得手続には、以下の2種類があります。

  • 公的機関から不動産・給与債権に関する情報を取得する制度
  • 民間企業から預貯金債権・振替社債などに関する情報を取得する制度

前章の「財産開示手続」は情報の提供元が債務者自身に限られるため、債務者が正確な情報を開示しなければ十分な調査ができないという限界がありました。「第三者からの情報取得手続」なら、債務者の情報を管理する公的機関や民間企業から、直接情報を得ることができます。

ただし、この制度によって得られる情報は、個人情報やプライバシーに関わるので、一定の要件を満たす場合に限り、債権回収のための開示が認められる仕組みとなっています。

不動産に関する情報取得手続

不動産に関する情報取得手続とは、裁判所が、債務名義を有する債権者の申立てに基づいて、登記所から債権者が所有する不動産(土地・建物など)の情報を取得できる手続きです。不動産は、差押えや強制競売によって金銭債権を回収できるので、強制執行の対象として優先度の高い財産です。

不動産に関する情報取得手続を利用するための要件は、次の通りです。

  • 申立権者
    金銭債権に関する執行力のある債務名義の正本、または、債務者の財産について一般先取特権を有することを証明できる文書を有する債権者
  • 強制執行の不奏功
    先に実施した強制執行が不奏功に終わり、十分な回収ができなかったことが必要。
  • 財産開示手続の先行
    財産開示手続を先に行い、その実施日から3年以内に申立てをすることが必要。

申立ての際には、債権者側で、情報の提供を命じられた登記所が検索すべき債務者所有の不動産の所在地の範囲を明らかにする必要があります。

給与債権に関する情報取得手続

給与債権に関する情報取得手続とは、裁判所が、債務名義を有する債権者からの申立てに基づいて、市区町村や厚生年金保険の実施機関などから、債権者の給与債権に関する情報(勤務先など)を取得できる手続きです。

給与債権を差し押さえるためには、給与の支払元(勤務先や雇用者)を特定する必要があります。この手続きを利用することで勤務先の情報を特定すれば、給与債権の差押えに活用できます。給与は生活の基盤であり、債権回収から逃れるために転職を繰り返すのも現実的ではないため、個人債務者に対する債権回収の手段としては特に有効です。

給与債権に関する情報取得手続を利用するための要件は、次の通りです。

  • 申立権者
    「養育費等の扶養義務等に係る請求権」「人の生命、身体の侵害にかかる損害賠償請求権」について執行力のある債務名義を有する債権者
  • 強制執行の不奏功
    先に実施した強制執行が不奏功に終わり、十分な回収ができなかったことが必要。
  • 財産開示手続の先行
    財産開示手続を先に行い、その実施日から3年以内に申立てをすることが必要。

以上の通り、給与債権に関する情報取得手続は、要保護性の高い債権を有する者の申立てに限定されており、債権全般で活用できるわけではありません。

なお、給与債権に関する情報取得手続を利用できない一般債権でも、給与債権の差押えは可能です。ただし、給与債権の差押えは、債務者の生活に深刻な影響を与えるため、差押え可能額の制限があります。

差押え可能額は、次のように定められています。

  • 一般債権:給与額の4分の1、または、33万円を超える部分
  • 養育費等の扶養義務等にかかる債権:給与の2分の1まで差押え可能

預貯金債権等に関する情報取得手続

預貯金債権等に関する情報取得手続とは、裁判所が、債務名義を有する債権者の申立てに基づいて、銀行などの金融機関から債務者の預貯金債権の情報を取得したり、振替機関などから振替社債に関する情報を取得したりする手続きです。

預貯金の差押えを行うには、金融機関名や支店名などの情報の特定が必要ですが、通常、債権者がこれらを把握するのは困難です。この手続きを利用すれば、それに加えて口座番号や残高情報を取得し、効果的に差押えを進めることができます。

他の2つの手続きと異なり、強制執行の不奏功や財産開示手続の前置は要件ではありません。預貯金は散逸しやすいので、他の手続きを先行すると、執行のおそれに気付いた債務者の財産隠しが容易になってしまうからです。

ただし、無制限に全ての金融機関を調査できるわけではなく、債権者側で、情報提供を求める金融機関を具体的に選択することが必要です。

民事執行法の2020年改正について

2020年の民事執行法改正では、債権者の泣き寝入りを防ぐため、財産開示手続について「申立権者の範囲の拡大」と「罰則の強化」がなされました。また、第三者からの情報取得手続も、同改正で新設されたものです。

以下では、この2020年の民事執行法改正について解説します。

従来の民事執行法の課題と改正の理由

財産調査が困難なために強制執行できない事態を防ぐために設けられた「財産開示手続」ですが、改正前は実効性が低く、ほとんど利用されませんでした。

というのも、財産開示手続を申し立てても債務者が不出頭で終了したり、正直に財産が開示されなかったりするケースが多かったからです。手続違反の制裁は「30万円以下の過料」しかなく、要は、30万円以上の債権の請求や、隠したい財産の多い債務者にとっては、不出頭としたり財産を隠したりする方がメリットのある状態となっていました。

改正民事執行法における変更点

債権者の強制執行(財産の差押え)をサポートするはずの財産開示手続が、実効性がなくあまり利用されなかった状況を改善するため、2020年民事執行法改正では「申立権者の範囲の拡大」「罰則の強化」という主に2点の見直しが図られました。

申立権者の範囲の拡大

2020年改正の変更点の1つ目が、申立権者の範囲の拡大です。

改正前の財産開示手続では、申立てを行うには確定判決や調停調書などが必要でした(仮執行宣言付判決、公正証書、支払督促などでは利用できませんでした)。しかし、その他の債務名義でも強制執行可能であることに変わりはなく、財産開示の必要性は同様に存在します。そこで、2020年の改正では、金銭債権の強制執行が可能な全ての債務名義が対象に加えられました。

  • 改正前
    確定判決、調停調書などのみ対象。
  • 改正後
    上記に加えて、仮執行宣言付支払督促、仮執行宣言付損害賠償命令、公正証書なども対象となった。

この改正によって、より多くの債権者が財産開示手続を利用できるようになり、強制執行の実効性が高まることが期待されています。

罰則の強化

2020年改正の変更点の2つ目が、罰則の強化です。

改正前の財産開示手続では、債務者が正当な理由なく出頭しなかった場合や、虚偽の陳述をした場合の制裁は「30万円以下の過料」という行政罰のみでした。しかし、これでは十分な抑止力とは言えず、特に30万円以上の債務を抱える人にとっては「財産を隠した方が得」と判断されるのが実情でした。

そこで、2020年の改正によって、財産開示手続における罰則が行政罰(過料)から刑事罰(懲役と罰金)に変更され、より厳格な制裁となりました。

  • 改正前
    30万円以下の過料
  • 改正後
    6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金

この改正により、債務者に手続きへの協力を強く促す効果が期待されています。特に、刑事罰を科されると「前科」となるので、非常に大きな抑止力となると考えられます。

財産開示手続・第三者からの情報取得手続のよくある質問

最後に、財産開示手続、第三者からの情報取得手続についてのよくある質問に回答します。

財産開示手続で勤務先の情報は判明する?

財産開示手続では、債務者本人を裁判所に呼び出してその財産状況を申告させますが、勤務先や収入に関する情報も開示対象となります。

2020年の民事執行法改正の前は、債務者が出頭や開示を拒んでも制裁が弱く形骸化していましたが、改正後、正当な理由のない出頭拒否や虚偽陳述には刑事罰が科されることとなり、債務者は、勤務先などの開示を拒むことは事実上難しくなりました。

第三者からの情報取得手で勤務先情報を取得できる?

一定の条件を満たせば、取得可能です。

2020年の民事執行法改正で新設された「第三者からの情報取得手続」では、裁判所を通じて、債務者の勤務先に関する情報を取得できます。具体的には、裁判所が市区町村役場や日本年金機構などの公的機関に照会することで入手されます。ただし、プライバシー性の高い情報なので、養育費・婚姻費用等の扶養義務に基づく請求権や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者に限られます。

取得できる勤務先情報の内容は、債務者に給与・賞与等を支払う者(雇用者)の名称及び住所であり、これによって給与債権の差押えが可能となります。​

なお、この手続きは、申立前3年以内に財産開示手続が実施されていることが必要です。

財産開示手続を不出頭とする「正当な理由」とは?

財産開示手続は、正当な理由なく出頭せず、または宣誓・陳述を拒んだ場合に「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処することを定めています。

不出頭が許される「正当な理由」について法律上の定義はなく、個別の事案ごとに判断されますが、法改正時の議論では「重篤な病気等で裁判所に来られない場合」が例示されていました。例えば、入院を要する深刻な病気やケガは、正当な理由と言えるでしょう。また、大規模災害や交通遮断によって物理的に来庁できない場合も、正当な理由があると判断される可能性があります。

一方で、単なる仕事や私用、多忙、軽微な体調不良といった事情は、正当な理由とは認められません。​

財産開示手続の弁護士費用の相場は?

財産開示手続を弁護士に依頼する場合の費用は、強制執行そのものを依頼するかどうかによって異なります。

強制執行を弁護士に依頼した場合には、そのサポートの一環として財産開示手続や第三者からの情報取得手続への対応も含まれることが多く、財産開示手続の申立代理1件あたり5万5,000円〜11万円程度で行うケースが多いです。加えて、強制執行の弁護士費用として着手金10万円〜30万円程度、報酬金として回収額の10%〜30%程度がかかります。

情報開示に成功した場合には、その後に、判明した財産への強制執行を予定しているのが通常でしょうから、スムーズに債権回収するためにも、全てを一括して弁護士に依頼するメリットは大きいです。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、民事執行法における「財産開示手続」と「第三者からの情報開示手続」について解説しました。2020年の民事執行法改正においてこれら2つの制度が拡充ないし新設され、今後は、「債権者が債務者の財産を把握できないために、勝訴判決を得たのに権利の実現が困難である」という課題は解消されることが期待されています。

勝訴判決を得たり、公正証書で支払いを定めたりして強制執行に備えていても、財産を差し押さえるには、対象財産を特定しなければなりません。債務者の財産が不明だと、泣き寝入りせざるを得ないため、財産の情報を得たり、開示させたりする手段が増えることは、債権回収の実効性を向上させるのに非常に重要です。

とはいえ、財産開示手続も万能ではなく、意図的に財産隠しをする債務者への対応には限界があります。弁護士会照会などの他の手続きも併用しながら、未払いとなりそうなときはスピーディに債権回収を進めることが重要です。

この解説のポイント
  • 財産が不明で強制執行できない事態を回避するため、民事執行法が改正された
  • 財産開示手続が拡充され、実効性が向上した
  • 第三者からの情報取得手続が新設され、債務者の個人情報が入手可能となった

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